悪役令嬢だって幸せになりたい

空月 若葉

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9話 入学式にて

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 学校に着くと私はマテオと別れて入学式が行われる会場に向かった。そこには社交界でよく見るきらびやかな世界が待っていた。勉強をする場と言ってもここにいるのは皆んな貴族だ。気を使わなければならないことももちろんある。するとやはり上部だけの会話になってしまう人が多いのだ。私はそんな会話は好きではないが仕方がないのかもしれない。
 入学式は何事もなく無事に行われた。私が前世で体験した学校の入学式とは全然違うものだったがこのドキドキ感は変わらない。楽しみで仕方がないのだ。これから行われる授業。友達作り。婚約者がいるのだから恋愛も必ず楽しめる。なんて素晴らしいことなのだろう。もちろんただの政略結婚であればそんなことは地獄でしかないが私は王子のこと、結構好きだし……。
 ああ、そういえばロー様に挨拶をしておかないと。婚約者である王子様に挨拶をしなければならないことを思い出した私は、入学式が終わり散っていく人々の中からロー様の姿を探した。どこにいても人だかりができいつも目立っているはずのロー様。けれど今日は見つけるのに少し時間がかかった。どうやらすみでご友人と話していらっしゃるらしい。今は話しかけないほうがいいだろうか。そのとき私は気がついた。ロー様の様子がなんだかおかしい。私はロー様とお呼びすることを許していただけた日から何度もロー様にお会いしてきたがあんな表情をしているのは初めて見た。なんとなく恥ずかしがっているような。いつも感情を表に出さなかったロー様。あのご友人は何か特別な方なのだろうか。
 私は近くに隠れて盗みぎくことにした。あまり良くないことなのはわかっていたのだが気になって仕方がなかったのだ。耳を済ませれば何人もの人の声に紛れながらロー様の声をが聞こえてきた。
「では、恋をなさったのですか」
……は。私は自分の耳が正気かどうかを疑った。
「そうなんだ……」
それは紛れもないロー様の声だった。恋をした。私がいるのにいったい誰に。もしかしてロー様は私達の婚約に納得されておられなかったのか。ぐるぐるとたくさんの考えが頭の中を巡って、そしてなにもわからなくなった。
 
 気がつけば私は寮にある自分の部屋のベッドに座っていた。どうやってここまで帰ってきたのかは覚えていない。唯一覚えているのは、微かに耳に残ったこと言葉。
「婚約者じゃない人に恋をしてしまったんだ」
私じゃない。最後の希望であるその考えにすがっていたかった。けれどロー様はそれさえも許してはくださらないらしい。
「どういう、こと」
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