悪役令嬢、まさかの聖女にジョブチェンジ!?

空月 若葉

文字の大きさ
上 下
59 / 111

59話

しおりを挟む
 自分で見つけ出したその問題。自分のためでもあったのだと思う。大切な、自分の属性の海に汚れてほしくないから。そこに住むもの達に傷ついてほしくないから。だから、スィーは頑張ってきたのだ。努力してきたのだ。
 それでも、自分を理解してくれる人が、秘密を話せるような、知っている人が欲しかったのだろう。あの王子様は、とても歩み寄るタイプには見えなかったが、彼にはそもそも精霊だということを話すことさえできない。騙し続ける罪悪感。その心には少し重すぎるそれは、ずっとスィーを苦しめてきたのだ。
「冬菜達にも、伝えておくわね」
 きっと喜ぶわ。そう付け加えようか迷ったのだが、そんなことはしなくても大丈夫そうだ。
 抱き寄せるなんて余計なことはしない。こう見えて、彼は長くを生きた精霊であり、見た目相応の精神年齢をしているとは限らない。子供扱いをする必要はないだろう。
「ユキナ」
 スィーはゆっくりこちらに顔を向けて、穏やかに笑っている。安心したような、落ち着いたその表情は、可愛らしいと言うよりも美しい。
「王様を説得してみる。手伝ってくれる」
 少し真剣な目で、声で、スィーは私の手を両手で包み込んだ。答えは一つしかない。
「もちろ」
雪菜っ。すぐに来てっ。
 頭の中に大きな声が響く。無造作に放たれたその念話は周りにいた護衛の人魚達にも聞こえたらしく、戸惑ったような表情をしている。
「僕はここから動けない。行って、ユキナ」
 スィーの顔を見てハッとさせられる。これは緊急事態なんだ。あの冬菜が焦っている。何かあったんだ。
「ごめんっ」
 私はそれだけ言うと部屋を飛び出した。魔力感知で冬菜達の大体の位置はわかる。急がなきゃ。もし間に合わないようなことがあれば……。
 考えてはダメだ。自分をうまく丸め込み、私は走った。魔法で体に強化魔法を何重にもかけて、走る。転移魔法が使えない私には、それしか方法がない。
「冬菜、どうしたのっ」
 切れる息を宥めるように喉元を抑えながら、私は大きな魔力のある部屋の扉を開けた。後ろの方からゼラ達も飛んできている。
「エラがっ、エラが倒れて……」
 急いで状況を確認するために、地面に倒れているエラの元へ駆け寄る。呼吸は苦しそうではあるが、止まっていない。それに、しんどそうではあるが、どこかを痛そうに抑えているわけでもない。意識もありそうだ。
 この感じ。覚えはある。まさか……魔力、不足……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...