復讐姫の王国記

朝木 彩葉

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宰相は、私たちが近付くのをじっと見ていた。

口は弧を描いて笑っているように見えるが、そうでは無いのが冷たい目からわかる。

「王国の一番星にお目にかかります。」

サッと礼をして宰相が言う。

「宰相を務めております。グレイオス公爵家現当主、バーナード・グレイオスでございます。こちらは息子のシエルです。」

「おうこくの、いちばんぼしに おめにかかります。しえる・ぐれいおすです。」

だめだ、何も考えられない。

挨拶、挨拶はしないと。

カーラと繋いだ手をどうにか解いた。

ピンと背筋を張って、いつも通り。

「ありす・みら・るいすえーるです。」

前を見て2人に挨拶をする。

宰相をあまり見たくなくてすぐにシエルの方を見た。

宰相そっくりの色合いなはずが、シエルから受ける印象は真逆といっても良い。

優しい印象を与える穏やかな瞳には灯篭の光がキラキラと輝いてとても美しい。

ほんのり微笑む幼子らしいまろいほっぺたは柔らかな空気を醸し出していた。

何故あの宰相からこんな天使が生まれるのか本当に理解できない。

そもそも本当に彼の息子なのだろうか。

血が繋がっているとは思えない。

「ゴホン。」

あまりにもまじまじ見つめていたからか、宰相が咳払いをした。

一気に現実に戻されて足が震えそうになる。

「殿下、シエルと遊ばれますか。」

「えっ?」

驚いたことに宰相の方からシエルと一緒に遊ばないか聞いてきた。

「私は本日祭りのあとは城に泊まりの仕事があります。シエルは私と同じ部屋に泊まることになっておりますので、何時まででもお連れくださいませ。」

「そ、そんな。しえるはいいのですか?」

「はい。でんかとおまつりをまわれるだなんて、とてもうれしいです。」

シエルからもふくふくと微笑んでそんなことを言われるとは思わなかった。

で、でもこんなチャンス逃す手は無いわ。

「ありがとうございます。ぐれいおすこうしゃく。しえるとあそびます。」

「かーらも!いっしょにあそびます!」

「ええ。3人で仲良く遊んでください。では、失礼いたします。」

相変わらず冷たい目をしてサッサと遠ざかっていく。

どうしてか分からないけれどこれはラッキーね。

あまりの出来事に足の震えはもう収まっていた。

「あの、しえるってよんでもいい?」

「もちろんです。でんか。」

「ありがとう。そうだ、かーらもしえるも わたしのことは ありすってよんで?」

「え!いいのですか?」

「うん。おともだち、だから。」

「やった!ありす!」

「はい。ありす。でも、きちんとしないといけないときは よびすてはあまりよくないと おとうさまからおそわりました。」

「そっか…。じゃああそんでいるときはありすってよんで?」

「はい。」

2人ともニコニコしている。

やったわ!私にも友達ができたわ!
ね!マリ!友達よね!

振り返ってマリを見るとどうやって堪えてるのか分からないくらいの涙を目に溜めてうんうん頷いていた。

えと、そっとしておこう。

「しえる、きょうはわたしからみんなにぷれぜんとをあげてるの。」

「わあ、そうなのですね。」

「しえるにもあるのよ。」

未だうるうるしているマリからプレゼントを受け取ってシエルに渡す。

「ありがとうございます。あけてもいいですか?」

「どうぞ!」

私とカーラはドキドキしながらシエルと箱の中身をみる。

どうにか気に入って貰えますように!

中から出てきたのは妖精のぬいぐるみと妖精術という妖精の使う魔法のようなものについての図鑑だ。

なんてファンシーな!

もう最後だから換えのプレゼントはないはず。詰んだわね。今度こそ詰んだわ。

「わあ!しえるはようせいさんね!」

「ほんとうですね。どうしてぼくがようせいについて しりたいとおもっていたのを しっていたのですか?」

2人がこちらを興味津々に見つめてくる。

どうしてだろう。私も意見は出したけれど、最終的に誰に何を渡すかを決めたのはマリやほかの使用人のみんなだから分からない。

カーラのときも喜んでくれたから、きっとしっかり調査して選んでくれているみたい。

私が男の子用と女の子用の2つしか用意しない予定だったのをマリが慌てて変更してくれたのよね。

本当にこういうことは不慣れだからしっかりしたマリが助けてくれてよかった。

「まりと、しようにんのみんながね、すきなものをいろんなひとにきいてくれたの。」

「なるほど。とてもうれしいです。ありがとうございました。」

これで本当に全員分のプレゼントの配布が終わった。

あとは遊ぶだけ!

私は数時間ぶりに晴れやかな気持ちで2人と屋台に歩き出した。

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