私を支配するあの子

葛原そしお

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第五話③

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 放課後、私はエリザちゃんと手をつないで、いつものように家に帰る。
 手をつなぐだけで鳥肌が立った。
 その手が、指が、私を傷つけ、痛みを残した。その痛みが私から何かを奪った痕ということは、それが何かは分からないけど分かっていた。
 それがエリザちゃんのいう恋人の証なら、私はこの先、誰とも愛し合うかとができないのかもしれない。
 私が誰かを好きになること、誰かが私を好きになること、想像もつかない、したこともなかったけれど。それがエリザちゃんではないことは確かだ。
 私はエリザちゃんが怖い。嫌い。
 どうして友達のままでいられなかったの。どうして私を騙し続けてくれなかったの。
 それなのに平然としている、私と手をつなぐエリザちゃんが、私は大嫌いだ。
 今日、その私たちの後ろを、砂村さんと姫山さんがついてきていた。
 意外だったのは、エリザちゃんが姫山さん──姫山鞠依を仲良し三人組の一人に数えたこと。砂村さんのことを親友と呼んでいたのは知っていた。もしかしたら最初に姫山さんがブタにされたのも、私と同じような理由だったのかもしれない。
「コンビニ寄ってこう」
 不意にエリザちゃんが言った。
 それに砂村さんが同意する。
「そうね。飲み物とお菓子買いたいわ」
「ハナちゃんは何かほしいものある? 私が買ってあげるよ」
「え──」
 私は嫌な予感がした。
 エリザちゃんの家がどこかは知らない。砂村さんや姫山さんの家も。ただ二人の口ぶりから、このまま一緒に遊ぶつもりなのが分かった。
 もし砂村さんと姫山さんの二人が一緒なら、エリザちゃんに変なことをされないだろうか。そうとは限らない。むしろ気にしないか、もっとひどいことをされるかもしれない。昨日私がエリザちゃんに襲われた時、この二人もそばにいた。それ以上に彼女に協力した。
 私は体中が冷たくなるのを感じた。つないだ手に、嫌な汗をかいているのが分かった。
 コンビニに入ると、エリザちゃんはぴったりと私の腕に抱きついてくる。彼女は楽しげな様子だった。
「ハナちゃん、どれにする? 二人で交換しよう」
 飲み物を選ぶだけで、彼女ははしゃいでいた。
「ハナちゃんのうちで飲む麦茶おいしいよね。でもせっかくだからお茶以外のにする? イチゴ牛乳とか美味しそう。ハナちゃん、甘いもの好き? 私は甘いのも甘くないのも平気だよ。ハナちゃんの好きな物を教えて」
 エリザちゃんは優しくて気がきく、そう思っていた。ただその優しさも、気づかいも、今では演技めいた異質なものに思えた。
 私が答えなくても、エリザちゃんは楽しそうに、一方的に続ける。
「夕方にはお姉さんも帰ってくるし、そのあと夕飯だよね。お腹空いてないともったいないから、お菓子は軽めの方がいいか。そしたらあんまり甘い物だと、あとで困るよね。それなら甘くない紅茶かコーヒーの方がいいかな。私たちはお菓子食べなくてもいいよね。お姉さん、今日は何を作ってくれるのかな? ハナちゃんは聞いてる? それに合わせてお姉さんやお母さんの分も、何か買っていってあげようか。いつもお邪魔してるから、私も二人に喜んでもらいたいな。お姉さんは何が好きなの? お母さんはケーキとか甘い物好き? ゼリーとかプリンの方が喜んでくれるかな?」
 来ないでほしい。嫌だ。そう思っても、私は口に出すことができなかった。
「もういい加減、早く決めてよ」
 砂村さんが痺れを切らしたように言う。
「ごめんごめん」
 エリザちゃんは悪びれた様子もなく笑っていた。
 砂村さんは買い物カゴにミルクティーと、パンケーキのようなお菓子をいくつか。姫山さんは炭酸飲料とポテトチップスを手に持っていた。
「映画でも見るつもり?」
 砂村さんが呆れたように姫山さんに言った。
「あるの?」
 姫山さんの疑問に、エリザちゃんが答えた。
「ハナちゃんの家にテレビはないよ」
「そう」
 姫山さんは気にした様子もなく、選んだ商品をそのまま砂村さんのカゴに入れた。
 私はこの三人が家に来ることを確信した。吐き気がした。
 結局エリザちゃんは、彼女が好きなイチゴ牛乳と、私たち家族用にオレンジジュース、それと適当に見繕った菓子類。お姉ちゃんがチョコ好きだと教えたら、違う種類の袋をいくつも砂村さんのカゴに入れた。
「ちょっと! 重たいじゃない! 会計は一緒にするけど、自分のは自分で持ってよ!」
「うん。私たちの分も袋をつけてね」
 砂村さんは呆れた様子でため息をもらす。
 あの砂村さんがエリザちゃんに口答えはしても従っている。私はそのことが怖くて仕方なかった。もしかしたらエリザちゃんは、私や姫山さんにしたように、砂村さんにも何かしたのかもしれない。
「全部食べちゃダメだよ。夕飯食べられなくなっちゃうから。それにお姉さんとお母さんの分もあるからね」
 エリザちゃんが冗談めかして笑った。私はとても笑える気分ではなかった。
 そもそも言われなくても、そんなにたくさんは食べられないし、お菓子を独り占めするほど好きでもない。美味しいものは私より先に、お母さんやお姉ちゃんに食べてもらいたかった。
「買いすぎちゃったな。二人で持とう」
 砂村さんが会計を済ませたコンビニの袋の取っ手を、私たちは片方ずつ持った。そのおかげでエリザちゃんの手から解放された。
 エリザちゃんは別に私の手をずっと握っていたいわけではないようだった。この状態でも楽しそうにしていた。
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