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④
しおりを挟む「っ、くぅ…勘違いなもんか!」
彼の絞り出した声に目の前が弾けた。
「俺だってなぁ…!おめぇと恋仲だって言われちゃあ勝手にイイ気になって、勝手にトキは俺のもんなんじゃねぇかって思いこんじまいそうなんだよ…!」
「ジルドさんの、もの…?」
吐いた息が熱い。ドキドキし過ぎて胸が痛む。
「トキは、それがいいです…!」
「…ッ、トキ!」
ぐっと引き寄せられ、太くて男らしい腕と厚い胸に押し潰される。
すごい、すごいすごい!両想いだったー!すき!
この世界で高身長の俺をすっぽりと抱き締められるジルドさん。まるで誂えたかのようにぴったりの身長差。すらっと細身の俺とガチッとしててムキムキのジルドさんなんてちょうどいいじゃん…!
胸板にすりすりと頬擦りする。これがしたくてたまらなかった。すると頭に顔を埋めて「トキ…」なんて甘く呼ばれてしまい、完全に俺の中の”トキちゃん”がきゃーーっと叫びまくった。
「俺ぁずるい男だ。周りからおめぇを囲んでよ…好きな相手に自分から告白もできねぇで」
いや、周りから囲い込もうと暗躍していたのは俺だ。本当はジルドさんから強引な感じで「俺のことが好きなんだろ?ん?」と来てほしかった(夜にする妄想でよく使うシチュエーション)けど、結果よければ全て良し!
「…トキも、ずるいです」
まさかこのドタバタで告白するなんて思ってなかったので心の整理が出来ていないが、トキには大きな秘密が三つある。正直、前世の記憶を持っている件についてはややこしいし、あまりに現実味がないので言わなくても問題ないと思っている。
これからの二人の関係に重要なあとの二つだが、店を閉めてゆっくり打ち明けることにした。
ぱたぱたと店内の片付けをしていると、ジルドさんがスっと手を取り「掃除は明日一緒にするから」と俺を抱え上げ寝室に連れていく。ずっと心に引っ掛かっていた秘密をこれからジルドさんへ打ち明けることに、思ったより緊張していたみたいだ。挙動不審に店内をうろうろと動き回っていた俺を落ち着かせようと二の腕を優しく撫でられて、自分が震えていることに気付いた。
膝に乗せたままお粗末な俺の寝床へ腰かけたジルドさんは、急かさずに話し出すのを待ってくれる。
「…薬師には」
震える小さな声で、胡散臭いけど気味の悪い薬師の呪い(まじない)について説明する。
ダンに追いかけ回されて髪を抜かれ、毎日毎日布を織ってはほどき、心を込めて織りなおす。不気味なほど薬師にはこのお呪いってのが重要で、少しでも気持ちを抜くと何故だか明らかに仕上がりが悪くなる。だから布が完成して合格をもらったときには達成感に満たされた。俺にとったらいい思い出だが、他人の髪の毛が織り込まれた布を知らぬうちに渡されたとなると恐怖でしかない。
ジルドさんに、薬師が人生で一枚だけ織るその魂のこもった布の話をまず聞かせ終えると
「ほお…そりゃまた面倒だな。だから薬師はみんな髪がなげぇのか…」
そう言って俺の髪の毛をすくい指を通した。そこに感覚なんてないのに、ぞくりと腹の底が疼く。
「じゃあまだトキは作ってないんだな?」
きた。誤魔化してこれから作って渡すこともできる。でもそれじゃあ意味がない。不思議と自分でもあの布にはそれなりの力が宿っていた気になっている。
「トキは…十のときにつくりました」
「…そうか」
ジルドさんが緊張したのが伝わってくる。これから貰えるのでは、という期待だ。初対面の相手に黙って使わせたことへの罪悪感で心苦しい。
自分の魂を明け渡して相手の魂を縛り付けるような儀式めいた薬師の伝統。もしそれが影響したとすると、この状況はジルドさんの知らぬうちに俺に嵌められたことになってしまう。少しでもその可能性があるのがつらい。呪いを盲信しているとは言わない、ただ全く信じていないとも言えないのだ。
決心して手を握りしめる。
「トキは、もう使ってしまいました」
ジルドさんから「えっ」と声が漏れた。
「ごめんなさい、トキは…がまんできなくて…」
トキの肉体を動かしているだけの人生だった城田啓介である俺が、一目見て「好きだ」と思った相手がジルドさんだった。身体はどっちつかずで、男の感覚のまま彼に惹かれた。大事な布を切り裂いてでも彼に渡したかった。
「トキよ、俺ぁ気にしねぇ。いまおまえが俺を慕ってくれんならそれでいいんだ」
「いいえ、トキは黙ってつかいました…」
「大丈夫だ。だってよ、いま俺がこうしてトキと一緒になってるわけだろ?そいつにゃ見る目がなかったんだな!」
それが一番気にかかってるんだ。今こうして感じている幸せが、薬師の呪いの効力だとしたら。
「だって、成ってしまいました…トキ、ひとめぼれして…当て布だってうそついて」
ジルドさんからの愛情がまやかしだったらどうしよう。そう思うと感情が爆発して泣いていた。
「お、おい、トキよ!おめぇもしや…あの布っ、あれか?!」
嗚咽で返事ができずこくりと頷くと、俺の寝床を大きく軋ませジルドさんは立ち上がった。転がり落ちそうになったが、ひょいと抱え上げられて強く胸に抱かれる。
「そんな大事な布を切り裂きやがったのか…俺のために…!」
ジルドさんの為じゃなかったら、あの布に使い道なんてなかった。
「…はい。だから、効果、なくなった、思ったのに」
織るときに縦糸横糸が切れたら一からやり直しだと言われていたから、ハサミを入れた段階で力を失っていてもおかしくはない。ただそれはこうなった今でこその願望だ。
「あぁねぇな!その布にゃ効果はねぇよ!だってなトキ!」
ボロボロの顔なんか見られたくないのに、顎を持ち上げられて従ってしまう。ニカリと笑うジルドさんと瞳をじっ、と合わせる。
「俺もトキにひとめで惚れちまってた」
ぶわっと目の前が滲んだ。
こんな素敵な告白ってある??素敵すぎる。すき。
嬉しい涙がとまらない俺に優しく囁く。薬だけ出させてすぐ帰るつもりだったのに、あんまりにも薬師が気になって居座ったんだと。
「しかも顔見りゃべっぴんでよう、こりゃ放っとかれんぞって下心でジジイが通いつめてよ」
下心があったならもっと出してほしかった、とまた泣けてきた。この顔面が活かせていたのも嬉しい。
ジルドさんはぐずぐず泣いて擦り寄る俺を存分に甘やかし、少し間をおいて「俺のほうがなぁ」と語りだした。
「みっともねぇけど借金があってな。今じゃねぇぞ?それで……」
俺は一人立ちがうまくいかず、人に騙され自暴自棄になったところをジルドさんに救われた。それと同じように、ジルドさんを救った人が居たと聞かされて心がざわつく。
しかもその相手、後から知ることになるがサンドラさんの夫の浮気相手だったとかいう修羅場。
初めて男を抱いたのもその時で、どっちでも愛せるとわかったという。だからトキも気にするな、ということらしいがその初めての男への嫉妬で頭が焼き切れそうだ。
夢中にさせなくては、そんなクソのような男なんて忘れさせなければ!
「もうひとつ、トキ、秘密あります」
突然立ち上がった俺に驚くジルドさん。何事もインパクトだ。ぜったいに俺のほうが、いや俺でありこのトキちゃんのほうがかわいくて美人でえっちに決まってる。
女が好きだったけど男もイケたってことは、真性のゲイじゃないんだろ?良かった。つまり上半身男で下半身女の俺が理想ってことでいいよな??
「っ、…と、ときっ」
これが一番の気がかりなんです…という演技もしつつジルドさんの指を握って股に誘導する。こんなえっちなことされたら堪らんだろう!
「トキ…おまえは、」
息を詰めて固まっていたジルドさんが、服の上からふにゅりと食い込むそこを凝視して焦る。混乱していることだろう。
なんたって俺は肉体は別として意識的には男として生きているし、女の子なのかもなーとは思っていたが生理も無くていまいち実感が無かった。話し方も特別にジルドさんには可愛いこぶっていただけで、普段は女っぽくなかっただろう。背も高く声も男だ。
なのにここにあるはずのものはついてない。
そしてないはずのものがある。
「っ、…ぁ♡ぁ、」
油断していたらジルドさんが指をくいっと動かした。股に挟むように差し込まれているだけでドキドキなのに、狙ったかのようにいつもオナニーに使うそこをクリクリ潰されて腰が跳ねてしまう。
「おんな、だったのか…?」
あっ、いやあのその前に指をとめてもらわないとお話ができないです!
でもとめないで…っ!
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