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 「よく効くわこの軟膏!香りもいいし!」
 
 サンドラへ荷物を届けに行くと、あれからラル坊の股ずれもサンドラの手荒れもすっかりよくなったと喜んでいた。キースよ……せっせと貢いだ王都のよくわからんブランドもんの化粧品は出番を無くしたみてぇだぜ。
 
 「ねぇ、トキさんは独り身よね?」
 「はぁ……っ?!」
 
 庭師と話し合ってどんな芝を敷いて花を植えるか決めるんだと張り切っていた不憫なキースのことを考えていたが、一気にぶっ飛んだ。
 
 「おめぇまさか……!」
  
 ああ、キースよ!すまねぇ……!
 俺がふたりを会わせちまったばっかりに…!
 
 「ジル兄さんにぴったりの人じゃないの!ねぇ、好い人なんでしょ?!」

 「──って、あぁ?!」
 
 「え?」
 



 まさかと思ったが、サンドラはトキを女だと勘違いしていた。




 「うそ…だって…」
 「なんでい驚かせやがって!トキは背もたけぇし声も男だったろうがよ……!」
 
 胸だってペタンコだ。
 
 「そう言われれば……そうだけど…えー。だって兄さんが…」
 
 薬師は男が多いが、女だって当然いる。ただどっちも伸ばした髪を結っていて、常に身体の線が見えねえ格好でいるもんでジジイなのかババアなのかわかんねぇってのはよくあることだ。

 それにしたってトキを女だと思っていたとはな。
 
 「俺がなんだってんだ、まったくよぉ」
 「ジル兄さんが名前で呼ばせてたじゃない!それにデレデレと鼻の下までのばして!そんなの見たことなかったんだもの!勘違いするわよ!」
 「はぁあ?」
 
 この田舎に限ったことだが、男の名前は恋人でもない限り愛称呼びが普通だ。でもそれは生まれも育ちもこのアーネシアのやつらの間だけで、余所から来た人間が多くなってきた今ではあってないようなもんだ。

 俺は外に出ないんでほとんどアーネシアにしか知人はいない。それにそん中でも俺をそう呼ぶ相手が居なかったのも確かだ。だからってそれだけでトキをまさか俺の連れてきた女だと勘違いするか?思い込みの力ってのはすげぇな。
 
 「トキさんを見るときの顔を鏡で見てみなさいな!あら……ならジル兄さんったら本当にそっちだったのね…」
 
 通りで結婚しないはずよ、とぶつぶつ呟いている。俺のドキマギとした反応でさらに勘違いして野郎専門だと認定してくるサンドラ。

 まぁ男に熱をあげたことはあるもんで、あまり否定できない。相手も相手だったし、クソのエリックの相手も男。しかも同じ相手。
 

 知らなくていい妹には黙っておく。

 
 「……トキに変なこと言うなよ」

 何を言っても無駄だろう。ただ広めてくれるなよと釘をさした。

 「まだうまくいってないのね……でも私たち家族にまで紹介してるんだから、きっと大丈夫よジル兄さん…!」

 

 はぁ。これでしつこく結婚しろと言ってこなくなると思えば、勘違いさせとくのもいいかもしれん。
 






──────····



 
 
 「ってなことでよ、もしサンドラが変なこと言っても流しといてくれ」
 「は、い」
 
 本人に黙っとくのもあれなんで『サンドラがトキを女だと思い込んで、俺が嫁の顔見せに連れてきたと勘違いしていた』と先に説明しておく。トキには悪いが、俺の好い人だと思わせておけばいつでも飯を食わせてくれるだろう。それで許してやってくれ。
 
 「こんなジジイの嫁さんたぁ、トキも災難だなあ」
 
 変な空気にならないようにそう笑ったが、トキは薬袋を折りながら「いいえ」と小さく言った。
 
 「ジルドさんのお嫁さんは、幸せです」
 
 俺は頭を掻く体勢から動けなくなり、トキは必要ないくらいの薬袋を折り続けた。
 

 どうやって帰ってきたか記憶は曖昧だが、混乱が落ち着くと今度はふつふつと何ていったらいいのかわからん感情が腹から沸いてきやがった。
 
 「まいったな」
 
 男はレンだけ特別なんだと思っていたが、元からどっちでも良かったのかもしれねぇ。
 
 俺の贈った服を着たトキと一緒に妹の家で飯を食って、休日は山に入りあれこれ教えられながら草を集める。雑草だと思っていたもんに名前が付き、こういう世界の広がり方もあるんだなと感心する。純粋に楽しかった。

 ガキの頃から働きづめで、ろくに友人もいなかった俺にとっちゃあトキは年の離れたそういう相手という感覚でいた。そのはずだった。

 サンドラにそう思われている意味がわからねえ。
 俺の態度がそんなに違うってえのか?
 
 うううん、と無い頭で考えながらひたすら働いて体力を削り、疲れ果てて寝るを繰り返した。




 だがある日
 
 「ようテル兄、嫁さんから大荷物来たぞ。こりゃ割れ物だから中に運ぶかあ?」
 「あんがとな!すぐ使うからそこに置いとけ!それよかジル坊、今日は連れが一緒じゃねぇのか?」
 「あぁ?俺ぁ仕事中だってぇのに何言ってんだ、ばーさんより先にボケたんじゃねぇのか」
 「こないだは仕事中に連れ回ってたって聞いたぜ?はやくうちにも連れてこい!」
 
 そのまた次の日も

 「クレアねぇさん、ジョシュから小包だぜ。あいつは何歳になったんだ?しばらく見てねぇな」
 「あらジル、お疲れさん。ジョシュはもう二十四よ、そりゃアンタもアタシも老けるはずよねぇ!そういえば一人なの?よく熟れたモモがあるから薬師の先生にもってってやんな!積んどくからね!」
 「おぉ、おい、なんだってんだよ……」

 そのまた翌週も
 
 「オヤジ、豚三本くれい」
 「三本だとぉ?なんでいみみっちいな!おまけで先生のぶんもつけといたらぁ!」
 「……お、おう」
 
 俺と薬師が一緒に居るのが当然かのように、みんなにこうやってつつかれている。
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