私を支配するあの子

葛原そしお

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第八話⑤

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 別の日──私が休みの日、エリザちゃんはいつものように一人で来た。
 半袖のブラウスから、白く細い腕がのぞいていた。
「暑くなってきたね。何か飲む?」
「ありがとうございます。なんでもいいですよ」
 私は少しでも時間を稼ごうと、軽い雑談をふったり、気を紛らわせようとした。けれどエリザちゃんはそんな私の心を見透かすように微笑んでいた。
「私、ママにオムツをかえてもらったことないんです」
 そう言うとエリザちゃんはおもむろにスカートをまくった。その下には紙オムツを履いていた。
「今日はオムツをかえてください」
 私はめまいがした。エリザちゃんは、彼女のお母さんから注がれなかった分の愛情を、こういった行為から取り戻そうとしているのだろう。
 しかし──
「狂ってる……」
 思わずそう漏らしてしまった。それにエリザちゃんは無言で笑っていた。
 彼女が私に母親役を求めていることは分かっていたけれど──母乳を求めたり、一緒にお風呂に入ることが普通のこととは思えないけれど──こんなことまで私にさせるのは狂気さえ感じた。
 私が受け入れる前に、エリザちゃんは私の部屋に向かう。私はどうやって拒もうか、彼女を説得しようか考えながら、そのあとに続いた。
 部屋に入ると、エリザちゃんはスカートを脱いで、わざわざブラウスまで脱ぐ。オムツを替えるだけなら上まで脱ぐ必要はないのに。
 エリザちゃんはオムツだけを残して裸になった。彼女は背が低く、手足は細くて、胸も薄い。まだ小学生ぐらいに見えるけれど、それでもオムツを履いているのは違和感があった。
「替えのオムツとお尻拭きはこれです。ゴミ袋には、そのレジ袋を使ってください」
 エリザちゃんは鞄の中から、替えのオムツとウェットティッシュの入ったレジ袋を取り出し、私に渡す。
「あのね、エリザちゃん。さすがにこれは──」
 いまさらだけれど、私はエリザちゃんを止めようとした。
 けれどエリザちゃんは私の言葉など聞こえないようで、無視して一方的に続ける。
 エリザちゃんは私の布団の上に仰向けになる。
「それじゃ、ママ。オムツかえて」
 わざわざ赤ちゃんのように両手を胸の前にあげて、足を曲げて股を開く。しかし彼女は赤ちゃんと呼ぶには禍々しいほど大人だった。
「ママ、早く──それとも泣いたり、ダダこねた方がいい?」
 娘と同じ年齢の子にそんなことをされても困るので、私は諦めて、エリザちゃんの脚の間に座る。エリザちゃんの履いているオムツはテープタイプだった。
「腰上げて。新しいオムツ、下に敷くから」
「あ、そういうふうにかえるんだ」
 私はエリザちゃんのお尻の下に、新しいオムツを敷いた。
 次に私は彼女のオムツのウエストのテープを外す。
 オムツを開くと、丁寧におしっこまでしてあった。こんなものを彼女は一日中履いていたのだろうか。それとも私を困らせるためだけに、学校がおわってから履き替えて、わざとおしっこしてきたのだろうか。
 私はエリザちゃんの方を見ると、彼女は私を見て微笑んでいた。いくら母親役でも、こんなところを人に見られて、中学生にもなって恥ずかしくないのだろうか。
 そして次にすること、それは分かっているけれど、私はどうしても抵抗があった。ためらっていると、エリザちゃんが急かしてくる。
「ママ、寒いから早く」
 勝手に彼女が裸になって、私にこんなことをさせているのにわがままだった。
 私はウェットティッシュを取り出して、エリザちゃんの股を、まだ熟れていない桃の果実のようなそこの、その割れ目からお尻にかけて拭く。
「んふふ」
 エリザちゃんがくすぐったそうに笑った。
 私は早くおわらせたいので、そのウェットティッシュと古いオムツをレジ袋の中に捨てる。新しいオムツを折り返そうとすると、エリザちゃんに止められる。
「ママ、ちゃんと拭いて」
「え?」
「内側も、ちゃんと拭いて。むずむずする」
 割れ目の中もしっかり拭かないといけないのは分かっている。しかしそれは自分で拭けない赤ちゃんの話だ。
 エリザちゃんは自分で歩いてトイレにも行けるし、もう十三歳になるはず。
「ママ、早く」
「でも、それは……」
「はーやーく」
 わざとかは分からないけれど、エリザちゃんは声を苛立たせ、その理不尽さは本当の赤ちゃんのようだった。
 私は抵抗があったけれど、やらなければエリザちゃんは納得してくれない。これ以上に見苦しいことを始めるかもしれない。
 私は娘の友達の、股の割れ目を拭く。縦に割れた、その剥き出しの肉の裂け目を、冷たく濡れたウェットティッシュで、なぞるように拭いた。
「あっ、んっ……ふっ……」
 エリザちゃんは逃げるように腰をくねらせていた。
「じっとして……」
 早くおわらせたい。
「ふふ、くすぐったい」
 丁寧に、二度、三度、割れ目の中をなぞる。少し彼女の呼吸が早くなっていることが、上下する胸の動きから感じられた。
 もう十分だろう。私はオムツを折り返す。今度は、エリザちゃんは私を止めたりしなかった。
 私は彼女に、これで満足してほしい、そう祈りながらテープを留めた。これでようやくおわった。
「ママ、ありがとう」
 エリザちゃんは新しいオムツに喜んでいるようだった。
「はい、おわり……もういいでしょ? 早く着替えて」
「はーい」
 エリザちゃんは脱いだ服を着る。さすがに着替えまで手伝わされなかった。
「ママにオムツかえてもらった。嬉しい」
 軽やかな調子で彼女は言った。
「次はどんなことをしてもらおうかな」
 エリザちゃんはまだこんなことを続けるつもりのようだった。
 私がこんなことをしているのは、エリザちゃんにハナちゃんのことを黙っていてもらい、その間に彼女に説得してもらうため。このままこんなことを続けるのは堪えられない。
「ねぇ、ナスミちゃんのことは、どうなったの?」
「ああ。仲直りして、今日は私の友達と四人で遊んでますよ」
 私がずっと気にかけていたのに、エリザちゃんはなんでもないことのように言った。本当に仲直りできたのか信じられないけれど、彼女の友達も一緒なら安心だろうか。
「それなら、もうこんなことしなくても……」
「ハナちゃんのいじめを黙っていて、二人が仲直りするの、協力してあげたんですよ。それなのに何もご褒美ないんですか?」
 エリザちゃんの顔から微笑みが消えた。睨むように、目を細めて、その色素の薄い瞳で私を見ていた。
「それにお母さん、わかってます? 未成年にこんなことして。これって犯罪になるんじゃないですか?」
「だってそれは、エリザちゃんがしてって……」
「私は警察に、無理矢理させられたって言います。もし言うこと聞かなかったら、ハナちゃんと二度と遊ばせないって、脅されたって」
「私、そんなこと一言も……」
「だったら試してみますか? 娘の友達に頼まれて、赤ちゃんごっこをしていただけって。そんなの誰が信じますかね? 未成年への性的暴行で、お母さん、警察に逮捕されますよ」
 エリザちゃんが強引でめちゃくちゃなことを言っていることは分かっている。
 しかし私は自分がしたことが、どれだけ社会に許されないことか理解した。
 私のさせられたこと、その行為の異常性は分かっていたけれど、エリザちゃんの要求に応えているだけ、そう思っていた。しかしどんな理由があっても、未成年にこんなことをして、私は無実で済むとは思えなかった。
「そうなったらハナちゃんとお姉さん、どうなっちゃうんでしょうね。お母さんがいなくなって、どこかの施設で保護されるのかな。母親が犯罪者で、いじめられたりするかも。私も二人に会えなくなるなんて、そんなの悲しい。だけどお母さんが、私のママなら、これは犯罪じゃないですよね? だって親子なんだから、おっぱいを吸うのも、一緒にお風呂に入るのも、オムツをかえるのも、普通のことですよね?」
 そう言ってエリザちゃんは、服の上から私の胸を掴んだ。痛いぐらいに彼女の指が食い込んだ。
「そうでしょ? ねぇ、ママ」
 エリザちゃんはにっこりと笑う。
 私はもうどうしたらいいか分からなくて、不意に涙がこぼれた。
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