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12話 飛び込もう

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 クローゼットから白色を多く取り入れているドレスを取り出す。私が家に戻った途端、両親は怒りも泣きもせずにすぐに王城へ向かう支度をするように言った。あんなに私に期待していたのに婚約破棄されてしまった私にどうして何も言ってこないのかしら。全くおかしな人たちだわ。
 ドレスに着替えて馬車に乗り噛む。私達家族の中は元からいいとは言えない。だからいつも同じ馬車に乗っていても今日のように誰1人言葉を発することはない。聞こえてくるのは車輪の回る音だけだ。その時間は長いようで、短かった。これが最後の時間となるのだ。しっかり噛み締めなくては。
 馬車を降りると私達はすぐに王様と王子様の元へ通された。そこには何かに怯える王様と王子様がいた。ああ、ミア様もいらっしゃったのね。王子様の後ろに隠れている彼女は口をカタカタと震わせながら上を見上げていた。それにつられて両親と共に上を見上げる。そこにいたのは。
「また人の子が増えたか」
全身を黒で埋め尽くした魔王様……ライアンがいた。いやね、ライアンったら。その格好わざとなの。それじゃあ怖がられて話もできないわよ。
 くすくすと笑ってしまいそうになる自分を無理矢理抑え込みながら驚いて動けないふりをする。これも作戦のうちだものね。
「いつまで惚けているのだ人の子よ。魔法を解いてやったと言うのに動きすらもしないのか」
どうやらもう王子様の魅了魔法は解いた後のようだ。王子様ははっと後ろを振り向くと自分の腕に縋り付く少女を振り払った。
「あ、ちょ、ちょっと」
なんとか漏れ出たらしいその声は恐怖に溺れていた。あの魔王様の御前なのだ、仕方がない。
「して……わざわざここまで出向いてやったのだ、対価があってもいいだろう」
展開が早いわね、ライアン。さっさと済ませて帰りたいのかしら。
「生贄が1人欲しい」
それにしても、何その話し方。笑っちゃいそうだからやめてほしいわ。
「そうだな、そこの娘などどうだ」
あらかじめ約束された言葉を王に囁く。これは王様にとっていい提案なはずだ。自分の命が惜しいのなら、さあ、早く頷きなさい。時間が長く感じる。王様の首がゆっくり動いて……うなずいて。
空を舞っていたライアンが私の目の前に飛び降りる。お母様が小さくひっと声を漏らしたことなんてもうどうでも良くて。お父様が眉一つ動かさないことなんてどうでも良くて。私はただライアンの胸目掛けて走った。ライアンは嬉しそうに抑えきれない感情を見せながら両腕を広げている。そして私は、私達は。自分のための人生へ、飛び込んだ。
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