ジルド・エヴァンズの嫁探し

②

　そんな楽しい夜を過ごした翌週。


　「…え？」
　「いや、だからよう…」
　
　また色々と一人では出来なかった家の模様替えを手伝ってもらい、休憩しているとジルドさんから衝撃的な情報を得た。
　
　サンドラさんは俺のことを女(？)だと思っているらしい！しかも！兄がやっと連れてきた嫁だと！
　
　うおおおおおおおおお！
　
　トキは美人だけど女の子には見えないんじゃないか？ってのは置いといて、サンドラさんナイスッ！
　
　「ってなことでよ、もしサンドラが変なこと言っても流しといてくれ」
　
　ぽりぽりと頭を掻きながら笑うジルドさん。はい、とは返事したが全然ハイではないのだ。

　変なことってなに？いつ結婚するの？とか聞かれたら「プロポーズ待ちです♡」って言っちゃうよ俺。外堀埋めてくよ。
　
　「こんなジジイの嫁さんたぁ、トキも災難だなあ」
　
　ドキリ。
　
　全身がぴしっと固まる。妄想はしててもジルドさんからそういうニュアンスの言葉が出ると途端に俺(城田啓介)は”トキちゃん”になって、かわいくなってしまう。

　彼は自分のことを身体と態度ばっかりデカい冴えない田舎者だと卑下することがある。でも俺にはステキな殿方にしか見えてない。

　大きくて分厚い筋肉質な身体に焼けた肌。言葉遣いは荒くても乱暴に聞こえない低くて優しい声。それに誰からも好かれる人の良さ。なぜ彼の自己評価が低いのか理解できないくらいだ。それもトキの大好きフィルターなのかしれないけど、とにかくジルドさんの嫁が災難なんてありえないっ！
　
　あわよくばトキを！お嫁さんにしてっ！
　
　「ジルドさんのお嫁さんは…幸せです」
　
　脳内は大暴れのトキだが、実際に口から出たのは控え目な台詞だった。
　”トキちゃん”になってる俺にそんなことを言う勇気もなく、ジルドさんの反応の無さに怖くて前が向けない。

　二人の間に変な空間が広がり、沈黙が続く。
　
　あああ…ジルドさん困ってない？「ジルドさんのお嫁さんいいなあ…」って感情漏れ出すぎて明らかにわかっちゃったよね？
　
　体は火照っているのに冷や汗なんだか何なんだかわからない汗をかきながら手を動かす。
　
　それから俺たちがどんな会話をして、どういう顔でジルドさんが帰っていったのか覚えていない。
　
　
　ただ目の前には半年分の薬袋が出来ていた。


　

　そのギクシャクした別れから忙しくなり半月空いて、もともとジルドさんの休みに合わせて約束していた日がきた。
　
　今日、彼は来るだろうか。
　
　これで疎遠になったらどうしよう、と思っていたが杞憂で
　
　「トキっ…！」
　
　息を切らしながらジルドさんはうちまで来てくれた。