悪役令嬢、まさかの聖女にジョブチェンジ!?

空月 若葉

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93話

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「この木から少し離れて、森に移動することはできないかしら」
 冬菜は少し重い表情をしている木の精霊に問いかけた。この国の獣人達に見られたら、たとえ味方でも勘繰ってしまうものだ。魔法を使い、思考を操ればどうとでもなるのだろうが、あまりそういうことはしたくない。
「はい、可能です。森の奥まで入らなければ大丈夫です。何度か行ったことがあります」
 木の精霊さんは冬菜の考えを察したのか、はっきりと頷く。移動するだけでも心配しなければならないのは、木の精霊さんのことだ。彼女はまだ木のそばにいないと魔力が安定しないらしい。それでも今回は事情があるのだから、仕方がない。
 私達は笑顔を浮かべながら森へと入っていった。顔は笑っているものの、その奥に緊張や不安が隠されていることは考えなくても分かった。
 森の少し奥へと進んだころ、先頭に立っていたフゥがふと立ち止まった。木の精霊さんの表情を見ても、この程度なら問題はないようで、微笑みを浮かべている。
「これ使って」
 フゥは5つ椅子を異空間から取り出した。私と冬菜とエラ、そして木の精霊さんとフゥの分だろう。私たちがその椅子に腰掛けると、ゼラとフィーは私の肩に、ランはフゥの肩に舞い降りた。フゥも特に嫌な顔などしておらず、本当に身分などを気にしない精霊なのだろう。
「町の様子を見てきたけれど、いつ切られるとか話している人はいなかったよ」
 フゥはあれで町をよく観察していたようで、神経な顔をして語った。
「たぶん、まだそういうことは決まっていないんだと思う。その、門番の人の頭の中も探ってみたんだけど、わからなかったんだ」
 少し俯いて頭をかきながらフゥは笑っている。うまく笑えていないのが私たちにも伝わるくらい雑に作られたその笑顔は、彼の悲しさを物語っていた。
「それなら、しばらくはどうするかを考えることに専念できるわね」
 冬菜は優しく笑っている。フゥを慰めているつもりなのか、場を進めようとしているのか。
 木の精霊さんは少し安心したようにエラと顔を見合わせて笑っていた。安心しているのは事実だろう。けれど、それには他の意味も含まれているように、私は感じた。きっとそれは、自分が切られてしまったら悲しむ人がいるからなのだろうが。
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