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第二章
第十話
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朝起きると隣に音瑠がいた。目を瞑り、静かに寝息をたてていた。
彼女がなぜ隣にいるのか、私は意味が分からず、思わず跳ね起きる。するとブランケットが滑り落ちて、私の裸が露わになった。それに私はさらに動揺した。
しかしすぐにこれが、私自身が招いた結果であることを思い出した。
私が慌ただしく起きたことで、音瑠がゆっくりと目を開く。少しだけ驚いたようだった。
音瑠はそのままの姿勢で私を見る。
「南帆ちゃん、おはよう」
私は思わず、何か悪態を吐きそうになったが、幸せそうに微笑む彼女を見てその気も失せてしまった。
音瑠が起き上がる。彼女の乳房が、裸身が露わになった。朝の日差しの中で、きめ細やかな肌が光って見えた。
「朝ご飯、準備するね」
甘えたり抱きついてきたり、彼女面されるかと警戒したが、意外とあっさりしていて拍子抜けだった。
音瑠は床に散らばった、昨夜脱ぎ捨てた服を拾い、寝室を出ていく。その後ろ姿を私は見守った。くびれた腰のライン、柔らかいお尻の形。彼女の体を見て、私の体を許したというよりも、彼女の体を好き放題した感慨を思い出した。
今日の朝食はいつもより遅い時間だった。
私はリビングで、音瑠が朝食を作るのを見守っていた。いつも彼女は私が起きてくる頃には準備を済ませて、待っていてくれた。
「何か手伝おうか?」
「平気だよ。南帆ちゃんは待ってて」
いつも音瑠任せで申し訳ないが、そのまめまめしい様子に、いい嫁になるだろうなと、ひとごとのように思った。
私は手持ち無沙汰で、部屋の中を見回すと、作業スペースには音瑠の作品が増えていることに気づいた。額装されたものがいくつか立てかけられている。私が気づかないうちに、音瑠は展示用の作品の準備を進めていたようだ。
ふとイスカのことを思い出す。次に会うのは三日後と言っていた。一夜明けたので、明後日にはまた会う羽目になる。あまり見る気にもならなかったが、来てるであろうイスカの連絡を確認する。
通知を確認すると、イスカからの連絡はなかった。
ただ昨晩、いろいろなことがありすぎて、入谷先生から連絡が来ていたのを見落としていた。
『西塚さんのお母さんも、蛍野さんとお話がしたいそうです。連絡先を添付しておくね』
私は失礼なことをしてしまったと、恥入り、慌てて入谷先生にお礼を送った。
今日の朝食はオムレツとサラダ、インスタントのオニオンスープだった。そして普通の水が出された。イスカの毒茶ではなくて安心した。
「ごめん、パン切らしちゃった……」
「いいよ。あるもので」
私は和食派なので、別にパンがなくても構わなかった。今度改めて、白米が食べたいことを彼女に教えておこう。どうにも彼女との付き合いは長くなりそうだ。
「いただきます」
「うん!」
私がオムレツを箸で割っているのを、音瑠は微笑んで見ている。
「なに?」
「なんでもない」
そう言って音瑠も食器を手に取る。
もう少し彼女面してくるかと思ったが、意外と奥ゆかしい。
昨夜のことをどう思っているか、聞くのは野暮だろうか。それよりも私がどうしたいか伝えるべきだろう。
「音瑠ってどこで寝てるの?」
「え?」
「私が今、寝室使ってるじゃん。音瑠はどうしてるの?」
「そこの作業スペースで、マットレス敷いて」
「体壊さない?」
「もともと納期近い時とか、詰め込んでる時とかはそうしてたから」
「別に今忙しくないなら、今日から一緒に寝れば?」
「え?」
「忙しいなら別にいい」
これでは一度寝て彼女面しているのは私の方だ。私はもうこの会話を終わらせることにした。
音瑠は少しして、
「うん。そうする」
と、嬉しそうにうなずいた。
朝食を終えて、彼女が作業を始める。
私はいつも寝室に引きこもっていたので、彼女の作業している姿を見たことがなかった。
彼女の作業風景でも観察しようかと思ったが、先方を待たせては失礼なので、入谷先生から教えてもらった、小夜子のママへ連絡をしなければならない。
もしかしたら退学した大学側に伝えられていないだけで、小夜子はすでに見つかっているのではないかと思ったが、この世界でも小夜子はまだ行方不明のようだ。
私は集中したいので、一人で寝室に戻って、小夜子のママに送る文面を考える。
『はじめまして。突然の連絡で申し訳ありません。私は小夜子さんの大学の同期だった、蛍野南帆と申します。この度、連絡させていただきましたのは、当時の小夜子さんのことをお尋ねしたく思ったからです』
アンナが怪しいこと、偶然小夜子と再会したことなど、確証がないことは言えない。
『大学時代、小夜子さんには大変よくしていただきました。どうしても彼女の、何か手がかりとなるものがないか知りたく、一度お宅に伺わせていただき、お話をさせていただけないでしょうか? あまり快くないかと存じますが、何卒よろしくお願いいたします』
娘が行方不明になっている母親に対して、好奇心からの野次馬と思われないよう慎重に言葉を選んだつもりだったが。
せめて小夜子が失踪の際、残したとされる書き置きが見たかった。
そしてアンナの情報も知りたい。彼女が小夜子と中学の同級生なら、地元が同じ可能性が高い。アンナも近くに住んでいるか、彼女の実家があるかもしれない。そんな目と鼻の先に小夜子が監禁されているとも思えないが。
送信した後、本当にこれでよかったのか、もやもやしながら読み返していた。
送ってからしばらく経つと、小夜子ママから電話がかかって来た。私は急いで出た。
「はい、蛍野です」
『いきなりごめんなさい。小夜子の母です』
「こちらこそ急な連絡ですみません。小夜子さんと大学の同期だった蛍野です」
『あの子のこと、気にかけてくれてありがとう』
「いえ。こんな五年も経って、今更すみません」
『ううん。当時、大学側から、ほかの学生の学業の妨げになるから、学生には教えないように言われてて。私もあの子のせいで、これ以上ほかの人に迷惑をかけたくなかったから。黙っててごめんなさい』
「そうだったんですね……」
『小夜子の行方が分かるようなものはないけど、一度来てくれたら嬉しいわ』
「ありがとうございます。それで、小夜子の書き置きがあったと思うんですが、見せてもらうことはできませんか?」
『それぐらいなら写真で送るけど』
それで用事を済ませるのは申し訳ない気がした。
それに書き置きから分かる情報は限られている。小夜子自身が残したものか、誰かが偽造したものか程度だろう。もし誰かが偽造したものなら、それはアンナかもしれない。
小夜子とアンナの関係、アンナについて聞きたいが、それを今ここで聞くのは不自然だ。実際に会って話すことで、会話の中で聞き出そうと思った。それに小夜子ママが気づいていない、私たちが見落としているものがあるかもしれない。
ここまで真剣に考えて、もう小夜子のことから手を引くべきだということは、頭では分かっていた。
ただイスカが次に会うのを二日後に指定した以上、少なくともその日まで私が死ぬことはない。イスカのことは信用できないが、彼女の企みは分かっている。
それに小夜子が失踪した原因が分かれば、約束通り、イスカにそのことを教えて小夜子を助けさせればいい。
それまでは小夜子について調べることにした。
あまりラフな格好で行っても失礼なので、シャツにパンツスタイルで、上に音瑠のカーディガンを借りた。
音瑠の方が背が高いのに細身なので、私が着ると胸回りがきつかった。カーディガンの前のボタンを留めるのは諦める。
私の試行錯誤を、音瑠は鼻息荒く見守っていた。
「南帆ちゃんて胸大きいよね……」
「うるさい」
昨夜散々弄んだくせに、音瑠は初めて見るような面持ちだった。
「私も一緒に行く」
「私一人でいい。音瑠は自分のことしてて」
「でも……」
「ちょっと行って帰ってくるだけ」
尚も音瑠は心配そうに、じっと私の顔を見てくる。
「それに音瑠は私の命綱だから。音瑠がちゃんと仕事してくれないと私が困る」
「うん、分かった……」
この音瑠は、私が死ねばどうするだろうか。別に後を追ってほしいわけではない。
イスカは音瑠を大切にするように言った。音瑠が未来でも生き続けるから、私はその未来に引きずられて生きている可能性がある。
指を切断し、私が死んだ世界の音瑠は、あの後どうしたのだろうか。死を選んだから、その世界がなくなり、この世界になったのか。
そう思うと、過去を変えたのは私ではなく、音瑠だったのではないだろうか。ただ彼女には、私のような二重の記憶はなかった。
「帰りの時間、連絡するから。そしたら駅まで迎えに来てよ」
「うん……」
「ちょっと屈んで」
私は目線より少し高い、音瑠の頬を両手で挟む。私は音瑠にキスをした。
それに音瑠は驚いたように、その吊り目がちの目を、大きく見開いていた。
「帰ってきたら、またしてあげるから」
「はい……」
音瑠はぼんやりとした顔で、微かに頬を赤らめて、私を見ていた。
私は小夜子のことを、音瑠に知られたくないと思った。私自身も、もうこれで手を引くつもりだ。中途半端にしたものを片付けにいくだけ。
私はまだ素直に音瑠を愛せてはいないけれど。もう一度誰かを、心の底から愛せたらと願っている。
こんな身勝手な私に、最悪な音瑠はちょうどいい。
私には音瑠を傷つけていい理由がある。音瑠には私を好きにしていい資格がある。
私たちは釣り合いがとれている。
* * *
バスや電車を乗り継いで片道三時間ほど、午後二時頃、小夜子の実家に着いた。
彼女の生まれ育った街を一人歩いて、変な気分だった。本当なら彼女と二人で歩く世界があったかもしれない。それなのに行方不明になった彼女のことを知るため、私は一人で来た。どこか非現実的な違和感がつきまとった。
インターフォンを鳴らすと、小夜子のママが出迎えてくれた。顔立ちや目元が小夜子に似ていた。彼女も歳を取ったらこんな感じだろうか。
「初めまして、蛍野です」
「小夜子のためにわざわざありがとう」
「いえ、こちらこそ。お時間をいただきまして、ありがとうございます」
こんな形で小夜子の実家に行くことになるとは、いつか交際していることを二人で報告できたら、などと夢想していた頃には思いもしなかった。
私は小夜子ママの案内で家に上がり、リビングに通される。
築年の経った家だった。歩くと床が小さく軋んだ。
高校生の時まで猫を飼っていた、そう小夜子が言っていたのを思い出した。猫がいた痕跡を探してみると、壁に爪を研いだような傷が少しだけ残っていた。
「どうぞ座って」
「失礼します」
私は椅子に座る。テーブルの上には茶菓子と、緑茶の入ったガラスポットが置いてあった。
「冷たいお茶でいい?」
「はい、いただきます」
久しぶりに普通の味がするお茶だった。嬉しくなって、一口で半分ほど飲んでしまった。
「あの子のためにわざわざごめんね」
「いいえ。遅くなってしまい申し訳ないです」
「当時は、すぐに帰ってくると思っていたから。私も大ごとにしたくなかったの。まさか五年近くも音信不通だなんて」
「私も。急に連絡が取れなくなって、驚きました。まさかこんなことになっていたなんて」
手足を失った、車椅子の小夜子を見たことは、まだ口にできなかった。
「それで小夜子の書き置きだっけ?」
「はい、見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ」
それはクリアファイルに入れて保存されていた。A4の紙に印刷されたもので、ほんの四行程度、ほとんどが余白だった。
小夜子が失踪する際に残した書き置き──
『私は一身上の理由により、ここに失踪を宣言いたします。多大な心配と迷惑をおかけするのは心苦しくありますが、失踪後の生活など確保してありますので、ご心配なきよう、何卒探さないようお願いいたします。西塚小夜子より』
パソコンで入力した文章を印刷したものだった。なんとなく小夜子が書いたものではない印象を受けた。当時の小夜子がこんなお堅い文章を書くか、ましてや彼女が気を回したような文章を書くとは思えなかった。それにわざわざ印刷する手間もかかっている。
私の知っている当時の小夜子なら、『失踪します。探さないでください』ぐらいのことしか書かなさそうだった。それも手書きで。
「このデータって小夜子さんのノートパソコンに入っていましたか?」
「確かなかったと思うわ。手がかりがないかパソコンの中も見たんだけど、あの子の行方に関係ありそうなものは何も」
彼女の家にはプリンターがなかった。コンビニか大学でプリントしたのだろうが、わざわざそんな面倒なことをするとは思えない。
「小夜子さんが失踪した時、なくなっていたものは何かありませんでしたか? あるいは残していったもので、普通なら持っていきそうなものとか」
「スマートフォンはなくなっていたのと、解約されていたわ。あとは着替えがほとんど残ったままで。口座のカードも置いたままで、今でも引き落としもされないでそのままになっているわ」
もし私が失踪するとしたら、痕跡を消すためにキャリアは解約するだろう。ただ口座のカードを置いていくにしても、中身を引き出して、用済みになったら置いていくかもしれない。
もし事件に巻き込まれたとしたら。カード類は持ち去られるかもしれない。そのままにしてあるということは、お金が目的ではないことになる。これが偽装された失踪なら、小夜子を連れ去ることが目的ということになる。
ただ仮にアンナが犯人だとして、恋人同士なのに、わざわざ誘拐する必要はあるだろうか。
それならば二人で駆け落ちしたのか。
「今更ですが、小夜子さんが特に親しくしていた人とか、何か事情を知ってそうな人はいませんでしたか?」
「あの子、あんまり自分のことを話さないから。でも、中学の時、クラスメイトだった子とは、高校は別だったけど、ずっと仲良かったみたい」
「その人って、アンナっていう名前じゃないですか」
「そうそう、アンナちゃん。あの子の中学の時の友達で、とても仲良くしていたみたいだけど。高校を卒業した時、二人で旅行に行ったり」
その口ぶりから二人が交際していたことは知らない様子だった。
仮に親に交際を反対されて、駆け落ちをするとしても、相当追い詰められていたはず。反対に遭ったとしても、大学を卒業して自立してから、生活基盤を遠く離れてつくって、二人で生活すればいい。わざわざ失踪する必要があるか疑問だ。
それに直前の小夜子に、何か思い悩む様子や、覚悟を決めたような感じはなかった。
「彼女は今?」
「大学を卒業して、就職して一人暮らしをしてるらしいけど、今どうしているかは分からないわ」
「そうですか」
アンナも小夜子と同時に失踪したわけではなく、アンナはこちらに残って生活しているようだった。二人同時に失踪していれば、周囲も理由に見当がつきそうなものだ。もしかしたらアンナの方に、あるいは彼女の家庭に、何か問題があったのかもしれない。
とにかく小夜子は今、そのアンナのところにいる可能性が高い。アンナの居場所を突き止めて、何があったのか事情を聞き出すか。それよりも有無を言わさずイスカに過去を変えてもらうか。
「アンナちゃんがどうかしたの?」
「いえ。以前、小夜子さんから親しくしているという話を聞いたので。何か知っているかなと」
「そうだったの。アンナちゃんも小夜子の失踪した理由は分からないって。すごく心配してくれて、気にかけてくれていたわ」
私はアンナに、非常に白々しいものを感じた。ほかでもないアンナが小夜子と一緒にいるというのに。
「アンナさんの連絡先か住所を教えてもらうことできますか。一度、彼女にお会いしたいと思っていたので。小夜子さんが失踪する直前、三人で会う約束もしていたんです」
「そうだったの。何か分かるといいんだけど。ただアンナちゃん、大学卒業と同時に引っ越しちゃったから、住所までは分からないの。実家の住所は、当時の学校関係の書類とかあれば分かるかも」
「そこまでは悪いです。向こうにも迷惑かもしれないですし」
食い下がるべきか、私の中に迷いがあった。ただこれ以上、周りを巻き込めば引き返せなくなる気がした。ここまでにしよう。
「ただ連絡先なら分かるわ」
「それだけ教えてもらってもいいですか? 私から連絡してみます」
小夜子ママにアンナの連絡先を送ってもらった。
そこにはANZUのアカウントがあった。
やはり私が会ったのは幻覚などではなく、現実だったのだ。
私はANZUを登録しようとして思い止まった。
もし連絡して、またアカウントを消されては困る。それに小夜子ママに危害が及ぶかもしれない。
またこの過去をなかったことにするためには、アンナがイスカと同じように過去を変えることができるとしたら、私の今日の行動をなかったことにしなければならない。
イスカの話が本当なら、アンナは私を殺すかもしれない人物。もしかしたら今日のこの出来事をなくすために、アンナは私を殺すのかもしれない。
私の中でアンナはすっかり邪悪な人物となっていた。
私はこれ以上アンナのことを、小夜子ママから聞き出すのが躊躇われた。
それから私たちは、大学当時の小夜子のことを話して盛り上がった。私も彼女の過去のことを聞いた。小学生の時はどんな子だったか、幼い頃は何をして遊んでいたか。
しかし私は体力が限界に近づいてきたのでお暇することにした。
「お力になれず申し訳ありません」
「いいえ。小夜子のこと、気にかけてくれてありがとう。もし何か気づいたことや、手がかりが分かったら教えて」
「はい」
彼女に手足を失った小夜子のことを伝えられないのは心苦しかった。
* * *
体力が落ちているせいか、薬の副作用か。目眩と吐き気がつきまとう。頭が重たい。
西塚家を出て、私は駅に向かう。ここからタクシーで帰ると三万円ぐらいになるが、電車なら片道千五百円ぐらいで済む。もったいなく感じて、最寄駅までは頑張ろうと思った。それに最寄り駅に着いたら、音瑠に迎えにきてもらう約束をしていた。
そんなことを考えながら、駅に向かう途中、私は買い物帰りと思われる一人の女性とすれ違った。彼女の手には白いビニール袋に詰められた、食材が顔をのぞかせていた。
私はその女性に見覚えがあった。
実際に会ったことはないが、小夜子の高校の卒業アルバムで見た、親友だったという女性に似ていた。
「英美香は小学校からの親友で、高校まで一緒だったんだ」
印象は変わっていたが、細い目に、薄い顔立ち、典型的な弥生顔に、私は彼女のことをよく覚えていた。直感的に彼女がそうではないかと思った。
私は思わず呼び止める。
「英美香さん?」
「え? あ、はい。そうですけど」
英美香は驚いたように振り返り、怪訝そうに私を見た。
「えっと、どこかで会ったこと──」
「あの、私、小夜子の大学の同期で、蛍野といいます」
「え、そうなんだ! え、どうして私のこと知ってるの?」
「前に小夜子に卒アル見せてもらったことがあって。その時、小学校からの親友だって、英美香さんのこと教えてくれたから」
「へー、そうなんだ。そっか、西塚が」
「お忙しいところ呼び止めてしまってすみません」
「いえいえ。蛍野さんって、もしかして下の名前、南帆さん?」
「そうです」
「あ、やっぱりそうなんだ! 西塚が音信不通になる前に、四人で遊ばないかって連絡がきて。私と西塚と、アカホシさんに蛍野さんの四人でって。ただ私、家のことが忙しかったからさ、断っちゃって。心残りだったんだ」
「そうだったんですね」
アカホシとはアンナの名字だろうか。
「それでどうしたの? こんなところに」
「あの、小夜子のことで知りたいことがあって、小夜子のお母さんのところに」
「そうなんだ! まだ西塚のこと気にかけてくれてる人がいて嬉しい」
英美香は涙ぐんでいた。もう手を引くつもりだったのに、軽率に声をかけたことを後悔した。
「もしよかったら、近くでお茶してかない? あんまり長居できないけど。三十分ぐらいしか」
「はい、ぜひ」
私も体力がきつかったので、それぐらいならありがたかった。
どのみちイスカを使って解決するとしても、アンナが何者なのか情報は集めておきたい。
英美香はアンナのことを知っているはず。それとなくアンナのことを話題にしても不自然ではないだろう。
それに中学が同じなら、小夜子のママに聞くよりも、彼女に聞いた方が詳しく知ることができるかもしれない。
私たちは駅の近くのファミレスに入った。
ドリンクバーと、軽食にポテトを注文する。あまり冷凍食品は食べたくなかったが、変に思われたくないので黙っていた。何か私が失礼を働かなければ、病み上がりのことは言わないつもりだった。私のことに話題がいくのは時間がもったいないので避けたい。
「でもすごい偶然。会えてよかった」
「はい、本当に」
「蛍野さんって小柄だから若く見えるけど、私たちとタメでしょ? 敬語じゃなくていいよ」
「ああ、そのうち。直すね」
「まあ初対面だと普通敬語だよね。私、高卒だからさ。口悪いんだよね」
そう英美香は目を細めて笑った。
「さっき小夜子のママに会ったから、少し緊張してたのかも」
「そっか。それよりさ、蛍野さん、西塚のこと何か知ってるの? 家出というか、失踪した理由」
「いえ、全然。ただどうしても気になったことがあって」
「どんなこと?」
「小夜子の書き置き、見せてもらったんですけど、小夜子らしくないんですよね」
「それってどういうこと?」
「当時の小夜子にしてはしっかりしてるなって。文章長いし、すごいほかの人のこと気にしてるし。小夜子って、あまり周りのこと気にしないところありますよね。その小夜子が、迷惑をかけることを謝って、心配しないように念押しまで。なんか変だなって」
英美香は驚いた顔をしていた。
「確かに西塚って、よくいえば信念があって、悪くいえば頑固なところがあってさ。これと決めたら譲らないところあるから。だから思い切って失踪したのかなって思ってたんだけど。それで周りがどう思うかとか、どうなるかとか気にしない、マイペースな性格だったよね」
「そうそう! 友達としてならいいんだけどね。あんまり深い仲になると、振り回されるというか。こっちの気も知らないで、ってなるんだよね……」
「蛍野さんもけっこう振り回されたんだね。分かる」
私はこんなふうに、小夜子のことを共感してもらえて嬉しかった。
英美香も楽しそうだった。
「え、それじゃあ蛍野さんは、西塚が失踪したのは、西塚の意思じゃないって思ってるの?」
「まず書き置きが、パソコンで書いたやつを印刷したものだから。誰でも用意できる。ただ部屋の中に荒らされた形跡がないってことは、連れ去った後に侵入して書き置きを残したんじゃないかな」
「なるほど。それじゃ蛍野さんは、西塚が誘拐されたと思ってるの?」
「ただの私の妄想だけど。もしそうなら、犯人は金銭とかが目的じゃなくて、小夜子自身が目的。そして小夜子と親しくて、身近な人物だと思う」
「もしかして私のこと疑ってたり?」
「全然! そういう人に心当たりないかな、って思って」
「心当たりねぇ……」
英美香は腕を組んで唸る。
私は随分と遠回しな言い方で、暗にアンナが怪しいことを伝えていた。初めから名前を出せば、警戒されたり、先入観を与えてしまう。
もしも本当にアンナが怪しければ、英美香の中に心当たりがあるかもしれない。
「逆なんだけどね。アカホシさん──西塚が特に仲良かったやつなんだけど、西塚が失踪したあと、やけに薄情だなって思ったの」
「それは?」
「西塚とアカホシさん、あ、これ秘密なんだけどね、つか蛍野さん、その辺の事情も知ってそうだから話すけど、あの二人付き合ってたんだよね」
やはりアカホシはアンナのことのようだった。
「アンナさんのことだよね? うん。小夜子から聞いてる」
「よかった。親友の秘密バラすような感じになったらやだったから。それでね、西塚が失踪したあと、アカホシさん、まったく探そうともしなくてさ。口では心配だとか言ってるけど、心がこもってないというか、白々しい感じでさ。いなくなった途端、用がなくなったといわんばかりで。そんで私もむかついて、そっから彼女とは連絡もとってないんだけど」
「もしもその人が、小夜子が失踪した理由を知っているか、失踪に関与してたら?」
「そう思うと、筋が通るけどさ。アカホシさんが西塚を誘拐する必要も理由もないんだよね。西塚が邪魔になって殺した、でもなければ」
その言葉にぞっとしたが、そんなことがないのを私は知っている。
「駆け落ちしたとかは? たとえば、アカホシさんの家庭の反対に遭っていたとか」
「特に交際のことオープンにしてなかったけど、まあ確かに、あの家だったら、知られたら大変なことになるかも。バレて駆け落ちしたってなら、それもあり得そう」
「アカホシさんの家に問題があるの?」
「なんていうかあそこの家、新興宗教に入ってるんだよね。実は私の家もそうでさ。私自身は入ってないどころか、むしろ嫌ってるんだけど」
「宗教?」
「アカホシさんのところは、親が地区の幹部だからさ、相当厳しく躾けられたみたいだよ。本人はそんな感じ匂わせないけど、事情知ってると、ちょっと引いちゃうんだよね」
「その宗教だと、女性同士の交際に厳しかったりするの?」
「どうだろ。あんまり詳しく知らない」
「それでどんな宗教?」
「なんか人類が滅亡するとか。それを回避するために、精神的に進化しなければならないとか」
「人類の滅亡?」
私はイスカの話を思い出した。
英美香は自嘲するように笑う。
「ネビルとかいう太陽系の未知の惑星が、彗星を引き連れて地球に接近して、隕石になって降り注いで人類は滅亡するんだって。それを回避するには精神的に進化して、高次元の生命体だったかなんだかにならないといけないらしいんだ。うちの母親がハマっててさ、当時は毎日のように聞かされて、アホらしくて真面目に聞いてられなかった」
「なるほど……」
イスカも隕石によって人類が滅亡するようなことを言っていた。もしやイスカが教祖でもやっているのではないだろうか。
「アカホシさんも地元出て行ったからね。どっかで二人で暮らしてるなら、言ってくれればいいのに。水臭いな」
小夜子の事情ではなく、アンナの事情で、小夜子は失踪したのだろうか。しかしそれなら小夜子ではなく、アンナが失踪してもよかったのではないだろうか。そもそもの話をすれば、小夜子が失踪する必要性も理由も感じられない。
それに小夜子が協力的なら彼女自身の手で書き置きを残せばいい。口座の預金を残したままの理由も腑に落ちない。
そして小夜子の身に起きた手足を失うほどの事故。しかしそれだけの事故でニュースになっておらず、ニュースにならなくても、病院に搬送されるなりして身元が判明してもおかしくないと思うが。
あるいは順番が逆で、小夜子は失踪してから事故に遭ったのではなく、事故に遭ってから失踪したのか。それだと誰も事故に遭ったことを知らなかったことになる。そもそも事故ではないのか。
「ちょっとそれとなくアカホシさんに連絡してみるよ。まだつながってるか分からないけど」
「あ、気をつけて」
「え?」
思わず口にしてしまった。
「その、もし二人が事件に巻き込まれているなら、危ないかもしれないから。もし連絡ついたら私にも教えて」
「分かった! 軽く近況について聞くぐらいにしておく」
英美香は屈託なく笑う。
英美香であれば、小夜子のママが連絡するよりも不自然ではないだろう。止めるべきな気もするが、何か分かるかもしれない、そんな期待があった。
そして最後に、アンナの本名を教えてもらった。
赤星杏奈。それが彼女の名前だった。
彼女がなぜ隣にいるのか、私は意味が分からず、思わず跳ね起きる。するとブランケットが滑り落ちて、私の裸が露わになった。それに私はさらに動揺した。
しかしすぐにこれが、私自身が招いた結果であることを思い出した。
私が慌ただしく起きたことで、音瑠がゆっくりと目を開く。少しだけ驚いたようだった。
音瑠はそのままの姿勢で私を見る。
「南帆ちゃん、おはよう」
私は思わず、何か悪態を吐きそうになったが、幸せそうに微笑む彼女を見てその気も失せてしまった。
音瑠が起き上がる。彼女の乳房が、裸身が露わになった。朝の日差しの中で、きめ細やかな肌が光って見えた。
「朝ご飯、準備するね」
甘えたり抱きついてきたり、彼女面されるかと警戒したが、意外とあっさりしていて拍子抜けだった。
音瑠は床に散らばった、昨夜脱ぎ捨てた服を拾い、寝室を出ていく。その後ろ姿を私は見守った。くびれた腰のライン、柔らかいお尻の形。彼女の体を見て、私の体を許したというよりも、彼女の体を好き放題した感慨を思い出した。
今日の朝食はいつもより遅い時間だった。
私はリビングで、音瑠が朝食を作るのを見守っていた。いつも彼女は私が起きてくる頃には準備を済ませて、待っていてくれた。
「何か手伝おうか?」
「平気だよ。南帆ちゃんは待ってて」
いつも音瑠任せで申し訳ないが、そのまめまめしい様子に、いい嫁になるだろうなと、ひとごとのように思った。
私は手持ち無沙汰で、部屋の中を見回すと、作業スペースには音瑠の作品が増えていることに気づいた。額装されたものがいくつか立てかけられている。私が気づかないうちに、音瑠は展示用の作品の準備を進めていたようだ。
ふとイスカのことを思い出す。次に会うのは三日後と言っていた。一夜明けたので、明後日にはまた会う羽目になる。あまり見る気にもならなかったが、来てるであろうイスカの連絡を確認する。
通知を確認すると、イスカからの連絡はなかった。
ただ昨晩、いろいろなことがありすぎて、入谷先生から連絡が来ていたのを見落としていた。
『西塚さんのお母さんも、蛍野さんとお話がしたいそうです。連絡先を添付しておくね』
私は失礼なことをしてしまったと、恥入り、慌てて入谷先生にお礼を送った。
今日の朝食はオムレツとサラダ、インスタントのオニオンスープだった。そして普通の水が出された。イスカの毒茶ではなくて安心した。
「ごめん、パン切らしちゃった……」
「いいよ。あるもので」
私は和食派なので、別にパンがなくても構わなかった。今度改めて、白米が食べたいことを彼女に教えておこう。どうにも彼女との付き合いは長くなりそうだ。
「いただきます」
「うん!」
私がオムレツを箸で割っているのを、音瑠は微笑んで見ている。
「なに?」
「なんでもない」
そう言って音瑠も食器を手に取る。
もう少し彼女面してくるかと思ったが、意外と奥ゆかしい。
昨夜のことをどう思っているか、聞くのは野暮だろうか。それよりも私がどうしたいか伝えるべきだろう。
「音瑠ってどこで寝てるの?」
「え?」
「私が今、寝室使ってるじゃん。音瑠はどうしてるの?」
「そこの作業スペースで、マットレス敷いて」
「体壊さない?」
「もともと納期近い時とか、詰め込んでる時とかはそうしてたから」
「別に今忙しくないなら、今日から一緒に寝れば?」
「え?」
「忙しいなら別にいい」
これでは一度寝て彼女面しているのは私の方だ。私はもうこの会話を終わらせることにした。
音瑠は少しして、
「うん。そうする」
と、嬉しそうにうなずいた。
朝食を終えて、彼女が作業を始める。
私はいつも寝室に引きこもっていたので、彼女の作業している姿を見たことがなかった。
彼女の作業風景でも観察しようかと思ったが、先方を待たせては失礼なので、入谷先生から教えてもらった、小夜子のママへ連絡をしなければならない。
もしかしたら退学した大学側に伝えられていないだけで、小夜子はすでに見つかっているのではないかと思ったが、この世界でも小夜子はまだ行方不明のようだ。
私は集中したいので、一人で寝室に戻って、小夜子のママに送る文面を考える。
『はじめまして。突然の連絡で申し訳ありません。私は小夜子さんの大学の同期だった、蛍野南帆と申します。この度、連絡させていただきましたのは、当時の小夜子さんのことをお尋ねしたく思ったからです』
アンナが怪しいこと、偶然小夜子と再会したことなど、確証がないことは言えない。
『大学時代、小夜子さんには大変よくしていただきました。どうしても彼女の、何か手がかりとなるものがないか知りたく、一度お宅に伺わせていただき、お話をさせていただけないでしょうか? あまり快くないかと存じますが、何卒よろしくお願いいたします』
娘が行方不明になっている母親に対して、好奇心からの野次馬と思われないよう慎重に言葉を選んだつもりだったが。
せめて小夜子が失踪の際、残したとされる書き置きが見たかった。
そしてアンナの情報も知りたい。彼女が小夜子と中学の同級生なら、地元が同じ可能性が高い。アンナも近くに住んでいるか、彼女の実家があるかもしれない。そんな目と鼻の先に小夜子が監禁されているとも思えないが。
送信した後、本当にこれでよかったのか、もやもやしながら読み返していた。
送ってからしばらく経つと、小夜子ママから電話がかかって来た。私は急いで出た。
「はい、蛍野です」
『いきなりごめんなさい。小夜子の母です』
「こちらこそ急な連絡ですみません。小夜子さんと大学の同期だった蛍野です」
『あの子のこと、気にかけてくれてありがとう』
「いえ。こんな五年も経って、今更すみません」
『ううん。当時、大学側から、ほかの学生の学業の妨げになるから、学生には教えないように言われてて。私もあの子のせいで、これ以上ほかの人に迷惑をかけたくなかったから。黙っててごめんなさい』
「そうだったんですね……」
『小夜子の行方が分かるようなものはないけど、一度来てくれたら嬉しいわ』
「ありがとうございます。それで、小夜子の書き置きがあったと思うんですが、見せてもらうことはできませんか?」
『それぐらいなら写真で送るけど』
それで用事を済ませるのは申し訳ない気がした。
それに書き置きから分かる情報は限られている。小夜子自身が残したものか、誰かが偽造したものか程度だろう。もし誰かが偽造したものなら、それはアンナかもしれない。
小夜子とアンナの関係、アンナについて聞きたいが、それを今ここで聞くのは不自然だ。実際に会って話すことで、会話の中で聞き出そうと思った。それに小夜子ママが気づいていない、私たちが見落としているものがあるかもしれない。
ここまで真剣に考えて、もう小夜子のことから手を引くべきだということは、頭では分かっていた。
ただイスカが次に会うのを二日後に指定した以上、少なくともその日まで私が死ぬことはない。イスカのことは信用できないが、彼女の企みは分かっている。
それに小夜子が失踪した原因が分かれば、約束通り、イスカにそのことを教えて小夜子を助けさせればいい。
それまでは小夜子について調べることにした。
あまりラフな格好で行っても失礼なので、シャツにパンツスタイルで、上に音瑠のカーディガンを借りた。
音瑠の方が背が高いのに細身なので、私が着ると胸回りがきつかった。カーディガンの前のボタンを留めるのは諦める。
私の試行錯誤を、音瑠は鼻息荒く見守っていた。
「南帆ちゃんて胸大きいよね……」
「うるさい」
昨夜散々弄んだくせに、音瑠は初めて見るような面持ちだった。
「私も一緒に行く」
「私一人でいい。音瑠は自分のことしてて」
「でも……」
「ちょっと行って帰ってくるだけ」
尚も音瑠は心配そうに、じっと私の顔を見てくる。
「それに音瑠は私の命綱だから。音瑠がちゃんと仕事してくれないと私が困る」
「うん、分かった……」
この音瑠は、私が死ねばどうするだろうか。別に後を追ってほしいわけではない。
イスカは音瑠を大切にするように言った。音瑠が未来でも生き続けるから、私はその未来に引きずられて生きている可能性がある。
指を切断し、私が死んだ世界の音瑠は、あの後どうしたのだろうか。死を選んだから、その世界がなくなり、この世界になったのか。
そう思うと、過去を変えたのは私ではなく、音瑠だったのではないだろうか。ただ彼女には、私のような二重の記憶はなかった。
「帰りの時間、連絡するから。そしたら駅まで迎えに来てよ」
「うん……」
「ちょっと屈んで」
私は目線より少し高い、音瑠の頬を両手で挟む。私は音瑠にキスをした。
それに音瑠は驚いたように、その吊り目がちの目を、大きく見開いていた。
「帰ってきたら、またしてあげるから」
「はい……」
音瑠はぼんやりとした顔で、微かに頬を赤らめて、私を見ていた。
私は小夜子のことを、音瑠に知られたくないと思った。私自身も、もうこれで手を引くつもりだ。中途半端にしたものを片付けにいくだけ。
私はまだ素直に音瑠を愛せてはいないけれど。もう一度誰かを、心の底から愛せたらと願っている。
こんな身勝手な私に、最悪な音瑠はちょうどいい。
私には音瑠を傷つけていい理由がある。音瑠には私を好きにしていい資格がある。
私たちは釣り合いがとれている。
* * *
バスや電車を乗り継いで片道三時間ほど、午後二時頃、小夜子の実家に着いた。
彼女の生まれ育った街を一人歩いて、変な気分だった。本当なら彼女と二人で歩く世界があったかもしれない。それなのに行方不明になった彼女のことを知るため、私は一人で来た。どこか非現実的な違和感がつきまとった。
インターフォンを鳴らすと、小夜子のママが出迎えてくれた。顔立ちや目元が小夜子に似ていた。彼女も歳を取ったらこんな感じだろうか。
「初めまして、蛍野です」
「小夜子のためにわざわざありがとう」
「いえ、こちらこそ。お時間をいただきまして、ありがとうございます」
こんな形で小夜子の実家に行くことになるとは、いつか交際していることを二人で報告できたら、などと夢想していた頃には思いもしなかった。
私は小夜子ママの案内で家に上がり、リビングに通される。
築年の経った家だった。歩くと床が小さく軋んだ。
高校生の時まで猫を飼っていた、そう小夜子が言っていたのを思い出した。猫がいた痕跡を探してみると、壁に爪を研いだような傷が少しだけ残っていた。
「どうぞ座って」
「失礼します」
私は椅子に座る。テーブルの上には茶菓子と、緑茶の入ったガラスポットが置いてあった。
「冷たいお茶でいい?」
「はい、いただきます」
久しぶりに普通の味がするお茶だった。嬉しくなって、一口で半分ほど飲んでしまった。
「あの子のためにわざわざごめんね」
「いいえ。遅くなってしまい申し訳ないです」
「当時は、すぐに帰ってくると思っていたから。私も大ごとにしたくなかったの。まさか五年近くも音信不通だなんて」
「私も。急に連絡が取れなくなって、驚きました。まさかこんなことになっていたなんて」
手足を失った、車椅子の小夜子を見たことは、まだ口にできなかった。
「それで小夜子の書き置きだっけ?」
「はい、見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ」
それはクリアファイルに入れて保存されていた。A4の紙に印刷されたもので、ほんの四行程度、ほとんどが余白だった。
小夜子が失踪する際に残した書き置き──
『私は一身上の理由により、ここに失踪を宣言いたします。多大な心配と迷惑をおかけするのは心苦しくありますが、失踪後の生活など確保してありますので、ご心配なきよう、何卒探さないようお願いいたします。西塚小夜子より』
パソコンで入力した文章を印刷したものだった。なんとなく小夜子が書いたものではない印象を受けた。当時の小夜子がこんなお堅い文章を書くか、ましてや彼女が気を回したような文章を書くとは思えなかった。それにわざわざ印刷する手間もかかっている。
私の知っている当時の小夜子なら、『失踪します。探さないでください』ぐらいのことしか書かなさそうだった。それも手書きで。
「このデータって小夜子さんのノートパソコンに入っていましたか?」
「確かなかったと思うわ。手がかりがないかパソコンの中も見たんだけど、あの子の行方に関係ありそうなものは何も」
彼女の家にはプリンターがなかった。コンビニか大学でプリントしたのだろうが、わざわざそんな面倒なことをするとは思えない。
「小夜子さんが失踪した時、なくなっていたものは何かありませんでしたか? あるいは残していったもので、普通なら持っていきそうなものとか」
「スマートフォンはなくなっていたのと、解約されていたわ。あとは着替えがほとんど残ったままで。口座のカードも置いたままで、今でも引き落としもされないでそのままになっているわ」
もし私が失踪するとしたら、痕跡を消すためにキャリアは解約するだろう。ただ口座のカードを置いていくにしても、中身を引き出して、用済みになったら置いていくかもしれない。
もし事件に巻き込まれたとしたら。カード類は持ち去られるかもしれない。そのままにしてあるということは、お金が目的ではないことになる。これが偽装された失踪なら、小夜子を連れ去ることが目的ということになる。
ただ仮にアンナが犯人だとして、恋人同士なのに、わざわざ誘拐する必要はあるだろうか。
それならば二人で駆け落ちしたのか。
「今更ですが、小夜子さんが特に親しくしていた人とか、何か事情を知ってそうな人はいませんでしたか?」
「あの子、あんまり自分のことを話さないから。でも、中学の時、クラスメイトだった子とは、高校は別だったけど、ずっと仲良かったみたい」
「その人って、アンナっていう名前じゃないですか」
「そうそう、アンナちゃん。あの子の中学の時の友達で、とても仲良くしていたみたいだけど。高校を卒業した時、二人で旅行に行ったり」
その口ぶりから二人が交際していたことは知らない様子だった。
仮に親に交際を反対されて、駆け落ちをするとしても、相当追い詰められていたはず。反対に遭ったとしても、大学を卒業して自立してから、生活基盤を遠く離れてつくって、二人で生活すればいい。わざわざ失踪する必要があるか疑問だ。
それに直前の小夜子に、何か思い悩む様子や、覚悟を決めたような感じはなかった。
「彼女は今?」
「大学を卒業して、就職して一人暮らしをしてるらしいけど、今どうしているかは分からないわ」
「そうですか」
アンナも小夜子と同時に失踪したわけではなく、アンナはこちらに残って生活しているようだった。二人同時に失踪していれば、周囲も理由に見当がつきそうなものだ。もしかしたらアンナの方に、あるいは彼女の家庭に、何か問題があったのかもしれない。
とにかく小夜子は今、そのアンナのところにいる可能性が高い。アンナの居場所を突き止めて、何があったのか事情を聞き出すか。それよりも有無を言わさずイスカに過去を変えてもらうか。
「アンナちゃんがどうかしたの?」
「いえ。以前、小夜子さんから親しくしているという話を聞いたので。何か知っているかなと」
「そうだったの。アンナちゃんも小夜子の失踪した理由は分からないって。すごく心配してくれて、気にかけてくれていたわ」
私はアンナに、非常に白々しいものを感じた。ほかでもないアンナが小夜子と一緒にいるというのに。
「アンナさんの連絡先か住所を教えてもらうことできますか。一度、彼女にお会いしたいと思っていたので。小夜子さんが失踪する直前、三人で会う約束もしていたんです」
「そうだったの。何か分かるといいんだけど。ただアンナちゃん、大学卒業と同時に引っ越しちゃったから、住所までは分からないの。実家の住所は、当時の学校関係の書類とかあれば分かるかも」
「そこまでは悪いです。向こうにも迷惑かもしれないですし」
食い下がるべきか、私の中に迷いがあった。ただこれ以上、周りを巻き込めば引き返せなくなる気がした。ここまでにしよう。
「ただ連絡先なら分かるわ」
「それだけ教えてもらってもいいですか? 私から連絡してみます」
小夜子ママにアンナの連絡先を送ってもらった。
そこにはANZUのアカウントがあった。
やはり私が会ったのは幻覚などではなく、現実だったのだ。
私はANZUを登録しようとして思い止まった。
もし連絡して、またアカウントを消されては困る。それに小夜子ママに危害が及ぶかもしれない。
またこの過去をなかったことにするためには、アンナがイスカと同じように過去を変えることができるとしたら、私の今日の行動をなかったことにしなければならない。
イスカの話が本当なら、アンナは私を殺すかもしれない人物。もしかしたら今日のこの出来事をなくすために、アンナは私を殺すのかもしれない。
私の中でアンナはすっかり邪悪な人物となっていた。
私はこれ以上アンナのことを、小夜子ママから聞き出すのが躊躇われた。
それから私たちは、大学当時の小夜子のことを話して盛り上がった。私も彼女の過去のことを聞いた。小学生の時はどんな子だったか、幼い頃は何をして遊んでいたか。
しかし私は体力が限界に近づいてきたのでお暇することにした。
「お力になれず申し訳ありません」
「いいえ。小夜子のこと、気にかけてくれてありがとう。もし何か気づいたことや、手がかりが分かったら教えて」
「はい」
彼女に手足を失った小夜子のことを伝えられないのは心苦しかった。
* * *
体力が落ちているせいか、薬の副作用か。目眩と吐き気がつきまとう。頭が重たい。
西塚家を出て、私は駅に向かう。ここからタクシーで帰ると三万円ぐらいになるが、電車なら片道千五百円ぐらいで済む。もったいなく感じて、最寄駅までは頑張ろうと思った。それに最寄り駅に着いたら、音瑠に迎えにきてもらう約束をしていた。
そんなことを考えながら、駅に向かう途中、私は買い物帰りと思われる一人の女性とすれ違った。彼女の手には白いビニール袋に詰められた、食材が顔をのぞかせていた。
私はその女性に見覚えがあった。
実際に会ったことはないが、小夜子の高校の卒業アルバムで見た、親友だったという女性に似ていた。
「英美香は小学校からの親友で、高校まで一緒だったんだ」
印象は変わっていたが、細い目に、薄い顔立ち、典型的な弥生顔に、私は彼女のことをよく覚えていた。直感的に彼女がそうではないかと思った。
私は思わず呼び止める。
「英美香さん?」
「え? あ、はい。そうですけど」
英美香は驚いたように振り返り、怪訝そうに私を見た。
「えっと、どこかで会ったこと──」
「あの、私、小夜子の大学の同期で、蛍野といいます」
「え、そうなんだ! え、どうして私のこと知ってるの?」
「前に小夜子に卒アル見せてもらったことがあって。その時、小学校からの親友だって、英美香さんのこと教えてくれたから」
「へー、そうなんだ。そっか、西塚が」
「お忙しいところ呼び止めてしまってすみません」
「いえいえ。蛍野さんって、もしかして下の名前、南帆さん?」
「そうです」
「あ、やっぱりそうなんだ! 西塚が音信不通になる前に、四人で遊ばないかって連絡がきて。私と西塚と、アカホシさんに蛍野さんの四人でって。ただ私、家のことが忙しかったからさ、断っちゃって。心残りだったんだ」
「そうだったんですね」
アカホシとはアンナの名字だろうか。
「それでどうしたの? こんなところに」
「あの、小夜子のことで知りたいことがあって、小夜子のお母さんのところに」
「そうなんだ! まだ西塚のこと気にかけてくれてる人がいて嬉しい」
英美香は涙ぐんでいた。もう手を引くつもりだったのに、軽率に声をかけたことを後悔した。
「もしよかったら、近くでお茶してかない? あんまり長居できないけど。三十分ぐらいしか」
「はい、ぜひ」
私も体力がきつかったので、それぐらいならありがたかった。
どのみちイスカを使って解決するとしても、アンナが何者なのか情報は集めておきたい。
英美香はアンナのことを知っているはず。それとなくアンナのことを話題にしても不自然ではないだろう。
それに中学が同じなら、小夜子のママに聞くよりも、彼女に聞いた方が詳しく知ることができるかもしれない。
私たちは駅の近くのファミレスに入った。
ドリンクバーと、軽食にポテトを注文する。あまり冷凍食品は食べたくなかったが、変に思われたくないので黙っていた。何か私が失礼を働かなければ、病み上がりのことは言わないつもりだった。私のことに話題がいくのは時間がもったいないので避けたい。
「でもすごい偶然。会えてよかった」
「はい、本当に」
「蛍野さんって小柄だから若く見えるけど、私たちとタメでしょ? 敬語じゃなくていいよ」
「ああ、そのうち。直すね」
「まあ初対面だと普通敬語だよね。私、高卒だからさ。口悪いんだよね」
そう英美香は目を細めて笑った。
「さっき小夜子のママに会ったから、少し緊張してたのかも」
「そっか。それよりさ、蛍野さん、西塚のこと何か知ってるの? 家出というか、失踪した理由」
「いえ、全然。ただどうしても気になったことがあって」
「どんなこと?」
「小夜子の書き置き、見せてもらったんですけど、小夜子らしくないんですよね」
「それってどういうこと?」
「当時の小夜子にしてはしっかりしてるなって。文章長いし、すごいほかの人のこと気にしてるし。小夜子って、あまり周りのこと気にしないところありますよね。その小夜子が、迷惑をかけることを謝って、心配しないように念押しまで。なんか変だなって」
英美香は驚いた顔をしていた。
「確かに西塚って、よくいえば信念があって、悪くいえば頑固なところがあってさ。これと決めたら譲らないところあるから。だから思い切って失踪したのかなって思ってたんだけど。それで周りがどう思うかとか、どうなるかとか気にしない、マイペースな性格だったよね」
「そうそう! 友達としてならいいんだけどね。あんまり深い仲になると、振り回されるというか。こっちの気も知らないで、ってなるんだよね……」
「蛍野さんもけっこう振り回されたんだね。分かる」
私はこんなふうに、小夜子のことを共感してもらえて嬉しかった。
英美香も楽しそうだった。
「え、それじゃあ蛍野さんは、西塚が失踪したのは、西塚の意思じゃないって思ってるの?」
「まず書き置きが、パソコンで書いたやつを印刷したものだから。誰でも用意できる。ただ部屋の中に荒らされた形跡がないってことは、連れ去った後に侵入して書き置きを残したんじゃないかな」
「なるほど。それじゃ蛍野さんは、西塚が誘拐されたと思ってるの?」
「ただの私の妄想だけど。もしそうなら、犯人は金銭とかが目的じゃなくて、小夜子自身が目的。そして小夜子と親しくて、身近な人物だと思う」
「もしかして私のこと疑ってたり?」
「全然! そういう人に心当たりないかな、って思って」
「心当たりねぇ……」
英美香は腕を組んで唸る。
私は随分と遠回しな言い方で、暗にアンナが怪しいことを伝えていた。初めから名前を出せば、警戒されたり、先入観を与えてしまう。
もしも本当にアンナが怪しければ、英美香の中に心当たりがあるかもしれない。
「逆なんだけどね。アカホシさん──西塚が特に仲良かったやつなんだけど、西塚が失踪したあと、やけに薄情だなって思ったの」
「それは?」
「西塚とアカホシさん、あ、これ秘密なんだけどね、つか蛍野さん、その辺の事情も知ってそうだから話すけど、あの二人付き合ってたんだよね」
やはりアカホシはアンナのことのようだった。
「アンナさんのことだよね? うん。小夜子から聞いてる」
「よかった。親友の秘密バラすような感じになったらやだったから。それでね、西塚が失踪したあと、アカホシさん、まったく探そうともしなくてさ。口では心配だとか言ってるけど、心がこもってないというか、白々しい感じでさ。いなくなった途端、用がなくなったといわんばかりで。そんで私もむかついて、そっから彼女とは連絡もとってないんだけど」
「もしもその人が、小夜子が失踪した理由を知っているか、失踪に関与してたら?」
「そう思うと、筋が通るけどさ。アカホシさんが西塚を誘拐する必要も理由もないんだよね。西塚が邪魔になって殺した、でもなければ」
その言葉にぞっとしたが、そんなことがないのを私は知っている。
「駆け落ちしたとかは? たとえば、アカホシさんの家庭の反対に遭っていたとか」
「特に交際のことオープンにしてなかったけど、まあ確かに、あの家だったら、知られたら大変なことになるかも。バレて駆け落ちしたってなら、それもあり得そう」
「アカホシさんの家に問題があるの?」
「なんていうかあそこの家、新興宗教に入ってるんだよね。実は私の家もそうでさ。私自身は入ってないどころか、むしろ嫌ってるんだけど」
「宗教?」
「アカホシさんのところは、親が地区の幹部だからさ、相当厳しく躾けられたみたいだよ。本人はそんな感じ匂わせないけど、事情知ってると、ちょっと引いちゃうんだよね」
「その宗教だと、女性同士の交際に厳しかったりするの?」
「どうだろ。あんまり詳しく知らない」
「それでどんな宗教?」
「なんか人類が滅亡するとか。それを回避するために、精神的に進化しなければならないとか」
「人類の滅亡?」
私はイスカの話を思い出した。
英美香は自嘲するように笑う。
「ネビルとかいう太陽系の未知の惑星が、彗星を引き連れて地球に接近して、隕石になって降り注いで人類は滅亡するんだって。それを回避するには精神的に進化して、高次元の生命体だったかなんだかにならないといけないらしいんだ。うちの母親がハマっててさ、当時は毎日のように聞かされて、アホらしくて真面目に聞いてられなかった」
「なるほど……」
イスカも隕石によって人類が滅亡するようなことを言っていた。もしやイスカが教祖でもやっているのではないだろうか。
「アカホシさんも地元出て行ったからね。どっかで二人で暮らしてるなら、言ってくれればいいのに。水臭いな」
小夜子の事情ではなく、アンナの事情で、小夜子は失踪したのだろうか。しかしそれなら小夜子ではなく、アンナが失踪してもよかったのではないだろうか。そもそもの話をすれば、小夜子が失踪する必要性も理由も感じられない。
それに小夜子が協力的なら彼女自身の手で書き置きを残せばいい。口座の預金を残したままの理由も腑に落ちない。
そして小夜子の身に起きた手足を失うほどの事故。しかしそれだけの事故でニュースになっておらず、ニュースにならなくても、病院に搬送されるなりして身元が判明してもおかしくないと思うが。
あるいは順番が逆で、小夜子は失踪してから事故に遭ったのではなく、事故に遭ってから失踪したのか。それだと誰も事故に遭ったことを知らなかったことになる。そもそも事故ではないのか。
「ちょっとそれとなくアカホシさんに連絡してみるよ。まだつながってるか分からないけど」
「あ、気をつけて」
「え?」
思わず口にしてしまった。
「その、もし二人が事件に巻き込まれているなら、危ないかもしれないから。もし連絡ついたら私にも教えて」
「分かった! 軽く近況について聞くぐらいにしておく」
英美香は屈託なく笑う。
英美香であれば、小夜子のママが連絡するよりも不自然ではないだろう。止めるべきな気もするが、何か分かるかもしれない、そんな期待があった。
そして最後に、アンナの本名を教えてもらった。
赤星杏奈。それが彼女の名前だった。
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