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第二章
第十二話
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私は直前のことを思い出す。
前日の夜、英美香から連絡が来た。西塚のことで大事な話がある、と。
指定された場所は、高級住宅街で有名な都心の駅だった。駅に着くと、街や行き交う人々が、やたらと上品で瀟洒な雰囲気で居心地が悪かった。すれ違う人のコートやジャケットひとつとっても、私の全身の服よりもはるかに高額そうだった。
私はいつものジャージで着たことを後悔した。英美香に呼び出されたが、何か嫌な予感がして、動きやすい格好で来てしまった。もしかしたら英美香は誰かに脅されて、私を呼び出したのではないかと。そしてその人物は赤星杏奈。
彼女が何者で、どんな人物なのか分からないが、何か不穏なものを感じていた。
ただ小夜子の手がかりになればと、つい軽率にも応じてしまった。
時間通りに来たが、まだ待ち合わせの場所に英美香はいなかった。
「蛍野南帆さん?」
不意に声をかけられた。英美香の声ではない。杏奈ではないかと警戒して、弾かれたように振り向くと、そこには見知らぬ女性がいた。
私から見たら誰でも背が高いが、彼女は私より頭ひとつ目線が高い。年齢は同じぐらいだろうか。アッシュグレーのくすんだ銀髪に、赤紫のインナーカラーが入っていた。真っ赤な唇の下にはピアスがある。彼女は丈が長く、袖口の広い、だぶついた黒いシャツを着ていた。シャツの正面にはごちゃごちゃした絵と文字がプリントされている。一瞥した感じだと、髑髏に無数の腕が絡みつき、炎に包まれているようだった。英字は崩れて何が書いてあるか分からない。マナーとして、シャツの文字は読んだり翻訳してはいけないので、凝視するわけにいかなかった。そのシャツに隠れて、下には何を履いているかは分からない。膝丈より上まである黒のソックスとの間に、白く細い太腿がのぞいていた。
「えっと、どこかで会いましたか?」
一度会ったら、絶対に忘れないような外見をしている。
私の知り合いにいないタイプだった。白濁した目に一瞬驚いたが、おそらくカラーコンタクトの類だろう。ただこういうファッションは嫌いではないので、今度音瑠にやらせようかと思った。
「あの、いえ……」
彼女は胸元で、指先をもじもじとさせた。その指の先、爪は黒く塗られていた。左手の甲にはタトゥーが入っていた。よく見ると目の形をしていて、その周囲に花や蔦のような模様が彫られている。手首から先まで続いているようだったが、袖で隠れて見えなかった。
「アサクラです。アンちゃんに頼まれて、連れてくるようにって……」
彼女は私と目も合わさず、ずっと自分の指先を見ている。
アサクラと名乗る女性の口から出た、「アンちゃん」という人物。
「赤星杏奈のこと?」
「そう……」
英美香に呼び出されたはずなのに、赤星杏奈から迎えがきた。もともと嫌な予感がしていたが、本当に危険な気がしてきた。
「あの、ついてきて……」
「ちょっと!」
有無を言わさずアサクラは背を向けて歩き始める。彼女の銀髪は長く、背中まであった。
私には彼女についていかないという選択肢もあった。
怪しいということも分かっている。イスカは私に警告した。小夜子と杏奈について調べていると、死ぬことになると。それが今日なのかもしれない。
ただ本当に身の危険を感じたら、その時は多少無茶をしてでも逃げればいい。それに何かあれば、音瑠がイスカに頼んでどうにかしてくれると、多少楽観的に考えていた。
アサクラは足早に私の前を歩いていく。
「ねぇ、待って!」
私はついていくのがやっとで息が上がった。もっとゆっくり歩いてほしかった。
彼女の背丈は、私より少し高いぐらいのようだが、ブーツの底が厚く、それで背がより高く見えていた。
私は彼女の服装に、何か引っかかるものがあった。
「アサクラさん、もしかしてV系とか好き?」
アサクラの足が止まった。
「うん……」
「そのシャツってあれでしょ。会場の限定販売のやつ」
「うん、そう」
アサクラは私の目を見てきた。カラコンとはいえ、白濁して死んだような目は不気味だった。
「ちなみにこのジャージ、ボーカルがMVで着てたやつ」
「ああ!」
アサクラは気づいたようで、目を大きく見開く。驚いた様子だった。
「それってもう製産してないよね?」
「だからオークションで買った。高校の時だから、もう十年前かな。上下で一万円ぐらい」
「いいなあ」
小夜子はポップス、音瑠はアイドル系が好きなので、あまり共通の音楽の話題で盛り上がることができなかった。私はV系というよりも、エモやメタルコア、スクリーモ系が好きだった。
正直、この状況が何なのか分からなかったが、私はアサクラと盛り上がった。
「私は中期のアルバムが好き。たまたま高校の時に聞いて、あれでハマった」
「私は初期が。最近はもう一つの別バンドも好きだけど……」
「アサクラさんは耽美な感じのが好きなんだね」
「たぶん……」
「じゃあ、あれは? あのバンドも聴く?」
アサクラは相変わらず手をもじもじさせながらも、歩くペースを合わせて、私の方を見て話してくれるようになった。
「左手のタトゥー、それってシングルのジャケットがモチーフ?」
これは聞いてよかったのか、口にしてから焦った。しかし当のアサクラは嬉しそうに、私に手の甲を見せてくる。
「そう、これ」
さらに左腕の袖をまくる。見えたのは肘までだが、びっしりと目が一列に並び、その周囲に草花の模様が入っていた。
「やばい、めちゃくちゃかっこいい」
「うん」
アサクラははにかんだように笑った。
そのうちに白一色の外壁の、高級そうな低層マンションに着いた。高級住宅街に立地していて、ワンルームでも家賃は十万円近くするのではないだろうか。
「ここってアサクラさんの家?」
家具のほとんどない、シンプルな部屋だった。アサクラの部屋なら、ポスターが壁一面に貼られていたり、それらしいものが散乱していそうなものだが。
「ううん。アンちゃんの家」
そうだとしても異常に生活感がない。3LDKはあるだろうか。通されたリビングには、テーブルと椅子があるだけだった。物件の内覧をしている気分になった。
「飲み物、取ってくる。お茶と紅茶、どっちがいい?」
「じゃあ、紅茶で」
アサクラは迷う様子もなく冷蔵庫に向かう。ほかに何もないから迷うこともないだろうが、慣れた様子に、何度か来たことがある感じがした。
カウンター越しに彼女の様子が見える。彼女は冷蔵庫から円筒形のガラスポットに入った紅茶を取り出し、流しにあるグラスに注いでいた。
それを私の前に置き、彼女も向かいに座る。
「もう少ししたら、アンちゃんも来るから。少し遅れてくるって……」
言い回しに違和感を覚えた。
英美香を使って私を呼び出し、アサクラを使ってここまで連れてきた。それなら杏奈が先にいてもよさそうなものだが。
アサクラは自分で出した紅茶を飲む。私と彼女はどちらも同じ透明なグラス。手元の動きを見ていたが、区別している様子はなかった。もしも私を殺すなら、これで毒殺するつもりかと思ったが、アサクラと同じ条件のものを提供されている。
そもそも杏奈が私を殺す理由が分からない。過剰に警戒しすぎているなと、多少、自嘲する気持ちになった。私は素直に紅茶を一口飲む。
「ちょっと苦くない?」
「そう? そうかも」
睡眠薬が混入されると、水が青く変色したり、苦味があったりすると聞いたことがある。
警戒心が芽生えたが、アサクラは気にせず飲んでいるようだった。外を歩いてきたから喉が渇いたのか、アサクラは二杯目を注いで再び飲み始めた。
「それでアサクラさんは、赤星杏奈とどういう関係なの?」
アサクラは手にしたコップに目を移して、俯き加減に話す。
「友達……小学校からの……」
「それじゃ、小夜子も同級生?」
「誰?」
不思議そうにアサクラは私を見た。
「赤星杏奈の彼女」
「え?」
アサクラは驚いたような、泣きそうな顔をした。
「そうなんだ……」
彼女は再び視線をコップに戻す。本当に小夜子のことは知らない様子だった。
私は違和感が強くなり、何かが私の中で警鐘を鳴らしている感覚を覚えた。頭が痺れるような、痛みが走った。脈拍、心臓の音が速く、大きくなっている気がした。
「どうして杏奈は、アサクラさんに私を迎えにいかせたの? 自分でくればいいのに」
「分かんない……アンちゃんが連れてきてって……」
「そもそも私を呼び出した英美香さんは? 彼女はどうしたの?」
「誰? 知らない……」
このまま杏奈を待つのは危険な気がした。英美香の身にも何かあったのではないだろうか。
「英美香さんは小夜子の同級生で、赤星杏奈とも学校が同じはずだけど」
「アンちゃんとは中学校が別で……」
「そうなんだ」
「ずっと会ってなかったけど、私が逮捕された時、アンちゃんが会いにきてくれたの……」
何か不穏な話になってきた。
「逮捕された、っていうのは?」
本来、私は小夜子の消息を知るためにここに来たはずだが、なぜか初対面のアサクラの身の上話を聞くことになっていた。
「薬で、捕まった……」
確かに何かやってそうな感じはする。
「それは最近?」
「五年前? たぶん」
「それまでは杏奈に会ってなかったんだ」
「うん。その時、アンちゃんが、私を助けてくれたの」
「助けてくれた?」
「うん。弁護士とか、いろいろ」
「どうして杏奈はあなたのことを?」
「アンちゃんは、私に薬をつくらせて、それが必要なの。アンちゃんが助けてくれたように、私がアンちゃんを助けているの」
私の中でアサクラへの認識が変わった。彼女は薬を使用する側ではなく、製造する側だった。赤星杏奈は彼女に、イスカが私に飲ませたような薬をつくらせているのかもしれない。
「もしかして、イスカって知ってる?」
「誰?」
イスカとも関係があるのではないかと思ったが、そちらとは接点がないようだった。
「いったい杏奈はあなたに何をつくらせているの? もしかしてその薬って、飲むと死ぬやつじゃないの?」
「ううん。シプロヘプタジンは風邪薬とかに含まれてるし、プロプラノロールは狭心症や偏頭痛の治療に使われるものだから。過剰に摂取すれば危険だけど、私が管理しているから……」
「何かの病気なの? 杏奈は?」
「うん。モノアミン神経伝達物質が過剰に分泌される体質で、薬で抑制する必要があるの」
「それは医者に行けばいいんじゃ?」
「アンちゃんにはアンちゃんの考えがあるみたいだから……」
専門的なことはよく分からなかった。ただ杏奈やイスカの時間移動に関係する何かである可能性が高い。念のため、メモをしようと思ってスマートフォンを取り出す。
「それで、なんだっけ? シプロなんとか?」
「シプロヘタジン……」
テキストを打ち込もうとした時、画面の文字がぼやけて見えた。何か異常だ。私の体に異変が起きている。
突然、グラスが倒れ、床に落ちる音がした。
アサクラがテーブルに突っ伏し、嘔吐していた。
「どうして……アンちゃん……」
まさか杏奈が、アサクラもろとも私を毒殺するとは思いもしなかった。
頭が重たい。指先から脊椎にかけて、痺れるような感覚がした。
まだ私は少量しか飲んでいない。早くここから逃げなければ。
そう思い、席を立った時。
「こんにちは。南帆ちゃん」
振り返ると、背後に美しい女性が立っていた。その顔に微笑みを湛え、しかし目は笑っていなかった。
「赤星杏奈……」
彼女の手が私の首に伸ばされたと思うと、何かが弾ける音、空気が割れるような音が聞こえた。
目の前に閃光が走り、首筋に焼けるような痛みが走ったと思うと、辺りが暗くなり、体から力が抜けていった。
* * *
目が覚めると、私は窓のない部屋にいた。私は全裸で、手足を拘束された上、体を椅子に縛り付けられている。
その私の前にはランジェリー姿の杏奈。手袋とレインブーツを履いている。杏奈はナイフを手に、その刃に自身の顔を映して、うっとりと微笑んでいた。
ここに至るまでの、軽率で短絡的な過去の自分に、呆れるどころか怒りさえ覚えた。
頭の中に何か詰め込まれているような、重く鈍い痛みがあった。どれだけの時間、意識を失っていたのか分からないが、無理な姿勢をとらされて、肩や腕、関節や筋肉が痛い。
「私、春が嫌い。桜が嫌い。散った花弁が腐臭を放つから。花の匂いが嫌い。排泄物の臭いに似ているから。夏に向けて暑くなって、羽虫がわいてくるから嫌い」
杏奈はナイフを手にしたまま、私に視線を移す。
「うるさい蝿が私とサヨちゃんの周りを飛んでいる。どんなに過去を変えてもわいてくるんだね。南帆ちゃん。いい加減もう、私たちの前に現れないで」
「……どうして、こんなことするの?」
彼女が私を殺すつもりだということ、そしてそれは実行されることを私は理解した。
「邪魔だからだよ。私たちの人生に、あなたは邪魔」
「私はただ、小夜子のことが心配だっただけ。あなたと小夜子を引き離そうとなんてしてない」
「うるさい、このメスブタクソビッチ! あんたがサヨちゃんを誘惑するから、こんなことになったんだろうが!」
杏奈は目を見開き、声を荒げる。突然向けられた巨大な憎悪に、私は息を呑んだ。彼女の美しかった顔は、さながら道成寺の清姫が蛇身の怪物へと変貌したように、目と歯を剥き出して、恐ろしい形相に豹変した。
しかしそれは一瞬で、何事もなかったかのように、穏やかな笑顔になる。
「カオちゃんも手懐けて、本当に南帆ちゃんは油断できないな」
「カオちゃんって、アサクラさんのこと? 彼女はどうしたの?」
「カオちゃんは無事だよ。眠っているだけ。あの子、薬に耐性があるから。二、三日したら起きるんじゃないかな」
そんなものを私や彼女に飲ませたのか。
「友達じゃないの?」
「友達だよ」
杏奈は不思議そうな顔をしていた。
イスカの倫理観も壊れていたが、杏奈はそれ以上に邪悪だ。
「それよりも──こんなこと言っても、あなたには分からないと思うけど。もともとは南帆ちゃんが悪いんだよ。あなたが私からサヨちゃんを奪ったから。私の大切な、何よりも大切なサヨちゃんを」
「何の話をしているの? 私と小夜子はただの友達だけど」
「それはこの世界線、時間軸での話。南帆ちゃんには分からないし、覚えていないだろうけど」
私は彼女が何の話をしているのか分かった。そして彼女もまた時を移動できると確信した。
「私はね、過去を変えることができるの。馬鹿なあなたに、分かりやすく説明するつもりはないけどね。その過去であなたは、私からサヨちゃんを奪った。だから私は過去を変えた。何度も何度も何度も。そしてようやく、サヨちゃんを手に入れた」
「あんたが私から小夜子を奪ったのか」
私は本来死ぬはずだった。しかし小夜子と付き合っていた過去がなくなったことで、生きている世界線に変わった。それはこの女の仕業だった。そのことを憎むべきか感謝すべきか。
「奪ったのはあんただろうが!」
再び杏奈は鬼のような形相で吠える。
「あんたさえいなければ……いいえ、あなたのおかげで私はサヨちゃんへの本当の気持ちに気づけた。そのことには感謝している。だけど、もういらないから殺すね」
杏奈はナイフの先を私に向けた。
理屈は別として、杏奈が私を殺す理由は分かった。
「ねぇ、私は小夜子とよりを戻そうと思っていない。あなたたちの邪魔をするつもりもない。だからこんなことはやめて」
「この世界で起こる出来事、未来や運命といったものは、それ自体に整合性を保とうとする、修正する力があるんだ。こうしてあなたが再び私たちの前に現れたことが、それを証明している。あなたの意思がどうとか関係ないの。私は運命を拒む。私自身の手で運命を拓く。サヨちゃんは私だけのもの。誰にも渡さない」
「あんた、まともじゃない……。どうしてそんなに小夜子に執着するの?」
「サヨちゃんはね、私の光なの。私の孤独の闇を照らしてくれる、たった一つの光。サヨちゃんは私の孤独を癒してくれた。サヨちゃんの絵を見たことある? 私、彼女の描いた深海に沈んでいく絵が一番好き。あの絵を初めて見た時、息のできない、凍てつくほどの孤独を感じたの。ああ、この子も私と同じなんだって」
「小夜子は孤独なんかじゃない。あんたと違って、私や英美香さんみたいな友達がいる」
「それじゃ、これでサヨちゃんも私と同じだね」
杏奈はナイフの先を、私の胸に押し当てた。
私は息を呑んだ。高所に立った時のような、下腹部が締め付けられるような感覚がした。
切っ先が皮膚を裂き、赤い雫が生まれ、私の肌に軌跡を描いて滑り落ちる。
「……英美香さんに何したの?」
「少なくともあなたより苦しむことはなかったよ」
本当の私は虹架の実験室で、あの機械に頭を突っ込まれて死んでいるはず。そしてイスカによって蘇生される約束になっている。こんな悪夢のような未来から今すぐ目覚めたかった。
「ただこのまま殺してもつまらないんだよな。そうだ、ゲームをしようか。南帆ちゃん、私に聞きたいことがたくさんあるみたいだから。私が南帆ちゃんの質問になんでも答えてあげる。訳も分からないまま死にたくないでしょ? その代わり、一つ質問するたびに、一回刺す。痛いのが嫌で質問をしない場合、十秒ごとに一回刺していくから、聞きたいこと聞いて死んだ方がお得だと思うよ」
杏奈の手慣れた様子から、英美香にしても、人を殺すのは初めてではないのだろう。
「じゅう、きゅう、はち──」
杏奈がカウントを始める。
それに急かされたわけではない。彼女には聞かなければならないことがたくさんある。
「……小夜子は、小夜子は無事なの?」
「はい、一回!」
杏奈が腕を振りかぶる。次の瞬間には、勢いよくその腕は振り下ろされた。私はただそれを眺めていることしかできなかった。ナイフは私の左の太腿の上に突き立つ。皮膚と肉を切り裂き、骨に当たって止まった。
「ああああ!!」
私の体に深々と突き刺さった、焼けるような痛み。あまりの痛みに下唇を噛んで堪える。爪が突き破りそうなほど強く掌を握った。体中が強張り、うまく息を吸うことができなかった。
「う、あぁ……」
杏奈がナイフを引き抜く。ナイフは私の血で赤く塗装されていた。私に穿たれた裂け目から、生温い赤い液体が滲み出し、瞬く間に溢れ出した。
どうして彼女はこんなことをするのか、できるのか、私には理解できない。
「サヨちゃんは無事だよ。そんな当たり前のつまらないことより、もっと質問は選んだ方がいいよ。致命傷じゃなくても、痛みや出血のショックで意識を失うことがあるから。そしたらわざわざ起こしてあげないよ。それに私がどこを刺すかは気分次第。次には心臓を刺すかもね」
なんかこんなおもちゃがあったなと、ひとごとのように思った。
「次の質問は?」
刺されると分かって質問をするのは怖かった。たとえこれがシミュレーションや幻覚、悪夢だとしても、痛みは実際に感じる。そしてこれは未来で本当に起きたこと。
「じゅう、きゅう──」
杏奈が再びカウントを始めた。
ぎりぎりまで質問しなければ、苦痛を遠ざけることができるだろうか。あるいは長引かせるだけだろうか。
奥歯が震えた。漏らしそうだった。
とにかく私は質問を重ねて、なぶりものになる選択肢しかない。
「……小夜子はどこにいるの?」
「言っておくけど、本気だから」
次に杏奈は、ためらう仕草もなく、私の腹部にナイフを突き立てた。
「うぐぅ!」
焼けた火箸を突っ込まれたような気分だった。痛い、熱い。腹の中をかき混ぜられているような気持ち悪さがあった。
「あぁ……」
掠れた声が喉から漏れる。
もう私は助からないことを、分かっているつもりだったが、ようやく本当に理解した。
「南帆ちゃんは皮下脂肪が厚いみたいだから、見た目の出血が少なくても、そのうち内出血で命を落とすよ。それに今のは臓器に達したと思う。仮に今から救急車を呼んでも間に合わないし、もしそうなったら確実に息の根を止めるから」
「質問に答えて……そういうルールでしょ……」
「……あなたがカオちゃんに連れられていった部屋の、隣。そこに私とサヨちゃんは住んでいるの。まあこの時間軸では、ってだけだけど」
小夜子の居場所は分かった。死んでもとの時間に戻れば、イスカが小夜子のことを解決してくれることになっている。そのため、この情報が役に立つか、必要かは分からない。
それでも、怖い、痛い、苦しいけれど、イスカが本当に約束を守るか分からない。この未来を変えるための情報を少しでも持ち帰りたかった。
それに彼女が、一思いに私を殺してくれるとも思えなかった。
「……あんたはどうやって過去を変えたの?」
「なにその質問」
杏奈は無表情で、再び私の腹部を刺す。
「げぇっ──」
痛みよりも気持ち悪さと、衝撃で、私は嘔吐した。黄色い液体が口から出た。血は混じっていない。まだ胃は刺されていないらしいが、それ以外の重要な臓器がすでに破壊されたことは分かっていた。
項垂れた形になって、私の足元に血溜まりができているのを知った。彼女がレインブーツを履いていたのはこのためか。
「汚いなぁ」
杏奈が私から離れる。
「こんなことあなたに話しても分からないと思うけど、私はある実験装置で何百回も時間を遡ったの。そのせいで私は装置に頼らず、自分で過去に戻れるようになったんだ。普段は薬で抑えているけどね。だからその薬を飲むことをやめれば、私は過去に戻ることができる。仮にあなたを殺して、それが露見しても、私はなかったことにできるんだよ。もちろん、犯人だとバレないように殺し直すだけだけど」
それだけ過去を変えて、なぜ彼女はイスカに見つからなかったのだろうか。私より先にイスカが杏奈を見つけていたら、イスカは私ではなく杏奈に関心を持ち、こんなことにはならなかったかもしれない。
「……最初に過去に戻ったのはどうやって?」
杏奈は私の左肩を切りつける。その痛みは切られたというよりも、鞭のようなものに打たれたような、燃え広がるような感覚だった。
「そっちに興味があるんだ。普通は信じないと思うけど。まあ、せっかくだから教えてあげる。私の高校時代の友達に虹架ちゃんって子がいてね、その子が過去に戻る研究をしていたんだ。私はその被験者で、実際に過去に戻ることに成功した」
「そのことを、その人は知っているの?」
「知らないよ」
杏奈は返す手で、もう一度私の左肩を切りつける。
「毎回殺してたから。それに私が過去を変えたことで、虹架ちゃんに会いに行くという事実がなくなるから、そのこと自体がなかったことになっているはず。私、思うんだけどね、時間っていうのはそれぞれに相対的に流れているだけじゃなくて、もっと柔軟で、立体的なものだと思うの。時間というのは泡のようなもので、私たちはその膜の上を移動しているんじゃないかなって。その膜上には無数のルートがあるけれど、泡の接する点や面で時空は収束するから、結果はあらかじめ決まっている。だから私はその運命に抗って、未来を切り拓くんだけどね」
「……過去を変えられるのに、どうして小夜子の事故を防いであげないの?」
それに杏奈は意外そうな顔をしたあと、大声で笑いだした。ひとしきり笑うと、無表情で私の腹部を刺す。痛みよりも、ぶつかった衝撃で声が漏れた。
「だってサヨちゃん、いつも死んじゃうんだよ。目を離すと、いつも死んじゃうんだ。だから私から離れられないように、手足をね、切ったの」
「は?」
「もちろん無駄になんてしてないよ! だってサヨちゃんの体の一部だもん! 全部ちゃんと私が食べた」
杏奈は愛おしそうに自らのお腹を撫でる。
「狂ってる……」
彼女の言葉はすべて鵜呑みにはできない。しかし嘘を言っているようには思えなかった。彼女は限りなく正気で、狂っている。
「小夜子が失踪したのは、あんたが誘拐したから?」
「そう」
右胸を刺された。肋骨で止まる。もう痛みもろくに感じない。骨に当たった衝撃の方が強く感じた。
「小夜子を自分だけのものにするために?」
「そう」
杏奈は私の左肩から右脇にかけて切りつける。どうせもう助からない。痛みに怯えて、彼女を喜ばせるのが腹立たしかった。せめて無感を装う。
「……小夜子の手足を切ったのも?」
「そう。私」
腹部を刺される。私は再び嘔吐した。今度は大量の血だった。
「うぇ、げぇ……」
口の中に生臭くどろどろした、不快な感覚が広がった。
「どうしてそこまで……」
しなければならないのか。することができるのか。
「私がサヨちゃんを守るんだ」
杏奈のナイフは私の左胸を切り払った。
「うぅ……」
私の体は血まみれで、血は体温と一緒に流れ出していった。体の芯から凍てついていく。
「こんなの間違っている……」
「それを決めるのはあなたじゃない」
早くこの悪夢から覚めたい。視界が暗くなっていくことから、幸いにも死が近いらしい。こんなにも死にたいと思ったことはあっただろうか。
「……どうやったらあんたを殺せる?」
答えるとは思えないが──
杏奈は私の右の太腿にナイフを突き立てた。
「あぁ……」
私の力ない声に、杏奈は楽しげだった。彼女は屈み、微笑んで、私の傷口をなでながら、私の顔を見る。
「無理だと思うな。たぶん死んだ瞬間に、私の意識は過去に戻るから。その出来事を回避することができる。もしも南帆ちゃんが、私が時間遡行の能力を手に入れる以前に戻って、私を殺すことができたら殺せるかもね。まあ、念のための保険はかけてあるけど」
「……そう……教えてくれてありがとう」
杏奈は得意げに教えてくれた。
彼女は私が時間を移動できること、過去から未来に、今この時点に来ていることなど、思いもよらないようだった。
イスカの存在にも気づいていない。イスカを過去に送り込んで赤星杏奈を殺してもらう。果たしてイスカがそれを承諾するとは思えないが。
仮に小夜子を杏奈から引き離すことができたとしても、この女は何度も過去に戻り、小夜子や私に同じことをするに違いない。
赤星杏奈は殺さなければならない。
もう一つ、彼女に弱点があるとしたら、アサクラの存在だろうか。
いったいアサクラは何をつくっていて、なぜそれが必要なのか。
「じゅう、きゅう、はち──」
杏奈のカウントが遠く聞こえた。
「……くたばれ、このクサレサイコビッチ」
声に出せたかは分からない。私の意識は暗転した。
◇ ◇ ◇
目覚めると、頭を固定され、筒の中に入れられていた。轟音が鳴り響いている。
私は必死に起きあがろうとする。手に何か持っていた。それが何か思い出せなかったが、無意識にスイッチを押した。緊急時の停止スイッチだった。
検査台が降りる。
駆け寄ってくる音がした。
「何があった?」
その低い、澄んだ声は虹架だ。
私は固定具を乱暴に外し、起き上がる。
虹架の細い腕が私の背を支え、もう一方の手で私の手を握ってくれる。
「落ち着いて。深呼吸して」
私は縋るように虹架の手を握り返した。
戻ってきた。私は生きている。そのことをようやく理解した。
「どうだった?」
イスカが微笑んで、私を見ていた。
私は彼女を睨みつけた。
「小夜子の問題を解決してくれるって約束したよね」
「ええ」
「赤星杏奈を殺して。過去で」
それにイスカは少し困ったような顔をした。
「別にいいけど。その前に、未来で何があったのか教えて」
そのことをイスカに話す理由を感じなかったが、虹架に確かめたいことがあった。
虹架を見ると、相変わらず何の感情もない、氷の美貌がそこにあった。イスカや杏奈に比べたら、よほど親しみやすく感じられた。
虹架が言う。
「話はここを出て、いったん落ち着いてからにしよう」
私は虹架に促されて立ち上がる。足が震えて、一人で立っていられなかった。虹架に支えられながら、実験室を出る。
前日の夜、英美香から連絡が来た。西塚のことで大事な話がある、と。
指定された場所は、高級住宅街で有名な都心の駅だった。駅に着くと、街や行き交う人々が、やたらと上品で瀟洒な雰囲気で居心地が悪かった。すれ違う人のコートやジャケットひとつとっても、私の全身の服よりもはるかに高額そうだった。
私はいつものジャージで着たことを後悔した。英美香に呼び出されたが、何か嫌な予感がして、動きやすい格好で来てしまった。もしかしたら英美香は誰かに脅されて、私を呼び出したのではないかと。そしてその人物は赤星杏奈。
彼女が何者で、どんな人物なのか分からないが、何か不穏なものを感じていた。
ただ小夜子の手がかりになればと、つい軽率にも応じてしまった。
時間通りに来たが、まだ待ち合わせの場所に英美香はいなかった。
「蛍野南帆さん?」
不意に声をかけられた。英美香の声ではない。杏奈ではないかと警戒して、弾かれたように振り向くと、そこには見知らぬ女性がいた。
私から見たら誰でも背が高いが、彼女は私より頭ひとつ目線が高い。年齢は同じぐらいだろうか。アッシュグレーのくすんだ銀髪に、赤紫のインナーカラーが入っていた。真っ赤な唇の下にはピアスがある。彼女は丈が長く、袖口の広い、だぶついた黒いシャツを着ていた。シャツの正面にはごちゃごちゃした絵と文字がプリントされている。一瞥した感じだと、髑髏に無数の腕が絡みつき、炎に包まれているようだった。英字は崩れて何が書いてあるか分からない。マナーとして、シャツの文字は読んだり翻訳してはいけないので、凝視するわけにいかなかった。そのシャツに隠れて、下には何を履いているかは分からない。膝丈より上まである黒のソックスとの間に、白く細い太腿がのぞいていた。
「えっと、どこかで会いましたか?」
一度会ったら、絶対に忘れないような外見をしている。
私の知り合いにいないタイプだった。白濁した目に一瞬驚いたが、おそらくカラーコンタクトの類だろう。ただこういうファッションは嫌いではないので、今度音瑠にやらせようかと思った。
「あの、いえ……」
彼女は胸元で、指先をもじもじとさせた。その指の先、爪は黒く塗られていた。左手の甲にはタトゥーが入っていた。よく見ると目の形をしていて、その周囲に花や蔦のような模様が彫られている。手首から先まで続いているようだったが、袖で隠れて見えなかった。
「アサクラです。アンちゃんに頼まれて、連れてくるようにって……」
彼女は私と目も合わさず、ずっと自分の指先を見ている。
アサクラと名乗る女性の口から出た、「アンちゃん」という人物。
「赤星杏奈のこと?」
「そう……」
英美香に呼び出されたはずなのに、赤星杏奈から迎えがきた。もともと嫌な予感がしていたが、本当に危険な気がしてきた。
「あの、ついてきて……」
「ちょっと!」
有無を言わさずアサクラは背を向けて歩き始める。彼女の銀髪は長く、背中まであった。
私には彼女についていかないという選択肢もあった。
怪しいということも分かっている。イスカは私に警告した。小夜子と杏奈について調べていると、死ぬことになると。それが今日なのかもしれない。
ただ本当に身の危険を感じたら、その時は多少無茶をしてでも逃げればいい。それに何かあれば、音瑠がイスカに頼んでどうにかしてくれると、多少楽観的に考えていた。
アサクラは足早に私の前を歩いていく。
「ねぇ、待って!」
私はついていくのがやっとで息が上がった。もっとゆっくり歩いてほしかった。
彼女の背丈は、私より少し高いぐらいのようだが、ブーツの底が厚く、それで背がより高く見えていた。
私は彼女の服装に、何か引っかかるものがあった。
「アサクラさん、もしかしてV系とか好き?」
アサクラの足が止まった。
「うん……」
「そのシャツってあれでしょ。会場の限定販売のやつ」
「うん、そう」
アサクラは私の目を見てきた。カラコンとはいえ、白濁して死んだような目は不気味だった。
「ちなみにこのジャージ、ボーカルがMVで着てたやつ」
「ああ!」
アサクラは気づいたようで、目を大きく見開く。驚いた様子だった。
「それってもう製産してないよね?」
「だからオークションで買った。高校の時だから、もう十年前かな。上下で一万円ぐらい」
「いいなあ」
小夜子はポップス、音瑠はアイドル系が好きなので、あまり共通の音楽の話題で盛り上がることができなかった。私はV系というよりも、エモやメタルコア、スクリーモ系が好きだった。
正直、この状況が何なのか分からなかったが、私はアサクラと盛り上がった。
「私は中期のアルバムが好き。たまたま高校の時に聞いて、あれでハマった」
「私は初期が。最近はもう一つの別バンドも好きだけど……」
「アサクラさんは耽美な感じのが好きなんだね」
「たぶん……」
「じゃあ、あれは? あのバンドも聴く?」
アサクラは相変わらず手をもじもじさせながらも、歩くペースを合わせて、私の方を見て話してくれるようになった。
「左手のタトゥー、それってシングルのジャケットがモチーフ?」
これは聞いてよかったのか、口にしてから焦った。しかし当のアサクラは嬉しそうに、私に手の甲を見せてくる。
「そう、これ」
さらに左腕の袖をまくる。見えたのは肘までだが、びっしりと目が一列に並び、その周囲に草花の模様が入っていた。
「やばい、めちゃくちゃかっこいい」
「うん」
アサクラははにかんだように笑った。
そのうちに白一色の外壁の、高級そうな低層マンションに着いた。高級住宅街に立地していて、ワンルームでも家賃は十万円近くするのではないだろうか。
「ここってアサクラさんの家?」
家具のほとんどない、シンプルな部屋だった。アサクラの部屋なら、ポスターが壁一面に貼られていたり、それらしいものが散乱していそうなものだが。
「ううん。アンちゃんの家」
そうだとしても異常に生活感がない。3LDKはあるだろうか。通されたリビングには、テーブルと椅子があるだけだった。物件の内覧をしている気分になった。
「飲み物、取ってくる。お茶と紅茶、どっちがいい?」
「じゃあ、紅茶で」
アサクラは迷う様子もなく冷蔵庫に向かう。ほかに何もないから迷うこともないだろうが、慣れた様子に、何度か来たことがある感じがした。
カウンター越しに彼女の様子が見える。彼女は冷蔵庫から円筒形のガラスポットに入った紅茶を取り出し、流しにあるグラスに注いでいた。
それを私の前に置き、彼女も向かいに座る。
「もう少ししたら、アンちゃんも来るから。少し遅れてくるって……」
言い回しに違和感を覚えた。
英美香を使って私を呼び出し、アサクラを使ってここまで連れてきた。それなら杏奈が先にいてもよさそうなものだが。
アサクラは自分で出した紅茶を飲む。私と彼女はどちらも同じ透明なグラス。手元の動きを見ていたが、区別している様子はなかった。もしも私を殺すなら、これで毒殺するつもりかと思ったが、アサクラと同じ条件のものを提供されている。
そもそも杏奈が私を殺す理由が分からない。過剰に警戒しすぎているなと、多少、自嘲する気持ちになった。私は素直に紅茶を一口飲む。
「ちょっと苦くない?」
「そう? そうかも」
睡眠薬が混入されると、水が青く変色したり、苦味があったりすると聞いたことがある。
警戒心が芽生えたが、アサクラは気にせず飲んでいるようだった。外を歩いてきたから喉が渇いたのか、アサクラは二杯目を注いで再び飲み始めた。
「それでアサクラさんは、赤星杏奈とどういう関係なの?」
アサクラは手にしたコップに目を移して、俯き加減に話す。
「友達……小学校からの……」
「それじゃ、小夜子も同級生?」
「誰?」
不思議そうにアサクラは私を見た。
「赤星杏奈の彼女」
「え?」
アサクラは驚いたような、泣きそうな顔をした。
「そうなんだ……」
彼女は再び視線をコップに戻す。本当に小夜子のことは知らない様子だった。
私は違和感が強くなり、何かが私の中で警鐘を鳴らしている感覚を覚えた。頭が痺れるような、痛みが走った。脈拍、心臓の音が速く、大きくなっている気がした。
「どうして杏奈は、アサクラさんに私を迎えにいかせたの? 自分でくればいいのに」
「分かんない……アンちゃんが連れてきてって……」
「そもそも私を呼び出した英美香さんは? 彼女はどうしたの?」
「誰? 知らない……」
このまま杏奈を待つのは危険な気がした。英美香の身にも何かあったのではないだろうか。
「英美香さんは小夜子の同級生で、赤星杏奈とも学校が同じはずだけど」
「アンちゃんとは中学校が別で……」
「そうなんだ」
「ずっと会ってなかったけど、私が逮捕された時、アンちゃんが会いにきてくれたの……」
何か不穏な話になってきた。
「逮捕された、っていうのは?」
本来、私は小夜子の消息を知るためにここに来たはずだが、なぜか初対面のアサクラの身の上話を聞くことになっていた。
「薬で、捕まった……」
確かに何かやってそうな感じはする。
「それは最近?」
「五年前? たぶん」
「それまでは杏奈に会ってなかったんだ」
「うん。その時、アンちゃんが、私を助けてくれたの」
「助けてくれた?」
「うん。弁護士とか、いろいろ」
「どうして杏奈はあなたのことを?」
「アンちゃんは、私に薬をつくらせて、それが必要なの。アンちゃんが助けてくれたように、私がアンちゃんを助けているの」
私の中でアサクラへの認識が変わった。彼女は薬を使用する側ではなく、製造する側だった。赤星杏奈は彼女に、イスカが私に飲ませたような薬をつくらせているのかもしれない。
「もしかして、イスカって知ってる?」
「誰?」
イスカとも関係があるのではないかと思ったが、そちらとは接点がないようだった。
「いったい杏奈はあなたに何をつくらせているの? もしかしてその薬って、飲むと死ぬやつじゃないの?」
「ううん。シプロヘプタジンは風邪薬とかに含まれてるし、プロプラノロールは狭心症や偏頭痛の治療に使われるものだから。過剰に摂取すれば危険だけど、私が管理しているから……」
「何かの病気なの? 杏奈は?」
「うん。モノアミン神経伝達物質が過剰に分泌される体質で、薬で抑制する必要があるの」
「それは医者に行けばいいんじゃ?」
「アンちゃんにはアンちゃんの考えがあるみたいだから……」
専門的なことはよく分からなかった。ただ杏奈やイスカの時間移動に関係する何かである可能性が高い。念のため、メモをしようと思ってスマートフォンを取り出す。
「それで、なんだっけ? シプロなんとか?」
「シプロヘタジン……」
テキストを打ち込もうとした時、画面の文字がぼやけて見えた。何か異常だ。私の体に異変が起きている。
突然、グラスが倒れ、床に落ちる音がした。
アサクラがテーブルに突っ伏し、嘔吐していた。
「どうして……アンちゃん……」
まさか杏奈が、アサクラもろとも私を毒殺するとは思いもしなかった。
頭が重たい。指先から脊椎にかけて、痺れるような感覚がした。
まだ私は少量しか飲んでいない。早くここから逃げなければ。
そう思い、席を立った時。
「こんにちは。南帆ちゃん」
振り返ると、背後に美しい女性が立っていた。その顔に微笑みを湛え、しかし目は笑っていなかった。
「赤星杏奈……」
彼女の手が私の首に伸ばされたと思うと、何かが弾ける音、空気が割れるような音が聞こえた。
目の前に閃光が走り、首筋に焼けるような痛みが走ったと思うと、辺りが暗くなり、体から力が抜けていった。
* * *
目が覚めると、私は窓のない部屋にいた。私は全裸で、手足を拘束された上、体を椅子に縛り付けられている。
その私の前にはランジェリー姿の杏奈。手袋とレインブーツを履いている。杏奈はナイフを手に、その刃に自身の顔を映して、うっとりと微笑んでいた。
ここに至るまでの、軽率で短絡的な過去の自分に、呆れるどころか怒りさえ覚えた。
頭の中に何か詰め込まれているような、重く鈍い痛みがあった。どれだけの時間、意識を失っていたのか分からないが、無理な姿勢をとらされて、肩や腕、関節や筋肉が痛い。
「私、春が嫌い。桜が嫌い。散った花弁が腐臭を放つから。花の匂いが嫌い。排泄物の臭いに似ているから。夏に向けて暑くなって、羽虫がわいてくるから嫌い」
杏奈はナイフを手にしたまま、私に視線を移す。
「うるさい蝿が私とサヨちゃんの周りを飛んでいる。どんなに過去を変えてもわいてくるんだね。南帆ちゃん。いい加減もう、私たちの前に現れないで」
「……どうして、こんなことするの?」
彼女が私を殺すつもりだということ、そしてそれは実行されることを私は理解した。
「邪魔だからだよ。私たちの人生に、あなたは邪魔」
「私はただ、小夜子のことが心配だっただけ。あなたと小夜子を引き離そうとなんてしてない」
「うるさい、このメスブタクソビッチ! あんたがサヨちゃんを誘惑するから、こんなことになったんだろうが!」
杏奈は目を見開き、声を荒げる。突然向けられた巨大な憎悪に、私は息を呑んだ。彼女の美しかった顔は、さながら道成寺の清姫が蛇身の怪物へと変貌したように、目と歯を剥き出して、恐ろしい形相に豹変した。
しかしそれは一瞬で、何事もなかったかのように、穏やかな笑顔になる。
「カオちゃんも手懐けて、本当に南帆ちゃんは油断できないな」
「カオちゃんって、アサクラさんのこと? 彼女はどうしたの?」
「カオちゃんは無事だよ。眠っているだけ。あの子、薬に耐性があるから。二、三日したら起きるんじゃないかな」
そんなものを私や彼女に飲ませたのか。
「友達じゃないの?」
「友達だよ」
杏奈は不思議そうな顔をしていた。
イスカの倫理観も壊れていたが、杏奈はそれ以上に邪悪だ。
「それよりも──こんなこと言っても、あなたには分からないと思うけど。もともとは南帆ちゃんが悪いんだよ。あなたが私からサヨちゃんを奪ったから。私の大切な、何よりも大切なサヨちゃんを」
「何の話をしているの? 私と小夜子はただの友達だけど」
「それはこの世界線、時間軸での話。南帆ちゃんには分からないし、覚えていないだろうけど」
私は彼女が何の話をしているのか分かった。そして彼女もまた時を移動できると確信した。
「私はね、過去を変えることができるの。馬鹿なあなたに、分かりやすく説明するつもりはないけどね。その過去であなたは、私からサヨちゃんを奪った。だから私は過去を変えた。何度も何度も何度も。そしてようやく、サヨちゃんを手に入れた」
「あんたが私から小夜子を奪ったのか」
私は本来死ぬはずだった。しかし小夜子と付き合っていた過去がなくなったことで、生きている世界線に変わった。それはこの女の仕業だった。そのことを憎むべきか感謝すべきか。
「奪ったのはあんただろうが!」
再び杏奈は鬼のような形相で吠える。
「あんたさえいなければ……いいえ、あなたのおかげで私はサヨちゃんへの本当の気持ちに気づけた。そのことには感謝している。だけど、もういらないから殺すね」
杏奈はナイフの先を私に向けた。
理屈は別として、杏奈が私を殺す理由は分かった。
「ねぇ、私は小夜子とよりを戻そうと思っていない。あなたたちの邪魔をするつもりもない。だからこんなことはやめて」
「この世界で起こる出来事、未来や運命といったものは、それ自体に整合性を保とうとする、修正する力があるんだ。こうしてあなたが再び私たちの前に現れたことが、それを証明している。あなたの意思がどうとか関係ないの。私は運命を拒む。私自身の手で運命を拓く。サヨちゃんは私だけのもの。誰にも渡さない」
「あんた、まともじゃない……。どうしてそんなに小夜子に執着するの?」
「サヨちゃんはね、私の光なの。私の孤独の闇を照らしてくれる、たった一つの光。サヨちゃんは私の孤独を癒してくれた。サヨちゃんの絵を見たことある? 私、彼女の描いた深海に沈んでいく絵が一番好き。あの絵を初めて見た時、息のできない、凍てつくほどの孤独を感じたの。ああ、この子も私と同じなんだって」
「小夜子は孤独なんかじゃない。あんたと違って、私や英美香さんみたいな友達がいる」
「それじゃ、これでサヨちゃんも私と同じだね」
杏奈はナイフの先を、私の胸に押し当てた。
私は息を呑んだ。高所に立った時のような、下腹部が締め付けられるような感覚がした。
切っ先が皮膚を裂き、赤い雫が生まれ、私の肌に軌跡を描いて滑り落ちる。
「……英美香さんに何したの?」
「少なくともあなたより苦しむことはなかったよ」
本当の私は虹架の実験室で、あの機械に頭を突っ込まれて死んでいるはず。そしてイスカによって蘇生される約束になっている。こんな悪夢のような未来から今すぐ目覚めたかった。
「ただこのまま殺してもつまらないんだよな。そうだ、ゲームをしようか。南帆ちゃん、私に聞きたいことがたくさんあるみたいだから。私が南帆ちゃんの質問になんでも答えてあげる。訳も分からないまま死にたくないでしょ? その代わり、一つ質問するたびに、一回刺す。痛いのが嫌で質問をしない場合、十秒ごとに一回刺していくから、聞きたいこと聞いて死んだ方がお得だと思うよ」
杏奈の手慣れた様子から、英美香にしても、人を殺すのは初めてではないのだろう。
「じゅう、きゅう、はち──」
杏奈がカウントを始める。
それに急かされたわけではない。彼女には聞かなければならないことがたくさんある。
「……小夜子は、小夜子は無事なの?」
「はい、一回!」
杏奈が腕を振りかぶる。次の瞬間には、勢いよくその腕は振り下ろされた。私はただそれを眺めていることしかできなかった。ナイフは私の左の太腿の上に突き立つ。皮膚と肉を切り裂き、骨に当たって止まった。
「ああああ!!」
私の体に深々と突き刺さった、焼けるような痛み。あまりの痛みに下唇を噛んで堪える。爪が突き破りそうなほど強く掌を握った。体中が強張り、うまく息を吸うことができなかった。
「う、あぁ……」
杏奈がナイフを引き抜く。ナイフは私の血で赤く塗装されていた。私に穿たれた裂け目から、生温い赤い液体が滲み出し、瞬く間に溢れ出した。
どうして彼女はこんなことをするのか、できるのか、私には理解できない。
「サヨちゃんは無事だよ。そんな当たり前のつまらないことより、もっと質問は選んだ方がいいよ。致命傷じゃなくても、痛みや出血のショックで意識を失うことがあるから。そしたらわざわざ起こしてあげないよ。それに私がどこを刺すかは気分次第。次には心臓を刺すかもね」
なんかこんなおもちゃがあったなと、ひとごとのように思った。
「次の質問は?」
刺されると分かって質問をするのは怖かった。たとえこれがシミュレーションや幻覚、悪夢だとしても、痛みは実際に感じる。そしてこれは未来で本当に起きたこと。
「じゅう、きゅう──」
杏奈が再びカウントを始めた。
ぎりぎりまで質問しなければ、苦痛を遠ざけることができるだろうか。あるいは長引かせるだけだろうか。
奥歯が震えた。漏らしそうだった。
とにかく私は質問を重ねて、なぶりものになる選択肢しかない。
「……小夜子はどこにいるの?」
「言っておくけど、本気だから」
次に杏奈は、ためらう仕草もなく、私の腹部にナイフを突き立てた。
「うぐぅ!」
焼けた火箸を突っ込まれたような気分だった。痛い、熱い。腹の中をかき混ぜられているような気持ち悪さがあった。
「あぁ……」
掠れた声が喉から漏れる。
もう私は助からないことを、分かっているつもりだったが、ようやく本当に理解した。
「南帆ちゃんは皮下脂肪が厚いみたいだから、見た目の出血が少なくても、そのうち内出血で命を落とすよ。それに今のは臓器に達したと思う。仮に今から救急車を呼んでも間に合わないし、もしそうなったら確実に息の根を止めるから」
「質問に答えて……そういうルールでしょ……」
「……あなたがカオちゃんに連れられていった部屋の、隣。そこに私とサヨちゃんは住んでいるの。まあこの時間軸では、ってだけだけど」
小夜子の居場所は分かった。死んでもとの時間に戻れば、イスカが小夜子のことを解決してくれることになっている。そのため、この情報が役に立つか、必要かは分からない。
それでも、怖い、痛い、苦しいけれど、イスカが本当に約束を守るか分からない。この未来を変えるための情報を少しでも持ち帰りたかった。
それに彼女が、一思いに私を殺してくれるとも思えなかった。
「……あんたはどうやって過去を変えたの?」
「なにその質問」
杏奈は無表情で、再び私の腹部を刺す。
「げぇっ──」
痛みよりも気持ち悪さと、衝撃で、私は嘔吐した。黄色い液体が口から出た。血は混じっていない。まだ胃は刺されていないらしいが、それ以外の重要な臓器がすでに破壊されたことは分かっていた。
項垂れた形になって、私の足元に血溜まりができているのを知った。彼女がレインブーツを履いていたのはこのためか。
「汚いなぁ」
杏奈が私から離れる。
「こんなことあなたに話しても分からないと思うけど、私はある実験装置で何百回も時間を遡ったの。そのせいで私は装置に頼らず、自分で過去に戻れるようになったんだ。普段は薬で抑えているけどね。だからその薬を飲むことをやめれば、私は過去に戻ることができる。仮にあなたを殺して、それが露見しても、私はなかったことにできるんだよ。もちろん、犯人だとバレないように殺し直すだけだけど」
それだけ過去を変えて、なぜ彼女はイスカに見つからなかったのだろうか。私より先にイスカが杏奈を見つけていたら、イスカは私ではなく杏奈に関心を持ち、こんなことにはならなかったかもしれない。
「……最初に過去に戻ったのはどうやって?」
杏奈は私の左肩を切りつける。その痛みは切られたというよりも、鞭のようなものに打たれたような、燃え広がるような感覚だった。
「そっちに興味があるんだ。普通は信じないと思うけど。まあ、せっかくだから教えてあげる。私の高校時代の友達に虹架ちゃんって子がいてね、その子が過去に戻る研究をしていたんだ。私はその被験者で、実際に過去に戻ることに成功した」
「そのことを、その人は知っているの?」
「知らないよ」
杏奈は返す手で、もう一度私の左肩を切りつける。
「毎回殺してたから。それに私が過去を変えたことで、虹架ちゃんに会いに行くという事実がなくなるから、そのこと自体がなかったことになっているはず。私、思うんだけどね、時間っていうのはそれぞれに相対的に流れているだけじゃなくて、もっと柔軟で、立体的なものだと思うの。時間というのは泡のようなもので、私たちはその膜の上を移動しているんじゃないかなって。その膜上には無数のルートがあるけれど、泡の接する点や面で時空は収束するから、結果はあらかじめ決まっている。だから私はその運命に抗って、未来を切り拓くんだけどね」
「……過去を変えられるのに、どうして小夜子の事故を防いであげないの?」
それに杏奈は意外そうな顔をしたあと、大声で笑いだした。ひとしきり笑うと、無表情で私の腹部を刺す。痛みよりも、ぶつかった衝撃で声が漏れた。
「だってサヨちゃん、いつも死んじゃうんだよ。目を離すと、いつも死んじゃうんだ。だから私から離れられないように、手足をね、切ったの」
「は?」
「もちろん無駄になんてしてないよ! だってサヨちゃんの体の一部だもん! 全部ちゃんと私が食べた」
杏奈は愛おしそうに自らのお腹を撫でる。
「狂ってる……」
彼女の言葉はすべて鵜呑みにはできない。しかし嘘を言っているようには思えなかった。彼女は限りなく正気で、狂っている。
「小夜子が失踪したのは、あんたが誘拐したから?」
「そう」
右胸を刺された。肋骨で止まる。もう痛みもろくに感じない。骨に当たった衝撃の方が強く感じた。
「小夜子を自分だけのものにするために?」
「そう」
杏奈は私の左肩から右脇にかけて切りつける。どうせもう助からない。痛みに怯えて、彼女を喜ばせるのが腹立たしかった。せめて無感を装う。
「……小夜子の手足を切ったのも?」
「そう。私」
腹部を刺される。私は再び嘔吐した。今度は大量の血だった。
「うぇ、げぇ……」
口の中に生臭くどろどろした、不快な感覚が広がった。
「どうしてそこまで……」
しなければならないのか。することができるのか。
「私がサヨちゃんを守るんだ」
杏奈のナイフは私の左胸を切り払った。
「うぅ……」
私の体は血まみれで、血は体温と一緒に流れ出していった。体の芯から凍てついていく。
「こんなの間違っている……」
「それを決めるのはあなたじゃない」
早くこの悪夢から覚めたい。視界が暗くなっていくことから、幸いにも死が近いらしい。こんなにも死にたいと思ったことはあっただろうか。
「……どうやったらあんたを殺せる?」
答えるとは思えないが──
杏奈は私の右の太腿にナイフを突き立てた。
「あぁ……」
私の力ない声に、杏奈は楽しげだった。彼女は屈み、微笑んで、私の傷口をなでながら、私の顔を見る。
「無理だと思うな。たぶん死んだ瞬間に、私の意識は過去に戻るから。その出来事を回避することができる。もしも南帆ちゃんが、私が時間遡行の能力を手に入れる以前に戻って、私を殺すことができたら殺せるかもね。まあ、念のための保険はかけてあるけど」
「……そう……教えてくれてありがとう」
杏奈は得意げに教えてくれた。
彼女は私が時間を移動できること、過去から未来に、今この時点に来ていることなど、思いもよらないようだった。
イスカの存在にも気づいていない。イスカを過去に送り込んで赤星杏奈を殺してもらう。果たしてイスカがそれを承諾するとは思えないが。
仮に小夜子を杏奈から引き離すことができたとしても、この女は何度も過去に戻り、小夜子や私に同じことをするに違いない。
赤星杏奈は殺さなければならない。
もう一つ、彼女に弱点があるとしたら、アサクラの存在だろうか。
いったいアサクラは何をつくっていて、なぜそれが必要なのか。
「じゅう、きゅう、はち──」
杏奈のカウントが遠く聞こえた。
「……くたばれ、このクサレサイコビッチ」
声に出せたかは分からない。私の意識は暗転した。
◇ ◇ ◇
目覚めると、頭を固定され、筒の中に入れられていた。轟音が鳴り響いている。
私は必死に起きあがろうとする。手に何か持っていた。それが何か思い出せなかったが、無意識にスイッチを押した。緊急時の停止スイッチだった。
検査台が降りる。
駆け寄ってくる音がした。
「何があった?」
その低い、澄んだ声は虹架だ。
私は固定具を乱暴に外し、起き上がる。
虹架の細い腕が私の背を支え、もう一方の手で私の手を握ってくれる。
「落ち着いて。深呼吸して」
私は縋るように虹架の手を握り返した。
戻ってきた。私は生きている。そのことをようやく理解した。
「どうだった?」
イスカが微笑んで、私を見ていた。
私は彼女を睨みつけた。
「小夜子の問題を解決してくれるって約束したよね」
「ええ」
「赤星杏奈を殺して。過去で」
それにイスカは少し困ったような顔をした。
「別にいいけど。その前に、未来で何があったのか教えて」
そのことをイスカに話す理由を感じなかったが、虹架に確かめたいことがあった。
虹架を見ると、相変わらず何の感情もない、氷の美貌がそこにあった。イスカや杏奈に比べたら、よほど親しみやすく感じられた。
虹架が言う。
「話はここを出て、いったん落ち着いてからにしよう」
私は虹架に促されて立ち上がる。足が震えて、一人で立っていられなかった。虹架に支えられながら、実験室を出る。
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個人的に好きなタイプの人物や、設定をむちゃづめにしているので混沌としておりますが、全力で運命を切り拓こうとする彼女たちを、これからも応援していただけますと幸いです。
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そしお