婚約破棄さん逃げないで

空月 若葉

文字の大きさ
上 下
2 / 12

2話 逃がさないわよ

しおりを挟む
 それがあったからだろうか。私にとって王子の婚約者、未来の王妃の座は私とって馬鹿みたいに大切な椅子になっていた。それがないと私に価値はない。きっとそう言われて育ったせいだろう。
 だから私は自分の婚約者に近づいた彼女に攻撃した。暴言を吐くくらいしかしなかったのは偉かったけれど何度も泣かせてしまった。そのせいで私は明日、婚約破棄される。
 彼女というのは、このゲームのヒロインの男爵令嬢、ミア様。彼女はいいな。ゲームのヒロインというだけでなんでも手に入るのだから。
「……ミア様、あなたは私から最後の椅子さえも奪うのね」
私と仲良くしてくれた友人でさえも、明日には私を責め立てることを私は知っている。それなのに、あなたは友人だけでなく、婚約者だけでなく私の居場所を奪うのね。
 今からでは婚約破棄はどう頑張っても避けられないだろう。明日のアーロン様の17歳の誕生日に私との婚約が破棄され、お2人が婚約なされることは決まった未来なのだから。今からでは、どうにもならない。わかってはいるのに。心だけは、抵抗をやめない。
 これは華織の記憶ではなく、オリビアの心が怒っているのだろう。許せない、攻撃しないとって。
「やめなさいよ、オリビア。どうにもならないわ」
婚約を破棄されてしまったら私に期待していた両親は私に興味を持たなくなるだろう。それどころか、以前以上に酷い扱いをするかもしれない。いっそのこと逃げようか。世界の裏にでも逃げてしまおうか。……それも、いいかもな。よし、逃げよう。明日婚約破棄をされたら、すぐに逃げよう。両親にとって価値のない存在になればきっと誰も私のことを探さない。そうなってから、逃げてしまおう。平民として生きていくのもいい。華織はお姫様でもお嬢様でもなんでもなかったのだから、きっとやっていける。
 私は笑顔を作ってみた。明日は婚約破棄をされるためのパーティーに行こう。アーロン様の誕生日を祝いにパーティーに行くのではなく、婚約破棄されに行こう。私は平民になるのだから。逃げられないなら、いっそのことこっちから言ってやろう。
「逃がさないわよ、婚約破棄さん」
私はニヤッと笑った。令嬢には相応しくない、悪役令嬢にこそふさわしい笑顔だ。けれどもうそんなことどうでもいい。大丈夫。明日もきっと泣かないわ。泣くのは全て終わってからでも遅くないじゃない。私は静かに目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

処理中です...