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第十一話①
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私──咲良花奈──はお母さんとお姉ちゃんが出かけるのを見送り、玄関に鍵をかけると、そのまま部屋に引きこもり、布団にもぐりこんだ。
日曜日、お母さんもお姉ちゃんもいない。お母さんは仕事で、お姉ちゃんはアルバイト。二人がいないのはさびしいと思うけれど、一人で布団にくるまって、じっとしているのは気楽だった。何も考えずにいられるから。
昨日もおとといも、十分に寝たはずだけれど、まだ眠いような、頭がぼんやりとして、熱っぽい気だるさがあった。最近はいつも眠い。
このままずっと眠っていたい。次に目覚めた時、世界が終わってしまっていたらいいのに。
ただ眠ると、それだけ明日が近づいてしまう。明日──月曜日になれば、エリザちゃんが迎えに来る。
エリザちゃんに、休みの日に呼び出されること、連れ出されることはあまりない。それだけが救いだった。ただ学校のある日は、彼女に好き放題される。
私がどれだけ嫌がっても、泣いても、拒んでも、私の心を踏みにじり、私の体をもてあそぶエリザちゃん。
エリザちゃんが私にすることは痛くて、苦しくて、体だけじゃなく、心まで引き裂かれそうになる。
彼女が私にすること──キスをしたり、胸や股の間を触ったり舐めたり、そして私にも同じことをさせる。
どうしてそんなことをするのか、エリザちゃんが何を考えているのか分からない。
エリザちゃんは私のことを好きだと言う。エリザちゃんの中では私たちは付き合っていて、恋人同士ということになっている。
好きだから、そんなことをする、させる。理解できない。信じられない。それが愛だなんて、私には理解できないし、信じられない。
けれど憎しみや悪意を、彼女から感じられなかった。それが余計に怖かった。
エリザちゃんは私や加藤さんにしたことに対して、少しも罪悪感を感じていないようだった。
それは蝶の羽をもぎ、蟻を踏み潰す、子供の無邪気な残虐さのように思えた。
きっとエリザちゃんは、私を支配して、従わせるのが楽しいのだろう。私も砂村さんや姫山さんみたいに従順にふるまっていれば、これ以上ひどいことはされないはず。私がどこまでも従順にふるまえば、もしかしたら私への興味をなくして、飽きてくれるはず。それに中学校を卒業すれば、エリザちゃんから解放される。
それよりも早く、一日でも早く、エリザちゃんが死んでしまえばいいのに。エリザちゃんが生きているだけで、私の心は暗くなり、嫌な気持ちになる。お腹の中にどす黒い、粘ついた塊があって、そこから毒が滲み出て、私を蝕んでいくようだった。毒は焼けるように冷たくて、指先まで痛みの根を張っていく。
真っ黒に染め上げられた時、私はどうなるのだろうか。
未来が怖くて私の体が震えた。
私は明日を拒むように布団の中で丸くなって、目をつぶらず、薄暗い部屋の中を、ただぼんやりと見ていた。
不意にインターフォンが鳴った。まるで銃声でも聞いたように、私の心臓が激しく脈打った。心臓が痛い。
もう一度、鳴った。宅配便だろうか。お母さんもお姉ちゃんも、あまり買い物をすることはないけれど。もしかしたらお母さんかお姉ちゃんが、家の鍵を忘れて取りに帰ってきたのかもしれない。それなら電話して教えてくれたらいいのに。
私は布団を出て、玄関に向かう。
またインターフォンが鳴った。軽くドアをノックする音も聞こえた。小さく、トントンと。重たい金属のドアを、手を痛めないように叩いているようだった。
いくつも不吉な符号が浮かび上がって、下腹部がしめつけられ、おしっこが漏れそうな気がした。
ドア越しに声が漏れ聞こえた。
「ハナちゃん、いる?」
少女の声──エリザちゃんの声だった。私は立ち止まり、息をこらえた。私の存在をこの世界から隠そうとした。
「ハナちゃん、遊ぼう」
エリザちゃんの声は楽しげだった。彼女は心の底から遊びに誘っているだけなのだろう。その遊びが普通のことじゃなくても、彼女にとっては普通のことなのだろう。
私は、このまま居留守を使えば、そう思ったけれど、次に会う時、それこそ明日にでも、そのことをどう責められるか分からない。
私は心が死んで暗く静かになっていくのを感じた。私じゃない私になって、玄関を開けた。
そこにはエリザちゃんと砂村さんがいた。お昼前の日差しの中で、白くまぶしく、色彩のないモノクロに見えた。
「ハナちゃん、おはよう」
「おはよう……」
エリザちゃんは琥珀色の瞳を細めて、嬉しそうに笑っていた。
「ダリアちゃんの家で遊んでるんだけど、ハナちゃんも一緒に来ない?」
「うん……」
拒んだらどうなるのだろうか。どんなひどいことをされるのだろうか。いっそ私のことなんて殺してくれたらいいのに。
* * *
私は二人に連れられて、砂村さんの家に行く。
エリザちゃんが手をつないでくる。彼女は楽しげだった。エリザちゃんの手は冷たい。今の私よりも冷たい。エリザちゃんには心なんてないから、温度がないのかもしれない。いつか私も彼女と同じように、誰かのことを思いやることも、何かを感じる心もなくなるのだろうか。
砂村さんの部屋に着くと、異様な光景が目に飛び込んできた。
ベッドに横たわる、下着姿の女の人と、その人の足元に姫山さんがいた。女の人は手足を紐でベッドに拘束されているようだった。姫山さんは私たちに気づいて彼女から離れる。何をしていたのか、手を股の間に入れていたことから、おおよそのことは分かった。
それよりも彼女は誰──そう思うと同時に、すぐに分かった。私はそれを信じたくなかったけれど、無意識に口からその人を呼んでしまった。彼女にそれを否定してほしかった。
「おねえ、ちゃん……?」
お姉ちゃんのはずがない。お姉ちゃんがこんなところにいて、こんなことしているはずがない。
彼女が私たちの方を見た。世界がぐるりと歪んで溶けたような気がした。
見間違えるはずない。そこにいたのはお姉ちゃんだった。
「ハナちゃんには、言わないって……」
「言ってないよ。一緒に遊ぼうって誘っただけ」
「なんで、どうして……? ひどい、こんなの……」
お姉ちゃんは私には答えないで、泣きそうな顔で、怯えた目でエリザちゃんを見ていた。
「お姉ちゃん、なんで……?」
どうしてお姉ちゃんがこんなところにいて、こんなことをしているの。いつから、エリザちゃんはお姉ちゃんにも。どうして私は今まで気づけなかったのだろう。
頭が痛かった。めまいがした。このまま泣き叫んでうずくまってしまいたかった。悪夢が覚めないのなら、このまま二度と目覚めないで、死んでしまいたかった。
「違うの! ハナちゃん、これは……!」
不意にエリザちゃんが私の肩に手を置いた。
私は心臓が止まるかと思った。
いったいエリザちゃんは今どんな顔をしているのだろうか。いつもと変わらない微笑みを浮かべているのだろうか。
お姉ちゃんにまでこんなことをして許せない。誰かこの悪魔を殺してほしかった。エリザちゃんは生きているだけで、こんなにも痛みと苦しみを撒き散らす。
けれど私は怖くてエリザちゃんを見ることも、逆らうこともできなかった。
私はどうなってもいいから、お姉ちゃんのことだけは助けてほしい。
そう口にしようとしても、目の前のことを理解できなくて、私は息を吸って吐くこともできなくなっていた。
その私を、エリザちゃんはお姉ちゃんの方へと押す。私は今自分で立っていることも難しかった。エリザちゃんに押されて、足が転ばないように勝手に前に出て、それで歩いていた。
「お姉ちゃんは今、バイト中なの」
「どういう、こと……?」
エリザちゃんがいつもの訳の分からないことを言った。
「これがお姉ちゃんのしているアルバイトだよ」
「え……?」
「お姉ちゃんはね、ハナちゃんやママのために、体を売ってお金を稼いでいるの」
「そんな……」
お金のために、エリザちゃんとこんなことをしているのだろうか。私なんかがいるせいで。
「ハナちゃんもお姉ちゃんのお手伝いをしてあげて」
私はエリザちゃんに、ベッドに拘束されたお姉ちゃんの足元に立たされた。
お姉ちゃんは黒いレースの下着を着ていた。どうしてそんなものを着ているのか、胸と股の間に隙間が開いていて、大事な部分が剥き出しになっていた。
お姉ちゃんは必死に隠そうとしていたけれど、手足の関節を曲げるのが精一杯で、隠すことができていなかった。私は目をそらした方がいいのだろうか。どうしたらいいのだろうか。ぼんやりとその異様な姿を見ていた。
私は目の前の光景が信じられなくて、信じたくなくて、透明な膜に隔てられたような、ガラス越しに世界を見ているような、自分ではどうすることもできないすでに起こってしまったことを動画で見せられているような気分になった。
お姉ちゃんは泣いていた。怒っていた。怯えていた。手足の拘束を解いて、一緒に逃げよう──なんて思えたらよかったのに。私はこの世界のどこにも逃げ場なんてないように思えて、どうすることもできなかった。
エリザちゃんが私の肩に手を置いたまま、耳元で言う。
「ハナちゃん、お姉ちゃんのこと、気持ちよくしてあげて」
「え……?」
「お姉ちゃんのあそこ、濡れているでしょ? 自分で慰めることもできなくて、かわいそう。ハナちゃんが慰めてあげて」
お姉ちゃんのあそこは、私やエリザちゃんの未成熟なのとは違って、シャープがかった輪郭をしていて、大人の形だった。それがぱっくりと割れて、痛々しく赤く充血した内臓をのぞかせ、その穴の奥から漏れ出した体液に濡れていた。
「できない……そんなこと……」
「ハナちゃんがしないのなら、私がするけど? ただその場合、お姉ちゃんにひどいこと、痛いことをするかもね」
「だ、ダメ!」
自分の声なのに、耳が割れるかと思った。エリザちゃんも少し驚いた顔をしていた。
「そう。なら、ハナちゃんが、口でしてあげて」
「わかった……」
すぐにエリザちゃんはいつものように微笑んでいた。
私はお姉ちゃんに向き直る。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……ごめんなさい……」
私のせいでこんなことに巻き込んでしまって。早く終わらせて、エリザちゃんに、もう二度とお姉ちゃんにこんなことをしないようお願いしよう。いったいどんなことを求められるのか分からないけれど。
「ハナちゃん、どうして……?」
お姉ちゃんの体が震えていた。股を閉じることもできなくて、かわいそうだった。
私がお姉ちゃんを守る。もうこれ以上、エリザちゃんに、お姉ちゃんにひどいことはさせない。
私はベッドに乗り、お姉ちゃんの足の間にうずくまって、あそこに顔を近づける。
「ダメ! ハナちゃん、そんなことしちゃダメ!」
お姉ちゃんが叫んでいた。
私はお姉ちゃんのあそこに口づけをした。
涙が、私の頬をこぼれた。
悲しいけれど、私はお姉ちゃんのことが、心の底から愛おしいと思った。
初めて、キスをして、心の中に温かいものを感じた。
日曜日、お母さんもお姉ちゃんもいない。お母さんは仕事で、お姉ちゃんはアルバイト。二人がいないのはさびしいと思うけれど、一人で布団にくるまって、じっとしているのは気楽だった。何も考えずにいられるから。
昨日もおとといも、十分に寝たはずだけれど、まだ眠いような、頭がぼんやりとして、熱っぽい気だるさがあった。最近はいつも眠い。
このままずっと眠っていたい。次に目覚めた時、世界が終わってしまっていたらいいのに。
ただ眠ると、それだけ明日が近づいてしまう。明日──月曜日になれば、エリザちゃんが迎えに来る。
エリザちゃんに、休みの日に呼び出されること、連れ出されることはあまりない。それだけが救いだった。ただ学校のある日は、彼女に好き放題される。
私がどれだけ嫌がっても、泣いても、拒んでも、私の心を踏みにじり、私の体をもてあそぶエリザちゃん。
エリザちゃんが私にすることは痛くて、苦しくて、体だけじゃなく、心まで引き裂かれそうになる。
彼女が私にすること──キスをしたり、胸や股の間を触ったり舐めたり、そして私にも同じことをさせる。
どうしてそんなことをするのか、エリザちゃんが何を考えているのか分からない。
エリザちゃんは私のことを好きだと言う。エリザちゃんの中では私たちは付き合っていて、恋人同士ということになっている。
好きだから、そんなことをする、させる。理解できない。信じられない。それが愛だなんて、私には理解できないし、信じられない。
けれど憎しみや悪意を、彼女から感じられなかった。それが余計に怖かった。
エリザちゃんは私や加藤さんにしたことに対して、少しも罪悪感を感じていないようだった。
それは蝶の羽をもぎ、蟻を踏み潰す、子供の無邪気な残虐さのように思えた。
きっとエリザちゃんは、私を支配して、従わせるのが楽しいのだろう。私も砂村さんや姫山さんみたいに従順にふるまっていれば、これ以上ひどいことはされないはず。私がどこまでも従順にふるまえば、もしかしたら私への興味をなくして、飽きてくれるはず。それに中学校を卒業すれば、エリザちゃんから解放される。
それよりも早く、一日でも早く、エリザちゃんが死んでしまえばいいのに。エリザちゃんが生きているだけで、私の心は暗くなり、嫌な気持ちになる。お腹の中にどす黒い、粘ついた塊があって、そこから毒が滲み出て、私を蝕んでいくようだった。毒は焼けるように冷たくて、指先まで痛みの根を張っていく。
真っ黒に染め上げられた時、私はどうなるのだろうか。
未来が怖くて私の体が震えた。
私は明日を拒むように布団の中で丸くなって、目をつぶらず、薄暗い部屋の中を、ただぼんやりと見ていた。
不意にインターフォンが鳴った。まるで銃声でも聞いたように、私の心臓が激しく脈打った。心臓が痛い。
もう一度、鳴った。宅配便だろうか。お母さんもお姉ちゃんも、あまり買い物をすることはないけれど。もしかしたらお母さんかお姉ちゃんが、家の鍵を忘れて取りに帰ってきたのかもしれない。それなら電話して教えてくれたらいいのに。
私は布団を出て、玄関に向かう。
またインターフォンが鳴った。軽くドアをノックする音も聞こえた。小さく、トントンと。重たい金属のドアを、手を痛めないように叩いているようだった。
いくつも不吉な符号が浮かび上がって、下腹部がしめつけられ、おしっこが漏れそうな気がした。
ドア越しに声が漏れ聞こえた。
「ハナちゃん、いる?」
少女の声──エリザちゃんの声だった。私は立ち止まり、息をこらえた。私の存在をこの世界から隠そうとした。
「ハナちゃん、遊ぼう」
エリザちゃんの声は楽しげだった。彼女は心の底から遊びに誘っているだけなのだろう。その遊びが普通のことじゃなくても、彼女にとっては普通のことなのだろう。
私は、このまま居留守を使えば、そう思ったけれど、次に会う時、それこそ明日にでも、そのことをどう責められるか分からない。
私は心が死んで暗く静かになっていくのを感じた。私じゃない私になって、玄関を開けた。
そこにはエリザちゃんと砂村さんがいた。お昼前の日差しの中で、白くまぶしく、色彩のないモノクロに見えた。
「ハナちゃん、おはよう」
「おはよう……」
エリザちゃんは琥珀色の瞳を細めて、嬉しそうに笑っていた。
「ダリアちゃんの家で遊んでるんだけど、ハナちゃんも一緒に来ない?」
「うん……」
拒んだらどうなるのだろうか。どんなひどいことをされるのだろうか。いっそ私のことなんて殺してくれたらいいのに。
* * *
私は二人に連れられて、砂村さんの家に行く。
エリザちゃんが手をつないでくる。彼女は楽しげだった。エリザちゃんの手は冷たい。今の私よりも冷たい。エリザちゃんには心なんてないから、温度がないのかもしれない。いつか私も彼女と同じように、誰かのことを思いやることも、何かを感じる心もなくなるのだろうか。
砂村さんの部屋に着くと、異様な光景が目に飛び込んできた。
ベッドに横たわる、下着姿の女の人と、その人の足元に姫山さんがいた。女の人は手足を紐でベッドに拘束されているようだった。姫山さんは私たちに気づいて彼女から離れる。何をしていたのか、手を股の間に入れていたことから、おおよそのことは分かった。
それよりも彼女は誰──そう思うと同時に、すぐに分かった。私はそれを信じたくなかったけれど、無意識に口からその人を呼んでしまった。彼女にそれを否定してほしかった。
「おねえ、ちゃん……?」
お姉ちゃんのはずがない。お姉ちゃんがこんなところにいて、こんなことしているはずがない。
彼女が私たちの方を見た。世界がぐるりと歪んで溶けたような気がした。
見間違えるはずない。そこにいたのはお姉ちゃんだった。
「ハナちゃんには、言わないって……」
「言ってないよ。一緒に遊ぼうって誘っただけ」
「なんで、どうして……? ひどい、こんなの……」
お姉ちゃんは私には答えないで、泣きそうな顔で、怯えた目でエリザちゃんを見ていた。
「お姉ちゃん、なんで……?」
どうしてお姉ちゃんがこんなところにいて、こんなことをしているの。いつから、エリザちゃんはお姉ちゃんにも。どうして私は今まで気づけなかったのだろう。
頭が痛かった。めまいがした。このまま泣き叫んでうずくまってしまいたかった。悪夢が覚めないのなら、このまま二度と目覚めないで、死んでしまいたかった。
「違うの! ハナちゃん、これは……!」
不意にエリザちゃんが私の肩に手を置いた。
私は心臓が止まるかと思った。
いったいエリザちゃんは今どんな顔をしているのだろうか。いつもと変わらない微笑みを浮かべているのだろうか。
お姉ちゃんにまでこんなことをして許せない。誰かこの悪魔を殺してほしかった。エリザちゃんは生きているだけで、こんなにも痛みと苦しみを撒き散らす。
けれど私は怖くてエリザちゃんを見ることも、逆らうこともできなかった。
私はどうなってもいいから、お姉ちゃんのことだけは助けてほしい。
そう口にしようとしても、目の前のことを理解できなくて、私は息を吸って吐くこともできなくなっていた。
その私を、エリザちゃんはお姉ちゃんの方へと押す。私は今自分で立っていることも難しかった。エリザちゃんに押されて、足が転ばないように勝手に前に出て、それで歩いていた。
「お姉ちゃんは今、バイト中なの」
「どういう、こと……?」
エリザちゃんがいつもの訳の分からないことを言った。
「これがお姉ちゃんのしているアルバイトだよ」
「え……?」
「お姉ちゃんはね、ハナちゃんやママのために、体を売ってお金を稼いでいるの」
「そんな……」
お金のために、エリザちゃんとこんなことをしているのだろうか。私なんかがいるせいで。
「ハナちゃんもお姉ちゃんのお手伝いをしてあげて」
私はエリザちゃんに、ベッドに拘束されたお姉ちゃんの足元に立たされた。
お姉ちゃんは黒いレースの下着を着ていた。どうしてそんなものを着ているのか、胸と股の間に隙間が開いていて、大事な部分が剥き出しになっていた。
お姉ちゃんは必死に隠そうとしていたけれど、手足の関節を曲げるのが精一杯で、隠すことができていなかった。私は目をそらした方がいいのだろうか。どうしたらいいのだろうか。ぼんやりとその異様な姿を見ていた。
私は目の前の光景が信じられなくて、信じたくなくて、透明な膜に隔てられたような、ガラス越しに世界を見ているような、自分ではどうすることもできないすでに起こってしまったことを動画で見せられているような気分になった。
お姉ちゃんは泣いていた。怒っていた。怯えていた。手足の拘束を解いて、一緒に逃げよう──なんて思えたらよかったのに。私はこの世界のどこにも逃げ場なんてないように思えて、どうすることもできなかった。
エリザちゃんが私の肩に手を置いたまま、耳元で言う。
「ハナちゃん、お姉ちゃんのこと、気持ちよくしてあげて」
「え……?」
「お姉ちゃんのあそこ、濡れているでしょ? 自分で慰めることもできなくて、かわいそう。ハナちゃんが慰めてあげて」
お姉ちゃんのあそこは、私やエリザちゃんの未成熟なのとは違って、シャープがかった輪郭をしていて、大人の形だった。それがぱっくりと割れて、痛々しく赤く充血した内臓をのぞかせ、その穴の奥から漏れ出した体液に濡れていた。
「できない……そんなこと……」
「ハナちゃんがしないのなら、私がするけど? ただその場合、お姉ちゃんにひどいこと、痛いことをするかもね」
「だ、ダメ!」
自分の声なのに、耳が割れるかと思った。エリザちゃんも少し驚いた顔をしていた。
「そう。なら、ハナちゃんが、口でしてあげて」
「わかった……」
すぐにエリザちゃんはいつものように微笑んでいた。
私はお姉ちゃんに向き直る。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……ごめんなさい……」
私のせいでこんなことに巻き込んでしまって。早く終わらせて、エリザちゃんに、もう二度とお姉ちゃんにこんなことをしないようお願いしよう。いったいどんなことを求められるのか分からないけれど。
「ハナちゃん、どうして……?」
お姉ちゃんの体が震えていた。股を閉じることもできなくて、かわいそうだった。
私がお姉ちゃんを守る。もうこれ以上、エリザちゃんに、お姉ちゃんにひどいことはさせない。
私はベッドに乗り、お姉ちゃんの足の間にうずくまって、あそこに顔を近づける。
「ダメ! ハナちゃん、そんなことしちゃダメ!」
お姉ちゃんが叫んでいた。
私はお姉ちゃんのあそこに口づけをした。
涙が、私の頬をこぼれた。
悲しいけれど、私はお姉ちゃんのことが、心の底から愛おしいと思った。
初めて、キスをして、心の中に温かいものを感じた。
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