5 / 17
追憶のアリア
しおりを挟む
「どうだった?チマ」
「どうもこうも、ご飯作って3人で食べました。アイスも食べた」
次の日オラトリオに出勤したら、イズミさんは開口一番そう聞いてきた。ありのままを話せば、イズミさんが聞き方が悪かったわね……と頭を抱えながら私を見る。いや、どうって言われてもそれ以上でもそれ以下でもないのだ。
「そういえば、ライブ会場を押さえておいたから。今の気持ちを歌にしてみなさいよ」
「あ、ありがとうございます。ていうか、今の気持ちって……どういうことですか?」
「親子と過ごしてどう感じた?」
「あぁ……家族って温かいんだなって初めて思いました」
私は、実の家族とお世辞にも仲が良いとは言えない。実家は銀行を経営していて、父親は型にはめたお嬢様教育を私に強要してきた。母親は、フランス人で私が幼い頃に離婚して祖国に帰ったらしい。6歳離れた兄もいるけど、兄は身長も高く文武両道で父親の敷いたレールをきちんと進んでいる。だから、少し近寄りたくない。嫌いとかではないけれど、なんとなく苦手。メールでやり取りはするが、頻繁に会うわけでもない。話したいことも特段ない。
音楽で食べていくつもりだったので、大学進学を機に一人暮らしをした。本当は、大学にも行かずに音楽活動1本で活動をしたかったけれど……父親からは、大学を現役合格かつストレートに卒業を条件として夢を追う事を許されたので進学する事になったんだ。
正直なところ、音楽で生活する事は無茶苦茶反対された。父親としては、大学卒業後に自分の銀行に就職させてお見合いでもさせる気だったらしい。そんなのまっぴらごめんだ。頑固に音楽を続けようとした私の意思と、それなりにミュージシャンとして実績を残していたので向こうも無理だと悟ったのだろう。渋々、交換条件をだしてきた。
一緒に住んでいるのに、バラバラの家族。幼い頃、面倒を見てくれていたのは家政婦の人。だから、家族の愛情がよくわからないまま生きてきた。だから、朝倉さんとハルを見て……愛情とはこう言うことかと思ったんだ。
「それよ、その気持ちを歌にぶつけてみなさい」
「わかった。イズミさんがそう言うなら……やってみる」
週末には、再び朝倉さんとハルと会う事になっている。また、温かい気持ちになれるんだろうか。
***
「千鞠、おかしいよ」
その一言は、胸の深層に刺さって抜けない。
「……っ……!」
ステージ上で歌えなくて、求められるものが、出せなくて、夢は一度弾けて飛んだ。でも、その言われた一言を抜いて仕舞えば私は私を殺すことになる。
「あーあ……やな夢」
起き抜けから、地を這うような気分なのはなかなかのもの。切り替える為に、ココアでも淹れて飲もう。今日は、朝倉さんとハルと会う日だし切り替えていかないと。
「どうもこうも、ご飯作って3人で食べました。アイスも食べた」
次の日オラトリオに出勤したら、イズミさんは開口一番そう聞いてきた。ありのままを話せば、イズミさんが聞き方が悪かったわね……と頭を抱えながら私を見る。いや、どうって言われてもそれ以上でもそれ以下でもないのだ。
「そういえば、ライブ会場を押さえておいたから。今の気持ちを歌にしてみなさいよ」
「あ、ありがとうございます。ていうか、今の気持ちって……どういうことですか?」
「親子と過ごしてどう感じた?」
「あぁ……家族って温かいんだなって初めて思いました」
私は、実の家族とお世辞にも仲が良いとは言えない。実家は銀行を経営していて、父親は型にはめたお嬢様教育を私に強要してきた。母親は、フランス人で私が幼い頃に離婚して祖国に帰ったらしい。6歳離れた兄もいるけど、兄は身長も高く文武両道で父親の敷いたレールをきちんと進んでいる。だから、少し近寄りたくない。嫌いとかではないけれど、なんとなく苦手。メールでやり取りはするが、頻繁に会うわけでもない。話したいことも特段ない。
音楽で食べていくつもりだったので、大学進学を機に一人暮らしをした。本当は、大学にも行かずに音楽活動1本で活動をしたかったけれど……父親からは、大学を現役合格かつストレートに卒業を条件として夢を追う事を許されたので進学する事になったんだ。
正直なところ、音楽で生活する事は無茶苦茶反対された。父親としては、大学卒業後に自分の銀行に就職させてお見合いでもさせる気だったらしい。そんなのまっぴらごめんだ。頑固に音楽を続けようとした私の意思と、それなりにミュージシャンとして実績を残していたので向こうも無理だと悟ったのだろう。渋々、交換条件をだしてきた。
一緒に住んでいるのに、バラバラの家族。幼い頃、面倒を見てくれていたのは家政婦の人。だから、家族の愛情がよくわからないまま生きてきた。だから、朝倉さんとハルを見て……愛情とはこう言うことかと思ったんだ。
「それよ、その気持ちを歌にぶつけてみなさい」
「わかった。イズミさんがそう言うなら……やってみる」
週末には、再び朝倉さんとハルと会う事になっている。また、温かい気持ちになれるんだろうか。
***
「千鞠、おかしいよ」
その一言は、胸の深層に刺さって抜けない。
「……っ……!」
ステージ上で歌えなくて、求められるものが、出せなくて、夢は一度弾けて飛んだ。でも、その言われた一言を抜いて仕舞えば私は私を殺すことになる。
「あーあ……やな夢」
起き抜けから、地を這うような気分なのはなかなかのもの。切り替える為に、ココアでも淹れて飲もう。今日は、朝倉さんとハルと会う日だし切り替えていかないと。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!
西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。
友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。
しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。
「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」
これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。
週一、不定期投稿していきます。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。
セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。
その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。
佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。
※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる