悪役令嬢、まさかの聖女にジョブチェンジ!?

空月 若葉

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74話

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 このままここで法律が施行され、海が綺麗になるまで見守ろうかとも思ったのだが、それには何ヶ月もかかるだろう。あまり同じところに長くいると、私たちの正体が知られてしまう危険性が高まるどころか、最近はエラを狙う何者かがまた来るのではないかという新たな心配事も増えてしまった。逃げるような形にはなってしまうが、私達は次の目的地に向かうことにしたのだ。
 次の目的地は、自然に囲まれた獣人の国。獣人は多様な種類がおり、力が強かったり、耳や鼻が良かったり、その特徴も様々だ。
 なぜそこにいくのかというと、ランが風の属性の五大精霊に会いたいと言い出したからだ。どうやら風の五大精霊は獣人の国にいるらしく、その精霊もまた悩みを抱えているらしい。ランはその精霊さんを助けたいのだそうだ。
「どんな問題を抱えていらっしゃるのかも分からないし、私で力になれるのかも分からないけれど……」
 自信なさげにランはそう言ったが、やはりランにとっては大切な精霊なのだろう。ランのかたい意思はその小さな目からも読み取れた。

 私達は今日、お世話になった人魚の国を出る。スィーはもう少し手助けが必要なこの国に残るそうだが、イーサン様と2人で見送りに来てくれた。スィーはまだしも、イーサン様はきっと見送りには来てくださらないだろうと思っていたのだが、外れてしまった。
「じゃあ、行ってくるね」
 ここ数日で怯えなくなったエラは、少し寂しそうにスィーに笑いかけた。スィーもなんだか嬉しそうに笑顔でエラの頭をくしゃくしゃと撫でている。
「お世話になりました、ありがとうございました」
 定型分そのものの挨拶をしたのは、冬菜だ。けれど、本当に感謝はしているようで、優しい顔でイーサン様を見ている。
「お父様にもお伝えください」
 冬菜は笑って続けるのだが、イーサン様は返事をしない。けれど、見下しているような態度はもうなくなっていた。イーサン様は、まるで慈しむような目で冬菜を見ていた。冬菜はそれに気が付いていないのか、気づかないふりをしているのか、相変わらずニコニコ笑っている。
 私達は最後の挨拶を終え、一か所に集まった。冬菜は少し昔の話だが獣人国に立ち寄ったことがあるそうなので、問題なく転移魔法が使える。私は最後に2人の方を振り返った。今までの感謝を伝えるように頭を下げると、スィーは優しく微笑んだ。
「……元気で」
 その声が聞こえた次の瞬間には、私達はまた、知らない景色に包まれていた。その低い声の主が誰だったのか。冬菜の方を振り返ると、冬菜はエラと楽しそうに話していた。
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