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2.脱出ゲーム編-1
2.脱出ゲーム編-1
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「ひゃーっはっはっはっはっは!!」
――頭上から、突如耳障りな笑い声が響き渡った。
ここは体育館。
といっても、文化祭仕様にデコレーションされていた。
設えられたパーテーションによって迷路状に細かく仕切られ、窓も閉ざされた暗い中に、赤い照明がぼんやりと灯っている。
一見して「お化け屋敷」といった風のこの空間へと、ぱうお、香山光児、萌衣=Den Haggの三人が訪れていた。
三人とも「美人コンテスト」にエントリされたオトコの子/娘たちだが、既に普段の服装に着替え、文化祭の出し物を見て回っていた。
ぱうおはいつものタンクトップに半ズボン、光児はネクタイに半ズボンという制服姿、そして萌衣はブレザーにピンクのタイトミニスカートという、女子の制服姿だ。
体育館では「脱出ゲーム」が行われるとのことで、足を踏み入れてみたはいいが、この迷路状の空間へと、まんまと閉じ込められてしまったのだ――。
「ひゃっほう!!」
謎の影がぴょんと飛び出し、舞台の教卓の上に立った。
どうもこいつが、あの耳障りな声の主らしい。
ちなみに体育館は壁で分けられてはいるが、パーテーションそのものはあまり高くなく、三人も舞台の上は臨むことができた。
その影はどうも、ぬいぐるみか何かのようだが――しかしどこかで見たような姿をしていた。
「あ! 知ってるノダ、あれはドラえ――!!」
何やら口走りかけたぱうおの口を、光児が抑える。
ぱうおはオトコの子/娘たちの中でも一番幼い、小学三年生の9歳。
クセっ毛に浅黒い肌を持つ、国籍も不明な少年だ。
常に元気で天然だが、それ故、考えナシに思ったことを言ってしまうぱうおへと、光児は耳打ちする。
「ダメだから! めったなこと言うと、動画として配信できなくなっちゃうから!」
光児は進一郎そっくりの大きな丸眼鏡で気弱げな双眸を隠す、小学五年生の11歳。
普段は萌衣も所属するオトコの娘アイドルグループShe-XXXY'sのマネージャーを務めている、ぱうおと正反対の「空気を読む」苦労人。
そんな彼の言う通り、その影は国民的アニメの主役を務める青狸に酷似していた。
「オマエラのみなさん、ようこそこの“漆禁城”へ!!」
いや、発せられる耳障りな声もまた、十五年ほど前までのそれと、そっくりだった――。
「Nej……ほら、デザインは微妙に違うヨ?」
そんな声上げるのは萌衣。
上にも書いたように、She-XXXY's所属のオトコの娘アイドル。
セミロングのブロンドと碧い瞳を持つスウェーデン人と日本人の間に生まれたハーフで、11歳の小学五年生だ。
日本のアニメに詳しい萌衣は、その謎のキャラクターをしげしげと眺め、言った。
「確かにスタイルはド○え○んそっくりだけど、右と左で白と黒のツートンカラーに分かれている……やっぱり別物ダヨ」
萌衣の言葉に頷きつつ、光児もまた、眼鏡を凝らしてそのキャラを見据える。
「えっと……ともあれ“脱出ゲーム”なんだから、あれもアトラクションの一環では――」
そんな声に頷いて、教卓上のぬいぐるみは宣言した。
「今、語られたような事情があって、ボクの名前を明かすことはできないけれど……便宜上、モノクロの○ラ○も○的なキャラということで、ドラクロとでも呼んでいただきましょうか!」
「ドラクロねえ……」
――その頃、進一郎はやはり同じ体育館の中、三人とはちょっと違う場所で、この様子を窺っていた。
実のところ彼は数日前、さくらがこのぬいぐるみを用意しているところを見ていた。
要するにイベントを自分の思うように進行させるための人形であり、この大○のぶ○に酷似した声もさくらが真似をして、マイクでしゃべっているのだ。
もちろん施設のあちこちには隠しカメラが設置され、少年たちの一挙手一投足を余すことなく記録している。
さくらの部下である進一郎ももちろんグルで、この“脱出ゲーム”の仕掛け人として、今も待機しているのだが――。
そのドラクロを通し、さくらはノリノリで解説した。
「オマエラのみなさんはこの“漆禁城”に閉じ込められてしまいましたぁ!」
「あの……その、“しっきんじょう”って……?」
光児の問いに、ドラクロは更に説明する。
「うむ、“漆禁城”とはここ、この“脱出ゲーム”の舞台となる迷宮のことなのです! オマエラのみなさんはこのままでは、食事も水もないままに、この迷宮の中を永遠にさまよい歩くことになるでしょう!」
「それは大変だぁ!!」
一応はイベントの性質を察している光児が、律儀に驚いてみせる。
「“漆禁城”から生きて脱出したい人は、あるミッションをクリアしてもらう必要があります!」
「Oj!?」
「一体、何をやらせる気ナノダ!?」
趣旨を理解していないぱうおと萌衣が、真に受けて声を上げた。
と、ドラクロはその指のない手で、こちらを「びしぃ!」と指してくる。
「そこです! いいですかオマエラのみなさん、脱出するには伝説の聖杯が必要なのです!!」
「「「聖杯……???」」」
ぱうお、萌衣、光児が声を揃える。
と、舞台に張られたスクリーンに、何やら無色透明の容器のようなものが映し出された。
「えぇと……これが聖杯……?」
別な場で、進一郎もそれを見て、間伸びした声を上げていた。
いや、この「脱出ゲーム」も進一郎とさくらがふたりで企画したもの――厳密には、さくらが口走る妄言を、何とか進一郎が頭を絞って形にしたもの――であり、この展開は最初から知っていた。
しかし、重要アイテムの「聖杯」がこうもしょぼいとは……500mlサイズのペットボトルに漏斗を取りつけて、周りにそれらしい飾りをつけて作ったモノのようだ。
「聖杯を見つけ出すことで、オマエラのみなさんは脱出ゲートの扉を開くことができるようになりましょう」
ドラクロが解説を続ける。
「――しかし、この聖杯はふたつしかありません。見つけ損なったひとり、或いは全く見つけることができなければ三人全員に、悲惨な末路が待っているのです。うぷぷぷぷぷ……」
不気味な笑い声を立て、ドラクロは再び姿を消した。
「……えぇと」
しばらく間を置いて、光児が口を開く。
「でも、ひょっとして悲惨な末路が待ってるっていうのは、本当かも……」
「Förlat!? どうして?」
萌衣が尋ねる。
「ほら、さっきまで薄着で水なんか飲んで……」
光児が言うのは、例の「OmoreC」のことだ。
利尿剤が盛られていたことまでは知らなくとも、水着姿で水分を摂っていたのだから、そろそろ尿意が頭をもたげてくる頃ではあった。
「う~ん、そう言えばそうダネ……」
確かに、萌衣も僅かばかり尿意を感じていた。
「何をやってるノダ!? 早く“せいはい”を見つけるノダ!!」
と、そんなふたりを、ぱうおが一喝する。
悩むと言うことのない彼、尿意など感じていないのか、すたすたと迷路を進んでいく。
しかし確かに、いつまでもここにいても仕方がない。
萌衣も光児も、そんなぱうおの後を追い、迷路を進んだ――。
――頭上から、突如耳障りな笑い声が響き渡った。
ここは体育館。
といっても、文化祭仕様にデコレーションされていた。
設えられたパーテーションによって迷路状に細かく仕切られ、窓も閉ざされた暗い中に、赤い照明がぼんやりと灯っている。
一見して「お化け屋敷」といった風のこの空間へと、ぱうお、香山光児、萌衣=Den Haggの三人が訪れていた。
三人とも「美人コンテスト」にエントリされたオトコの子/娘たちだが、既に普段の服装に着替え、文化祭の出し物を見て回っていた。
ぱうおはいつものタンクトップに半ズボン、光児はネクタイに半ズボンという制服姿、そして萌衣はブレザーにピンクのタイトミニスカートという、女子の制服姿だ。
体育館では「脱出ゲーム」が行われるとのことで、足を踏み入れてみたはいいが、この迷路状の空間へと、まんまと閉じ込められてしまったのだ――。
「ひゃっほう!!」
謎の影がぴょんと飛び出し、舞台の教卓の上に立った。
どうもこいつが、あの耳障りな声の主らしい。
ちなみに体育館は壁で分けられてはいるが、パーテーションそのものはあまり高くなく、三人も舞台の上は臨むことができた。
その影はどうも、ぬいぐるみか何かのようだが――しかしどこかで見たような姿をしていた。
「あ! 知ってるノダ、あれはドラえ――!!」
何やら口走りかけたぱうおの口を、光児が抑える。
ぱうおはオトコの子/娘たちの中でも一番幼い、小学三年生の9歳。
クセっ毛に浅黒い肌を持つ、国籍も不明な少年だ。
常に元気で天然だが、それ故、考えナシに思ったことを言ってしまうぱうおへと、光児は耳打ちする。
「ダメだから! めったなこと言うと、動画として配信できなくなっちゃうから!」
光児は進一郎そっくりの大きな丸眼鏡で気弱げな双眸を隠す、小学五年生の11歳。
普段は萌衣も所属するオトコの娘アイドルグループShe-XXXY'sのマネージャーを務めている、ぱうおと正反対の「空気を読む」苦労人。
そんな彼の言う通り、その影は国民的アニメの主役を務める青狸に酷似していた。
「オマエラのみなさん、ようこそこの“漆禁城”へ!!」
いや、発せられる耳障りな声もまた、十五年ほど前までのそれと、そっくりだった――。
「Nej……ほら、デザインは微妙に違うヨ?」
そんな声上げるのは萌衣。
上にも書いたように、She-XXXY's所属のオトコの娘アイドル。
セミロングのブロンドと碧い瞳を持つスウェーデン人と日本人の間に生まれたハーフで、11歳の小学五年生だ。
日本のアニメに詳しい萌衣は、その謎のキャラクターをしげしげと眺め、言った。
「確かにスタイルはド○え○んそっくりだけど、右と左で白と黒のツートンカラーに分かれている……やっぱり別物ダヨ」
萌衣の言葉に頷きつつ、光児もまた、眼鏡を凝らしてそのキャラを見据える。
「えっと……ともあれ“脱出ゲーム”なんだから、あれもアトラクションの一環では――」
そんな声に頷いて、教卓上のぬいぐるみは宣言した。
「今、語られたような事情があって、ボクの名前を明かすことはできないけれど……便宜上、モノクロの○ラ○も○的なキャラということで、ドラクロとでも呼んでいただきましょうか!」
「ドラクロねえ……」
――その頃、進一郎はやはり同じ体育館の中、三人とはちょっと違う場所で、この様子を窺っていた。
実のところ彼は数日前、さくらがこのぬいぐるみを用意しているところを見ていた。
要するにイベントを自分の思うように進行させるための人形であり、この大○のぶ○に酷似した声もさくらが真似をして、マイクでしゃべっているのだ。
もちろん施設のあちこちには隠しカメラが設置され、少年たちの一挙手一投足を余すことなく記録している。
さくらの部下である進一郎ももちろんグルで、この“脱出ゲーム”の仕掛け人として、今も待機しているのだが――。
そのドラクロを通し、さくらはノリノリで解説した。
「オマエラのみなさんはこの“漆禁城”に閉じ込められてしまいましたぁ!」
「あの……その、“しっきんじょう”って……?」
光児の問いに、ドラクロは更に説明する。
「うむ、“漆禁城”とはここ、この“脱出ゲーム”の舞台となる迷宮のことなのです! オマエラのみなさんはこのままでは、食事も水もないままに、この迷宮の中を永遠にさまよい歩くことになるでしょう!」
「それは大変だぁ!!」
一応はイベントの性質を察している光児が、律儀に驚いてみせる。
「“漆禁城”から生きて脱出したい人は、あるミッションをクリアしてもらう必要があります!」
「Oj!?」
「一体、何をやらせる気ナノダ!?」
趣旨を理解していないぱうおと萌衣が、真に受けて声を上げた。
と、ドラクロはその指のない手で、こちらを「びしぃ!」と指してくる。
「そこです! いいですかオマエラのみなさん、脱出するには伝説の聖杯が必要なのです!!」
「「「聖杯……???」」」
ぱうお、萌衣、光児が声を揃える。
と、舞台に張られたスクリーンに、何やら無色透明の容器のようなものが映し出された。
「えぇと……これが聖杯……?」
別な場で、進一郎もそれを見て、間伸びした声を上げていた。
いや、この「脱出ゲーム」も進一郎とさくらがふたりで企画したもの――厳密には、さくらが口走る妄言を、何とか進一郎が頭を絞って形にしたもの――であり、この展開は最初から知っていた。
しかし、重要アイテムの「聖杯」がこうもしょぼいとは……500mlサイズのペットボトルに漏斗を取りつけて、周りにそれらしい飾りをつけて作ったモノのようだ。
「聖杯を見つけ出すことで、オマエラのみなさんは脱出ゲートの扉を開くことができるようになりましょう」
ドラクロが解説を続ける。
「――しかし、この聖杯はふたつしかありません。見つけ損なったひとり、或いは全く見つけることができなければ三人全員に、悲惨な末路が待っているのです。うぷぷぷぷぷ……」
不気味な笑い声を立て、ドラクロは再び姿を消した。
「……えぇと」
しばらく間を置いて、光児が口を開く。
「でも、ひょっとして悲惨な末路が待ってるっていうのは、本当かも……」
「Förlat!? どうして?」
萌衣が尋ねる。
「ほら、さっきまで薄着で水なんか飲んで……」
光児が言うのは、例の「OmoreC」のことだ。
利尿剤が盛られていたことまでは知らなくとも、水着姿で水分を摂っていたのだから、そろそろ尿意が頭をもたげてくる頃ではあった。
「う~ん、そう言えばそうダネ……」
確かに、萌衣も僅かばかり尿意を感じていた。
「何をやってるノダ!? 早く“せいはい”を見つけるノダ!!」
と、そんなふたりを、ぱうおが一喝する。
悩むと言うことのない彼、尿意など感じていないのか、すたすたと迷路を進んでいく。
しかし確かに、いつまでもここにいても仕方がない。
萌衣も光児も、そんなぱうおの後を追い、迷路を進んだ――。
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