悪役令嬢、まさかの聖女にジョブチェンジ!?

空月 若葉

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38話

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 優しくふく風に頬を撫でられ、いつもの木の幹に体を委ねながら、私と冬菜は楽しく話をしていた。
「じゃあ、雪菜は精霊界で後ろ盾をしてくれる精霊が欲しかったのね」
 納得したように笑う冬菜は、エラの呪いが解けたあの日から本当に幸せそうだ。大きな心配事がなくなった冬菜は、その幸せを噛み締めている。苦しみから逃れることができたエラは、幸せそうに笑うようになった。
「もちろん、私でよければ後見人になるわ。雪菜には感謝してるし、何より親友だもの」
 冬菜は抱え切れないほど、私に感謝の気持ちを伝えてくれた。もういいよ、気にしなくていいよと何度も言うのだけれど、冬菜は何度言っても足りないと嬉しそうにいう。そこまで喜んでくれると、その度に私も嬉しくなってしまって、一緒に笑顔になってしまうのだ。
「ありがと。でも、冬菜はあの森に帰るの」
 私は森に住む精霊たちを安心させるために、私も安心して暮らせるために、後見してくれる精霊が欲しかった。その精霊は、できれば精霊の森に、私の近くにいる人がいいだろう。
 私の近くに力を持った精霊がいれば、私が何かをした時に止めてくれると、精霊達に安心感を与えられるはずだ。それに、私が困った時に助けてもらえる利点もある。
 私のかけてもらったこの見た目を変化させる魔法は、別に期間限定なわけではない。けれど、一つの場所に留まるのは危険だろう。きっと誰かにバレてしまう。生贄として捧げた娘が生きていた。そうなれば、間違いなく私はお縄だろう。
 だから、できれば私は精霊の森で楽しく和気藹々と暮らしたいのだが。でも、私や冬菜はまだしも、エラも連れていってしまっていいものだろうか。
 エラはまだ子供だ。人間たちから学ぶことも多くあるだろうし、人間独自のコミニュケーションも学んだほうがいいだろう。冬菜が私について精霊の森に来るとなったら、エラもきっとついてくることになる。それはダメだ。
「あー、どうしようかな。エラは人間として育てたいし……。やっぱり、雪菜の後見人になるのは無理かな」
 私達2人でうーん、と唸るも、どうすればいいのか答えは見つからない。
「冬菜はエラとここで過ごしたらいいわ。冬菜の次に力のある火の精霊さん、私の後見してくれるって言っていたもの」
 優しい冬菜をあまり悩ませたくない。そう思った私は、笑顔を作ってこの話題に終わりを告げようとした。後見人が冬菜でなければいけない理由などないのだから。
「あら、だめよ」
 冬菜は手の上で小さな火を作って、ゆらゆらとゆらめく炎を見つめている。
「彼女じゃあ、多分力不足だわ」
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