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た
しおりを挟むあれから久しぶりの音楽の授業の日。
ピアノはたまにポロポロ弾いていたけれど、バイオリンはまだ弾けていなかった。
先生も先ずはピアノからと前回の帰り際に仰ったから、私もピアノから練習した。
「せんせい、おひさしぶりです。」
「おひさしぶりです、殿下。」
私たちは前の時も練習の前に少しお茶をしてからレッスンを始める。
「殿下、お元気でしたか?初めてお会いしてから秋祭りがありましたのでかなり空いてしまいました。本日お会いできて嬉しいわ。」
「ありがとうございます。わたしはげんきです。
せんせいにおはなししようとおもっていることがたくさんあるんです。」
「まあ、嬉しいわ。なにかしら。」
「せんせいがいらしたとき、いっしょにきたようせいが、わたしといっしょにせいかつすることになりました。」
「あらあら、そうなのですね!それは良かったわ!
しかし…今あの二人はここにいないみたいですね?」
「あのふたりはじゆうなのです。
いっしょにいるといったのに、いつもどこかにいっていて、きづいたらそばにいるのです。」
本当に、いつもどこに行ってるのかしら。
私が構ってあげていないからか、あまり私のそばに居ないのよ。
「ふふふ。殿下、そんなぷりぷりなさらないで?
あまりそばに居ないのが寂しいのですか?」
「さ、さびしくなんかないのです。
でも、わたしがあまりあそんであげないから、どこかにいってしまうのかな、ときになってしまいます。」
「なるほど、でしたら次に帰ってきた時にお聞きになってはいかがかしら。
きっともっとそばに居てくれるようになりますわ。」
「そばにいてほしいわけでは!ないのです!」
わわわ。どうしてそんな勘違いをなさっているのかしら!
「はなしたいこともあるのです!」
「それはそれは!たくさん話してくださいましね!」
むぅ。なにか誤解が生まれている気がする。
これからのことについて、作戦会議をしておきたいの。
あの二人は私のことを知る唯一だから。
ん?二人だから唯二かしら。
とにかく、二人の知っていることを全部教えてもらうのが大切よ。
私の知識はまばらすぎてしばらく役に立ちそうにないし。
そもそもほとんど何も見せてもらえなかったまま死んだから知識という程のものでもないわ。
よし、きめた。
たくさん話してあの妖精二人と作戦を共有するわ!
「ふふ。元気になられたみたいで良かった。
さあ、そろそろレッスンを始めましょうか。」
「はっ!はい、せんせい!」
「殿下、随分とお上手ですわ…。
とんでもない才能がおありです。」
「あっ。えと、ピアノはたくさんひいたのです。」
「独学ですか?」
「えっと、あ!おかあさま!おかあさまです。」
「まあお母様に教わったのですね。」
「はい!」
あ、危ないわ。
私が天才だなんて。
早熟なだけだから、そんなこと言われたら将来ガッカリさせちゃうわ。
「それでもかなりお上手ですわ。」
「ありがとうございます。たくさんれんしゅうしたので、うれしいです。」
「殿下は素敵な音を奏でられますね。
お教えできるのがとても幸せです。」
「あっ…。」
先生のこの言葉。
また聞けるなんて。
ふふふ、今日はいい日だわ。
「せんせい。わたしも、せんせいと れっすん できてうれしいです。」
「まあ!では今度はもう少し難しい練習課題をしてみましょうか。」
「はい!」
とても幸せな練習時間はそうして過ぎていったのだった。
その夜。
ベッドでうつらうつら寝そうになっていると、顔の前になにかがトスッと現れた。
「ん…?あぁ、かえって…きていたのね…。」
「起こしちゃったんだぜ?」
「ごめんなさい。うるさかったかしら。」
「ううん…。おかえりなさい…。」
「「ただいま」なんだぜ!」
「ふふ…。うれしい…。あした…おはなし…できる…?」
「ね、ねぼけてるのかしら?こんなに優しいなんて!?」
「で、でもこんなこと滅多にないんだぜ!」
「おはなし…できない…?」
そっか、だめなのか…。
先生には寂しくないって言ったけど、やっぱり寂しくなってきちゃった。
「で、できるぜ!明日話すんだぜ!」
「ええ!たくさん話しましょうね!」
「んふふ…。うれしい。あした…ね?」
「ああ!だからもう寝るんだぜ!子供は寝る時間なんだぜ!」
「おやすみなさい!アリス!」
「おやしゅみ…なさい…。」
そのままスゥと眠ってしまった私にこの時の記憶なんて残っているはずも無いのだった。
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