オトコの子/娘のおし○○！ 社会科見学編

0．Prologue

0．Prologue

W・I・L・L・Y　ウィリー！
W・I・L・L・Y　ウィリー！

　――あ……あぁん、ぼく……もう、イっちゃう……よぉぉ……ッ！

ウィーリー　ウィリー　ウィーリー　求人！
ウィーリー　ウィリー　高収入！

　――あふぅ……あぁ……気持ちいい……おしり、気持ちいいよぉぉ……ッ♥

「はぁぁぁぁぁ……ッ！！」
　吉野よしのさくらはわざとらしく大きなため息を吐いた。
「えと……何か？」
　富士ふじ進一郎しんいちろうがぽかんと口を開ける。
「だから『何か』じゃないでしょッ！？」
　さくらの怒声を、またも能天気な歌が遮った。

ウィーリー　ウィリー　ウィーリー　求人！
ウィーリー　ウィリーでアルバイトー！

　――あぁ……っ、イっちゃう……っ、イっちゃうよぉぉ……っっ！！

「――って、何でコマーシャルソングの合間にイっちゃってるのよッッ！？」
　さくらがヒステリーを起こす。
「いや、だからせっかくだから……」
　言い訳する進一郎の声を遮って、今度はまた少年の喘ぎ声が――。

　――あうぅ……っ、いけないのに……ぼく、あぁん、おにいちゃんのおちんちんで……あぅぅ、感じちゃってるぅぅ……ッッ！！

「えぇい、うっさい！！」
　マウスを操作して動画の再生を止め、そしてさくらは進一郎へと向き直った。
「何でヤってる動画のBGMにコマーシャルソングなんか選ぶわけッ！？」
「いや、だから、ウィリーの名前が連呼されてるし……」
　先生に怒られている理由が分からない生徒のような顔で、進一郎は返す。
「アンタ、根本的にセンスがおかしいんじゃない！？」
「編集長、またそんな……」
　さくらの怒りの鎮まらないのに、進一郎はただ、困りきった声を上げるのみだ。
　――漫画に出てくる「博士クン」みたいな大きな丸メガネに、襟足をきれいにカットしたおかっぱ頭。中学二年生の14歳だが、第二次性徴を迎えていないかのような幼いルックスに小柄な痩せた肢体。
　そんな見た目通りにこの少年は少々、頭の中も幼かった。
　いや、学力テストで全国ベスト10にランキングされたこともある天才児なのだが、世事には疎く、さくらにつけられたあだ名が「天才バカポン」。
　天才で、バカで、ポンコツ。
　しかも最近は「天才」が取れて単に「バカポン」呼ばわりが多い。
　もっとも、そんな正確だから、こんなバイトをしているとも言える。
　ちなみに今の歌は、『WWW』のCMソング。
『WWW』とはフリーペーパー、『Weekly Willy Work』の略で、「willy」というのは幼児語で「おちんちん」の意味だ。
　つまり、『WWW』は少年を対象にした、え～と、そういうカンジの仕事に特化した、求人情報誌であり、さくらは編集長、進一郎は少年記者であった。
　天才だけあってPC知識もあるということで、『WWW』が運営する動画配信チャンネルのプロモ動画の制作を任されたのだが、結果でき上って来たのが今のものだ。
「えと、まあでも、BGMがまずいというなら、すぐに差し替えることはできますし……」
　進一郎は言うが、さくらは渋い顔を崩さない。
「モンダイはBGMだけじゃないわ。とにかくアンタの作ってきたモノはすべての点において問題だらけよ！」
「……と、言うと？」
　怒りに、さくらは椅子から立ち上がって述べた。
「動画を観ようとしたらいきなりポップアップ広告が出て来て踏まされたり！
　広告が遅れて読み込まれ、意図しないタップをしてしまったり！
　或いは別タブが出てきてウザかったり！
　ショタ動画を観ようとしたらガチホモ動画が始まって、二十分スキップできなかったり！」
「あはは……まずかったでしょうか……」
　苦笑を漏らす進一郎に、さくらはがっくりと椅子の上に座り込む。
「――仕方ないわね。こうなったら荒療治よ」
「荒療治……？」
　まだなお呑気な顔をしている進一郎へと、さくらは人差し指を突きつけた。
「あなた、社会科見学に行きなさい」
「社会科見学……？」
　進一郎は、ぽかんと口を開いた――。