悪役令嬢という宝石を攫って

空月 若葉

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本編

3話 差し上げますわ

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 王子様がハッとしたようにびくりと体を動かし、慌てたようにキッと目の前にいる闇を睨んだ。
「ブラック、何しにきた。私の誕生日パーティーに乱入とは、いい度胸だな」
彼、怪盗ブラックキャッツは猫の仮面をつけた謎の男で沢山の貴族の家に宝石やら金やら盗みに入っている怪盗だ。闇に紛れるようにして気がつけばその場から姿を消している彼のことを人々はブラックキャッツと名づけ、彼はブラックと呼ばれるようになった。
「貴方に用事はありません」
目線だけを王子様に移してそう答えた彼は再び私の方に向き直った。
「今夜は宝石を盗みにきたんです。この世に一つしかないとても美しい宝石です。その宝石を私にいただけますか」
私の目をしっかりと見て手を差し出した彼に私は一瞬見惚れていた。慌てて我に帰り自分の手を、ドレスをキョロキョロと見回した。けれども宝石なんてどこにもない。それもそうだ。私の宝石類は全てミラに奪われてしまったのだから。だから私はいつも、今日のようにお花をアクセサリーとしてパーティーに出ていた。
 なら、彼の言う宝石とは。その答えは昨日の夜に隠されていた。頭の中で彼の言葉をたどる。ふと思い出して、ああ、このことかと心の中で笑った。
「ええ、差し上げますわ」
差し出された手に、私は迷うことなく自分の手を重ねた。
「では、今夜はこれで」
彼が私を抱え上げると辺りの光は全て消え失せた。再び光が灯る頃にはブラックも狙われた宝石もどこにもなかった。残っていたのは呆然と立ち尽くす人々のみだったと言う。

 目を閉じていて、とそう言われたから。私はしばらくの間、目を閉じていたのだが、ゆらゆらと揺れるその感覚がゆりかごのようで私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 目を開けると、そこは平民が暮らすような質素な家だった。今さっきまでいたような会場のように煌びやかな料理も白すぎる壁もない、私の服装だけが目立つような。そんな部屋のベッドに私は寝かされていた。
「目が覚めたか」
優しい声に誘われて体を起こす。
「その話し方が本当の性格なの。面白いわね」
やれやれとでも言うように私は蝋燭に照らされる彼を見た。そこには素顔を晒した彼がいた。
「お前もな」
ふっ、と彼が笑う。私はベッドから降り彼の正面に置かれた椅子に腰掛けた。
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