復讐姫の王国記

朝木 彩葉

文字の大きさ
上 下
10 / 32

しおりを挟む
今日の夜は、豆の煮込みの缶詰と、缶詰パンを食べた。

缶詰のパンって初めて食べたけど、思った以上に柔らかくて美味いのな。
ふわふわのモチモチだ。
大粒のレーズンが入っているそれは、バルギーも気に入ったみたいだ。
『凄いな、街でもこんなに柔らかいパンは食えないぞ。一体どうやって作られているのだ?』
食べ切るのが惜しいのか、少しずつ大切に食べるバルギーがちょっと可愛い。
バルギーの家に無事到着したら、余った分は全部やろう。
この世界に慣れるまでは、世話になりたいしな。

食事を終えて、俺は横になる。
ちょっとした怪我はしたけど、その分今日はゆっくり休めた。
やっぱり自分で思っている以上に体は疲れてたみたいで、今日の休息で体がかなり楽になった。

今日進めなかった分、明日は頑張らないとな。
平気な顔をしているけど、やっぱりバルギーの怪我も気になる。
俺の怪我はともかく、バルギーのはいち早く医者に見せないとまずいヤツだ。
むしろ、あんな大怪我で涼しい顔をしているバルギーが怖い。
俺だったら、そうそうに駄目になってると思う。
痛いの嫌いだもん。

日中眠ったせいか、横になっても眠気が来ない。
寝るには時間も早いのかもしれない。
バルギーもまだ座ったままで、横になる気配は無い。

何となくゴロゴロしていたら、バルギーの大きな手が伸びてきた。
『ケイタ、寝る前にもう少し揉んでやる』
横になっていた俺の体を、バルギーの手がまたマッサージするように揉みほぐしだす。
「おぉ、今日は大サービスだなバルギー」
日中にしてもらったマッサージの気持ちよさを思い出し、俺はいそいそとうつ伏せになった。
片手だけで揉まれているのに、手が大きいからか力があるからか不足は全然感じない。
俺は目を瞑り、体を揉まれる心地よさに集中した。
バルギーの手が気持ちよくって、体から力が抜ける。
油断すると、だらし無く半開きになった口から涎が出そうだ。
打ち付けた腰辺りを避けながら、尻、太ももと歩くのに使う筋肉を解してくれる。
ちょっと痛気持ちいいくらいの力加減にウットリとしながら、この時、俺はつい余計なことを思い出してしまった。

あぁ・・・そう言えば、昔先輩に連れて行ってもらった風俗でお姉さんにしてもらったマッサージも気持ちかったなぁ・・・。

お姉さんが裸で俺の背中にのって、胸やら腰を揺らしながらイヤらしく揉んでくれたんだ。
ただ気持ちいいマッサージという共通点だけで記憶が繋がっただけなのだが。
次の瞬間、自分のしょうもない思考回路に後悔した。
目を瞑っていたせいで、記憶の中のお姉さんの気持ちいいマッサージと、バルギーの手の感触が結びついてしまったのだ。

あっ・・・やべっ、勃っちった・・・。
バルギーの手つきは勿論全くいやらしいものでは無かったのだが、俺の頭がイヤラしい方へ行ってしまったのが悪かった。
太ももを揉まれた時に、バルギーの親指が腿の内側を押したのにビクリと反応してしまう。
『すまない、痛かったか?』
俺の反応にバルギーが力を弱くしてくれたが、そのせいでサワサワとした触り方になってますます体の中心に血が集まる。
『バルギー!ありがとう!私、大丈夫』
慌ててバルギーの手を掴んで離すが。
『どうした?痛かったのか?それならもう少し優しくやろう』
俺の焦りは通じてないようで、バルギーの手がまた伸びてくる。
「いや、もう大丈夫だから!マジで!」
『急にどうした?』
分かっていないバルギーに、俺はため息を溢してしまった。

・・・まぁ、男同士だし、別にいいか。
俺は起き上がって、バルギーの方へ体を向ける。
『バルギー、ごめん。私、大丈夫、無い』
俺は自分の情けない状態の股間を指差す。
多少の気恥ずかしさはあるが、男同士なら笑って済ませられることだ。
10代の頃なんかアホなダチどもとAV鑑賞会なんぞもしていたから、男にそういう状態を見られるのに正直そこまでの羞恥心は感じない。
いや、まったく感じてない訳ではないぞ?
それなりに気恥ずかしさはあるけど、男同士なら理解してもらえる生理現象だ。
そう思ってバルギーを見たら、彼は目を見開いて固まっていた。
『っ!すまない!そういうつもりは無かったのだっ』
ハッと我に返ったように、バルギーが目を逸らす。
俺よりも動揺している。
そんなに反応されると、こっちも余計恥ずかしくなるんだけど・・・。

さっさと処理してしまおうと、俺は川辺へ向かおうと立ち上がる。
しかし、直ぐにバルギーに手を掴まれて阻止されてしまった。
『どこへ行く?』
「いや・・・さっさと抜いてこようかと・・・」
手を筒状にして扱く仕草をすると、バルギーの顔が驚くほど赤くなった。
いや、そんな顔するなら早く手を離してくれ。
『分かった・・・』
バルギーが杖を手に取り、立ち上がろうとする。
え、ちょ、何ついてこようとしてんだ、こいつ。
流石に抜いてるとこ見られるのはゴメンだぞ。
『バルギー、川、行く、駄目。私、見る、駄目』
バルギーの肩をそっと押す。
『む・・そ、そうか。駄目なのか。だが・・・・その手でできるのか?』
バルギーが気まずそうに、俺の手を指差した。
包帯を巻かれた自分の手を見て、俺は思わず舌打ちしそうになった。
そうだった、包帯してたわ。
せっかく綺麗に巻かれたのを汚したくは無い。
・・・・んー・・・、指だけでいけるか・・?
目を瞑りイメージしてみる。
・・・うん、いけるいける。大丈夫だ。
『バルギー、私、大丈夫!』
今度は指だけで輪を作って動かして見せると、その動きに、やはりバルギーは動揺するように目を泳がせた。
バルギーは下ネタ駄目なタイプか?
俺は大好きだぞ。
『バルギー、ここ。私、川。バルギー、川、行く、ダメ』
ついてくるなよと、立ち上がりそうなバルギーの肩を押さえると、今度はアッサリ手を離してくれた。
良かった、ついてこられたらどうしようかと思ったわ。

『・・・・終わったら直ぐに戻ってきなさい・・・』
俯いたバルギーが早く行けと言った感じに、軽く手を振る。
「いってきまー」
俺は気恥ずかしさを紛らわすように、わざと軽く言って川へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢の恋人

菜花
ファンタジー
裏切られても一途に王子を愛していたイリーナ。その気持ちに妖精達がこたえて奇跡を起こす。カクヨムでも投稿しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。

kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

処理中です...