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3話 私の宝石

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 パーティーが、始まる。まるでお遊戯会のようなそのパーティーに、ルーカス様を送り出さなければならないなんて寒気がする。それでも、行ってもらわねば困るのだ。貴方様の、幸せな未来のために……。

 誰もパーティーに一緒に来てくれる人などおらず、彼はいつも通り1人で入場する。決まってしまった最悪な未来に、いつも以上の不安を抱えながら。
「皆のもの、聞け」
 1人の青年が入った途端、王太子の大きな声が響き渡った。青年の心が張り裂けそうになるその大声とは裏腹に、王太子はその顔に笑みを浮かべている。
「今日この時より、この男はただの平民となる。ただのルーカスになるのだ」
 その声に貴族たちが送ったのは、盛大な拍手だった。憐れむでも、ひそひそと噂話をするでもなく、喜びを分かち合ったのだ。
 惨めな気持ちに圧倒されそうになりながらも、青年は何とか立っている。堪えている。何も言わずに、抵抗せずに。全ては大切な1人のメイドに、害が及ばないようにするために。
 ふっ、と灯りが消える。残されたのは、暗闇の中驚き、悲鳴をあげるたくさんの狼達と、2つの何か。
「皆様、ごきげんよう」
 とても静かで落ち着いたその美しい声が響き渡る。引き寄せられるように全ての注目はその白に集まり、悲鳴は聞こえなくなった。
「美しい夜空の宝石を見るのに、沢山の光は不要かと思いまして……消させていただきました」
 夜空に照らされて淡く見える何かは、ゆっくりともう一つの何かに向けて歩いていく。その姿は空に揺らめく星のように、光を当てれば姿の変わる宝石のようで。
 いつも狼は悪者にされる。例えば、誰もがよく知るあの物語の中だって。でもそれは、人に害をなすからであって、他の誰かからしたら、それはまた別の正義なのかもしれない。狼は、自分を攻撃する者を攻撃し、生きるために食事をしようとしただけなのだから。
 だから、狼に例えられた彼らも、別に特別悪いことをしているわけではない。自分たちはあくまでも、幸せに生きるために周りに合わせているだけなのだから。
 だとしたら、狼たち、人間たちにとって異端なのは。
「貴方を盗みにきました、私のジュエリー」
きっと、この2つの何かの方なのであろう。
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