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第五話①
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翌日、いつものようにエリザちゃんが私のことを迎えに来た。
「おはようございます」
「おはよう、エリザちゃん」
怪我をしている私の代わりに、お姉ちゃんがエリザちゃんを出迎える。
「おはよう、ハナちゃん」
エリザちゃんが微笑む。私は喉が引きつって声が出なかった。
私は彼女のことが怖かった。ただ彼女は、昨日あれだけのことをしたのに、何事もなかったかのようだった。昨日のことは何かの悪夢だったのかもしれない。
ただ今でも残る私の中の痛みが、あれは夢なんかじゃない、本当にあったことだと、うずくたびに私に教えているようだった。
「昨日はありがとうね」
「いいえ。お役に立てて嬉しかったです」
私はあのあと、エリザちゃんたちに送られて家に帰った。
先に帰っていたお姉ちゃんが私たちを出迎えてくれた。お姉ちゃんにはエリザちゃんから、私が階段から落ちて怪我したこと、彼女が送って帰ることを連絡してあった。
「エリザちゃん、ありがとう。送ってもらっちゃって」
「いいえ。いつものことですから」
「ハナちゃん、怪我は平気?」
「うん……」
私はお姉ちゃんの顔を見ることができなかった。私が本当は何をされたか、こんなこと話せるわけがない。もし私が誰かに話したら、あの砂村さんさえ怯える彼女が、いったい何をするか分からなくて怖かった。
それからお姉ちゃんが砂村さんと姫山さんに気づく。私の荷物は砂村さんが持ってくれていた。
「あなたたちも、ありがとう」
「いえ……」
「えっと、お名前は」
「ダリアちゃんとマリーちゃん。私の友達です。ハナちゃんと同じクラスだから、何かあったら彼女たちがいるので安心してください」
「二人ともありがとう。よかったね、ハナちゃん」
「うん……」
「それじゃ私たちは、もう遅いので帰りますね。ハナちゃん、また明日」
いつもどおりに笑うエリザちゃんと、砂村さんと姫山さんは帰っていった。私はそのまま怪我を理由に、夕飯も食べず、お風呂にも入らず、ベッドに潜り込んだ。お姉ちゃんやお母さんに聞こえないように、込み上げてくる涙と声を必死に堪えた。それが昨日の最後の記憶。
今朝、お姉ちゃんやお母さんより先に起きてシャワーを浴びた。
昨日のことなんてなくて、ただの悪夢であってほしい。思い出したくない、忘れたい、なかったことにしたい。そう思っても、私の体には階段から落ちた時の怪我と、エリザちゃんに刺された股の間に血の跡があった。血の跡は洗い流せたけれども、腕や胸、お腹にできた内出血の跡は消えなかった。このままずっと残ったら──別にいいか。
私を階段から突き落としたのはエリザちゃんだと思う。私が階段から落ちたあと、一日中探しても見つからなかった彼女が、偶然、あんなに都合よく現れたのはおかしい。階段の手前には防火戸がある。その影に隠れていれば、加藤さんを必死に追いかけていた私は、そこにエリザちゃんがいることに気づきもしないだろう。実際にそうだったのだから。きっとエリザちゃんは砂村さんを通して、加藤さんを使って私を誘い出したのだ。
何のため。私を傷つけるため。私のことが嫌いだからこんなことをするんだ。
だからといって、そこまでするのか、とは思わなかった。エリザちゃんはそこまでする。
もっと早くそのことに気づいていれば──本当はなんとなく気づいてはいたけれど、もし彼女のことを疑っていれば、あんなことにはならなかったのに。
そこまで思って、涙が出てきた。
彼女と友達になれたことが本当に嬉しかった。お母さんとお姉ちゃんと一緒にご飯を食べて、もう一人家族が増えたみたいで楽しかった。
だけどエリザちゃんはそうじゃなかったの──
「怪我はもう平気?」
不意にエリザちゃんに話しかけられ、私は椅子から転げ落ちそうになった。それにエリザちゃんが心配そうにしらじらしく言う。
「もう、気をつけてね。また怪我したら大変だよ」
そこでお母さんがエリザちゃんに話しかける。
「ねぇ、エリザちゃんも今度から、うちで朝ご飯食べていく?」
「いいんですか? 嬉しい。私、お姉さんの料理も好きだけど、お母さんの料理も大好きなんです」
エリザちゃんはいつものように微笑み、いつものようにお母さんやお姉ちゃんと談笑していた。
私だけが痛みの中にあった。私だけがいつもと違っていた。私だけがおかしくて、世界はどこまでもいつもどおりだった。
* * *
教室では相変わらず加藤さんがブタだった。
砂村さんも昨日のことなどなかったようにいつもどおりだった。むしろその暴力性が増したようにも見えた。私がブタの時、直接殴ったり蹴ったりしてくることはなかった。加藤さんに対してもそうだったかは、見ないように、関わらないようにしてきたから、どうだったのかはよく知らない。だから砂村さんが加藤さんを殴ったり蹴ったりしているのは普通のことなのかもしれない。
休み時間になると、いつものように私とエリザちゃんは二人きりで過ごした。
施錠された屋上の扉の前のスペースで、物陰に隠れるようにして、エリザちゃんは私の手を握り、体を寄せてきた。
以前はエリザちゃんに抱きしめられたり、手を握られたり、その程度のことだったけれど。昨日の放課後から、私たちは恋人同士になった。
「ハナちゃん、好きだよ。大好き」
私が答えないでいると、エリザちゃんは不満そうな顔をして、私の手の甲をつねる。
「痛いっ……」
「ハナちゃん。ハナちゃんは私のこと好きじゃないの?」
「好きです……」
「よかった」
エリザちゃんはにっこりと笑う。
好きなのに、どうしてこんなことをするのだろう。嫌いだからこんなことをするのに、どうして恋人のふりをさせるのだろう。お互いに好きだから、付き合うはずなのに。
優しく微笑むエリザちゃんが不思議で、私は彼女の顔をぼんやりと見ていた。
不意に、エリザちゃんの顔が息のかかる距離まで近づいたと思うと、ためらいなく唇を重ねてきた。唇の柔らかさよりも、コツンと当たった前歯の感触に私は驚いた。痛くはないけれど、その小さな響きは骨を伝わって、私の頭の中を揺らした。
エリザちゃんは唇を重ねたまま、私の唇を割って、舌を差し入れてくる。その生温い濡れた質感と、這うように歯茎を撫でる感触が、私は気持ち悪かった。
私は歯を閉じて、その先があるのならそれを拒む。
「ん、ハナちゃんの唇、甘い味がする」
エリザちゃんが唇を離し、うっとりと微笑んだ。
キスの味。そんなものは考えたこともなかった。エリザちゃんは何の味もしないような、少ししょっぱいような、美味しいともなんとも思わない味だった。
それからまた私たちはキスをした。
休み時間がおわるまでそれは続いた。
* * *
校舎の裏、昨日の雨にまだぬかるんだ地面。湿った土の匂い。エリザちゃんの匂い。
昼休みになると、時間に余裕があるからか、エリザちゃんはもっといろんなことを求めてきた。
エリザちゃんはキスをしたまま、私のブレザーのボタンを外して、ブラウスの上から胸に触れてくる。
階段に落ちた時にぶつけた打ち身が痛かった。エリザちゃんはもうそのことを忘れているのか、覚えていても私のことなど気にしていないのかもしれない。
それとは別に、エリザちゃんの指が胸の先を擦った時、ひりつくような痛みに私の体は引きつった。
「ん、んん……」
痛いような、むず痒いような、不快な感覚だった。
思わず開いてしまった歯の間に、彼女の舌が侵入し、私の舌を絡めとろうとする。これがずっと彼女が試みていたことだったようだ。
私の口の中に、熱く硬い弾力のある、意思をもって動く何か別の生き物を捩じ込まれたような気分だった。
彼女の細い指を綺麗だと思った。小さな唇を可愛いと思った。それなのに彼女の外側にあって、自分以外のものに触れる部分は、独立して獲物を捕らえる別の何かのように思えた。それぞれの意思をもった別々の生物が合わさって、羽鳥英梨沙という一つの生物のようにふるまっているのではないだろうか。
エリザちゃんは満足したのか唇を離す。唾液で、あごの先まで濡れていた琥珀色の瞳は楽しげに細められていた。
「脱がすね」
キスだけでおわらないことは分かっていたけれど──エリザちゃんの指が、私のブラウスのボタンを外していく。
「やだ……やめて……」
私がそう懇願しても、彼女の指は止まらなかった
首元だけリボンタイで閉じられて、そこから下をはだけた姿にされた。さらにインナーに着ているキャミソールをへその上までまくられる。
彼女のてのひらが、私のお腹に触れた。それは焼けるように熱く思えた。けれども、本当は氷のように冷たかったかもしれない。
とにかく私は怖かった。
その手は私の体をなぞって、キャミソールの中に侵入し、直接私の胸へと触れる
それに鳥肌が立つような、あの寒気が這い上がってくる感覚がした。不安にお腹の中が、きりきりと締めつけられるように痛んだ。
エリザちゃんの手は、指は、私の胸の先に触れる。さっき以上の痛みが走った。私はスカートの裾を掴んで必死に我慢する。
滲んだ視界の中で、エリザちゃんは微笑んでいた。彼女にとって着せ替え人形をもてあそぶのと何も変わらないのかもしれない。
私にできることは、このまま我慢して、時間が経つのを待つだけ──
「ねぇ、ハナちゃんも触って」
不意にエリザちゃんに言われ、私はどうしたらいいか分からなかった。
エリザちゃんは自分のブレザーとブラウスのボタンを外し、前をはだける。白いレースのブラジャーと、彼女の滑らかな肌と、縦長のヘソが露わになった。
エリザちゃんは私の手を取ると、自分の胸に当てる。しっとりと汗ばんでいて、生温かった。
「ハナちゃんと同じぐらいの大きさでしょ」
彼女はブラをつけているが、ほとんど胸はなかった。柔らかいというよりも、硬いと思った。
「触ってみて」
エリザちゃんが顔を寄せて、息を吹きかけるように言った。
私は正解が分からなかったので、エリザちゃんがしたように、彼女の胸を下着越しに撫でた。
「あ、ん──」
エリザちゃんの口から甘い吐息が漏れる
私は彼女の感触、温度に、むず痒いような、不安な気持ちになった
「いいよ、ハナちゃん……」
エリザちゃんは頬が触れ合いそうなほど、顔を近づける。彼女の呼吸が熱かった。その熱のせいか、私の頬も熱くなる。
とろんとしたエリザちゃんの瞳。いつもの微笑みも、どこか熱っぽかった。
「ここも──」
エリザちゃんは私の手を取り、そのまま彼女の股の間に誘い入れた。指先に、彼女の下着の布の感触、湿り気と、その奥にある熱を感じた。
それに私は思わず彼女の手を振り払った。
エリザちゃんの顔から表情が消える。じっと私の目を見ていた。私は怖くて、体が震えた。
その時、予鈴が鳴った。昼休みが終わる五分前。
「残念。もっとしたかったな」
エリザちゃんは何事もなかったように微笑んだ。
私はエリザちゃんがボタンを留め直し始めたのを見て、もういいのだと分かり、急いで服を直す。
「続きは放課後、ハナちゃんの家でしようか」
そうなることは、別に意外でもなかったけれど、心が暗く沈んで、気分が重くなるのを感じた。
「おはようございます」
「おはよう、エリザちゃん」
怪我をしている私の代わりに、お姉ちゃんがエリザちゃんを出迎える。
「おはよう、ハナちゃん」
エリザちゃんが微笑む。私は喉が引きつって声が出なかった。
私は彼女のことが怖かった。ただ彼女は、昨日あれだけのことをしたのに、何事もなかったかのようだった。昨日のことは何かの悪夢だったのかもしれない。
ただ今でも残る私の中の痛みが、あれは夢なんかじゃない、本当にあったことだと、うずくたびに私に教えているようだった。
「昨日はありがとうね」
「いいえ。お役に立てて嬉しかったです」
私はあのあと、エリザちゃんたちに送られて家に帰った。
先に帰っていたお姉ちゃんが私たちを出迎えてくれた。お姉ちゃんにはエリザちゃんから、私が階段から落ちて怪我したこと、彼女が送って帰ることを連絡してあった。
「エリザちゃん、ありがとう。送ってもらっちゃって」
「いいえ。いつものことですから」
「ハナちゃん、怪我は平気?」
「うん……」
私はお姉ちゃんの顔を見ることができなかった。私が本当は何をされたか、こんなこと話せるわけがない。もし私が誰かに話したら、あの砂村さんさえ怯える彼女が、いったい何をするか分からなくて怖かった。
それからお姉ちゃんが砂村さんと姫山さんに気づく。私の荷物は砂村さんが持ってくれていた。
「あなたたちも、ありがとう」
「いえ……」
「えっと、お名前は」
「ダリアちゃんとマリーちゃん。私の友達です。ハナちゃんと同じクラスだから、何かあったら彼女たちがいるので安心してください」
「二人ともありがとう。よかったね、ハナちゃん」
「うん……」
「それじゃ私たちは、もう遅いので帰りますね。ハナちゃん、また明日」
いつもどおりに笑うエリザちゃんと、砂村さんと姫山さんは帰っていった。私はそのまま怪我を理由に、夕飯も食べず、お風呂にも入らず、ベッドに潜り込んだ。お姉ちゃんやお母さんに聞こえないように、込み上げてくる涙と声を必死に堪えた。それが昨日の最後の記憶。
今朝、お姉ちゃんやお母さんより先に起きてシャワーを浴びた。
昨日のことなんてなくて、ただの悪夢であってほしい。思い出したくない、忘れたい、なかったことにしたい。そう思っても、私の体には階段から落ちた時の怪我と、エリザちゃんに刺された股の間に血の跡があった。血の跡は洗い流せたけれども、腕や胸、お腹にできた内出血の跡は消えなかった。このままずっと残ったら──別にいいか。
私を階段から突き落としたのはエリザちゃんだと思う。私が階段から落ちたあと、一日中探しても見つからなかった彼女が、偶然、あんなに都合よく現れたのはおかしい。階段の手前には防火戸がある。その影に隠れていれば、加藤さんを必死に追いかけていた私は、そこにエリザちゃんがいることに気づきもしないだろう。実際にそうだったのだから。きっとエリザちゃんは砂村さんを通して、加藤さんを使って私を誘い出したのだ。
何のため。私を傷つけるため。私のことが嫌いだからこんなことをするんだ。
だからといって、そこまでするのか、とは思わなかった。エリザちゃんはそこまでする。
もっと早くそのことに気づいていれば──本当はなんとなく気づいてはいたけれど、もし彼女のことを疑っていれば、あんなことにはならなかったのに。
そこまで思って、涙が出てきた。
彼女と友達になれたことが本当に嬉しかった。お母さんとお姉ちゃんと一緒にご飯を食べて、もう一人家族が増えたみたいで楽しかった。
だけどエリザちゃんはそうじゃなかったの──
「怪我はもう平気?」
不意にエリザちゃんに話しかけられ、私は椅子から転げ落ちそうになった。それにエリザちゃんが心配そうにしらじらしく言う。
「もう、気をつけてね。また怪我したら大変だよ」
そこでお母さんがエリザちゃんに話しかける。
「ねぇ、エリザちゃんも今度から、うちで朝ご飯食べていく?」
「いいんですか? 嬉しい。私、お姉さんの料理も好きだけど、お母さんの料理も大好きなんです」
エリザちゃんはいつものように微笑み、いつものようにお母さんやお姉ちゃんと談笑していた。
私だけが痛みの中にあった。私だけがいつもと違っていた。私だけがおかしくて、世界はどこまでもいつもどおりだった。
* * *
教室では相変わらず加藤さんがブタだった。
砂村さんも昨日のことなどなかったようにいつもどおりだった。むしろその暴力性が増したようにも見えた。私がブタの時、直接殴ったり蹴ったりしてくることはなかった。加藤さんに対してもそうだったかは、見ないように、関わらないようにしてきたから、どうだったのかはよく知らない。だから砂村さんが加藤さんを殴ったり蹴ったりしているのは普通のことなのかもしれない。
休み時間になると、いつものように私とエリザちゃんは二人きりで過ごした。
施錠された屋上の扉の前のスペースで、物陰に隠れるようにして、エリザちゃんは私の手を握り、体を寄せてきた。
以前はエリザちゃんに抱きしめられたり、手を握られたり、その程度のことだったけれど。昨日の放課後から、私たちは恋人同士になった。
「ハナちゃん、好きだよ。大好き」
私が答えないでいると、エリザちゃんは不満そうな顔をして、私の手の甲をつねる。
「痛いっ……」
「ハナちゃん。ハナちゃんは私のこと好きじゃないの?」
「好きです……」
「よかった」
エリザちゃんはにっこりと笑う。
好きなのに、どうしてこんなことをするのだろう。嫌いだからこんなことをするのに、どうして恋人のふりをさせるのだろう。お互いに好きだから、付き合うはずなのに。
優しく微笑むエリザちゃんが不思議で、私は彼女の顔をぼんやりと見ていた。
不意に、エリザちゃんの顔が息のかかる距離まで近づいたと思うと、ためらいなく唇を重ねてきた。唇の柔らかさよりも、コツンと当たった前歯の感触に私は驚いた。痛くはないけれど、その小さな響きは骨を伝わって、私の頭の中を揺らした。
エリザちゃんは唇を重ねたまま、私の唇を割って、舌を差し入れてくる。その生温い濡れた質感と、這うように歯茎を撫でる感触が、私は気持ち悪かった。
私は歯を閉じて、その先があるのならそれを拒む。
「ん、ハナちゃんの唇、甘い味がする」
エリザちゃんが唇を離し、うっとりと微笑んだ。
キスの味。そんなものは考えたこともなかった。エリザちゃんは何の味もしないような、少ししょっぱいような、美味しいともなんとも思わない味だった。
それからまた私たちはキスをした。
休み時間がおわるまでそれは続いた。
* * *
校舎の裏、昨日の雨にまだぬかるんだ地面。湿った土の匂い。エリザちゃんの匂い。
昼休みになると、時間に余裕があるからか、エリザちゃんはもっといろんなことを求めてきた。
エリザちゃんはキスをしたまま、私のブレザーのボタンを外して、ブラウスの上から胸に触れてくる。
階段に落ちた時にぶつけた打ち身が痛かった。エリザちゃんはもうそのことを忘れているのか、覚えていても私のことなど気にしていないのかもしれない。
それとは別に、エリザちゃんの指が胸の先を擦った時、ひりつくような痛みに私の体は引きつった。
「ん、んん……」
痛いような、むず痒いような、不快な感覚だった。
思わず開いてしまった歯の間に、彼女の舌が侵入し、私の舌を絡めとろうとする。これがずっと彼女が試みていたことだったようだ。
私の口の中に、熱く硬い弾力のある、意思をもって動く何か別の生き物を捩じ込まれたような気分だった。
彼女の細い指を綺麗だと思った。小さな唇を可愛いと思った。それなのに彼女の外側にあって、自分以外のものに触れる部分は、独立して獲物を捕らえる別の何かのように思えた。それぞれの意思をもった別々の生物が合わさって、羽鳥英梨沙という一つの生物のようにふるまっているのではないだろうか。
エリザちゃんは満足したのか唇を離す。唾液で、あごの先まで濡れていた琥珀色の瞳は楽しげに細められていた。
「脱がすね」
キスだけでおわらないことは分かっていたけれど──エリザちゃんの指が、私のブラウスのボタンを外していく。
「やだ……やめて……」
私がそう懇願しても、彼女の指は止まらなかった
首元だけリボンタイで閉じられて、そこから下をはだけた姿にされた。さらにインナーに着ているキャミソールをへその上までまくられる。
彼女のてのひらが、私のお腹に触れた。それは焼けるように熱く思えた。けれども、本当は氷のように冷たかったかもしれない。
とにかく私は怖かった。
その手は私の体をなぞって、キャミソールの中に侵入し、直接私の胸へと触れる
それに鳥肌が立つような、あの寒気が這い上がってくる感覚がした。不安にお腹の中が、きりきりと締めつけられるように痛んだ。
エリザちゃんの手は、指は、私の胸の先に触れる。さっき以上の痛みが走った。私はスカートの裾を掴んで必死に我慢する。
滲んだ視界の中で、エリザちゃんは微笑んでいた。彼女にとって着せ替え人形をもてあそぶのと何も変わらないのかもしれない。
私にできることは、このまま我慢して、時間が経つのを待つだけ──
「ねぇ、ハナちゃんも触って」
不意にエリザちゃんに言われ、私はどうしたらいいか分からなかった。
エリザちゃんは自分のブレザーとブラウスのボタンを外し、前をはだける。白いレースのブラジャーと、彼女の滑らかな肌と、縦長のヘソが露わになった。
エリザちゃんは私の手を取ると、自分の胸に当てる。しっとりと汗ばんでいて、生温かった。
「ハナちゃんと同じぐらいの大きさでしょ」
彼女はブラをつけているが、ほとんど胸はなかった。柔らかいというよりも、硬いと思った。
「触ってみて」
エリザちゃんが顔を寄せて、息を吹きかけるように言った。
私は正解が分からなかったので、エリザちゃんがしたように、彼女の胸を下着越しに撫でた。
「あ、ん──」
エリザちゃんの口から甘い吐息が漏れる
私は彼女の感触、温度に、むず痒いような、不安な気持ちになった
「いいよ、ハナちゃん……」
エリザちゃんは頬が触れ合いそうなほど、顔を近づける。彼女の呼吸が熱かった。その熱のせいか、私の頬も熱くなる。
とろんとしたエリザちゃんの瞳。いつもの微笑みも、どこか熱っぽかった。
「ここも──」
エリザちゃんは私の手を取り、そのまま彼女の股の間に誘い入れた。指先に、彼女の下着の布の感触、湿り気と、その奥にある熱を感じた。
それに私は思わず彼女の手を振り払った。
エリザちゃんの顔から表情が消える。じっと私の目を見ていた。私は怖くて、体が震えた。
その時、予鈴が鳴った。昼休みが終わる五分前。
「残念。もっとしたかったな」
エリザちゃんは何事もなかったように微笑んだ。
私はエリザちゃんがボタンを留め直し始めたのを見て、もういいのだと分かり、急いで服を直す。
「続きは放課後、ハナちゃんの家でしようか」
そうなることは、別に意外でもなかったけれど、心が暗く沈んで、気分が重くなるのを感じた。
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