36 / 111
36話
しおりを挟む
冬菜の作ってくれたうどんは、何度口に運んでもやっぱり美味しい。野菜たっぷりのこの具も出汁がよく染みて、うどんにあっている。これなら、エラが気にいるのも納得だ。
最後の一口を飲み込むと、私は冬菜と一緒におぼんを下げ、皿洗いは後にしてエラの部屋に戻った。いよいよ、私の聖女の力を試す時が来たのだ。
「聖女の力はね、魔法の力で悪いものを包み込んで、消してしまうものなの」
初めて力を使う私のために冬菜が説明してくれる。その説明は、娘であるエラを安心させるためのものでもあるのだろう。
聖女の力の一般的な説明はゲームにも書いてあったが、使い方などの詳しい説明は載っていなかった。けれど、精霊たちには伝わっている様だ。
「雪菜、大事なのはイメージよ。集中して、成功する姿をイメージし、願うの」
冬菜は私を緊張させないようにか、ニコニコと笑っている。けれど、心の奥底ではきっと、恐怖と闘っているのだろう。どうしようもないくらい怖いと思う。どうしようもないくらい不安だと思う。それなのに、母親である以上しっかりしなければと、前を向いて頑張っている。
エラも真剣な表情をしてはいるが、怖いだろう。この世界で信じられている力ではあるが、何せ一度も実践したことのない力だ。何が起こるかは私たちにも分からない。
重い空気が漂う。仕方のない話だ。絶対に失敗するわけには行かない。けれど、緊張していては余計に失敗する確率が高まる。私にできるのは、ベストを尽くすことだ。自分にできることをやってみる。チャレンジしてみる。その心が大事なのだから。
横になっているエラの手を握る。何かあった時に地面に倒れなくて済むように、あらかじめベッドに寝てもらうことにしたのだ。
エラの魔力を感じ取る。自分の魔力を伝って、エラの中心にあるはずのそれを探っていく。
それの近くまでたどり着くと、まるで蝕むようにエラに襲いかかる何かを見つけた。それはゆっくりエラの光を吸い取っていて、そのすぐそばから別の魔力が注がれている。おそらくこの魔力が冬菜の魔力なのだろう。
ここまで来たら、やってみるしかない。私は意を決して自分の魔力で、エラの魔力を喰む、その黒い何かを包み込んだ。抵抗するようにそれは私の魔力も吸い取ってくる。ここで負けてはいけないと、必死に粘るのだがなかなか包み込むことができない。
焦って何もできなくなる。けれどそれでは本末転倒だ。冬菜は言っていた。イメージが大切なのだと。それなら、無理やり包み込むよりもイメージするのだ。それを包み込み、優しい色で満たす、その未来を。消そうとしては相手も抵抗するだけだ。覆うのではない、包み込むのだ。
最後の一口を飲み込むと、私は冬菜と一緒におぼんを下げ、皿洗いは後にしてエラの部屋に戻った。いよいよ、私の聖女の力を試す時が来たのだ。
「聖女の力はね、魔法の力で悪いものを包み込んで、消してしまうものなの」
初めて力を使う私のために冬菜が説明してくれる。その説明は、娘であるエラを安心させるためのものでもあるのだろう。
聖女の力の一般的な説明はゲームにも書いてあったが、使い方などの詳しい説明は載っていなかった。けれど、精霊たちには伝わっている様だ。
「雪菜、大事なのはイメージよ。集中して、成功する姿をイメージし、願うの」
冬菜は私を緊張させないようにか、ニコニコと笑っている。けれど、心の奥底ではきっと、恐怖と闘っているのだろう。どうしようもないくらい怖いと思う。どうしようもないくらい不安だと思う。それなのに、母親である以上しっかりしなければと、前を向いて頑張っている。
エラも真剣な表情をしてはいるが、怖いだろう。この世界で信じられている力ではあるが、何せ一度も実践したことのない力だ。何が起こるかは私たちにも分からない。
重い空気が漂う。仕方のない話だ。絶対に失敗するわけには行かない。けれど、緊張していては余計に失敗する確率が高まる。私にできるのは、ベストを尽くすことだ。自分にできることをやってみる。チャレンジしてみる。その心が大事なのだから。
横になっているエラの手を握る。何かあった時に地面に倒れなくて済むように、あらかじめベッドに寝てもらうことにしたのだ。
エラの魔力を感じ取る。自分の魔力を伝って、エラの中心にあるはずのそれを探っていく。
それの近くまでたどり着くと、まるで蝕むようにエラに襲いかかる何かを見つけた。それはゆっくりエラの光を吸い取っていて、そのすぐそばから別の魔力が注がれている。おそらくこの魔力が冬菜の魔力なのだろう。
ここまで来たら、やってみるしかない。私は意を決して自分の魔力で、エラの魔力を喰む、その黒い何かを包み込んだ。抵抗するようにそれは私の魔力も吸い取ってくる。ここで負けてはいけないと、必死に粘るのだがなかなか包み込むことができない。
焦って何もできなくなる。けれどそれでは本末転倒だ。冬菜は言っていた。イメージが大切なのだと。それなら、無理やり包み込むよりもイメージするのだ。それを包み込み、優しい色で満たす、その未来を。消そうとしては相手も抵抗するだけだ。覆うのではない、包み込むのだ。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる