10 / 17
10話 どうすればよかったの
しおりを挟む
ボーッとしてしまい今自分がどんな状況に置かれているのかさえ分からない。さっきロー様はなんていったのかしら。……好きになってしまったといっていた。確かにそう言っていた。私以外の誰か、を。どう言うことなの。
「お嬢様、どうかされましたか」
気がつけばマテオが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。いつの間に部屋に入ってきたのだろう。全然気がつかなかった。
「ノックをしたのですが返事がなかったので、勝手に入らせていただきました」
ティーカップに紅茶を注ぎながらマテオはそう言った。いつもの紅茶の匂いだ。落ち着くお家の匂い。
「何かあったんですか」
不安そうな顔をしながらマテオは私に紅茶の入ったティーカップを手渡してくれた。従者を不安にさせてしまうなんて、私は主人失格かしら。でも、私、耐えられない。どうしたらよかったなんて分からない。ロー様の元へ行って、直接問いただせばよかったのかしら。わからない、わからない。
「お嬢様、大丈夫ですか」
今どう言えばいいのかも、私にはわからない。けれど私の口はその答えを知っていた。
「大丈夫じゃ、ない」
その言葉を合図に私の目から涙が溢れ出してきた。拭われることもなく頬を伝う滴。
「あのね、ロー様、が」
マテオは真剣な顔つきで私を見つめていた。私の小さな声に耳を傾けてくれている。それだけで少し安心できた。
「他の人を、好きに、なっちゃったんだってえ」
マテオの眉がぴくりと動く。そしてとても悲しそうな顔をして私の肩を抱き寄せて。
「辛かったですね。私がついていますよ」
マテオは私が泣くたびに今日のように温かい腕で抱きしめてくれた。そしてそのたびに私は言うのだ。
「ありがとう、ごめんね」
本当は主人である私がしっかりしなくてはいけないのかもしれない。そう思うたび胸が苦しくなる。けれどこの優しさには抗えない。
「大丈夫、大丈夫」
私の頭をゆっくり撫でてくれる。私は安心してその手に身を委ねた。
私の大切な家族、マテオ。こんなことを相談されても迷惑なだけだろうにマテオは私の辛さを受け入れて慰めようとしてくれている。それだけでも少しだけ、満たされた気分だった。
私は思い込んでいたのだ。婚約者である私がきっとロー様の中で1番なのだと。今まで私はロー様に好かれるために何かしてきただろうか。……はは。もう全部、今更か。だけれど。
「大丈夫、大丈夫」
今は、もう少しだけ。
「う、うう。ひっく」
泣かせて。
「お嬢様、どうかされましたか」
気がつけばマテオが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。いつの間に部屋に入ってきたのだろう。全然気がつかなかった。
「ノックをしたのですが返事がなかったので、勝手に入らせていただきました」
ティーカップに紅茶を注ぎながらマテオはそう言った。いつもの紅茶の匂いだ。落ち着くお家の匂い。
「何かあったんですか」
不安そうな顔をしながらマテオは私に紅茶の入ったティーカップを手渡してくれた。従者を不安にさせてしまうなんて、私は主人失格かしら。でも、私、耐えられない。どうしたらよかったなんて分からない。ロー様の元へ行って、直接問いただせばよかったのかしら。わからない、わからない。
「お嬢様、大丈夫ですか」
今どう言えばいいのかも、私にはわからない。けれど私の口はその答えを知っていた。
「大丈夫じゃ、ない」
その言葉を合図に私の目から涙が溢れ出してきた。拭われることもなく頬を伝う滴。
「あのね、ロー様、が」
マテオは真剣な顔つきで私を見つめていた。私の小さな声に耳を傾けてくれている。それだけで少し安心できた。
「他の人を、好きに、なっちゃったんだってえ」
マテオの眉がぴくりと動く。そしてとても悲しそうな顔をして私の肩を抱き寄せて。
「辛かったですね。私がついていますよ」
マテオは私が泣くたびに今日のように温かい腕で抱きしめてくれた。そしてそのたびに私は言うのだ。
「ありがとう、ごめんね」
本当は主人である私がしっかりしなくてはいけないのかもしれない。そう思うたび胸が苦しくなる。けれどこの優しさには抗えない。
「大丈夫、大丈夫」
私の頭をゆっくり撫でてくれる。私は安心してその手に身を委ねた。
私の大切な家族、マテオ。こんなことを相談されても迷惑なだけだろうにマテオは私の辛さを受け入れて慰めようとしてくれている。それだけでも少しだけ、満たされた気分だった。
私は思い込んでいたのだ。婚約者である私がきっとロー様の中で1番なのだと。今まで私はロー様に好かれるために何かしてきただろうか。……はは。もう全部、今更か。だけれど。
「大丈夫、大丈夫」
今は、もう少しだけ。
「う、うう。ひっく」
泣かせて。
11
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる