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第2章 ゆるっと天界観光ツアー 旅は道連れ

ぶらり湯けむり紀行

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「いやー、極楽極楽」

「アキサ、実際はそんなとこはないんだぞ?」

現世定番の謳い文句にすかさずツッコミ。
言ってみたかっただけだし。
そしてないのか極楽。ってことは地獄温泉も本場はないのかな。

「こんなとこもあるんだね」


ふらっと連れてこられたのは足湯温泉。
現世でも手軽に入れる人気スポットな訳だが、この足湯、どこまで続くのだろうか。

遊歩道は足湯兼足ツボマッサージみたくなっており、至る所で、主に大人が痛い痛いと生まれたての子鹿のようになっている景色まで現世と同じなんて。


「あれ、そーいえば、コウ兄ちゃん痛くないの?」

案の定私も痛いわけで。20歳そこそこに身体を設定したというのに、痛いものは痛かった。

そこにベンチがあるから休むか?の誘いに秒で頷いて今に至るのだが、そう言えばこのご先祖兄貴は飄々と歩いていなかったろうか?


「あーこれか?これ煩悩マッサージだからな」

「ぼんのう……。」

「完全に消しさることは無理だが、これも修行みたいなものだからな。歩けば少しずつ煩悩が徳に変わるし、」

それに、景色とか水音は何だかんだ癒されないか?

癒されないとかじゃないんだけど、なんだろうか、こう、カルチャーショックである。

「ちなみにサウナやリンパマッサージなんかでも煩悩流せるぞ?」


え、煩悩って老廃物だったの?
これ岩盤浴も有効かな??

「温泉とか岩盤浴ならずっと入れるかなぁ」

「そーいうとこもあるなぁ。娯楽も大事だからな」

え、ここ違うの?

「修行場(易)」

痛みや苦痛を伴うかそうでないかの違いなのかな?
あ、冷水とか熱湯風呂は??

「お湯の暑さの好みは人それぞれだからな!色々用意してくれてるとこも最近は増えたなぁ」

ますますカルチャーショックである。

「これ終わりが見えないけどどれだけ広いんだろうね」

施設内の人工物というよりも、最早延々と続く川の様だ。
終わりが見えないなんて、天界は規模も桁違いなのか??

「終わりたいと思うまでだな。っても一周忌まではそろそろ強制出口があるんだけど」

ほら、と指さす先を目で追えば、うわぁ!なんかUFOキャッチャーみたいに釣りあげられてるんだけど?!
怖っっ!

強制=物理

「あれもなかなか楽しいぞ。一周忌前の奴ら限定でしか発動しないから、徳プラマイゼロ覚悟で、付き添いのバイトする奴もたまにいるくらいだ」

やっぱり刺激は欲しいのね、なかなかの強者だと思うのだけど。
私は一回でいいや、次来るなら確実に一周忌の後だ。

臆病でもいい。無事に死んでいたい。


「どうする、アキサ。まだ休むか?」

遠い目をしていた顔を覗き込まれて、少しだけドキッとしたがなるべく悟られないように、ふっと息をついて立ち上がる。


「大丈夫。行こ。……あ、でもあれ、怖いから腕掴んでていい?」

「手繋ぐか?」

「いや、安定が欲しいから腕で。なんなら背中とか肩でもいい」

雰囲気もなんもないやつだなぁと笑ったコウ兄ちゃんは気にしないという風に歩み出した。
スっとその隣を歩きたかったのだが、もちろん、30何年分の煩悩は簡単には解消されてはくれないので、とても歩みは遅い。痛い。

時折振り返っては、おー頑張れーと気の無い応援だけはしてくれる辺り一応気にはしてくれてるのだろうけど。



「初回修行、頑張ったな。じゃあ掴まれよ」

思ったよりずっと距離を感じた出口までの道のりを終えたと思ったらすぐさま浮遊感。

ギュッと思わず目にも握る腕にも力を込めると上から降る笑い声と、見てみな、の声。


「うわー……!!!」

なんだ、極楽あるじゃないか。そう思えた絶景と呼べる不思議な見晴らしに、もしかしたら、誰かこの景色を見た記憶をそのままに転生した人がいたのかもしれない。

束の間の遊覧飛行は確信に近いそんな思いを抱くには充分な時間だった。
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