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第二章 車内でも隣には

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 四人でゆきがよりリラックスする席はどこかと相談していると程なくしてゆきが店に入ってきた。まずはマスターに笑顔でアイコンタクトして、指さしでテーブルを教えてもらって四人がいる席にやってきた。

「すみません、遅れちゃって」
「いいよ、いいよ。お疲れ様なんだから、ほら座って」

 宮前が目雲との間にスペースを空けてその椅子を引くと、隣りに座っていた目雲がメニューを差し出す。

「何飲まれますか?」

 なぜ宮前と目雲の間なのかと不思議がりながらも、そのまま座る。

 事前の相談の結果、目雲の隣りは絶対で、あとは店の扉が見えない位置、さらに端に座らせるといろいろ気を使って皿を運んだりグラスを端にまとめたりと細々働くかもしれないと真ん中に挟まれることになったことは誰も説明しない。

「ゆきこれ飲んでみたら?」

 ゆきの向かいに座っている愛美が自分のグラスを振って示す。

「何飲んでるの?」
「ハイボール、美味しいよ」

 美味しいことはゆきも知っているが、居酒屋でサワーやチューハイ以外はほとんど飲まないのを知っている愛美の提案に眉を寄せる。

「何か企んでるな、騙されないって」
「企んでるけど、騙してはいない」

 奇妙な断言をする愛美にゆきは完全に不審がりながら、メニューを開いた。

「無理する必要はないですよ」
「そうそう、体質とかあるでしょ」

 目雲と宮前の反応に、自分が来る前の会話をゆきはある程度予測できた。そして愛美と堺を視線をやって目を細めた。

「また余計な話しした? この前もなんか言ってたのに」
「別にさ、悪い話じゃないし」

 悪びれる様子もなく愛美が笑う。
 ゆきは脱力しそうになる。

「わざわざ言うことかしら?」

 愛美にだから口調を変えて指摘するが、愛美は笑う。

「ゆきは隙がみえないんだから、ちょっとくらい私たちでサービスしとかないと」

 目雲の本性を探るいい機会だとでも思っているのだろうと推察するゆきを余所に、それを知らない堺も追随する。

「そうそう、別に無理させようとしてるわけじゃないだろ」

 堺が笑うのを呆れたように遂にゆきが脱力する。

「私の体的には無理はないけど、みんなに迷惑かける」

 愛美が綺麗な笑顔を浮かべて揶揄う。

「迷惑なんて掛からないよ、面白いだけ」
「面白いだけ」

 繰り返して笑う堺に宮前がどうなるのか興味を示す。

「面白いの? ゆきちゃん前は、ケラケラ笑っておかしくなるって言ったけど」

 堺が酔った時のゆきを思い出しながら的確な言葉を探す。

「ケラケラというよりはへらへら? 違うな、ほわほわ笑う感じですよ」
「ほわほわのゆきちゃんは確かにちょっと面白そうだね」
「面白いで済みますでしょうか」

 首を捻りながら、ゆきは愛美に勧められたハイボールを注文した。

「二人とも責任とってね」

 程なくやってきたグラスで乾杯をすると、ゆきはいつもと変わりなく飲み始めた。
 そして特にその後も変わりなく、会話は続いていく。
 ほとんど終盤になろうと言う雰囲気になってきた頃だった。

「ゆきさん?」

 異変に気が付いたのはもちろん目雲だった。メニューを眺めているゆきに違和感を覚えたのだ。
 目雲の呼びかけに、きょとんと首を傾げる。

「何か頼みますか?」

 ゆきは微笑みながら首を横に振る。

「興味深い物でも載ってましたか?」

 ゆきはやはり首を振る。

「たぶん文字を目で追ってただけだと思いますよぉ」

 愛美がニマニマと笑い、堺が対処法を助言する。

「イエス、ノーで答えられない質問しないとしゃべらないっすよ」
「ねぇねぇゆき、目雲さんのどんなところ好きぃ?」

 愛美の質問に視線をさ迷わせ黙り込んでしまう。
 ゆきの考え込む様子になぜか宮前が不安がる。

「え、ゆきちゃん周弥の好きなところない?」

 するとじっと目雲を見つめてから満面の笑顔になる。

「いっぱい、好きです」

 照れもなく微笑みいっぱいで言うゆきに、確かにいつものゆきと違うと確信しながら間違いなくその言葉が目雲の心にまっすぐ響いて、思わず目雲の方が考え込むような仕草になってしまう。
 頭を抱え込みたくなるほど、ときめいてしまっていた。

「ね、かわいいですよね?」

 愛美がきゃっきゃとしているが、当の本人は不思議そうに首を振っていて、けれどそれ以外で反対する声は上がらない。

「これ本当に大丈夫な状態? 違い過ぎて心配なんだけど」

 笑いながらも困惑する宮前に愛美が太鼓判を押す。

「大丈夫ですよ、やばいと思ったら絶対飲まなくなりますし。すっごく頑固になるので、自分のポリシーに反することは絶対しません。なので無理もしないし、今日は絶対に割り勘です。下手したら、いつものお返しとばかりに奢られる可能性もあります」
「なぁ? ゆきはきっちりしてないと嫌だもんな?」

 堺が聞けば、こくりと頷きつつグラスを傾けている。
 久しぶりに見たその様子に堺が懐かしさを感じつつ、ゆきの解説を付ける。

「もう今日は寝るまでこのままですよ。ただ明日の朝起きたら悶絶してると思います。全部覚えてるので、恥ずかしくて一人で七転八倒するらしいです。そうなるって分かってるのに、こうなるってことはやっぱり酔ってるんですよね」

「ゆきちゃん大丈夫?」

 宮前が聞けば大きな頷きが返ってくる。
 いつにも増してニコニコとして宮前はあまりの素直さに何故か庇護欲がそそられてしまう。

「何か甘い物でも食べる? パフェあるよ」

 試しに宮前がメニューのデザートのページを開いて一緒に眺める。

「季節のパフェだって、美味しそう。チョコもいいけどねー」

 ゆきは宮前の横顔をちらりと見ると、チョコレートパフェを指さした。

「じゃあ俺はこっちにする。他なにか頼む?」

 ページを捲ってワインを指さすゆきに宮前は笑ってしまった。

「俺も一緒に飲も、ハーフボトルにしていい?」

 ゆきも楽しそうに頷いた。

「じゃあ周弥、頼んでおいて。二人もなにか欲しいのあったら一緒にさ」

 目雲はこういう時宮前に任せた方がゆきをより楽しませられると分かっているから特に何も言わない。その上で任せるだけにせずゆきの様子だけ注視していれば無理をさえることもないといつも以上に気を向けてはいた。

 目雲がさっさと行動して注文が通る。
 少しして二人の前にパフェが並び、一緒にワイングラスも並べて宮前が注ぐ。

「わぁ、かんぱーい」

 宮前の掛け声にゆきはこくりと微笑んで、宮前が小さく掲げたグラスにそっと自分のグラスを両手で持って当てる。
 二人一緒に口に含むと同時に頷いた。

「美味しいね」

 ゆきもニコリと笑うと、宮前の前に自分のパフェを差し出す。

「ん? ひと口くれるの?」

 一つ首を縦に振ったゆきに、宮前が面白そうに尋ねる。

「いいの? ありがとう、俺が食べたいって言っていったからチョコにしてくれたの?」

 ゆきはのんびり口を開く。

「宮前さんはチョコレートと苺が好きで、チョコレートは固形で風味の強い物がより好みです。店長の選ぶフルーツは間違いないので、私はどっちも好きだけどチョコレートにこだわりもないから、わけっこするならこの組み合わせがいいです。それに宮前さんがわけっこ大丈夫な人だと知っています」

 しゃべるんだとなぜだか当たり前のことに宮前は感動した。

「おお、ゆきちゃんの思考を解説してくれたんだ。説明口調なのに、わけっことか言うのが子供っぽくて可愛いなあ。じゃあひと口だけ」

 宮前がゆきの最初のひとすくいと貰い、こっちどうぞ、と宮前のパフェをゆきに近づけると嬉しそうにひとすくいして、二人で頬張った。

「うぅーん、おいし」

 唸る宮前と静かに頷くゆきは対照的なようでいて、頬が緩んでいるのは一緒だった。
 そして次は自分のパフェにスプーンを入れる。ゆきはチョコソースのかかったクリームをひとすくい、宮前は苺をすくいあげ口に運ぶ。

「うん、こっちも美味しいね?」

 もちろんゆきも頷いた。
 そんなゆきを黙って観察している目雲に堺が補足する。

「子供の頃からこういう話し方だったみたいですよ、大学入りたてくらいの時もこんな感じで、人見知りなのかなって思ってたんですよ。仲良くなるにつれ良くしゃべるようになったから。意識して直したってあとで教えてもらいました」

 ゆきはうんうんと頷いているが視線は自分のパフェから移らず、ゆっくり食べ進めていた。
 笑顔で見守る愛美もゆきの久しぶりの姿に微笑ましく見守りながら、じみじみゆきについて語る。

「自分の世界がはっきりしてるんだろうなって思うんです。しかも外の世界に対しての関心もあって、人間も好きで。その証拠にゆきってすごく友達も多いんですよ。それも個人的に繋がりが強い友達がほとんど、私も含めですけど」

 ゆきも聞いてはいてもその愛美の話には何も言わずに、そのままパフェとワインを堪能していた。
 二人がパフェを食べ終わったところで、いい時間になりゆき以外ほろ酔い程度でこの日はお開きとなり、もちろん、ゆきは目雲が責任をもって帰すということになり、駅で別れた。




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