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【18】エリンの記憶

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「エリン!? え、えーと……」

 まさかこんなに早く起きるとは思っていなかったため、どうやって説明しようかと考えていると、

「……大丈夫。大体のことは分かってるよ」

 エリンから予想しない言葉が出てくる。

「え? それは……、どういうこと?」

「えっとね――――」

 そうしてエリンが説明してくれたのだが、実はエリンは俺達と出会った時の記憶はおぼろげながらも残っているのだという。ただ、意識自体はフワフワとしており、所々覚えていない箇所があるとのことだった。俺を襲った時も意識はあったものの、自分の意識とは別に体が動いており、まるで他人の視点を見ているかのような感覚だったとのこと。

「そうだったんだ。それじゃあ、俺達に会う前の記憶は?」

「うーん……。あまり覚えてない」

「あまり?」

「うーんとね、覚えているのは――――」

 小さい頃の記憶は何となく覚えているらしいのだが、6~7歳頃から俺達に出会うまでの記憶、つまり約3~4年間の記憶がすっぽり抜けているのだという。

「なるほど……」

 となると、やっぱり怪しいのはあの村の誰か。もしくは、村そのものってことか。

「そうだ、エリン。この指輪、お母さんの形見だって言ってたけど……」

 エリンを治療した際に外しておいた指輪を見せる。

「ううん。知らない」

「知らない? どういうことだい?」

 エリンが言うには、母親の記憶はあるが、この指輪を付けていた記憶も貰った記憶も無く。さらに、いつから身に着けていたのかということすらも覚えていないのだという。

 ということは……、この指輪はエリンに催眠をかけた者が渡したものということか? だとすると、処分すべきかもしれないけど、追跡の魔法もかかっていないみたいだし、調べる時に役立つかも知らないから一応持っておくか。

 指輪をバッグの中に入れる。そして、エリンのことを一通り教えてもらったところで、次は今後のエリンについて聞いてみることにした。

「……エリンはこの後どうしたい? 一応催眠は解けたけど、このまま俺達に付いてくる?」

 やめた方がいいとは思うが、村に戻りたいと言うのであれば、それを止める権利は俺にはない。催眠状態のエリンを連れてきたため、催眠が解けた状態のエリンの考えを聞いておきたかった。

「私は、ラベオンとアリシアと一緒にいたい」

「本当についてきたいのかい?」

「うん」

 エリンが付いてきたいというのであれば、もちろんその意思を尊重したい。

「そっか。それなら、これからもよろしくな。エリン」

「うん!!」

 もし、村に戻りたいと言われたらどうにかして止めようと考えていたのだが、付いてきたいと言われたためホッと胸を撫でおろした。

「それじゃあ、今後のことだけど……。アリシアはどう思う?」

「そうですね。王国騎士のこともありますし、それにエリンに催眠をかけた者、もしくは者達が追っ手をよこすことも考えられます。ですので、すぐに街を離れたほうがいいと思います」

「だよな。となると……」

「向かうのであれば、トリアがよろしいかと」

 そう言ってアリシアは地図を広げた。

「私たちは今ここ、デリングにいます」

 アリシアが指を差す場所、デリングの周囲を見てみると、北にテレント、西にトリア、東にエンシュリア、南にメイゼンが位置している。

「ですので、トリアに向かうのがよろしいかと思います」

「それは何故だ?」

「まず、テレントは王都と隣接しているため、追っ手のことを考えるとあまり良いとは思えません。メイゼンは河を挟んでいるため良いかもしれませんが、この街からだと少し遠いです。その間に橋を封鎖されていたら手詰まりになってしまいます。ですので、王都から離れるという点やまだ王国騎士の手にかかっていないという点からもトリアが良いかと」

「なるほど、確かにそうだな」

 トリアに向かうとして、色々買っておかないといけないな。ここからトリアの距離的に食料は……。

「ラベオン」

「ん? どうした?」

 今後の準備について考えている最中にアリシアに話しかけられてアリシアの方を見る。

「エリンですが、旅立つ前に一度戦闘を見ておいた方が良いかと」

「? どうして……。あー、そうか。確かにそうだな」

 以前見たエリンは申し分ない戦闘力であったが、それは催眠にかかっている時のエリンであった。その戦闘力が催眠によるものなのか、それともエリンの能力によるものなのかを把握しておかなくては旅の途中で戦闘になったときの連携に大きく関わってくる。

「それじゃあ、旅に必要な物を買った後にあの森でエリンに魔物と戦ってもらおうか。大丈夫かい? エリン」

「うん」

 一応、ゴブリンと戦闘した時の記憶は残っているようだし、ある程度は大丈夫だろうと思うけど、念のために確認しておいて損はないだろう。

「よし、今後の予定もまとまったし、街を出る準備を始めようか」
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