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3話

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 改築が終了した夏休み、私は本棟へと引っ越しをすることになった。割り当てられた部屋は二階の真ん中。千帆ちゃんと真向かいの部屋だ。隣は小宮くん。彼も寮へ残ることにしたらしい。新しい鍵と部屋に少しだけ心躍った。四畳半の部屋から、五畳半の部屋へと変わり、畳からフローリング、押し入れからクローゼットへ変わった。別棟にはなかったエアコンとベランダ付き。男子風呂だったところは改装されて男子風呂二つ、女子風呂二つの計四つになり、共通トイレは一階と二階に二つずつと洗面化粧台も同じ数設置されている。入り口は表の玄関と裏口。裏口は二階に繋がる階段があり、共通の靴箱が置いてある。
 別棟から近い裏口から荷物運びを終えた私はベランダへ出た。青空に入道雲、蝉の声の中、風が吹いた。当然暑い。向かい側は大家さんが管理している二階建てのアパート。寮とアパートの間には駐車場がある。そちらへ視線を移せば、茶々さんが軽い足取りで歩いているのが見えた。

 (あ、茶々さん……)

 彼女は日陰を選びながら進む。私はベランダから「茶々さ~ん」と声を掛けてみた。
 茶々さんの耳がぴくん、と反応して歩みを止める。周囲を見渡して声のした方を探している。私はベランダからもう一度茶々さんを呼んだ。

 「茶々さ~ん! おーい」

 茶々さんがこちらを見た。視線が交差する。私は茶々さんに手を振ってみた。すると、茶々さんが方向転換して本棟のある方へ向かって行く。姿が見えなくなったと思ったらベランダの手すりを歩いてこちらへ向かって来た。さすが猫。バランスを崩すことなく手すりの上を歩く。

 「え⁉ 茶々さん、そこから来るの?」

 思わず問いかけてしまう。茶々さんは私の前で止まるとひらり、と降り立った。ニャン、と一鳴きする。私はしゃがんで茶々さんの頭を何度も撫でる。

 「今日からここに住むことになったんだよ~」

 そう言うと、ニャー、と返事するように茶々さんが鳴いた。今日からこの部屋に住むことになった私と茶々さんとの日常が始まる。
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