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11話
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何か話しかけようとして口を開いたところで気がつく。喉が、口の中がカラカラだ。そういえば馬車に乗る前から、何も口にしていない。喉も渇くはずだ。
「ねえ、喉が渇いたんだけど、近くに飲める水はない」
これだけ綺麗な森だ。きっと綺麗な水があるのだろう。湖か、川か、はたまた滝か。自然に溢れているこの森は、沢山の美しい想像をさせてくれる。
「私、お水出せるわ」
水の精霊が私の肩から舞うと、小さく手を上げた。
「手を出して」
指示された通りに両手で器の形を作ると、冷たい水が私の手から溢れ出す。私はその冷たさの誘惑に耐えきれなくなり、キラキラと輝くその水に口をつけた。……美味しい。一口飲んだだけでもわかる。その澄んだ水は、私の口の中を溶けるように潤し、喉へと降っていく。こんなに美味しい水を飲んだのは初めてかもしれない。
「美味しいわ、ありがとう」
私がお礼を言うと、水の精霊は照れ臭そうに小さく笑う。私は一気に残りの水を飲み干した。コップ一杯にも満たないほどの量しかなかった水だが、その量でも十分満足できるほど水は美味しく、私に潤いを与えてくれた。
「あ、帰ってきた」
火の精霊が私の肩から降りて後ろを指さす。誰が帰ってきたのだろうか。
後ろを振り返ると、大きな果実のようなものが浮かんでいるのが見える。私はギョッとした。まるでその果実が自力で飛んでいるかのように見えたからだ。けれど、実際にはそうではなくて。
それはだんだんこちらに近づいてくる。私はあと数メートルと言うところで、それを運んでいる何かに気がついた。先ほどまで私の肩に止まっていた風の精霊だ。どうやら風の力で運んでいるらしく、精霊の手は果実には触れていない。
「はい、どうぞ」
風の精霊は地面に添えられた私の手の横にその果実を置いた。私にくれると言うその果実は精霊達と同じくらい大きく、お腹を満たすには十分な大きさだ。
「そのまま齧り付くことができるわ」
風の精霊は探索に長けているのだと人間には伝わっている。水や火と違い、空気は大抵のところにある。海の中となれば水の精霊の方が強いのだろうが、風の精霊は空気を通じて、どこに何があるのかがわかってしまうらしい。きっと、その力を使って食べられる果実を探してくれたのだろう。
「ありがとう」
私が笑いかけると、優しく笑い返してくれた風の精霊は、自然な仕草で私の肩にとまった。果実を手に取ると、水の精霊が水を出し、土や汚れなどがついているであろうそれを洗い流してくれ、果実は見たこともないほど美味しそうに光り輝いて見える。
私はガブっと大きな口で、その果実にかじりついた。瑞々しくて、甘い。私たちの国にはなかったものだ。こんなに美味しいものがあるなんて。
飢え死するのではないかと心配だったけれど、その心配はなさそうね。味に飽きることもなさそうだわ。私は上機嫌になり、もう一口、とその果実に歯を立てた。
「ねえ、喉が渇いたんだけど、近くに飲める水はない」
これだけ綺麗な森だ。きっと綺麗な水があるのだろう。湖か、川か、はたまた滝か。自然に溢れているこの森は、沢山の美しい想像をさせてくれる。
「私、お水出せるわ」
水の精霊が私の肩から舞うと、小さく手を上げた。
「手を出して」
指示された通りに両手で器の形を作ると、冷たい水が私の手から溢れ出す。私はその冷たさの誘惑に耐えきれなくなり、キラキラと輝くその水に口をつけた。……美味しい。一口飲んだだけでもわかる。その澄んだ水は、私の口の中を溶けるように潤し、喉へと降っていく。こんなに美味しい水を飲んだのは初めてかもしれない。
「美味しいわ、ありがとう」
私がお礼を言うと、水の精霊は照れ臭そうに小さく笑う。私は一気に残りの水を飲み干した。コップ一杯にも満たないほどの量しかなかった水だが、その量でも十分満足できるほど水は美味しく、私に潤いを与えてくれた。
「あ、帰ってきた」
火の精霊が私の肩から降りて後ろを指さす。誰が帰ってきたのだろうか。
後ろを振り返ると、大きな果実のようなものが浮かんでいるのが見える。私はギョッとした。まるでその果実が自力で飛んでいるかのように見えたからだ。けれど、実際にはそうではなくて。
それはだんだんこちらに近づいてくる。私はあと数メートルと言うところで、それを運んでいる何かに気がついた。先ほどまで私の肩に止まっていた風の精霊だ。どうやら風の力で運んでいるらしく、精霊の手は果実には触れていない。
「はい、どうぞ」
風の精霊は地面に添えられた私の手の横にその果実を置いた。私にくれると言うその果実は精霊達と同じくらい大きく、お腹を満たすには十分な大きさだ。
「そのまま齧り付くことができるわ」
風の精霊は探索に長けているのだと人間には伝わっている。水や火と違い、空気は大抵のところにある。海の中となれば水の精霊の方が強いのだろうが、風の精霊は空気を通じて、どこに何があるのかがわかってしまうらしい。きっと、その力を使って食べられる果実を探してくれたのだろう。
「ありがとう」
私が笑いかけると、優しく笑い返してくれた風の精霊は、自然な仕草で私の肩にとまった。果実を手に取ると、水の精霊が水を出し、土や汚れなどがついているであろうそれを洗い流してくれ、果実は見たこともないほど美味しそうに光り輝いて見える。
私はガブっと大きな口で、その果実にかじりついた。瑞々しくて、甘い。私たちの国にはなかったものだ。こんなに美味しいものがあるなんて。
飢え死するのではないかと心配だったけれど、その心配はなさそうね。味に飽きることもなさそうだわ。私は上機嫌になり、もう一口、とその果実に歯を立てた。
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