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79話
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私たちが出た場所は、先程獣人達が言い争っていた場所のようだ。けれど、どこか違う場所に移動したらしく、獣人達はもうそこにはいなかった。
「ほら、その木だよ」
フゥは一本の木を指さした。その木を見た瞬間、私達は息を呑んだ。その木は他の木よりも一回り大きく、どっしりと深く根付いている。青い葉を散らせながら、その木は私たちを見下ろしていた。
木の根元に、誰かいる。女性のようだが、この国の獣人の証である獣の一部が、彼女の体にはない。木の幹に寄り添いながら、彼女は私たちを見ていた。そっと手招きをして、その女性は淡く光っている。私達はその手に引き寄せられるように、その木のもとへと歩いて行った。
「……初めまして」
美しいその女性と、目が合う。彼女はしっかりした目で私の目を見つめていた。白く、淡いクリーム色のような。そんな色に包まれた彼女は、木と手を繋ぐように枝を手で包み込んでいた。その手を離し、私達の方へ差し出す。
「私はこの木から生まれた精霊です。皆さんは……」
まるで世界のことなど何もわからない子供のように、穏やかな大人のように、彼女は尋ねた。神々しいと感じるほどに、彼女からは温かい何かを感じ取れる。
「初めまして。私は雪菜です」
私も彼女の手へ手を伸ばし、優しく握りしめる。そんな私の手を、彼女は優しく包み込むように握り返してくれた。
エラも冬菜と繋いでいた手を離し、女性の元へと近づいていった。やはり恐怖はないようで、心から安心しているのが見て取れる。
「こんにちは。エラです」
冬菜の方を振り返ると、冬菜は少し気まずそうな顔でエラを見ていた。子供に先に自己紹介をされてしまうと、どうすればいいのかわからなくなるのだろう。自分が先に挨拶すべきだった、なんて後悔していないといいけれど。
「冬菜よ。一応、火の五大精霊なの。よろしくね」
冬菜は敬語を使う必要はないと判断したようで、明るい笑顔で話しかけるも、女性は思わず手を引っ込める。
「も、申し訳ありません。五大精霊様だったとは……」
辺境で生まれた彼女にも五大精霊の意味は理解できるらしく、彼女は驚いた顔で口を押さえていた。冬菜はほんの少しだけ不機嫌そうな表情だ。おそらくフゥが与えたのであろうその情報は、冬菜からすれば不必要なものだったらしい。
「あまり気にしなくていいわ。硬っ苦しいのは嫌いなのよ」
「ほら、その木だよ」
フゥは一本の木を指さした。その木を見た瞬間、私達は息を呑んだ。その木は他の木よりも一回り大きく、どっしりと深く根付いている。青い葉を散らせながら、その木は私たちを見下ろしていた。
木の根元に、誰かいる。女性のようだが、この国の獣人の証である獣の一部が、彼女の体にはない。木の幹に寄り添いながら、彼女は私たちを見ていた。そっと手招きをして、その女性は淡く光っている。私達はその手に引き寄せられるように、その木のもとへと歩いて行った。
「……初めまして」
美しいその女性と、目が合う。彼女はしっかりした目で私の目を見つめていた。白く、淡いクリーム色のような。そんな色に包まれた彼女は、木と手を繋ぐように枝を手で包み込んでいた。その手を離し、私達の方へ差し出す。
「私はこの木から生まれた精霊です。皆さんは……」
まるで世界のことなど何もわからない子供のように、穏やかな大人のように、彼女は尋ねた。神々しいと感じるほどに、彼女からは温かい何かを感じ取れる。
「初めまして。私は雪菜です」
私も彼女の手へ手を伸ばし、優しく握りしめる。そんな私の手を、彼女は優しく包み込むように握り返してくれた。
エラも冬菜と繋いでいた手を離し、女性の元へと近づいていった。やはり恐怖はないようで、心から安心しているのが見て取れる。
「こんにちは。エラです」
冬菜の方を振り返ると、冬菜は少し気まずそうな顔でエラを見ていた。子供に先に自己紹介をされてしまうと、どうすればいいのかわからなくなるのだろう。自分が先に挨拶すべきだった、なんて後悔していないといいけれど。
「冬菜よ。一応、火の五大精霊なの。よろしくね」
冬菜は敬語を使う必要はないと判断したようで、明るい笑顔で話しかけるも、女性は思わず手を引っ込める。
「も、申し訳ありません。五大精霊様だったとは……」
辺境で生まれた彼女にも五大精霊の意味は理解できるらしく、彼女は驚いた顔で口を押さえていた。冬菜はほんの少しだけ不機嫌そうな表情だ。おそらくフゥが与えたのであろうその情報は、冬菜からすれば不必要なものだったらしい。
「あまり気にしなくていいわ。硬っ苦しいのは嫌いなのよ」
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