悪役令嬢、まさかの聖女にジョブチェンジ!?

空月 若葉

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99話

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 冷や汗が流れるほどの緊張が、私を襲う。イーサン様に何を言われるか、なんとなく予想がついてきたのだ。ちょっとだけだけれど、怖い。今まで綺麗に隠し通してきたものを、話してしまうなんて。
 恐怖に顔を上げられないまま、イーサン様が口を開くのを待つ。まるで処刑されるのを待っているような気分だ。
「それで、話だが」
 きたっ。ちょっと待って、怖すぎるっ。
「……スィーが話してくれたんだ」
 ……やっぱり、そうなのか。スィーは話してしまった、いや、イーサン様を信用して話すことができたのか。恐る恐る顔を上げてイーサン様の顔を見上げると、イーサン様は意外に穏やかな顔をしていた。
「お前達のことは、話してくれなかったが」
 意外なその言葉にポカンと口を開ける。よく考えてみれば、スィーは私たちの秘密まで話してしまうような精霊ではないが。それでも驚きだった。私たちの正体も知っているのだと思っていたから。
「スィーの秘密を知った以上、お前達が、いや、あなた方が誰なのかはなんとなく予想はついていますが」
 私達はただ黙って、イーサン様の話を聞いていた。ほんの少しの、苛立ちを覚えながら。
「私が言いたかったのはそれだけです」
 イーサン様の言葉が途切れた時、私はなんだか不満のようなよくわからない感情に駆られていた。なんと言い表せばいいのかわからないのだが、なんなんだろう、このどうしようもないくらいの……。
「お言葉ですが、イーサン様」
 声を発したのは、冬菜だった。冬菜は機嫌が悪そうに目を引き攣らせながら、その口には笑えるくらいおかしな笑みを浮かべていた。
「イーサン様はスィーがイーサン様に秘密を明かしたときも、このように態度を変えられたのですか。でなければ、イーサン様は私達を侮辱しておられるのですか」
 淡々と語っているように見えて、冬菜の中には怒りが見える。早口で投げかけた疑問に、イーサン様は少し目を見開いた。
「……すまない」
 イーサン様は少し嬉しそうに私たちに小さく頭を下げた。冬菜とエラは満足そうにそれを見ている。
 私達が怒るのも当然だ。イーサン様とはそれなりに親しくさせてもらっていると思っていたのに。いや、こっちが勝手にそう思っていただけかもしれないが、それでも。それでもおかしいじゃない。正体がなんとなくわかった途端、まるで友達を止めるように敬語を使い始め、突き放すなんて。
 私は貴族社会にいたから、敬語を使い、敬われることの寂しさを知っている。それはきっとイーサン様も同じで、だから少し嬉しそうなのか。
 謎に納得しながら、私は微笑んだ。
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