ジルド・エヴァンズの嫁探し

やきめし

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 「……なぁキースよ」
 「わっ!居たんですか?!休みのくせに事務所に入り浸るのはどうかと思いますけど……こわかった…」
 「俺ぁそんなにトキと一緒にいるか……?」

 あんまり周りから言われるもんで、とうとうキースなんかに相談しちまう。

 「なにを今さら……。前の休みも一緒に家具屋に行ってたし、その前の休みも二人で町をうろついてたじゃないですか」
 「そりゃあ来たばっかりで何も知らねぇから案内してやっただけでよ」
 「………僕のことを突き放して放っといた人がよく」
 
 ジトリと恨めしそうな目を向けてくるキース。あの頃は時期が悪かったんだよ。死にかけた卑屈なオヤジに苦労を知らない若い男を気にかけてやる余裕なんざ無かった。
 
 「おめぇのことも世話やいたじゃねぇか……」
 
 一応な。

 あのとき俺にまだ借金があって山に居たら、こいつを助けてやれてなかった。ゾッとする。

 「そりゃ、かなりお世話にはなりましたけど!でも休みに二人で出掛けないでしょ」
 「そらぁ……職場でも顔見るっつーのに休日までいたかねぇよ…」
 「なんだか失礼ですね、近いうちに親戚になるっていうのに…」
 「なんだとこの野郎、おい!」

 聞き捨てならんぞ!

 「あ、やっといつものエヴァンズさんだ!辛気臭いのは気持ち悪いのでやめてくださいね!サンドラさんも心配しますよ!」
 「おい誤魔化すなおめぇ」
 「今日も行くんでしょ?トキさんのとこに」

 女のようにくちの回るキースにつつかれ、一瞬言葉につまる。実際、荷の届かない定休以外の俺の休みはほとんどトキに費やされているのだ。

 「……まぁ、それは」

 あいつは俺でも心配するくらい薬草以外の基本的な生活力が乏しいから、仕方ないだろ?…って言い訳は使えんか。
 
 「それにエヴァンズさんが商店街のみんなに紹介して回ってたじゃないですか!この町の人みーんな分かってるんで今さらってやつですよ!僕はこれから忙しいんですから!さぁさぁはやく出てってくださいね!」
 「えっ、おい、あれは本当にそんなんじゃ……!」
 
 三十半ば過ぎて独り身で女の影もない俺が、ひとりの薬師を顔見せに連れ回ってりゃ『やっぱりそうだったか』なんて噂になっちまうのも仕方ねぇ。心配で世話してやってるつもりだったが、サンドラだけでなく町中これじゃあ俺のせいでトキも嫁さんが貰えんかもしれん。

 自分だけならまだしも、その可能性に気付いてしまう。こうしちゃおれんと慌てて草だらけのあの家へ向かった。



 
 「……ってことになってるのはサンドラの早とちりでも勘違いでもなかったんだ、すまねぇトキ!」
 
 どことなくあった気まずさも忘れて駆け込んだ薬屋で、目を真ん丸にするトキに謝る。なんたって町中まちじゅうだ。これから言って回ったって、生暖かい目で『わかってるわかってる』と頷かれるに決まってる。
 
 「トキは、いいんです」
 
 肩にそっと手を置かれ、下げていた頭をあげる。
 
 「ジルドさんは……気にしないで…」
 
 噂なんか気にせず恋人をつくれってか?そんなの、周りからトキが捨てられたように見えちまうだろう。そんな扱いをされる人間だと思わせたくない。それに俺に恋人なんざ出来やしないんだ。
 
 「いいや、俺よかトキだ。おめぇがやな思いすんのが許せねぇんだ。その原因が自分ってえのが救えん……」
 「いやなことないです。トキはここに来てずっと、幸せで…」
 
 ばくばくと身体が高鳴る。

 こういう展開を考えなかったといえば嘘になる。だが、それは俺の勝手な妄想ってやつで、トキの思わせ振りにみえる仕草はこっちの都合でそうみえてるんだと何度も己を律した。思い上がればキースに熱をあげて道をはずしたマーカスと一緒だ。

 そんな風にふんばってる俺に、トキは透き通った声で追い討ちをかける。
 
 「ジルドさんがいないときも、思い出すと楽しくて」
 
 緊張で息を吸ったまま吐けない。

 このキレイな存在が俺のようなむさ苦しい大男に、こんなに丁寧に言葉を紡いでなにか伝えようとしてくれるなんて。
 
 「いいです。トキは、勘違いで。ジルドさんの好い人、思われる。嬉しい……」

 
 普段はもっとうまく話せるようになっていたトキが、ぷつぷつと言葉を区切りながら唇を尖らせた。

 白い肌が所々赤く火照って、ちらりと俺を見上げてくる。
   
 「っ、くぅ……勘違いなもんか!」

 もうだめだった。堪らん。
 
 「俺だってなぁ……!おめぇと恋仲だって言われちゃあ勝手にイイ気になって、勝手にトキは俺のもんなんじゃねぇかって思いこんじまいそうなんだよ……っ!」
 
 わかるか、お前の世話やいてる大男はとんだ勘違い野郎で、下心を必死に隠してせっせせっせと周りに見せびらかしてんだ。
 
 妹や町のやつらにそうやって勘違いされたときに頭を抱えたが、同時に腹の底から欲がわいて、こうなっちまわねぇかとトキに構い続けた。
 
 「ジルドさんの、もの……?」
 
 はぁっ、と息の上がるトキ。胸のまえで握り締めた両手が震えている。
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