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58話
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護衛の人魚達も残っているはずなのに、まるで私たちしかいないような錯覚に陥る。何故か居心地が良く感じるその空間は、誰かに造られたかのように不自然で。
私はスィーの手に自分の手を添えると、目線を合わせて笑う。果たして今の私は、彼に優しさを与えることができているのだろうか。
「大丈夫、ここにいるよ」
少し目を見開いて、何か言おうと口を開いて。けれどスィーはなにも言わずにまた、口を閉じる。それでも彼の笑顔は随分と優しく、自然なものになっていた。
どちらにせよ誰かはここに残らなければならなかったかな、とふと思い直す。スィーに魔力を分け与え、手助けするためだ。少しくらい離れていても魔力の供給をすることは可能だが、魔力を飛ばすことにも魔力を使ってしまう。それなら、そばにいて直接渡せる人が一人くらいいてもいいだろう。
護衛の男の人魚さん達が持ってきてくれた少し豪華な椅子に座りながら、私はスィーとずっと手を繋いでいた。魔力を供給するため、というのはもちろんなのだが、とにかくそばにいてやらなければと思ったのだ。
彼がなにを思って、あんなに不自然な表情をしたのか。それは私にはよくわからない。それでも、この子は不安な気持ちになっているのだ。それならば、なるべくスィーのそばにいてあげないと。名前を呼ぶことを許されるくらいには、私は気に入られているはずなのだから。
「ねえ、ユキナ」
声をかけられてスィーを横目で見る。けれど、彼は私の方を見てはいなかった。
「なあに」
まるで友達のように、家族のように、答えてやらねば。いつの間にか私はそう思っていた。けれど、それは義務感からではない。純粋なる私の友人を思う気持ちからだ。友人と呼ぶには、まだ付き合いが浅すぎるのかもしれないが。
「……ありがとう」
優しい、安堵しているような、心満ち足りたような声で、スィーは言った。魔力を供給していることに関して、お礼を言っているのだろうか。その程度のことでお礼を言わなくても、と思ってしまうが、伝えるのが礼儀というものだろうか。
「魔力のことは、そんなに気にしなくても」
「ううん」
私の言葉を切るように、スィーは私の手をぎゅっと握りしめて、少し恥ずかしそうに笑う。
「安心したんだ、僕。僕の、本当の僕のことを知ってくれている人が、一緒に問題を抱えてくれる人がそばにいてくれて」
私は、何かを理解した気持ちだった。だめだったのだろう。一緒に問題に立ち向かうだけでは、だめだったのだろう。彼は、スィーは、きっと、不安だったのだ。
私はスィーの手に自分の手を添えると、目線を合わせて笑う。果たして今の私は、彼に優しさを与えることができているのだろうか。
「大丈夫、ここにいるよ」
少し目を見開いて、何か言おうと口を開いて。けれどスィーはなにも言わずにまた、口を閉じる。それでも彼の笑顔は随分と優しく、自然なものになっていた。
どちらにせよ誰かはここに残らなければならなかったかな、とふと思い直す。スィーに魔力を分け与え、手助けするためだ。少しくらい離れていても魔力の供給をすることは可能だが、魔力を飛ばすことにも魔力を使ってしまう。それなら、そばにいて直接渡せる人が一人くらいいてもいいだろう。
護衛の男の人魚さん達が持ってきてくれた少し豪華な椅子に座りながら、私はスィーとずっと手を繋いでいた。魔力を供給するため、というのはもちろんなのだが、とにかくそばにいてやらなければと思ったのだ。
彼がなにを思って、あんなに不自然な表情をしたのか。それは私にはよくわからない。それでも、この子は不安な気持ちになっているのだ。それならば、なるべくスィーのそばにいてあげないと。名前を呼ぶことを許されるくらいには、私は気に入られているはずなのだから。
「ねえ、ユキナ」
声をかけられてスィーを横目で見る。けれど、彼は私の方を見てはいなかった。
「なあに」
まるで友達のように、家族のように、答えてやらねば。いつの間にか私はそう思っていた。けれど、それは義務感からではない。純粋なる私の友人を思う気持ちからだ。友人と呼ぶには、まだ付き合いが浅すぎるのかもしれないが。
「……ありがとう」
優しい、安堵しているような、心満ち足りたような声で、スィーは言った。魔力を供給していることに関して、お礼を言っているのだろうか。その程度のことでお礼を言わなくても、と思ってしまうが、伝えるのが礼儀というものだろうか。
「魔力のことは、そんなに気にしなくても」
「ううん」
私の言葉を切るように、スィーは私の手をぎゅっと握りしめて、少し恥ずかしそうに笑う。
「安心したんだ、僕。僕の、本当の僕のことを知ってくれている人が、一緒に問題を抱えてくれる人がそばにいてくれて」
私は、何かを理解した気持ちだった。だめだったのだろう。一緒に問題に立ち向かうだけでは、だめだったのだろう。彼は、スィーは、きっと、不安だったのだ。
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