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⑨
しおりを挟む「おっジル!おめさん珍しいもん連れてんじゃねぇか!」
ジルドさんは顔が広くて、いろんな人にこうやって話しかけられる。そのつど俺と店のことを紹介してくれた。
「あー!あの草だらけの家かい!」
みんな同じ反応で恥ずかしい。やっぱり草だらけで誰も近寄ろうと思えなかったんだ…。
「薬師さんや、これもってけ。アンタ若いのねぇ」
木の実を袋いっぱいにつめて俺に持たせてくれたおばあちゃんは、肉を卸している関係で家畜のエサにする木の実畑まで持っているという。かなりの大地主だ。俺の手を握った彼女の手はかぶれていたので、顧客獲得に向けてぜひ店に来てくれと片言で頑張って話した。
おばあちゃんの手は植物かぶれで、貰った木の実の詰め合わせの中にあるアドという植物に反応していると考えられる。
アドは実ではなく葉を千切ると出る粘液が刺激の強い植物だ。直接触ってかぶれただけなのか、長らく作業するなかで植物アレルギーとなり直接触らなくても反応するようになったのか、どちらかは見ただけではわからない。
この世界にはアレルギーの存在そのものが浸透していないし、名称もない。薬師の間では薬や食物などに人それぞれ合う合わないがあるという認識はある。ただそれが「なぜなのか」というところまで誰も手をつけておらず、食事中に突然死する人々は毒を盛られたか寿命だと無理やり処理されてきたのだ。
前世の記憶だと、日本や世界で起きていた跡継ぎ争いで”毒殺された”となっている子供の中には、死因が”食物アレルギーだったのではないか”という説があった。そうやって知識がないために無駄な争いが起きていたのかもしれない。それをこの世界で少しでも減らすことができたらいい。
ただ俺にはチート能力なんて無い。
前世(城田啓介)の記憶があったって、医者じゃなかっただけに知識は限られてくる。医療福祉に関係した仕事をしてたらもっとやれることはあっただろう。
いまそんなことを考えても意味はないが「なぜこれがこうなるのか」「この薬は何が原材料なんだろう」「どう発見できたんだろう」「抗生物質って…」と、あって当たり前の薬に興味をもって少しスマホで調べるだけの行為が出来ていれば!なんて思うことが多くて歯痒く感じることばっかりだ。
俺がそんな後悔をしながら、話し掛けてくれる人達へ片言で話すのを、ジルドさんは急かしもせず待っていてくれた。そして「牛乳を頼むならここ」「じーさんが趣味でやってる輸入雑貨店はここ」「魚が食いたきゃここが一番鱗を綺麗にとってくれる」と商店街をぐるりと歩いて教えてくれた。
ジルドさんはどこの店でも店主と軽口を叩きながら買い物をしていて、拾えた単語から考えるに品物を値切っているようだった。そしてポンポンと台車に乗せる。そうやっていくうちに俺の店まで着いてしまう。楽しい時間は短い。
「氷は溶けちまったか?」
革袋に容れていた氷はとっくにぬるま湯になっていて、ちゃぽんと音が鳴った。抜き取るときに頭布が邪魔なので口布と一緒に脱いでしまう。唯一の強みである顔面を見てほしい俺の健気なアピールだ。
「連れ回して悪いな」
どこぞの宿に連れ込んでくれてもよかったのに、なんて言えやしないので素直に感謝を伝える。これは大切だ。
デート(俺はそう思う)の感想で次にこぎ着けるかどうかが決まる。
「いえ。とても…はじめて」
まだ語彙が感情に追い付かないので、とにかく”はじめて”を強調した。
「トキ、うれしい。とても」
ああ!もどかしい!とりあえず笑顔だ!
にこっと最大限に顔面力を生かして可愛いを意識する。
確か女優か誰かがテレビで「笑顔は目を細めず口角を上げる」と言ってた!俺的におしとやかに微笑んでジルドさんを見上げると、彼が「おっ」というような顔をしたので悪くはなかったと思う!
「ありがとう。ジルドさん」
ジルドさん、と何度も発音の練習を(寝床で)したので完璧なはず。俺の片言は可愛いかもしれないけど、やっぱりもっと話したい。それに問診にも必ず影響がでる。言葉の勉強もがんばろう。
それから台車の荷物を倉庫まで運んで貰った。なんとあの買い物は俺への引っ越し&開店祝いだったんだ。素敵すぎ。ひょいひょいと荷物を俺の家の倉庫で整理するジルドさんを見ていたらもう結婚してたっけ?と錯覚してしまいそうだ。
「俺はもう戻るが、何かあったら連絡しろい」
ジルドさんの連絡先をゲットしてしまった…!
この家に備え付けてあったラジオを大きくした感じのよくわからない機械は、なんと通信機らしい。
大きくてピアノのように部屋の片隅を占領するそれは邪魔だが壊したら弁償させられるかと思って触ってなかった。だけどここの元の住人が夜逃げしているので、残していったものは好きに使っていいみたいだ。
この世界に電気を通信に利用する技術があるならもっと発展していても良さそうだが、ジルドさんも「こういうもの」という感覚でしか理解してなかった。ただ無線ではなく、遠方だと更に中継地を挟んで伝言を伝えていくような仕組みだというので、昔の電話みたいなものなのだろう。俺だって電話やスマホ、パソコンはおろか電卓でさえ仕組みを説明しろと言われたら答えられないしな。
ただ通信機が普及しているわけではなく、ガルネシア国の管理する重要地域に設置された拠点周りだけ、こうやって機械を置いてやり取りできるようになっているらしい。
アーネシアは王都にとって外交に重要な地域なので田舎だが設備は他と比べ物にならないくらい発展しているようだ。
「練習で俺に何か送ってみろ」と言っていたジルドさん。さっそくボタンを押してみるが、光信号が難しすぎて何度も奇怪文を送りつけてしまった。そもそもまだ片言の俺。
これからきちんと文章になるまで半年かかった。
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