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29話
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冬菜は、どうしてエラがあんなにしんどそうなのかを教えてくれた。それを話す冬菜の様子はとてもつらそうで、見ているこっちも気分が重くなる。冬菜は、エラは、どれほど辛かったことだろうか。かわいそうに。どうして私は親友が困っている時に、そばにいてあげられなかったのだろうか。死んだ時の記憶がある私たちにとって、誰かの死を予告するそれは、何よりも辛いはずなのに。何よりも怖いはずなのに。
「あの子、病気ではないの。……呪いが、かけられているの」
呪い。私はその言葉に反応して冬菜の方を振り返った。
「え……」
思わず驚きの声が漏れ出る。
この世界では呪いは魔法の一つだ。実際に存在するそれの恐ろしさは、よく知っている。
「魔力を奪い去る呪いよ。おそらくエラの両親はそれに気がついてエラを捨てたのね……」
魔力。それはこの世界の人々にとって命の源だ。魔力のない状態が続くと、命も削られ、やがては死を呼ぶ。精霊は魔力の塊だと言われているから、それがなくなれば遺体すら残らないだろう。
「今はまだいいの。私が補充してあげられているから。でも……」
悔しそうに歪めたその顔から、何か糸が切れたように、涙がこぼれて、こぼれて。
「あの子は今まで一度も外を自由に走り回ることさえできなかった」
苦しかったでしょう。辛かったでしょう。冬菜がかわいそうでならない。エラがかわいそうでならない。どうしてあんなにいい子だった冬菜が死に、こんな目に。どうして赤ん坊だったエラをこんな目に。許せないと思った。許さないと思った。許すわけには行かないのだ。エラを守っていかなければならない、私達は。
「あげたそばから魔力が奪われていくの。だから側を離れられなくて、精霊王様にも迷惑をおかけして……」
何とかなるよと言いたい。何とかしてあげるって言いたい。私にその力さえあれば。呪いを解く力さえあれば。
何かヒントはないかと記憶の中を探る。この世界で習った精霊について。恐ろしいものだと伝えられる呪いについて。ゲームの設定の聖女の力について。……ちょっと待って、聖女の力って、もしかして。もしかするとだけれど。
「ねえ、冬菜……。私、エラちゃんのこと、どうにかしてあげられるかもしれない」
この世界では習わない、過去に前例もないゲームで聞いた裏設定。そこに私達の求めるヒントはあった。
「あの子、病気ではないの。……呪いが、かけられているの」
呪い。私はその言葉に反応して冬菜の方を振り返った。
「え……」
思わず驚きの声が漏れ出る。
この世界では呪いは魔法の一つだ。実際に存在するそれの恐ろしさは、よく知っている。
「魔力を奪い去る呪いよ。おそらくエラの両親はそれに気がついてエラを捨てたのね……」
魔力。それはこの世界の人々にとって命の源だ。魔力のない状態が続くと、命も削られ、やがては死を呼ぶ。精霊は魔力の塊だと言われているから、それがなくなれば遺体すら残らないだろう。
「今はまだいいの。私が補充してあげられているから。でも……」
悔しそうに歪めたその顔から、何か糸が切れたように、涙がこぼれて、こぼれて。
「あの子は今まで一度も外を自由に走り回ることさえできなかった」
苦しかったでしょう。辛かったでしょう。冬菜がかわいそうでならない。エラがかわいそうでならない。どうしてあんなにいい子だった冬菜が死に、こんな目に。どうして赤ん坊だったエラをこんな目に。許せないと思った。許さないと思った。許すわけには行かないのだ。エラを守っていかなければならない、私達は。
「あげたそばから魔力が奪われていくの。だから側を離れられなくて、精霊王様にも迷惑をおかけして……」
何とかなるよと言いたい。何とかしてあげるって言いたい。私にその力さえあれば。呪いを解く力さえあれば。
何かヒントはないかと記憶の中を探る。この世界で習った精霊について。恐ろしいものだと伝えられる呪いについて。ゲームの設定の聖女の力について。……ちょっと待って、聖女の力って、もしかして。もしかするとだけれど。
「ねえ、冬菜……。私、エラちゃんのこと、どうにかしてあげられるかもしれない」
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