あいうえおんがく

紫月侑希

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追憶のアリア

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「どうだった?チマ」
「どうもこうも、ご飯作って3人で食べました。アイスも食べた」
 次の日オラトリオに出勤したら、イズミさんは開口一番そう聞いてきた。ありのままを話せば、イズミさんが聞き方が悪かったわね……と頭を抱えながら私を見る。いや、どうって言われてもそれ以上でもそれ以下でもないのだ。
「そういえば、ライブ会場を押さえておいたから。今の気持ちを歌にしてみなさいよ」
「あ、ありがとうございます。ていうか、今の気持ちって……どういうことですか?」
「親子と過ごしてどう感じた?」
「あぁ……家族って温かいんだなって初めて思いました」
 私は、実の家族とお世辞にも仲が良いとは言えない。実家は銀行を経営していて、父親は型にはめたお嬢様教育を私に強要してきた。母親は、フランス人で私が幼い頃に離婚して祖国に帰ったらしい。6歳離れた兄もいるけど、兄は身長も高く文武両道で父親の敷いたレールをきちんと進んでいる。だから、少し近寄りたくない。嫌いとかではないけれど、なんとなく苦手。メールでやり取りはするが、頻繁に会うわけでもない。話したいことも特段ない。
 音楽で食べていくつもりだったので、大学進学を機に一人暮らしをした。本当は、大学にも行かずに音楽活動1本で活動をしたかったけれど……父親からは、大学を現役合格かつストレートに卒業を条件として夢を追う事を許されたので進学する事になったんだ。
 正直なところ、音楽で生活する事は無茶苦茶反対された。父親としては、大学卒業後に自分の銀行に就職させてお見合いでもさせる気だったらしい。そんなのまっぴらごめんだ。頑固に音楽を続けようとした私の意思と、それなりにミュージシャンとして実績を残していたので向こうも無理だと悟ったのだろう。渋々、交換条件をだしてきた。
 一緒に住んでいるのに、バラバラの家族。幼い頃、面倒を見てくれていたのは家政婦の人。だから、家族の愛情がよくわからないまま生きてきた。だから、朝倉さんとハルを見て……愛情とはこう言うことかと思ったんだ。
「それよ、その気持ちを歌にぶつけてみなさい」
「わかった。イズミさんがそう言うなら……やってみる」
 週末には、再び朝倉さんとハルと会う事になっている。また、温かい気持ちになれるんだろうか。

 ***

「千鞠、おかしいよ」
 その一言は、胸の深層に刺さって抜けない。
「……っ……!」
 ステージ上で歌えなくて、求められるものが、出せなくて、夢は一度弾けて飛んだ。でも、その言われた一言を抜いて仕舞えば私は私を殺すことになる。
「あーあ……やな夢」 
 起き抜けから、地を這うような気分なのはなかなかのもの。切り替える為に、ココアでも淹れて飲もう。今日は、朝倉さんとハルと会う日だし切り替えていかないと。
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