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4話 女王陛下

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 彼は私の目の前で止まると、ふわりとひざまづいた。そして、頭を下げ、地面に手をつく。一国の主人がする行動とは思えないそれは、明らかに私への敬意を示していた。
「ど、どういうことだ。魔国の王が、ローズにひざまづくなんて……」
 周りの人たちはポカンとして私たちを見つめている。けれど、私は微塵も驚きはしなかった。私たちは数日前から、文通を交わしており、今日のことを約束していたからだ。

 私を拾ってくれた魔族の彼が、新しい魔国の王様になっていたと知ったのはつい最近のことだった。魔国と人間の国はやっぱり仲が良くなかったし、せいぜい少し交易をしているくらいの仲では、王様の顔を見る機会などなかったからだ。
 私は何もする気はなかった。会いたい、話をしたいとは思ったけれど、前世のことは前世のことだと思っていたし、私がつぼみだと言っても、信じてもらえるわけがないと思っていたからだ。
 けれど、彼は私を見つけてくれた。王城に婚約者に会いに来ていた私とすれ違っただけなのに、私がつぼみであると気が付いてくれたのだ。魔族には何か特別な能力でもあるのだろうか。
 家に帰ると、机には魔法で届いた手紙が置かれていた。彼からの手紙だった。やっと会えた、王子達がこんな計画を企てている、それに乗じて国に帰ってこないかというものだった。
 私は、あらかじめ返送用の魔法がかかっていたその手紙を通じて返事をした。そして、私たちの文通が始まったのだ。と、いっても、数日間のものだが。
「お迎えにあがりました、女王陛下」
 あなたに女王陛下と呼ばれるのは慣れないから嫌ね。いつもは名前で呼んでくれたのに。けれど、これも演技のうち。仕方ないわ。
「私国外追放になったのよ。だから、あなた達の、私たちの国に帰りましょうか」
 この国に愛着がないわけじゃない。人間に囲まれた久しぶりの生活は、嫌なものではなかった。食事も服も前世のように周りの人たちに合わせてもらったりして迷惑をかけることはなかった。それでも、やっぱり私の居場所はあそこなんだ。仲間達の待っている、あそこなんだ。
「参りましょう」
 私がそう言って手を差し出すと、彼は私の手の甲にそっとキスをした。その瞬間、私たちの姿はその場から消えていた。
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