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71話
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これしきのことで諦めるつもりはない。けれど、私の中には自分でもよくわからない疑問があった。どうしてあんなに苦しそうな声を出すのか。悔しそうな、寂しそうな。
「なぜですか、父上。その理ゆ」
「ならんと言っておるだろう」
王様の怒鳴り声が、響く。理由さえも教えてくれない王様。けれど、私達はなんとなくだが、その理由を日記から知っている。
「失礼ですが、国王陛下」
私は勇気を出して声を発した。王様の目線が、私の方に向く。
「どうして何度も挑戦しないのですか。海の問題は、この国だけの問題ではありません。世界の問題なんですよ」
王様は、ハッと目を見開いて、そしてまた目線を落とした。皆の注目が俯いてしまった王に集まる。緊張した空気が重々しく流れ、私達は唾を飲み込んだ。
「私は……」
震えたその声で、王様は話し始める。無理やり出したような、王と名乗るにはあまりにも弱々しい、そんな声で。
「別にすぐに諦めたわけじゃないんだ。他国に掛け合ったこともある。だが、話にならなかった」
泣いてこそいないものの、王様はもう叫び出す気力もないのではないのかと思うほど、弱々しい表情で天を見ている。
「笑われたのだ。そちらの問題だろうと。それだけの話だ」
王様は笑った。私たちを見て、何かを取り戻したように。
「つまらない話だ。だが、もう一度だけ、掛け合ってみようか」
王様は、ほんの小さな希望を見たかのように、嬉しそうな表情をしていた。
日記では、王様は常に民のことを考えるいい王様だった。国民に慕われる、いい王様。そんな王様なら、民のためだと言えばやってくれると思っていた。
その予想は、正しかった。けれど、一つ誤算だったこともあった。それは王様が、相手にならなかったというだけで諦めてしまっていたということだ。悪く言えば小心者の王様は、世界に立ち向かう覚悟がなかったのだ。
今回は仲間ができたから、もう一度立ち向かってみてもいいと思っただけなのかもしれない。そう考えると、やっぱり王様は弱い人魚なのだ。
けれど、そんな人魚だからいいのかもしれない。何事も強い人であれば、周りを頼ることも無くなり、一人ぼっちになってしまう。そうなれば、慰める人どころか、間違った時に正してくれる人さえいなくなる。
王様に向いている人がどんな人かなんて、結局は誰もわからないわけで。きっと答えなんてなくて、国民がそれでいいと思えば、それでいいのだろう。
この王様は民に愛されている。だから、きっと、大丈夫。
「なぜですか、父上。その理ゆ」
「ならんと言っておるだろう」
王様の怒鳴り声が、響く。理由さえも教えてくれない王様。けれど、私達はなんとなくだが、その理由を日記から知っている。
「失礼ですが、国王陛下」
私は勇気を出して声を発した。王様の目線が、私の方に向く。
「どうして何度も挑戦しないのですか。海の問題は、この国だけの問題ではありません。世界の問題なんですよ」
王様は、ハッと目を見開いて、そしてまた目線を落とした。皆の注目が俯いてしまった王に集まる。緊張した空気が重々しく流れ、私達は唾を飲み込んだ。
「私は……」
震えたその声で、王様は話し始める。無理やり出したような、王と名乗るにはあまりにも弱々しい、そんな声で。
「別にすぐに諦めたわけじゃないんだ。他国に掛け合ったこともある。だが、話にならなかった」
泣いてこそいないものの、王様はもう叫び出す気力もないのではないのかと思うほど、弱々しい表情で天を見ている。
「笑われたのだ。そちらの問題だろうと。それだけの話だ」
王様は笑った。私たちを見て、何かを取り戻したように。
「つまらない話だ。だが、もう一度だけ、掛け合ってみようか」
王様は、ほんの小さな希望を見たかのように、嬉しそうな表情をしていた。
日記では、王様は常に民のことを考えるいい王様だった。国民に慕われる、いい王様。そんな王様なら、民のためだと言えばやってくれると思っていた。
その予想は、正しかった。けれど、一つ誤算だったこともあった。それは王様が、相手にならなかったというだけで諦めてしまっていたということだ。悪く言えば小心者の王様は、世界に立ち向かう覚悟がなかったのだ。
今回は仲間ができたから、もう一度立ち向かってみてもいいと思っただけなのかもしれない。そう考えると、やっぱり王様は弱い人魚なのだ。
けれど、そんな人魚だからいいのかもしれない。何事も強い人であれば、周りを頼ることも無くなり、一人ぼっちになってしまう。そうなれば、慰める人どころか、間違った時に正してくれる人さえいなくなる。
王様に向いている人がどんな人かなんて、結局は誰もわからないわけで。きっと答えなんてなくて、国民がそれでいいと思えば、それでいいのだろう。
この王様は民に愛されている。だから、きっと、大丈夫。
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