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【10】服と防具と武器

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 守衛に身分証を見せて武器を帰してもらった後、俺達は服屋に向かっていた。

「どうしてあんなに慌てて冒険者ギルドを後にしたのですか?」

 助けてもらったにもかかわらず俺の対応は失礼なものであったため、アリシアの疑問は当然のものであろう。

「あー、それは、あのベリックと名乗っていた冒険者がいただろ?」

「ええ、絡まれているラベオンを助けてくれた人ですよね」

「あぁ、それなんだけど。鑑定眼で見たら全然違う名前だったし、名前的に多分貴族だ」

「……なるほど、そういうことでしたか」

 そう言うとアリシアは察したのかそれ以上何かを言ってくることは無かった。

 もちろん、貴族と出会うことが一切ないとは思ってはいなかったが、まさかこんなに早く出会うとは予想していなかった。そのため、驚きのあまり逃げるように冒険者ギルドを離れたという訳だ。

「さぁ、到着だ」

 服屋に着いた俺達は早速服を選んでいく。アリシアのメイド服に代わる服を選ぶという理由ももちろんのこと、メレンの服を選ぶという目的もある。というのも、メレンの服は所々に穴が開いていたり、土で汚れていたりとボロボロであった。そのため、今はアリシアの服を着てもらっているが、どう考えてもサイズが合っておらず、いつまでもこのままという訳にはいかない。

「メレンは何か気に入った服とかあるかい?」

 そう尋ねてみるも、メレンは首を横に振るだけで何も言葉を発さない。その表情も遠慮しているのか、全く興味が無いのか、どんな感情なのか読むことができない。

「そっかぁ……。うーん。それじゃあ、これとかどうかな?」

 ピンク色のワンピースを手に取ってメレンに見せてみるも、頷くだけで気に入っているとは到底思えない表情をしている。

 これは、こっちが選ばないといけなさそうだなぁ。村での出来事がトラウマで自分を出せないでいるのか、それとも……。

 そんなことを考えているうちに宿を取りに行ってくれていたアリシアが戻ってきた。

「お待たせしました」

「ありがとうアリシア。メレンの服なんだけど、任せていいかな? 女の子の服はいまいちわからなくて」

「お任せください。ラベオンが気に入るような服を選びますね」

「う、うん。よろしく……」

 大丈夫なのかという不安を抱えつつ、メレンの服はアリシアに任せることにして自分の服を選ぶことにした。一応王城を出る時に服を持ってきてはいたのだが、どの服も平民が着ているとは思えないような高価な服ばかりで、明らかに周りから浮いている。そのため、ここで平民が着ていてもおかしくない服を数着買っておこうと考えていた。

 お、これとか良さそうだな。値段は……。ふむふむ、こんな感じなんだなぁ。

 服を買うという目的以外にも、平民の生活の基準も知っておきたかったというのもある。王城にこもってばかりの生活では、やはりどうしてもこういったことは知ることはできなかった。平民の生活を知ることも、今後のことを考えると必要なことだろう。多分。

「ラベオン。こちらとかどうでしょうか」

 後ろを振り返ると、そこには出会った時とは見違えるほど綺麗な服を身にまとっているメレンが立っていた。

「おぉ!! いいじゃないか!! 似合っているよメレン」

 軽く頷くメレン。

「こうしていると、まるで私たちの子供みたいですね。ぽっ」

 アリシアは頬に両手を当てて恥ずかしがるしぐさをしているが、その表情は相変わらず無表情だ。

「あ、あはは……、そうだねぇ……。でも、俺達の子供だとしたら少し大きすぎるんじゃないなぁ……」

 確かに感情が読めないという点ではこの2人は親子みたいだよなぁ……。

 そんなやり取りをしながらも俺達は3人は必要な分だけの服を買って店を出た。

「えーと、次は装備を買いに行こうか」

「かしこまりました」

 俺とアリシアはもちろんのこと、メレンの装備も買っておく必要があった。いくらお金を持ってきているとはいえ、何もせずにずっと暮らせるほどあるわけではない。それに、色々な場所に旅をするにはそれなりの貯えが必要だ。そのため、冒険者ギルドに貼られているクエストをこなしてお金を稼がなければならなかった。

「メレンぐらいの子の装備とかってあるかな?」

「あると思いますよ。何なら、もっと幼い子用の装備もあるかと」

「え……、そんなに小さい子用の装備もあるんだねぇ」

 まぁ、メレンも他の子と比べると小さいとはいえ13歳で俺とそんなに変わらないからなぁ。

「お金を稼ぐには魔物を狩るのが手っ取り早いですし、いくら安い装備だとしても、装備が有るのと無いのとでは自分の身を守れるかに大きく関わってきますからね」

「……なるほどねぇ」

 いつの時代も自分の身を守るのは日頃の備えって訳か。

 そんなやり取りをしているうちに防具屋にたどり着いた。アリシアが言っていたような幼い子用の防具は大人用に比べると店頭に置かれている数は少なかったが、注文すれば作ってくれるとのことであった。特に今のところは装備にこだわりは無いし、いきなりドラゴンを倒しに行くわけでもないため、アリシアや防具屋の親父の話を聞きつつ装備を選んだ。

 そして、必要な防具を買い終えた後は武器屋に向かったわけなのだが……。

「……本当にそれにするのか?」

「はい。だめですか?」

「いや、だめって訳じゃないけど……」

 アリシアがメレン用に選んだ武器がまさかの投げることも可能なナイフであった。

「何でナイフなんだ?」

「いきなり近接戦を任せるよりは、遠距離からサポートできるナイフの方が良いと思いまして。それに、スキルは私が教えることができますし」

 確かに剣や槍などの接近戦の武器よりかは遠距離の武器の方が良いと思うけど……。

「それじゃあ、弓じゃだめなのか?」

「駄目です」

 きっぱりと断られてしまった。まさかの即答に驚いていると、アリシアはメレンを後ろから抱きしめて口元に笑みを浮かべる。

「この子は良い暗殺者になると思います。きっと才能がある」

「あ、暗殺者って……」

 感情を全然表に出さないところとか確かに暗殺者ぽいけど、それだけで投げナイフってのはなぁ……。

 アリシアは本心でメレンには投げナイフが良いと思っての発言だろう。そのため、ここで無理やり投げナイフを諦めさせるのは今後のことを考えると無下には出来ない。それに、メレンに何の武器の特性があるのか分からないため、色々試してみるのも悪くは無いかと考える。

「……仕方ない。投げナイフは分かったけど、それだけじゃああまりにも幅が狭すぎるから、弓も使ってもらう」

「それでは、投げナイフ以外の暗器に費やせる時間が……」

「駄目だ!! こればかりは譲れない。メレンに暗殺者の道を作ってあげるのは良いけど、それだけじゃあだめだよ。アリシアも分かっているだろ?」

 諭すようにアリシアに言うと、目をつぶり何かを考え出した。そして、小さくため息をつく。

「……確かにそうですね。少し視野が狭まっていました。申し訳ございません」

「うん。アリシアもメレンのことを考えてのことだってのは分かっているから」

 アリシアも納得してくれたようなので、次にしゃがんでメレンの目を真っすぐと見つめる。

「メレンも使ってみたい武器ができたら教えてね? それに、無理しないように。やりたくなかったらやりたくないって言ってね?」

 すると、メレンはうんと小さく頷いた。

「うんうん。ちゃんと言うんだぞ?」

 メレンの頭を撫でながら立ち上がる。

「よし、それじゃあ、これとこれと……」

 自前の剣はあるのだが、一応自分用の剣とメレンのナイフを数本と弓矢を買って店から出たところで、

「大丈夫でしたか?」

 ベリックが目の前に現れた。
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