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訪問者C スー・ケイソウ 6
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その日は計画的にやってきた。
ケマルはショートンと共に閉店業務をしてから、非常灯だけが点いた一階の倉庫でのんびりしていた。
作戦の説明を受けたケマルが唯一提案し手に入れてもらった、暗闇でも本は読めるというゴーグルを思う存分堪能している。
来ると言われている泥棒を待ち構えているのはショートンとなぜかスー。いつ来るとも分からない泥棒を待つ時間はケマルには無駄でしかなかったため、留守を装うため暗くしておかなくてはならない部屋の中で有意義に過ごすことだけがケマルの望みだった。
ちなみにメイプルは本丸を偵察に行くと言って店にはおらず、フミもその手伝いに行くと言っていた。
そうして店にいるのは三人だけだが、じっと息をひそめている二人の後ろで、本のページを捲る音だけが途切れず聞こえている状況だった。
夜もすっかり更け切った頃。
店の扉がカタカタと鳴った。
「ピッキングっすかね」
レジカウンターに隠れるように座って、こそこそとショートンがスーに聞く。
「そのようだね、ガラスを割ったりする手荒な奴じゃなく良かったです」
あえて開けられるようになっている扉から順調に侵入した何者かは、真っ暗な店内を迷いなく進んでいるようだった。
そうして店の奥でどうやら目当ての物を見つけたらしく、立ち止まった黒い影が数秒後にびくりと震える。
その瞬間に明かりが勝手に点いた。
明かりに浮かび上がった姿は、カンガルーのような細長い足の上に毛むくじゃらの塊が乗っかっていた。足と胴体の比率が悪すぎるそれは眩しそうに短く細い腕で顔の辺りを隠している。
「あれは飛びネズミですね」
スーは至って冷静にトーンすら変えずに正体を教えた。
「なんかデカくないっすか? 飛びねずみって手のひらサイズな気がするんすけど」
「こういう種もいるんですよ」
開けたままにしていたカーテンの向こうからケマルが顔を覗かせていた。
「種……、動物として? それとも話せるヤツ?」
ケマルも流石に聞かずにはいられなかった。
「話せますよ。獣ではありません」
「じゃあ罰せられやすね」
ショートンが鼻息を荒くした。
案の定、魔法用品に手を伸ばしていたその腕に手錠のようなものがはまって逃げられないようになっている。罠が仕掛けてあったのが見事に発動した結果だ。
しかし、さすがにじっとして捕まる気はないらしくその脚力で天井付近まで飛び上がった泥棒は手錠についたロープの分、滅茶苦茶に飛び回り始めた。
「あのロープなんであんな変な長さがあるんだ」
魔法用品だけでなく、ギリギリ本にまで当たりそうに飛ぶ犯人にイライラし始めたケマルはショートンの横に並んで問いつめる。
ケマルは犯人は決して近づくなと言われていたので、カウンターの後ろからその跳ねる様子を見るしかない。
その時、スーがスーツの内ポケットに手を入れたと思ったら、そこから物騒な物を取り出し、瞬く間に構えると獲物に向けて躊躇いなく一発。
「銃!?」
剣や刀はよく見るが、魔法が使える者が多いので飛び道具としては今は珍しい武器だ。
「大丈夫です、モデルガンなので実弾ではなく、スポンジ弾しか打てません」
どこに当たったのかケマルとショートンには分からず、打たれた本人はそのまま倒れて動かなくなってしまった。
少し見ると呼吸をしてる様子は離れたところからでも見て取れ、血が出ている様子もなかった。
「スポンジが出てるようには見えなかったぞ」
「自作で海綿を固めて作ってまして少し硬めではありますがカステラをつぶして固めたくらいですよ」
大したことはない言い草だが、見た印象では判断がつかなかった。ショートンは呆れながら横のケマルに思わず尋ねてしまう。
「それって……固いんすかね? 軟らかいんっすかね?」
「分からんが、痛そうではあったな」
それにしても腕前もかなり確かなようで、店の物にはどれ一つ当っていない。銃を構え銃口を店内に向けたままではあるが、スーは取り乱した様子もなくケマルの横までくる。
「実際に来ましたから、きちんと店のセキュリティーを強化した方が良いように思いますが」
「お前は出版社の営業だろー、うちの警備の売り込みまでしなくていい」
ケマルは溜息を吐きつつ、気持ちを切り替えた。無駄に値打ちのあるものが増えたせいで考えることも増えたが店を守るためには仕方ない。スーの言うことに間違いはない。
そして家にいる魔女は頼らずに、ツジーにケマルでも使える魔道具を見繕ってもらおうと心に決めた。
ケマルがその算段を始めてカウンターに腰を落ち着けた傍らで、ショートンとスーはそんな主人を気に掛けながら、事件の事後処理を始めた。
気を失っている犯人を縛りあげると、スーはこっそりとショートンに尋ねた。
「店長は犯人に興味はないのだろうか?」
「あの人はそういう人なんすよ、それと俺とあんたを信用してるんっす」
「私も・・・・・・ですか?」
ショートンはにっこりと頷いた。
「犯人を逃がしたり、ましてや共犯だとは思ってなくて、任せておけば適切な対処ができると信用してくれてるんす」
「私もというのはどうしてですか?」
「旦那はちゃんと人を見てるんす、もしスーさんが悪い奴だったら店に来ることができないようにしてるはずっす。それをせずに無駄な営業に何度でも来ることを許してるのは信用している証しっすよ」
「無駄って、はっきり言ってくれますね」
「ご主人に関してはまず間違いなく無駄な努力っす。本以外の興味はほぼゼロっすから。でもメイプルさんは熱心な人は嫌いじゃないっすから案外今回のことで上手くいくかもしれないっす」
捕らえた泥棒を街の警備兵に渡すべく連絡と取り始める前に、ショートンはにっこりとスーにエールを送った。
同日同時刻。
窃盗団も逮捕されていた。
アジトに踏み込まれ一網打尽だったらしく、主犯格もきっちり捕まったとケマルは後に新聞で読んだ。それによると盗品も殆どそこに保管してあったとのことで、調査が終わり次第持ち主に返されるそうだ。ちなみにいくつか無くなってしまった物は比較的価値の低いもので、どうやら下っ端に駄賃として渡されていたと書かれていた。そしてその下っ端達はその逮捕劇では捕まっていない。
「盗賊の首脳会議に乗り込んだってことか」
来店客に挨拶をした後にケマルが言うとスーが頷く。
「そのようです。結構な組織だったようで、豪勢にやっているところを突入させたと」
スーがしっかりした情報源から持ってきた話を一通りし終えるとケマルの感想は一言。
「なんか間抜けだな」
すっかり他人事のケマルはカウンター内の備品の整理と補充を始める。
朝の開店とほぼ同時にやってきたスーが、挨拶もそこそこに事件の解説を始めるから、仕事をしながらそれを聞いていた。
そして魔法用品のコーナーにはメイプルが埃取りのモップを持って、埃を取る気もなさそうに腕を組んで仁王立ちしていた。
「だからいいんじゃない。私の美的センスに見合う結果だわ」
自慢げなメイプルにケマルは冷たい視線を向ける。
「……ちゃんと勘づいてるからそれ以上言うなよ」
「あら、分かってた?」
満更でもない様子でカウンターに寄ってきたメイプルにため息を漏らす。
「だから言うなって」
「いいじゃない、私たちの活躍っぷり知りたいでしょ?」
話したくてうずうずしているのを素直に許すケマルではない。
「だから知りたくないって。俺が知ってるのはこの店を囮にするってとこまでだ。そこから囮をさらに囮にして、本丸に乗り込むとか知ってないから」
メイプルは目を瞬かせた。
「知ってるじゃない」
「知ってたわけじゃない。勘づいてるからって言ってるだろう。だからそれ以上言うな」
そして店のドアが開く音を聞いて、ケマルはカウンターからいらっしゃいと挨拶をした。
ケマルはショートンと共に閉店業務をしてから、非常灯だけが点いた一階の倉庫でのんびりしていた。
作戦の説明を受けたケマルが唯一提案し手に入れてもらった、暗闇でも本は読めるというゴーグルを思う存分堪能している。
来ると言われている泥棒を待ち構えているのはショートンとなぜかスー。いつ来るとも分からない泥棒を待つ時間はケマルには無駄でしかなかったため、留守を装うため暗くしておかなくてはならない部屋の中で有意義に過ごすことだけがケマルの望みだった。
ちなみにメイプルは本丸を偵察に行くと言って店にはおらず、フミもその手伝いに行くと言っていた。
そうして店にいるのは三人だけだが、じっと息をひそめている二人の後ろで、本のページを捲る音だけが途切れず聞こえている状況だった。
夜もすっかり更け切った頃。
店の扉がカタカタと鳴った。
「ピッキングっすかね」
レジカウンターに隠れるように座って、こそこそとショートンがスーに聞く。
「そのようだね、ガラスを割ったりする手荒な奴じゃなく良かったです」
あえて開けられるようになっている扉から順調に侵入した何者かは、真っ暗な店内を迷いなく進んでいるようだった。
そうして店の奥でどうやら目当ての物を見つけたらしく、立ち止まった黒い影が数秒後にびくりと震える。
その瞬間に明かりが勝手に点いた。
明かりに浮かび上がった姿は、カンガルーのような細長い足の上に毛むくじゃらの塊が乗っかっていた。足と胴体の比率が悪すぎるそれは眩しそうに短く細い腕で顔の辺りを隠している。
「あれは飛びネズミですね」
スーは至って冷静にトーンすら変えずに正体を教えた。
「なんかデカくないっすか? 飛びねずみって手のひらサイズな気がするんすけど」
「こういう種もいるんですよ」
開けたままにしていたカーテンの向こうからケマルが顔を覗かせていた。
「種……、動物として? それとも話せるヤツ?」
ケマルも流石に聞かずにはいられなかった。
「話せますよ。獣ではありません」
「じゃあ罰せられやすね」
ショートンが鼻息を荒くした。
案の定、魔法用品に手を伸ばしていたその腕に手錠のようなものがはまって逃げられないようになっている。罠が仕掛けてあったのが見事に発動した結果だ。
しかし、さすがにじっとして捕まる気はないらしくその脚力で天井付近まで飛び上がった泥棒は手錠についたロープの分、滅茶苦茶に飛び回り始めた。
「あのロープなんであんな変な長さがあるんだ」
魔法用品だけでなく、ギリギリ本にまで当たりそうに飛ぶ犯人にイライラし始めたケマルはショートンの横に並んで問いつめる。
ケマルは犯人は決して近づくなと言われていたので、カウンターの後ろからその跳ねる様子を見るしかない。
その時、スーがスーツの内ポケットに手を入れたと思ったら、そこから物騒な物を取り出し、瞬く間に構えると獲物に向けて躊躇いなく一発。
「銃!?」
剣や刀はよく見るが、魔法が使える者が多いので飛び道具としては今は珍しい武器だ。
「大丈夫です、モデルガンなので実弾ではなく、スポンジ弾しか打てません」
どこに当たったのかケマルとショートンには分からず、打たれた本人はそのまま倒れて動かなくなってしまった。
少し見ると呼吸をしてる様子は離れたところからでも見て取れ、血が出ている様子もなかった。
「スポンジが出てるようには見えなかったぞ」
「自作で海綿を固めて作ってまして少し硬めではありますがカステラをつぶして固めたくらいですよ」
大したことはない言い草だが、見た印象では判断がつかなかった。ショートンは呆れながら横のケマルに思わず尋ねてしまう。
「それって……固いんすかね? 軟らかいんっすかね?」
「分からんが、痛そうではあったな」
それにしても腕前もかなり確かなようで、店の物にはどれ一つ当っていない。銃を構え銃口を店内に向けたままではあるが、スーは取り乱した様子もなくケマルの横までくる。
「実際に来ましたから、きちんと店のセキュリティーを強化した方が良いように思いますが」
「お前は出版社の営業だろー、うちの警備の売り込みまでしなくていい」
ケマルは溜息を吐きつつ、気持ちを切り替えた。無駄に値打ちのあるものが増えたせいで考えることも増えたが店を守るためには仕方ない。スーの言うことに間違いはない。
そして家にいる魔女は頼らずに、ツジーにケマルでも使える魔道具を見繕ってもらおうと心に決めた。
ケマルがその算段を始めてカウンターに腰を落ち着けた傍らで、ショートンとスーはそんな主人を気に掛けながら、事件の事後処理を始めた。
気を失っている犯人を縛りあげると、スーはこっそりとショートンに尋ねた。
「店長は犯人に興味はないのだろうか?」
「あの人はそういう人なんすよ、それと俺とあんたを信用してるんっす」
「私も・・・・・・ですか?」
ショートンはにっこりと頷いた。
「犯人を逃がしたり、ましてや共犯だとは思ってなくて、任せておけば適切な対処ができると信用してくれてるんす」
「私もというのはどうしてですか?」
「旦那はちゃんと人を見てるんす、もしスーさんが悪い奴だったら店に来ることができないようにしてるはずっす。それをせずに無駄な営業に何度でも来ることを許してるのは信用している証しっすよ」
「無駄って、はっきり言ってくれますね」
「ご主人に関してはまず間違いなく無駄な努力っす。本以外の興味はほぼゼロっすから。でもメイプルさんは熱心な人は嫌いじゃないっすから案外今回のことで上手くいくかもしれないっす」
捕らえた泥棒を街の警備兵に渡すべく連絡と取り始める前に、ショートンはにっこりとスーにエールを送った。
同日同時刻。
窃盗団も逮捕されていた。
アジトに踏み込まれ一網打尽だったらしく、主犯格もきっちり捕まったとケマルは後に新聞で読んだ。それによると盗品も殆どそこに保管してあったとのことで、調査が終わり次第持ち主に返されるそうだ。ちなみにいくつか無くなってしまった物は比較的価値の低いもので、どうやら下っ端に駄賃として渡されていたと書かれていた。そしてその下っ端達はその逮捕劇では捕まっていない。
「盗賊の首脳会議に乗り込んだってことか」
来店客に挨拶をした後にケマルが言うとスーが頷く。
「そのようです。結構な組織だったようで、豪勢にやっているところを突入させたと」
スーがしっかりした情報源から持ってきた話を一通りし終えるとケマルの感想は一言。
「なんか間抜けだな」
すっかり他人事のケマルはカウンター内の備品の整理と補充を始める。
朝の開店とほぼ同時にやってきたスーが、挨拶もそこそこに事件の解説を始めるから、仕事をしながらそれを聞いていた。
そして魔法用品のコーナーにはメイプルが埃取りのモップを持って、埃を取る気もなさそうに腕を組んで仁王立ちしていた。
「だからいいんじゃない。私の美的センスに見合う結果だわ」
自慢げなメイプルにケマルは冷たい視線を向ける。
「……ちゃんと勘づいてるからそれ以上言うなよ」
「あら、分かってた?」
満更でもない様子でカウンターに寄ってきたメイプルにため息を漏らす。
「だから言うなって」
「いいじゃない、私たちの活躍っぷり知りたいでしょ?」
話したくてうずうずしているのを素直に許すケマルではない。
「だから知りたくないって。俺が知ってるのはこの店を囮にするってとこまでだ。そこから囮をさらに囮にして、本丸に乗り込むとか知ってないから」
メイプルは目を瞬かせた。
「知ってるじゃない」
「知ってたわけじゃない。勘づいてるからって言ってるだろう。だからそれ以上言うな」
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