悪役令嬢だって幸せになりたい

空月 若葉

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3話 高熱と前世の記憶

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 驚いたメイドがドアを開け中に入ってきた。その瞬間私は助かったとホッとした。
「すぐにお医者様を」
前向きに倒れてしまった私を起こしながら近くにいたメイドに指示を出していたのは、メイド長だった。それも私に気を使って小さな声で指示をしてくれるメイド長は本当に優秀だ。……あれ。私、いつも人を褒めるなんてしないのに。どうして急に……。
「ぐ」
頭がひどく痛む。まるで脳が分解されているみたいに。
「お嬢様、頑張ってください。すぐにお医者様をお呼びしますから」
私の額に手を当てたメイド長は、焦ったような顔で私をみた。
「……ひどい熱」
ひょっとして今の私は相当大変なことになっているのだろうか。心細いよお父様、お母様……。
 私は宙に向かって手を伸ばした。けれどその手は誰にも掴まれることなく、私の意識は途絶えた。

 私は日本人、優香。花園優香。私は普通の家に生まれた普通の女の子の、はずだ。2人の記憶が混濁する。私は誰。花園優香なのかガーベラ・サフランなのか。優香は普通の平凡な女の子。ガーベラは悪役令嬢。……悪役令嬢ですって。
 私は何故かそう思った。何故そう思ったのかはわからず、記憶を辿ってやっと見つけたのは、見た目や名前が私と似ている乙女ゲームの世界だった。
 ……もしかして優香はしんで悪役令嬢のガーベラに転生したの。訳がわからず、むしゃくしゃする。そんなことが現実にあっていいものか。私はガーベラなんかじゃない。優香、花園優香だ。

 ゆっくり目を開けると、お父様とお母様、メイド達が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「目が覚めたのか。すぐにお医者様を呼ぶからな」
お父様はそう言うと、自らお医者さんを呼びに部屋から出ていってしまった。頭はまだ痛む。しんどい時に、家族が言ってしまうと言うことは寂しいことだ。
「手ぇ、にぎって」
ポロリと口からこぼれ出た。今までのガーベラならこんなことは言わなかっただろう。お母様は私の手を優しく握り微笑みかけてくれた。メイド達は心配そうに私の様子を伺い、中には泣いているものもいた。
「大丈夫ですよ、ガーベラ。きっと良くなります」
みんなが心配してくれている姿を見て、私は思った。私は確かに優香だ。いや、優香だった。私はガーベラでもあるのだ。ガーベラの存在を否定するなんてあってはならないことだったのだ。
「大好きです、お母様」
口から出たのは、今にも死んでしまいそうな弱々しい声だった。
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