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10話 どうすればよかったの
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ボーッとしてしまい今自分がどんな状況に置かれているのかさえ分からない。さっきロー様はなんていったのかしら。……好きになってしまったといっていた。確かにそう言っていた。私以外の誰か、を。どう言うことなの。
「お嬢様、どうかされましたか」
気がつけばマテオが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。いつの間に部屋に入ってきたのだろう。全然気がつかなかった。
「ノックをしたのですが返事がなかったので、勝手に入らせていただきました」
ティーカップに紅茶を注ぎながらマテオはそう言った。いつもの紅茶の匂いだ。落ち着くお家の匂い。
「何かあったんですか」
不安そうな顔をしながらマテオは私に紅茶の入ったティーカップを手渡してくれた。従者を不安にさせてしまうなんて、私は主人失格かしら。でも、私、耐えられない。どうしたらよかったなんて分からない。ロー様の元へ行って、直接問いただせばよかったのかしら。わからない、わからない。
「お嬢様、大丈夫ですか」
今どう言えばいいのかも、私にはわからない。けれど私の口はその答えを知っていた。
「大丈夫じゃ、ない」
その言葉を合図に私の目から涙が溢れ出してきた。拭われることもなく頬を伝う滴。
「あのね、ロー様、が」
マテオは真剣な顔つきで私を見つめていた。私の小さな声に耳を傾けてくれている。それだけで少し安心できた。
「他の人を、好きに、なっちゃったんだってえ」
マテオの眉がぴくりと動く。そしてとても悲しそうな顔をして私の肩を抱き寄せて。
「辛かったですね。私がついていますよ」
マテオは私が泣くたびに今日のように温かい腕で抱きしめてくれた。そしてそのたびに私は言うのだ。
「ありがとう、ごめんね」
本当は主人である私がしっかりしなくてはいけないのかもしれない。そう思うたび胸が苦しくなる。けれどこの優しさには抗えない。
「大丈夫、大丈夫」
私の頭をゆっくり撫でてくれる。私は安心してその手に身を委ねた。
私の大切な家族、マテオ。こんなことを相談されても迷惑なだけだろうにマテオは私の辛さを受け入れて慰めようとしてくれている。それだけでも少しだけ、満たされた気分だった。
私は思い込んでいたのだ。婚約者である私がきっとロー様の中で1番なのだと。今まで私はロー様に好かれるために何かしてきただろうか。……はは。もう全部、今更か。だけれど。
「大丈夫、大丈夫」
今は、もう少しだけ。
「う、うう。ひっく」
泣かせて。
「お嬢様、どうかされましたか」
気がつけばマテオが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。いつの間に部屋に入ってきたのだろう。全然気がつかなかった。
「ノックをしたのですが返事がなかったので、勝手に入らせていただきました」
ティーカップに紅茶を注ぎながらマテオはそう言った。いつもの紅茶の匂いだ。落ち着くお家の匂い。
「何かあったんですか」
不安そうな顔をしながらマテオは私に紅茶の入ったティーカップを手渡してくれた。従者を不安にさせてしまうなんて、私は主人失格かしら。でも、私、耐えられない。どうしたらよかったなんて分からない。ロー様の元へ行って、直接問いただせばよかったのかしら。わからない、わからない。
「お嬢様、大丈夫ですか」
今どう言えばいいのかも、私にはわからない。けれど私の口はその答えを知っていた。
「大丈夫じゃ、ない」
その言葉を合図に私の目から涙が溢れ出してきた。拭われることもなく頬を伝う滴。
「あのね、ロー様、が」
マテオは真剣な顔つきで私を見つめていた。私の小さな声に耳を傾けてくれている。それだけで少し安心できた。
「他の人を、好きに、なっちゃったんだってえ」
マテオの眉がぴくりと動く。そしてとても悲しそうな顔をして私の肩を抱き寄せて。
「辛かったですね。私がついていますよ」
マテオは私が泣くたびに今日のように温かい腕で抱きしめてくれた。そしてそのたびに私は言うのだ。
「ありがとう、ごめんね」
本当は主人である私がしっかりしなくてはいけないのかもしれない。そう思うたび胸が苦しくなる。けれどこの優しさには抗えない。
「大丈夫、大丈夫」
私の頭をゆっくり撫でてくれる。私は安心してその手に身を委ねた。
私の大切な家族、マテオ。こんなことを相談されても迷惑なだけだろうにマテオは私の辛さを受け入れて慰めようとしてくれている。それだけでも少しだけ、満たされた気分だった。
私は思い込んでいたのだ。婚約者である私がきっとロー様の中で1番なのだと。今まで私はロー様に好かれるために何かしてきただろうか。……はは。もう全部、今更か。だけれど。
「大丈夫、大丈夫」
今は、もう少しだけ。
「う、うう。ひっく」
泣かせて。
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