悪役令嬢、まさかの聖女にジョブチェンジ!?

空月 若葉

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103話

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 謎の空気を断ち切り、私達はとりあえず、1人取り残されている木の精霊さんの元へと戻ることになった。怪我をしていないかも心配だし、精霊さんが疲れてしまっていないかも心配だ。救われたのだといっても、彼女は切られそうになったばかりなのだから。
 精霊の存在を知らない人たちが大勢いた手前、木の精霊さんに話しかけることはできなかったが、もうそろそろ人も減っているだろう。
 と、その前に、服を着替えた方がいいだろう。昨日からお風呂どころか、着替えてすらいないのだ。体もさっと拭いた方がいいし、お水も飲まないとしんどくなってしまうかもしれない。
 私はフゥに先に行ってもらうように伝えると、貴族を辞めてからいつも着ていた、冬菜のワンピースに袖を通した。貴族時代のものはほぼ持っていないし、生贄として捧げられた時の服やアクセサリーは、見つからないように隠してある。そういうわけで、私には着る服がなかったのだ。
「お姉ちゃん、またお揃いしようね」
 エラはウキウキした様子で私と冬菜の手を持ち、飛び跳ねている。エラに強請られると、どうしても断れないのが、私の弱いところだ。そんなことで単純に喜んでしまう私は、クロエの過去からは全く想像がつかない。
 冬菜は嬉しそうに笑って頷いている。エラが呪いをかけられていた過去のことでも、思い出しているのだろうか。
「そうね、またしましょうね」
 マリア様のことがあっても、全てが悪い方に向かっているわけではない。そう思うと、なんだか未来に歩き出すのが楽しく思えた。

 御神木が見えてくると、ゼラ達は嬉しそうに飛んでいってしまった。私達も追いかけるように、足早に進む。
 転移魔法でも使って駆けつけてしまいたかった気持ちもあるのだが、誰かの目があるかもしれない以上、多用はできない。
 木の精霊さんも、ゼラ達を両手を広げて迎え入れ、まるで子供のように笑っている。友人が取られてしまったようで少し寂しいが、仕方がない。
 ……今回は、本当によかった。精霊さんも助かったうえに、こんなこともあるのだといい勉強になった。この辺りの住民達にとっても、恐怖や怒りしかなかったかもしれないが、結束力は強まったはずだ。
 助かってよかった。精霊さん達の幸せそうな笑顔を見ていると、私はやっと実感が湧いてきて、涙が顔を出してしまいそうだ。けれど、それよりも嬉しさが勝った私は、みんなの方へ走り出した。
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