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31話
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考えても仕方がない。とにかくやってみるしかないのはわかっている。
けれど、もし助けられなかったら。もし、悪化させてしまったら。冬菜はさぞかし私を恨むだろう。エラはとても苦しむだろう。私は罪悪感の海に、苛まれるだろう。
怖い。緊張のせいか、私は冷や汗を流していた。本当に大丈夫なのだろうか。本当に、いいの。本当に私は聖女なの。本当に私そんな大きな力を持っているの。
「雪菜」
冬菜は真剣な眼差しで私の肩に手を置く。
「大丈夫。雪菜なら、きっと大丈夫」
それは、成功するということか。緊張に打ち勝てるということか。けれど、私は安心感で満たされていた。私と前世でずっと一緒にいた冬菜が、大丈夫だって言ってる。それなら、きっと。
「うん、そうだね。とにかくやってみよう」
今は信じるしかない。私が聖女であるということを。
冬菜とエラの部屋に椅子を出して座る。成功しても失敗しても、急に自分の状況が変わればエラは驚くだろうから、先に事情を説明しておかなければならない。
「と、いうことなの。試してみてもいいかしら」
冬菜が暖かな優しい声でエラに問いかける。やはり冬菜も立派なお母さんなのだろう。安心する声だ。
「……嫌」
かえってきたのはそんな掠れた声で、私と冬菜は目をまん丸にしてエラを見た。まさか断られるとは思っていなかったのだ。けれど、おかしな話でもない。治療には希望もあれば、もちろんリスクもある。エラはそのリスクを気にしているのだろうか。
「ど、どうしてっ。大丈夫よ、このお姉さんは私の親友だから、安心できるわよ」
説得するように、頷いて欲しいと願うように、冬菜は叫んだ。冬菜の心からの叫びなのだろう。治りさえすれば、エラは自由にお天道様の下を歩き、走れるようになる。失敗したとしても何も発動しないだけで害はないだろう。よく考えてみれば、これと言って大きなリスクは見つからない。
「いやったら嫌。……出て行って」
エラが扉の方を指さす。私達は呆気に取られてそれを見ていた。
一旦外に出るべきだろうか。あまり病人の心を揺さぶるわけにはいかない。負担をかけるだけだ。そう思い直すも、やはりなぜだと思う気持ちは残る。けれど、これ以上は……。
「冬菜、一旦出ましょう」
冬菜に声をかけるも、冬菜は焦っていて、エラを説得するのをやめない。
「ど、どうしてよ、エラ」
エラの表情がどんどん重くなっていくのがわかる。きっと今冬菜は冷静な判断ができていないのだろう。無理もない。自分の大切な娘と意見が食い違っているのだ。しかも、一生や命に関わる問題で。大切であればあるほど、置いていかれる方は、見守る方は焦る。そういうものだ。
「冬菜」
私が冬菜の方にそっと手を置くと、冬菜は悔しそうに頷いた。
けれど、もし助けられなかったら。もし、悪化させてしまったら。冬菜はさぞかし私を恨むだろう。エラはとても苦しむだろう。私は罪悪感の海に、苛まれるだろう。
怖い。緊張のせいか、私は冷や汗を流していた。本当に大丈夫なのだろうか。本当に、いいの。本当に私は聖女なの。本当に私そんな大きな力を持っているの。
「雪菜」
冬菜は真剣な眼差しで私の肩に手を置く。
「大丈夫。雪菜なら、きっと大丈夫」
それは、成功するということか。緊張に打ち勝てるということか。けれど、私は安心感で満たされていた。私と前世でずっと一緒にいた冬菜が、大丈夫だって言ってる。それなら、きっと。
「うん、そうだね。とにかくやってみよう」
今は信じるしかない。私が聖女であるということを。
冬菜とエラの部屋に椅子を出して座る。成功しても失敗しても、急に自分の状況が変わればエラは驚くだろうから、先に事情を説明しておかなければならない。
「と、いうことなの。試してみてもいいかしら」
冬菜が暖かな優しい声でエラに問いかける。やはり冬菜も立派なお母さんなのだろう。安心する声だ。
「……嫌」
かえってきたのはそんな掠れた声で、私と冬菜は目をまん丸にしてエラを見た。まさか断られるとは思っていなかったのだ。けれど、おかしな話でもない。治療には希望もあれば、もちろんリスクもある。エラはそのリスクを気にしているのだろうか。
「ど、どうしてっ。大丈夫よ、このお姉さんは私の親友だから、安心できるわよ」
説得するように、頷いて欲しいと願うように、冬菜は叫んだ。冬菜の心からの叫びなのだろう。治りさえすれば、エラは自由にお天道様の下を歩き、走れるようになる。失敗したとしても何も発動しないだけで害はないだろう。よく考えてみれば、これと言って大きなリスクは見つからない。
「いやったら嫌。……出て行って」
エラが扉の方を指さす。私達は呆気に取られてそれを見ていた。
一旦外に出るべきだろうか。あまり病人の心を揺さぶるわけにはいかない。負担をかけるだけだ。そう思い直すも、やはりなぜだと思う気持ちは残る。けれど、これ以上は……。
「冬菜、一旦出ましょう」
冬菜に声をかけるも、冬菜は焦っていて、エラを説得するのをやめない。
「ど、どうしてよ、エラ」
エラの表情がどんどん重くなっていくのがわかる。きっと今冬菜は冷静な判断ができていないのだろう。無理もない。自分の大切な娘と意見が食い違っているのだ。しかも、一生や命に関わる問題で。大切であればあるほど、置いていかれる方は、見守る方は焦る。そういうものだ。
「冬菜」
私が冬菜の方にそっと手を置くと、冬菜は悔しそうに頷いた。
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