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【20】村の会議
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☆――――王国内のある村の青年――――☆
薄暗い部屋の中でゆらゆらとロウソクの火が揺れ、壁には数人の影が大きく映し出されている。
「どうなっているんだ!!」
ドンッと机が叩きながら叫んでいるこの男は、この村の村長。禿上げた頭から湯気が出るんじゃないかというほど顔を真っ赤にして怒っている。
「そうは言ってものぉ……。わしらには出来ることなんて……」
「そうだぜ。少し遅れているだけなんじゃないのか?」
「でも、こんなこと今までなかったしねぇ……」
こんな薄暗い部屋の中にこんなにも人が集まっているのは理由があった。
まさかエリンが帰ってこないなんてなぁ。この後どうすんだろ。
のほほんと早く会議が終わらないなかなぁと揺れている火を眺めていると、
「おい!! ピリベ、聞いているのか!?」
名前を呼ばれて顔を上げる。
「ん? えぇ、聞いてますよ」
「まったく……。お前もどうしたらいいのか考えろ!!」
「そんなこと言われましても、僕たちにできることなんて無いと思うんですが……」
「それでも考えろと言っているのだ!! このままだとどうなるのか分かっているのか!?」
「はぁ……」
面倒くさいことになったなぁ……。そう言われてもどうすることもできねぇだろ。
エリンのような外で冒険者を殺す担当の子供達はエリンの他にも数名おり、あの旅人にはたまたまエリンが担当することになったのだが、そのエリンが帰ってこないため問題になっていた。最悪死んだのであればいいが、もし催眠が解かれているとしたら、記憶は消してあるとはいえ厄介なことになるかもしれない。
それにもう1つ問題があった。
「このことがあの方に知られたら……」
顔を真っ赤にしたり、真っ青にしたりと大丈夫なのか心配になるほど村長の顔色がころころと変わる。その様子を見て思わず同情してしまう。
僕たちの村は定期的に旅人の死体を送る代わりに様々な支援を受けており、一見貧しそうに見えるこの村はカモフラージュで、実情はそこらの村よりもはるかに裕福だった。そのため、エリンの催眠が解けており、この村が行っていることがよそに知られたりでもしたら、どんな結末が待っているのか予想もつかない。ただ、ろくなことにならないのは確実だろう。
「じゃが、催眠が解けたとは限ら……」
「それでもだ!! 万が一にでもこのことが知られる可能性があるのであれば、その芽を摘ままねばならん!!」
「そうは言ってものぉ。どこに行ったのか分からんのじゃろ?」
「それが問題なのだ!! こんなことになるのであれば、あの方に追跡の効果を付けてもらうべきだった……」
今更過ぎるんだよな。何度も追跡の効果を付けてもらうのを頼むように進言した時は、余計なことはするなって却下されたし……。
「それじゃあ、どうするんですか? 追っ手でも出すんですか? そんな人員いないと思いますけど」
近くの街に滞在してくれていたら少ない人数でいいだろうけど、どこに行ったのか分からない旅人を探し出すには村人全員で探しても足りないだろう。
「それは分かっておる。だから、解決策を出すために皆を集めたのであろう」
「そうは言ってもなぁ……」
追っ手を出すのは無理。あの方に報告するのはもっと無理。となると……。
「何もしないでおきましょう」
「何だと!? では、エリンはどうするのだ」
「エリンが帰ってこないのは催眠が解けたからなのか、それとも死んだからなのか分かりませんが、分からない以上静観するのが良いでしょう」
下手に動いて何かあったら余計にややこしくなるだろうしな。
「それに、あの方にも黙っておきましょう。もしこのことが知られたら、どうなるか分かりませんので」
催眠が解かれた可能性よりも、旅人と一緒に死んだ可能性の方が高い。そのため、わざわざ可能性の低いことを気にしていても仕方ないと考える。報告さえしなければ、あの方に知られることもないだろう。
「むぅ……。それは……、一理あるな」
「今我々にできることは何もありません。問題が起きていないうちは何もしない方がいいでしょう」
「……分かった。ピリベ、お前の意見を採用しよう。皆もそれでいいな?」
良い案が思いつかなかったこともあるのだろう。村の皆は僕の意見に賛同してくれた。
「よし、それでは、会議は以上だ。くれぐれもこんな失敗を繰り返さぬように皆も気を引き締めよ」
こうして、村での会議が終わった。
☆――――――――――――――――――☆
薄暗い部屋の中でゆらゆらとロウソクの火が揺れ、壁には数人の影が大きく映し出されている。
「どうなっているんだ!!」
ドンッと机が叩きながら叫んでいるこの男は、この村の村長。禿上げた頭から湯気が出るんじゃないかというほど顔を真っ赤にして怒っている。
「そうは言ってものぉ……。わしらには出来ることなんて……」
「そうだぜ。少し遅れているだけなんじゃないのか?」
「でも、こんなこと今までなかったしねぇ……」
こんな薄暗い部屋の中にこんなにも人が集まっているのは理由があった。
まさかエリンが帰ってこないなんてなぁ。この後どうすんだろ。
のほほんと早く会議が終わらないなかなぁと揺れている火を眺めていると、
「おい!! ピリベ、聞いているのか!?」
名前を呼ばれて顔を上げる。
「ん? えぇ、聞いてますよ」
「まったく……。お前もどうしたらいいのか考えろ!!」
「そんなこと言われましても、僕たちにできることなんて無いと思うんですが……」
「それでも考えろと言っているのだ!! このままだとどうなるのか分かっているのか!?」
「はぁ……」
面倒くさいことになったなぁ……。そう言われてもどうすることもできねぇだろ。
エリンのような外で冒険者を殺す担当の子供達はエリンの他にも数名おり、あの旅人にはたまたまエリンが担当することになったのだが、そのエリンが帰ってこないため問題になっていた。最悪死んだのであればいいが、もし催眠が解かれているとしたら、記憶は消してあるとはいえ厄介なことになるかもしれない。
それにもう1つ問題があった。
「このことがあの方に知られたら……」
顔を真っ赤にしたり、真っ青にしたりと大丈夫なのか心配になるほど村長の顔色がころころと変わる。その様子を見て思わず同情してしまう。
僕たちの村は定期的に旅人の死体を送る代わりに様々な支援を受けており、一見貧しそうに見えるこの村はカモフラージュで、実情はそこらの村よりもはるかに裕福だった。そのため、エリンの催眠が解けており、この村が行っていることがよそに知られたりでもしたら、どんな結末が待っているのか予想もつかない。ただ、ろくなことにならないのは確実だろう。
「じゃが、催眠が解けたとは限ら……」
「それでもだ!! 万が一にでもこのことが知られる可能性があるのであれば、その芽を摘ままねばならん!!」
「そうは言ってものぉ。どこに行ったのか分からんのじゃろ?」
「それが問題なのだ!! こんなことになるのであれば、あの方に追跡の効果を付けてもらうべきだった……」
今更過ぎるんだよな。何度も追跡の効果を付けてもらうのを頼むように進言した時は、余計なことはするなって却下されたし……。
「それじゃあ、どうするんですか? 追っ手でも出すんですか? そんな人員いないと思いますけど」
近くの街に滞在してくれていたら少ない人数でいいだろうけど、どこに行ったのか分からない旅人を探し出すには村人全員で探しても足りないだろう。
「それは分かっておる。だから、解決策を出すために皆を集めたのであろう」
「そうは言ってもなぁ……」
追っ手を出すのは無理。あの方に報告するのはもっと無理。となると……。
「何もしないでおきましょう」
「何だと!? では、エリンはどうするのだ」
「エリンが帰ってこないのは催眠が解けたからなのか、それとも死んだからなのか分かりませんが、分からない以上静観するのが良いでしょう」
下手に動いて何かあったら余計にややこしくなるだろうしな。
「それに、あの方にも黙っておきましょう。もしこのことが知られたら、どうなるか分かりませんので」
催眠が解かれた可能性よりも、旅人と一緒に死んだ可能性の方が高い。そのため、わざわざ可能性の低いことを気にしていても仕方ないと考える。報告さえしなければ、あの方に知られることもないだろう。
「むぅ……。それは……、一理あるな」
「今我々にできることは何もありません。問題が起きていないうちは何もしない方がいいでしょう」
「……分かった。ピリベ、お前の意見を採用しよう。皆もそれでいいな?」
良い案が思いつかなかったこともあるのだろう。村の皆は僕の意見に賛同してくれた。
「よし、それでは、会議は以上だ。くれぐれもこんな失敗を繰り返さぬように皆も気を引き締めよ」
こうして、村での会議が終わった。
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