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カルル村のメア②

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 そして迎えた年の終わり。
 
 痣持ちであると名乗り出た男女が集まり、村長と族長の監視のもと自分のつがいを探す。
 
 みんな手や腕、色っぽく首筋に浮かび上がる痣を見せながら歩き回っているなか、僕はケツを出して歩くわけにもいかず、ただなんとなく彷徨(うろつ)いた。
 
 聞くところによると毎年数人ほど「ただの痣だった」と恥ずかしそうに帰るらしい。僕もそうなると思って最後の数人になるまで時が過ぎるのをひたすら待つ。

 つがいになっていく奴らが抜けていくと、最後に五人が残った。

 五人…ということは誰かは必ず余る。

 堂々としているのは手の甲に痣が浮き出ている男。それ以外の四人は周りをうかがいながら「服の下にあるから」と出し渋った。

 恐ろしいことに残った五人の中に女はひとりだ。

 冷や汗が吹き出る。
 
 「お前たち、さっさと痣を出せ」
 
 高圧的な東の族長の声。
 
 「見せてみなさい」
 
 誰も恥をかきたくはない。動きを見せない僕たちを見かね、衝立(ついたて)を用意して囲ってくれる西の村長。
 
 衝立(ついたて)の向こうがざわついているが、それもそのはず。手の甲に痣が浮き出ている男は族長の息子だ。高圧的な父親とは印象が違い、口数は少ないが狩りも漁も上手く幼さを残しつつも凛々しく男らしい。あまり接点もないので噂で聞いただけだが、村中の女から人気がある。
 
 名前は確かトナティウといったか。
 
 僕以外の三人はみんなトナティウに向かって服をめくり痣を見せた。そしてその中の二人がつがいで、顔を見合せ照れ笑いしながら衝立(ついたて)から出ていってしまう。
 
 外がわーわーと盛り上がっている。みんな帰らずトナティウが誰とつがいなのか見ようと残っているのだ。
 
 僕の冷や汗が止まらない。
 
 衝立(ついたて)の中にはトナティウ、僕、そして美人と話題の男。
 
 美人でも男だ。男、男、男。
 
 みーんな男。
 
 
 「そこのお前。勿体ぶらずはやく見せろ」
 
 痣はパッと見て繋がるような模様もあれば、合わせてみないとわからないモノもある。美男子の痣はどんなものか知らないが、そろりと横腹あたりを出している仕草がまた色っぽい。
 
 族長にせっつかれ、そんな二人の前で渋々背中を向けて少しパンツを下げた。なんだか情けなくて泣きそうだ。
 
 
 周りの息を飲む声。
 
 
 「決まったな」
 
 
 族長が声高々にフォルトゥナの儀式終了を告げた。
 
 
 つがいたちがワー!と盛り上がるなか、族長に
 
 「うちの息子の番として恥ずかしいことはするなよ」
 
 と肩を叩かれた。
 
 振り返って目に入ったのは、運命の番であるトナティウの落胆した顔だった。
 
 
 
 それから騒ぐ集団の前に二人で出ていくことになり、目も合わさず「出よう」と言い前を歩くトナティウの足を見ながら、真っ赤になった顔を下げて歩いた。僕を見たみんなは「うわ」「そっちか~」と好きずきに笑い、トナティウに同情した。
 
 興奮さめやらぬつがい達が「このあと話そう」と集まりだし、トナティウも誘われていたが苦笑いで「あまり話すこともなさそうだ」ときっぱり断って「相手が相手だもんなぁ」と周りを笑わせた。
 
 その間トナティウの後ろに隠れた僕は空気のように気配を消すことだけを考え、じっと耐えるしかなかった。ただの痣だったということで別の山道からひっそり帰ることになった横腹の美男子は泣いて泣いて、僕を恨めしそうに睨んだが、出来ることなら代わってくれと叫びたい。
 
 代わってくれ。代わってくれよ。 
 
 やっと皆が解散し、暗くなった道を走って帰る。儀式はどうだったか声をかけてくる家族を無視して寝床に飛び込んだ。みんな「ただの痣で恥ずかしかったんだろう」と触れずにいてくれたが、きっと明日驚かせることになる。
 
 
 僕だって、僕だって僕だって……!
 
 僕だってアンタなんか好みでもなんでもないのに!

 男なんて好きじゃないのに!
 
 名前しか知らなかった……!興味すらなかったよ!
 
 
 僕だってさぁ……!
 
 
 
 感情がぐちゃぐちゃになって、歯を食い縛って泣いた。
 
 
 
 
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