オトコの子/娘のおし○○! 文化祭編

雛子一

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5.メイド喫茶編-1

5.メイド喫茶編-1

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「いらっしゃいませ~~! “ぴゅあ☆ぴーいんぐ”にようこそ!」
「いらっしゃいませ、ご主人さま♥ ようこそ“ぴゅあ☆ぴーいんぐ”へ!」
「――あ、いらっしゃいませ……」
 華やかな黄色い声が、進一郎を迎えた。
 一番最初の呑気で天然な声が花菱はなびし愛兎あいと、二番目の甘ったるい愛想のいい声が水下みなもとしずく、最後の控え目な声が北羽きたわ柊一しゅういちだ。
「あ、どーも」
 対し、来客である進一郎の声は、どこかおどおどとしたものだった。
 というのも、今の彼は普段と姿を変えて、オトコの子/娘たちに正体がバレないよう潜入していたのだから。
 ニット帽にグラサン、劇中設定ではご時世でもないのに大型のマスクといった、さっきとはまた別ベクトルの「変装」ぶり。
 一方のオトコの子/娘たちはみな、メイド服を着ていた――いや、雫だけは持ちキャラである魔法少女のコスチュームであったが……。
「あ……あのう、こちらです、どうぞ……」
 柊一が進一郎を案内する。
 ピンクのメイド服におかっぱ頭、ぴょんと伸びたアホ毛がトレードマークの、小学四年生の10歳。
 普段の進一郎とそっくりの丸眼鏡の下から、気弱げな瞳でこちらを見つめてくる。



「ご注文は、何になさいますか?」
 メニューを手渡され、適当に注文しつつ、進一郎は店内を見渡した。
 いかにもメイド喫茶風の可愛らしい内装にもかかわらず、お客は今のところ、進一郎ひとり。
「あの……こういうことを訊くのは何だけど、他にお客さんは……?」
 と、中でも一番背の低い、黒いメイド服のオトコの娘が進み出てきて、気にする風でもなく答えた。
「あはぁ、ちょっと立地条件が悪いかもですねぇ」
 やはりぴょんとこちらに向いたアホ毛に、おかっぱ頭が印象的な彼女は愛兎。
 柊一と同じ小学四年生の10歳、そしてShe-XXXY'sのメンバーでもあった。



 残りのひとりも進み出てきて、申し訳なさげに頭を下げる。
「ご……ごめんなさぃぃ……頑張ってるんですけどぉ……」
 そんな彼女は雫、大きな赤いリボンが可愛らしい、赤い瞳と赤い髪のオトコの娘、小学四年生の9歳だ。
 前述したとおりの魔法少女のスタイルは、彼女の演じる『魔法使いシエル・ラ・ソルシェル』のものだ。



「い……いや、そんな、君たちが悪いんじゃないし!」
 進一郎もまた、恐縮する。
 ――そう、三人がこの立地に追い込まれたのは、さくらの悪巧みだ。
 ここは旧校舎の四階。
 晶瑞学園でも他とは少々離れたところにある、言わば陸の孤島。
 もちろん、離れていると言っても大した距離ではないのだが、ここにいる三人のオトコの娘たちには少々、地理的には不利な場所であったし、そこがさくらの付け目でもあった。

「――あのう、メイド喫茶はこの旧校舎でやるんですか?」
 企画会議――という名の、さくらの妄言を具体的計画にする作業中、ふと進一郎は疑問を口にした。
「そーよ」
 さくらはただ、シンプルに首肯する。
「でも、どうして? 第一、このたちのことを考えると、旧校舎は……」
 言い淀む進一郎だが、さくらはにやりと笑った。
「アンタにしちゃ、鋭いわね。そう、旧校舎はどうなのかしら?」
「つまり――Xトイレがないじゃないですか」
 進一郎の答えに、我が意を得たりとさくらは頷く。
 ――説明しよう。
「Xトイレ」とはLGBT用のトイレのこと。最近は駅にも多いバリアフリーのトイレもその一種と呼べる。
 何しろトランスジェンダーの人は男子トイレにも女子トイレにも入りづらいので、最近はこういうモノもできているのだ。
 しかし、逆に言うとたまたまそれがない場所に陣取ると、逆に厄介なことにも――。

「お……お待たせ……しました……ぴゅあ☆ぴーいんぐ特製、ふかふか幸せパンケーキレモンソース添えと萌え萌えスープパスタをお持ちしましたぁ……」
 ――と、回想シーンを終えた頃、柊一がトレイを運んできた。
「あ……ありがとう……」
 見ればパンケーキはレモンイエローのソースでケーキの上にウサギさんの絵が描かれ、パスタもスープの上に可愛らしいリボンや花の形に切り抜かれたキャベツやベーコンが浮かんでいた。
 しかし、仕事仕事で食事の暇もなかった進一郎は、それをゆっくり鑑賞する間もなく、運ばれた料理を夢中で口に運ぶ。
「美味しい……」
 あっという間に平らげて、思わずため息をつく進一郎だが――柊一の顔色は悪い。
「あの……大丈夫……?」
「は……はい……」
 返ってくる声も気弱げだ。
「ひょっとして、その……」
「あ……あの、すみません、それじゃッ!」
 尋ねようとした進一郎だが、柊一は逃げるように、店の奥へと駆け込んでしまった。
「う~む、怪しまれちゃったかなあ……?」
 少々天然気味の進一郎だが、さすがに今の格好が人に警戒心を与えるであろうことは理解していた。
 でも、彼の顔色が悪かったのはきっと、トイレに行けないからだ。
 時間をもらって別の校舎にまで用を足しに行けばいいんだけど、真面目なせいでなかなかそれも言い出しにくいんだろう。
 何とかしてあげたいけれど、その前にこう怪しまれちゃ、それもできそうもない。
 悩む彼の前に、柊一と入れ替わるように愛兎と雫が現れた。
「美味しく食べていただけて、感激です……」
「我慢した甲斐がありました……///」
「うん、ごちそうさま」
 雫の「我慢した」の意味は分からないが、ひとまず進一郎はそう返した。
 しかし……と、彼は思う。
 顔色の悪かった柊一に対し、愛兎も雫も血色はよい。
 愛兎は終始にこにこと笑みを浮かべているし、気の弱い雫はおどおどとしてはいるものの、調子はよさそうだ。
 いや、その点も疑問だったけれど、考えると他にもまずい点がある。
 出された料理、夢中で食べちゃったけど、本来ぼくが「食レポ」すべきだったろうか?
 でも、ぼくが食べたらビデオカメラを操作する人がいなくなる。
 じゃあ、どうすれば――?
 ふと思いついて、ふたりに頼む。
「あの……もしよければだけど、厨房にお邪魔してもいいかな?」
「え? 構いませんけど、何を?」
 愛兎は難なく答える。
「よければ……お料理を作るところをレポートしたくて」
「えぇッ/// でもぉ……恥ずかしいですぅ……///」
 雫が頬を赤らめるが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「そう言わず、お願いするよ!」
 頭を下げられ、愛兎はにっこりと、そして雫はおずおずと頷いた――。


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 実は急な仕事が入りまして、ちょっと厳しくなってきました。
 一応、土日には更新のつもりです。
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