復讐姫の王国記

朝木 彩葉

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さて、あの日はすぐに戻ったからか、大人たちにはバレずに済んだ。

しっかり者のシエルがじい様に「そろそろ帰らないと心配させてしまいます」って伝えてくれたからなんだけどね。

「殿下!」

ドアをスパーンと開けてマリが来た。

…うん、年々ゆっくり開けてくれるようになっているから良かった。

初めの頃はドアはバコーンと音をして開き、壁にぶつかった上戻ってきたドアに頭をぶつけるなんて器用なことをしていたから…。

「なあに、まり。」

「シエル様からお手紙が届いております!」

「しえるから?」

何かしら。やっぱりまだじい様を信じていなかったのかしら?

マリから手紙を受け取って中身を見ると、そこにはいつものように丁寧に書こうとした形跡の見られるシエルの字が綴られていた。

『おうこくのつき ありすでんか

ありす、せんじつは おさそい ありがとうございます。
とてもたのしかったです。
ぼくは ようせいが すきなのですが、ありすは すきですか?
あたらしい ようせいの おはなしを きいたので、おつたえしたいです。
こんど、いつ あえますか?

しえる』

あっ。そうだわ。
シエル、妖精好きなんだった。

じい様のところに連れてきたのってツーリとルージュの二人ね。

じい様の作ったあの空間にいたということはもしかして妖精も見ることが出来たのかしら…。

それなら気になって仕方がないでしょうね。

きっと中身を見られてもいいように妖精について聞いたりはしなかったのね。

賢いわ、シエル。

そうね、シエルならお父様がほぼ毎日王宮に来て仕事をしてるからいつでも会えるんだけど。

明後日だと早いかしら。

1度お母様にきいてみないと。

「まり、おかあさまに おはなしがあります。」

「かしこまりました!確認いたします!」

うむうむ。明後日はたぶん音楽の授業だけだったはず。

授業後かその前に会えたらいいわね。

「殿下!今お会い出来るそうです!」

「そうなの?じゃあいきましょう!」








「おしごとちゅう、しつれいいたします、おかあさま。」

「あらー!いらっしゃい、アリス!」

お母様は私を抱きしめてそのままいつものようにソファーに座った。

「さて、今日はどうしたのかしら?」

「あの、しえるにあいたいです。あさってはあえますか?」

「まあまあ!明後日ね!予定を確認するわ~。

…ええ、大丈夫よ!音楽の授業以外の時間になら会えるわ。」

「わかりました。じゃあ、そうつたえます。」

「ええ、そうしなさいな。」

よし、お母様の許可も得たし、お返事を書かないと。

「ではおかあさま、おしごとがんばってくださいね。」

「えーーー!アリス、もう行っちゃうの?」

「しえるにおへんじを しないと…。」

「うっ、そうよね…。そうだわ!ここで書きなさい。私もここでお仕事するのよ。」

「んー?わかりました。」

なんでここで書いてほしいんだろ。
まあお母様がそうおっしゃるなら、ここでしますけど…。

私はマリに便箋を受け取って手紙を書いた。

日付と、授業の時間以外なら大丈夫って書いとけばいいわよね。

「まり、これをしえるに とどけて。」

「かしこまりました!」

「あら、ありす、もうお手紙書けちゃったの?」

すごくしょんぼりしたお母様が私の方に来る。

えぇー?もしかしてお母様、最近寂しいのかしら?

うーん、かぞくさーびす?すべきかしら。

「おかあさま、こんど いっしょにりょこうに いきたいです。
ききました。りょこうは、かぞくでいろんなところに いけるそうです。」

「まあ!それは素敵ね~!
そうよ、たまにはどこかに出かけましょう!
お父様に伝えてくるわね!
この時間は…あの人も休憩してるはず!行ってくるわ!」

ドタバタと出ていったわね…。

「…まり、おへやにもどりましょうか。」

「ええと!はい!」

お父様、お仕事って休めるのかしら…。

でも旅行って行ったことが無いから結構楽しみね。

お母様のためにと思って提案してみたけど、ワクワクしてる自分がいるわ。

お父様とお母様、なんとか休めるようになったらいいな。

あ、いざとなったらじい様に手伝ってもらいましょう。

王様業を長くしてたのだからきっと何かできるはずだわ。

いつも何かあったら言うようにって言ってたから頼んでおこうかしら。

ふふ、それならきっと大丈夫ね。

私の中でほぼ確定になった旅行計画に心が浮き立つのだった。
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