9 / 12
8.おぱんつレビュアーズ オトコの子編
8.おぱんつレビュアーズ オトコの子編
しおりを挟む
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
――息せき切って、進一郎がさくらの部屋へと現れた。
少年自然の家の、さくらの個室として宛がわれた部屋だ。
ちなみに4年C組の面々は今、男子と女子――即ち、オトコの子とオトコの娘――とに分かれ、男子は大浴場で入浴中であった。
今も自分用の部屋の一室で、さくらはその浴場の様子をモニタリングしていたのだが、進一郎は――。
「あ、あ、あのぉ……その、言われたとおりにやってきましたぁ……」
まだ呼吸を乱しながらさくらに報告する彼の手いっぱいに、何やら白いものが積まれていた。
「ふむ。よくやったわね。全員分を……?」
「は……はい、そのはずです」
手の中のものを、進一郎は大型テーブルへと並べていく。
それは、子供用の下着であった。
――そう、今まで彼はさくらの命で更衣室に忍び込み、「男子」たちの下着を物色していたのだ。
「う~む、食事に使うテーブルに並べるのはどうかと思うけど、この際よしとしましょう」
さくらはそれら六枚の下着を見据えつつ、尋ねる。
「で、どれが誰の?」
「え゛……?」
さくらの問いに、進一郎は虚を突かれたような表情になった。
「それは……分かりません……」
と、とたんにさくらは声を荒らげた。
「……って、どーゆーことよっ!?」
「で……でも要するに、お風呂から上がったらぱんつがなくて大変、っていうドッキリでしょ? 別に、返してあげれば本人はどれが自分のか分かるし……」
言い訳する進一郎に、さくらは「何も分かっちゃいない」という具合に頭を振った。
「どれが誰のか分からなきゃ、動画として面白くないでしょ?」
「そう……かな……?」
あまり共感できず、曖昧に返す進一郎。
「ま、確かめなかったものはしょうがないわ……」
お許しの言葉にほっと胸を撫で下ろそうとする進一郎に、さくらは続けた。
「――アンタが責任を持って審査の上、報告してちょうだい」
「え゛ぇ゛……?」
意味が分からず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる進一郎へ、さくらはさらに続ける。
「どれが誰のか、アンタが査定するの。さ、始めて」
見ればいつの間にやら、さくらはカメラを構えていた。
「え……えと……」
曖昧に問い返そうとする進一郎に、しかしさくらの声は厳しい。
「早く。アンタがぐずぐずしてるとそれだけ無駄な容量食うのよ!」
「は……はい……」
状況を今一呑み込めないまま頷くが、そもそも多くは何の変哲もない男児用のブリーフ。
それでも取り敢えず、進一郎は机に並べられたものから、手近な一枚を手に取った。
「えと……誰のだろ?」
ぼそりとつぶやく進一郎に、さくらがダメだしする。
「あぁ、ダメ、そんなんじゃ! ちゃんとレポートして!」
「れ……レポ……?」
戸惑う進一郎の表情をカメラに収めつつ、さくらは命じる。
「ほら、ちゃんとぱんつを手に持って」
「はい、えと……ごく一般的な子供用のブリーフ。柄とかもない、純白のぱんつです――」
「はい、で、それは一体誰の?」
「それは……分かりません……」
「じゃあなくて! 責任を持って査定しなさい!」
「そんなこと言われても……」
「ほら、ヒントがあるわよ」
「え……?」
進一郎の手の中で広げられているブリーフの股ぐりの部分を、さくらが指差す。
そこにはうっすらと、淡い黄色のシミが船底型に広がっていた。
「それが持ち主の正体を暴く手がかりよ!」
「そんな……」
広げられた下着の股の部分を、それでも進一郎は鼻へと近づける。
すんすんすんすんすん……。
「分かりますか、富士選手?」
「せ……選手なんだ……」
「それよりどう? 分かったの?」
「わ……分かりませんよ……ただ、ほんの少しおしっこの匂いがするだけで……」
「そっか……嗅覚が頼りにならないとなると、また別な感覚を頼りにするしかないわね」
「……っていうと?」
「味覚よ!」
何を当たり前な、という顔で、さくらは返す。
「ええぇぇ……ッッ!?」
さすがに素っ頓狂な声を上げる進一郎だが、さくらは平然と続けた。
「何よ、そもそもアンタはこの子たちのおしっこはひと通り、味わってるでしょ?」
――これについては『オトコの子/娘のおし○○!』、『オトコの子/娘のおし○○! 運動会編』を参照。
「いや……全員分ではないような……」
「そう言ったって、ここでアンタが業務を放り出したら、今までベットしていた人たちの期待はどうなるの?」
「え……? 業務……だったの……?」
「ここで、アンタがぱんつの持ち主を当てることができるかどうかを賭けることになってるの。視聴者たちは今までベットしていた金額を、そのままアンタに預けるのよ」
――いや、それは放映後の予定であって、まだ撮影の段階なのだが、それに気づくだけの冷静さは、既に進一郎から失われていた。
「そ……そうか……視聴者のみなさんがそこまでしてるのなら、いい加減にはできないね……」
謎の義務感に駆られ、進一郎はレポートを続行しようと――。
ちゅぷッ。
ぱんつの中央の、淡いレモンイエローの部分へと、口づける。
「おぉ……ッ♥ ついに富士選手、おぱんつのテイスティングに入りました!」
「んん……ッ」
その小鼻から吐息をもらしつつ、進一郎は木綿の布地へと、舌を這わせた。
「さて、テイスティングの結果はいかがでしょう?」
「んと……あんまり味はしないかな……」
ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷぅぅ……。
舌で幾度もシミを舐め上げ、その味を確かめる進一郎。
「ただ……ほんの少し、塩辛いだけだよ……」
「ふぅ~ん、とっても奥ゆかしい、淡麗甘口のおしっこだと言えましょう!」
「言えるの……かな……?」
戸惑いの声をスルーし、さくらは進一郎に迫る。
「さあ、富士選手、そのぱんつの持ち主は……?」
「えぇと……誰だろ?」
「さあ、答えをどうぞ!」
「え? えぇと、その、ぱうおクン?」
――ぶぶー。
ノートPCの中から、ブザー音が響く。
そして、モニタには正解である「北羽柊一」の名前が――。
「はぁい、富士選手、正解ならずでした! それでは第二問!」
「え? え……ッ!?」
戸惑う進一郎へと、さくらは二枚目のぱんつを手渡した。
「果たしてこのぱんつの持ち主は……?」
「う~ん……」
絶句する進一郎。さっきとほとんど変わりのない、純白のブリーフだ。
ただ、さっきのものと比べると、ちょっとだけサイズが小さいような気も――。
とすると――さっきのはぱうおクンのものじゃなかったんだから、これが? 或いは滝流クンの……?
考えるうち、進一郎は自然とぱんつを顔面近くにまで持ってきていた。
股間の部分には、さっきに比べれば随分とくっきりと、そして色も濃い黄色いシミが五百円玉くらいのサイズと形にできあがっている。
すんすんすんすんすん……。
「ん……やっぱり何かちょっと……酸っぱい匂いがします……」
「ふぅん。でも、匂いだけじゃわからないわよ……さあ、早くそのシミに……」
さくらの声に、一度やって抵抗がなくなったのか、進一郎はそっと口づけた。
ちゅッ。
「んぅ……んん……ッ」
何やら生意気な吐息をもらしつつ、男子小学生の使用済み下着へと舌を這わせる進一郎。
分泌される唾液がぱんつの布を濡らし、そして染みついた成分を舌の中へと溶かし込んでいく。
「んんぅ……何か、さっきに比べるとすごいしょっぱい味がして……後、何というか、舌に引っかかるような――」
「引っかかる?」
「うん、舐めた後、舌先に何かえぐ味みたいなものが残って……」
「なるほど……コクのある濃厚おしっこ……つまりぱんつの持ち主のおしっこは芳醇辛口と言えますね」
「そ……そうなんだ……」
「さて、ではその持ち主の正体は?」
「えと……」
進一郎の脳内ではぱうおと滝流との二択が浮かび上がるが――。
「えと……滝流クン?」
――ぶぶー。
またブザー音が入る。そして、モニタには正解として挙がっているのは、「ぱうお」であった。
「はぁい、富士選手、正解ならずでした! 次、第三問!」
三枚目のブリーフが手渡される。
それも何の変哲もない、男児用のものだが――股ぐりの部分を広げても、そこもまた、汚れない純白のままだった。
「な……これじゃ、ノーヒントじゃないですか!」
唇を尖らせる進一郎は、そもそも「そんなことをヒントにするのはどうなんだ」といった根本的な疑問は既に、頭にないご様子だ。
「いやあ……アンタがバカポンで助かるわ……」
さくらは口の中でつぶやく。
「シミがないこと自体が大ヒントだって発想にはならない辺りが、もうね……」
「え? 何か言いました?」
「うぅん、別に。それよりヒントをあげるわ。シミがない以上、香りで判別する他ないと思わない?」
「そ、それは確かに……」
すんすんすんすんすん……。
――とまた、進一郎は小鼻をひくひくと蠢かせる。
「ん? これは……?」
そして、何かに気づいたようにその布地へと舌を――。
ぴちゃっ。
小さな舌先が純白の木綿と触れあい、唾液が水音を奏でる。
「んぅ? ん……んふぅ……っ」
吐息と粘着音を響かせながら、進一郎は熱心に布の表面を舐め取っていく。
それは股間部分のみならず、下着の全体へと、まるでキャンディーの表面を舐めしゃぶるかのように唾液を塗す。
「さあ、富士選手、実に熱心にぱんつを食んでおります! 果たして何に気づいたのでしょうか!?」
そんなさくらのナレーションへと、進一郎は顔を上げ、返した。
「これは……つまり、シミがないと思ったけど、きっとそれは元々おしっこの色が薄いからで……それもぱんつ全体に……」
「ぱんつ全体?」
「うん、このぱんつ全体からおしっこの味がしてる……」
――そこまで行けば、バスの中の様子と照合させて、誰の下着かが分かりそうなものだが……。
「ほお、さすがグルメの富士選手、ぱんつ全体を舐めていたのは全体からおしっこの味がするからのようです!」
「そ……そういうことじゃなく! ただ……」
「ただ?」
「本当に微かな塩の味がするだけで、さっきみたいなえぐ味もなくて……」
「なるほど、味はさっぱり系の淡麗辛口といったところのようです……さあ、それではこのぱんつの持ち主は?」
「えと……」
下着全体に尿が染み渡っているという時点で分かりそうなものだが、進一郎は頭を悩ませて――。
「えと……洩斗クン?」
――ぶぶー。
またブザー音だ。
一方、モニタに映し出されているのは「香山光児」の文字。そう、彼はバスの中でおむつに放尿して――宿についてから下着に履き替えたものの、下半身全体に残った尿がついてしまったのだろう。
「はぁい、またしても富士選手、不正解! 残念でした、第四問はどうでしょうか!?」
四枚目のブリーフが手渡される。
それも男児用ブリーフだが、今までと比べると派手なキャラクターもの。テレビの特撮ヒーローがあしらわれたものだった。
「これは……?」
小学4年生にしてはいささか子供っぽいことに疑念を抱きつつ、進一郎には4年C組のメンバーに特撮ヒーローファンがいることには、思い至らないらしい。
「ちょっと……見えにくいけど……」
何の迷いもなく、股の部分を広げてシミを探す。
と、丁度そこで戦隊のレッドがポーズを決めていて分かりにくいが、ぽつんとシミがあるのが見て取れた。
「んむ……っ」
――と、「もう決まったことだから」とでもいった顔で、進一郎は小学生男子の使用済み下着を口に含む。
んちゅ……ちゅ……ちゅくぅぅ……っ。
舌がカラフルなぱんつの上を這い、唾液が布を湿らせていく。
木綿に付着したシミは唾液の中へと溶けていき、その唾液は舌で舐め取られ、味蕾を刺激する。
「富士選手、積極的に舐めております! キャラ物のぱんつはやっぱり一段と美味しいのでしょうか!?」
「む……むぅぅ……ッ、そ、そういうことじゃなく……!」
顔を上げ、抗議する進一郎へと、さくらは問うた。
「――で、どんな味?」
「え? そう……だなあ……さっき言ったえぐみっていうか……舐めてると、舌がピリピリする感じは一番強いよ……でも、しょっぱさは全然ないかな――」
「なるほど、近衛組は基本的にはミネラル分だと言われています。コクはあるけれども辛味はないミネラルたっぷり、芳醇甘口の健康おしっこのようです! では、そのぱんつの持ち主は?」
「え? え……?」
顔を上げ、戸惑った表情になる進一郎。
「あ、そーだ。これも他のぱんつよりちょっと小さいから……今度こそぱうおクン?」
――ぶぶー。
また不正解。モニタには正解として、「洪田滝流」の文字が表示されていた。
そう、クラスのメンバーの中で、特撮ヒーロー好きといえば彼だ。
「う~む……富士選手、なかなか正解を出せません!」
「そ……そりゃ、ぱんつに残ったおしっこの味だけで持ち主を当てるなんて、ムリだよ!」
「さて、残るは二枚ですが……」
さくらの言葉にふと見ると、最後に残った二枚はいずれもビキニブリーフ。
形は同じだが黒、白とそれぞれ色が違っていた。
「あ……それは洩斗クンとそそおクンの……」
ふと気づく進一郎。あの中で、こんな洒落たものを穿いているのはあのふたりだけのはず。
「はい、この際ですからヒントを出しましょう。確かに最後の二枚はあの双生児たちの愛用品。問題は、どちらがどちらのものかですが……」
「え……でも、双子だから区別つかないんじゃ……?」
進一郎の声を無視し、さくらが叫んだ。
「さあ、はりきってどうぞ!」
「は……はい……」
白と黒のビキニはいずれもナイロンのてらてらとした光沢に輝き、何だか水着を思わせる。
白い方を手に取り、広げる進一郎。
その股ぐりの部分には、広範囲に薄っすらと淡いレモン色のシミがついていた。
「んん……っ」
進一郎は下着へ唇を近づけると、ちろ、と出した舌先を押し当てる。
んぅ……んちゅ……ちゅくぅぅ……ッ。
赤い舌が、純白の布を汚す黄色いシミを舐め取っていく。
ちゅ……ちゅぅ……んちゅちゅ……ッ。
舌に浮かんだ唾液へと、そのシミが溶け込んで、ブリーフはだんだんときれいになっていく。
「――さて、夢中でぱんつを舐めております富士選手……果たして今回は正解を出せるでしょうか……?」
「あ、ちょっと待って」
下着から唇を離し、進一郎は提案する。
「ね、こっちの方も舐めてみてから判断しちゃダメ?」
黒いビキニを手に取る進一郎に、さくらは頷いた。
「はい、特例として認めましょう。ふたつのビキニブリーフの味比べ、果たしてどうなりますか――!?」
そんなナレーションと共に、進一郎は黒いぱんつを広げた。
さすがにシミのあるなしは分からないが――それでも進一郎は、その股間部分へと口づけた。
ちゅぷ……ちゅぷ、ちゅぷぅぅ……ッ。
舌が布の上を幾度も幾度も這い、付着物を舐め取ろうとする。
「あ……やっぱり、おしっこの味がする……」
「さすがおしっこソムリエ! では、その味の違いは……?」
「いや……そんなわけの分からない資格、持ってないから……」
反論しつつも、進一郎は説明した。
「えと……やっぱり味は同じだと思う。他の子よりも塩辛さが上で、でもえぐ味みたいなものはちょっとしか感じないよ」
「なるほど、雑味のないすっきりとした味、大人向けの辛口おしっこと言えますね……てか、両方同じ、だと困るんだけど?」
「で……でも、やっぱり双子だから味も似るんじゃ……?」
「ともかく、答えていただかないとクイズが進行しません!」
「え……? こ、これ、クイズ番組だったの? ドッキリじゃなく?」
「さあ、白と黒、どっちが洩斗きゅんでどっちがそそおきゅん!?」
「はい……白いのがそそおクンだと――」
――ぶぶー。
と、噛みそうなほどに早く、答えは否定された。
「ち……違うんだ……」
愕然となる進一郎。
モニタを見れば白と黒でそれぞれ「江木月洩斗」「尾根河そそお」とクレジットされていた。
「いや~残念でした。富士選手、いまだ一度も正解ならずです。しかし後半戦では頑張っていただきましょう!」
何がそんなに楽しいのか、ハイテンションなナレーションを続けるさくら。
「――え? 後半戦……?」
顔を強張らせる進一郎。
「何驚いてんの? まだ半分しか終わってないでしょ? ほら、まだ全然巻き返せるわよ!」
妙にポジティブに励ましてくるさくらの言葉に、進一郎はがっくりと肩を落とした――。
――息せき切って、進一郎がさくらの部屋へと現れた。
少年自然の家の、さくらの個室として宛がわれた部屋だ。
ちなみに4年C組の面々は今、男子と女子――即ち、オトコの子とオトコの娘――とに分かれ、男子は大浴場で入浴中であった。
今も自分用の部屋の一室で、さくらはその浴場の様子をモニタリングしていたのだが、進一郎は――。
「あ、あ、あのぉ……その、言われたとおりにやってきましたぁ……」
まだ呼吸を乱しながらさくらに報告する彼の手いっぱいに、何やら白いものが積まれていた。
「ふむ。よくやったわね。全員分を……?」
「は……はい、そのはずです」
手の中のものを、進一郎は大型テーブルへと並べていく。
それは、子供用の下着であった。
――そう、今まで彼はさくらの命で更衣室に忍び込み、「男子」たちの下着を物色していたのだ。
「う~む、食事に使うテーブルに並べるのはどうかと思うけど、この際よしとしましょう」
さくらはそれら六枚の下着を見据えつつ、尋ねる。
「で、どれが誰の?」
「え゛……?」
さくらの問いに、進一郎は虚を突かれたような表情になった。
「それは……分かりません……」
と、とたんにさくらは声を荒らげた。
「……って、どーゆーことよっ!?」
「で……でも要するに、お風呂から上がったらぱんつがなくて大変、っていうドッキリでしょ? 別に、返してあげれば本人はどれが自分のか分かるし……」
言い訳する進一郎に、さくらは「何も分かっちゃいない」という具合に頭を振った。
「どれが誰のか分からなきゃ、動画として面白くないでしょ?」
「そう……かな……?」
あまり共感できず、曖昧に返す進一郎。
「ま、確かめなかったものはしょうがないわ……」
お許しの言葉にほっと胸を撫で下ろそうとする進一郎に、さくらは続けた。
「――アンタが責任を持って審査の上、報告してちょうだい」
「え゛ぇ゛……?」
意味が分からず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる進一郎へ、さくらはさらに続ける。
「どれが誰のか、アンタが査定するの。さ、始めて」
見ればいつの間にやら、さくらはカメラを構えていた。
「え……えと……」
曖昧に問い返そうとする進一郎に、しかしさくらの声は厳しい。
「早く。アンタがぐずぐずしてるとそれだけ無駄な容量食うのよ!」
「は……はい……」
状況を今一呑み込めないまま頷くが、そもそも多くは何の変哲もない男児用のブリーフ。
それでも取り敢えず、進一郎は机に並べられたものから、手近な一枚を手に取った。
「えと……誰のだろ?」
ぼそりとつぶやく進一郎に、さくらがダメだしする。
「あぁ、ダメ、そんなんじゃ! ちゃんとレポートして!」
「れ……レポ……?」
戸惑う進一郎の表情をカメラに収めつつ、さくらは命じる。
「ほら、ちゃんとぱんつを手に持って」
「はい、えと……ごく一般的な子供用のブリーフ。柄とかもない、純白のぱんつです――」
「はい、で、それは一体誰の?」
「それは……分かりません……」
「じゃあなくて! 責任を持って査定しなさい!」
「そんなこと言われても……」
「ほら、ヒントがあるわよ」
「え……?」
進一郎の手の中で広げられているブリーフの股ぐりの部分を、さくらが指差す。
そこにはうっすらと、淡い黄色のシミが船底型に広がっていた。
「それが持ち主の正体を暴く手がかりよ!」
「そんな……」
広げられた下着の股の部分を、それでも進一郎は鼻へと近づける。
すんすんすんすんすん……。
「分かりますか、富士選手?」
「せ……選手なんだ……」
「それよりどう? 分かったの?」
「わ……分かりませんよ……ただ、ほんの少しおしっこの匂いがするだけで……」
「そっか……嗅覚が頼りにならないとなると、また別な感覚を頼りにするしかないわね」
「……っていうと?」
「味覚よ!」
何を当たり前な、という顔で、さくらは返す。
「ええぇぇ……ッッ!?」
さすがに素っ頓狂な声を上げる進一郎だが、さくらは平然と続けた。
「何よ、そもそもアンタはこの子たちのおしっこはひと通り、味わってるでしょ?」
――これについては『オトコの子/娘のおし○○!』、『オトコの子/娘のおし○○! 運動会編』を参照。
「いや……全員分ではないような……」
「そう言ったって、ここでアンタが業務を放り出したら、今までベットしていた人たちの期待はどうなるの?」
「え……? 業務……だったの……?」
「ここで、アンタがぱんつの持ち主を当てることができるかどうかを賭けることになってるの。視聴者たちは今までベットしていた金額を、そのままアンタに預けるのよ」
――いや、それは放映後の予定であって、まだ撮影の段階なのだが、それに気づくだけの冷静さは、既に進一郎から失われていた。
「そ……そうか……視聴者のみなさんがそこまでしてるのなら、いい加減にはできないね……」
謎の義務感に駆られ、進一郎はレポートを続行しようと――。
ちゅぷッ。
ぱんつの中央の、淡いレモンイエローの部分へと、口づける。
「おぉ……ッ♥ ついに富士選手、おぱんつのテイスティングに入りました!」
「んん……ッ」
その小鼻から吐息をもらしつつ、進一郎は木綿の布地へと、舌を這わせた。
「さて、テイスティングの結果はいかがでしょう?」
「んと……あんまり味はしないかな……」
ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷぅぅ……。
舌で幾度もシミを舐め上げ、その味を確かめる進一郎。
「ただ……ほんの少し、塩辛いだけだよ……」
「ふぅ~ん、とっても奥ゆかしい、淡麗甘口のおしっこだと言えましょう!」
「言えるの……かな……?」
戸惑いの声をスルーし、さくらは進一郎に迫る。
「さあ、富士選手、そのぱんつの持ち主は……?」
「えぇと……誰だろ?」
「さあ、答えをどうぞ!」
「え? えぇと、その、ぱうおクン?」
――ぶぶー。
ノートPCの中から、ブザー音が響く。
そして、モニタには正解である「北羽柊一」の名前が――。
「はぁい、富士選手、正解ならずでした! それでは第二問!」
「え? え……ッ!?」
戸惑う進一郎へと、さくらは二枚目のぱんつを手渡した。
「果たしてこのぱんつの持ち主は……?」
「う~ん……」
絶句する進一郎。さっきとほとんど変わりのない、純白のブリーフだ。
ただ、さっきのものと比べると、ちょっとだけサイズが小さいような気も――。
とすると――さっきのはぱうおクンのものじゃなかったんだから、これが? 或いは滝流クンの……?
考えるうち、進一郎は自然とぱんつを顔面近くにまで持ってきていた。
股間の部分には、さっきに比べれば随分とくっきりと、そして色も濃い黄色いシミが五百円玉くらいのサイズと形にできあがっている。
すんすんすんすんすん……。
「ん……やっぱり何かちょっと……酸っぱい匂いがします……」
「ふぅん。でも、匂いだけじゃわからないわよ……さあ、早くそのシミに……」
さくらの声に、一度やって抵抗がなくなったのか、進一郎はそっと口づけた。
ちゅッ。
「んぅ……んん……ッ」
何やら生意気な吐息をもらしつつ、男子小学生の使用済み下着へと舌を這わせる進一郎。
分泌される唾液がぱんつの布を濡らし、そして染みついた成分を舌の中へと溶かし込んでいく。
「んんぅ……何か、さっきに比べるとすごいしょっぱい味がして……後、何というか、舌に引っかかるような――」
「引っかかる?」
「うん、舐めた後、舌先に何かえぐ味みたいなものが残って……」
「なるほど……コクのある濃厚おしっこ……つまりぱんつの持ち主のおしっこは芳醇辛口と言えますね」
「そ……そうなんだ……」
「さて、ではその持ち主の正体は?」
「えと……」
進一郎の脳内ではぱうおと滝流との二択が浮かび上がるが――。
「えと……滝流クン?」
――ぶぶー。
またブザー音が入る。そして、モニタには正解として挙がっているのは、「ぱうお」であった。
「はぁい、富士選手、正解ならずでした! 次、第三問!」
三枚目のブリーフが手渡される。
それも何の変哲もない、男児用のものだが――股ぐりの部分を広げても、そこもまた、汚れない純白のままだった。
「な……これじゃ、ノーヒントじゃないですか!」
唇を尖らせる進一郎は、そもそも「そんなことをヒントにするのはどうなんだ」といった根本的な疑問は既に、頭にないご様子だ。
「いやあ……アンタがバカポンで助かるわ……」
さくらは口の中でつぶやく。
「シミがないこと自体が大ヒントだって発想にはならない辺りが、もうね……」
「え? 何か言いました?」
「うぅん、別に。それよりヒントをあげるわ。シミがない以上、香りで判別する他ないと思わない?」
「そ、それは確かに……」
すんすんすんすんすん……。
――とまた、進一郎は小鼻をひくひくと蠢かせる。
「ん? これは……?」
そして、何かに気づいたようにその布地へと舌を――。
ぴちゃっ。
小さな舌先が純白の木綿と触れあい、唾液が水音を奏でる。
「んぅ? ん……んふぅ……っ」
吐息と粘着音を響かせながら、進一郎は熱心に布の表面を舐め取っていく。
それは股間部分のみならず、下着の全体へと、まるでキャンディーの表面を舐めしゃぶるかのように唾液を塗す。
「さあ、富士選手、実に熱心にぱんつを食んでおります! 果たして何に気づいたのでしょうか!?」
そんなさくらのナレーションへと、進一郎は顔を上げ、返した。
「これは……つまり、シミがないと思ったけど、きっとそれは元々おしっこの色が薄いからで……それもぱんつ全体に……」
「ぱんつ全体?」
「うん、このぱんつ全体からおしっこの味がしてる……」
――そこまで行けば、バスの中の様子と照合させて、誰の下着かが分かりそうなものだが……。
「ほお、さすがグルメの富士選手、ぱんつ全体を舐めていたのは全体からおしっこの味がするからのようです!」
「そ……そういうことじゃなく! ただ……」
「ただ?」
「本当に微かな塩の味がするだけで、さっきみたいなえぐ味もなくて……」
「なるほど、味はさっぱり系の淡麗辛口といったところのようです……さあ、それではこのぱんつの持ち主は?」
「えと……」
下着全体に尿が染み渡っているという時点で分かりそうなものだが、進一郎は頭を悩ませて――。
「えと……洩斗クン?」
――ぶぶー。
またブザー音だ。
一方、モニタに映し出されているのは「香山光児」の文字。そう、彼はバスの中でおむつに放尿して――宿についてから下着に履き替えたものの、下半身全体に残った尿がついてしまったのだろう。
「はぁい、またしても富士選手、不正解! 残念でした、第四問はどうでしょうか!?」
四枚目のブリーフが手渡される。
それも男児用ブリーフだが、今までと比べると派手なキャラクターもの。テレビの特撮ヒーローがあしらわれたものだった。
「これは……?」
小学4年生にしてはいささか子供っぽいことに疑念を抱きつつ、進一郎には4年C組のメンバーに特撮ヒーローファンがいることには、思い至らないらしい。
「ちょっと……見えにくいけど……」
何の迷いもなく、股の部分を広げてシミを探す。
と、丁度そこで戦隊のレッドがポーズを決めていて分かりにくいが、ぽつんとシミがあるのが見て取れた。
「んむ……っ」
――と、「もう決まったことだから」とでもいった顔で、進一郎は小学生男子の使用済み下着を口に含む。
んちゅ……ちゅ……ちゅくぅぅ……っ。
舌がカラフルなぱんつの上を這い、唾液が布を湿らせていく。
木綿に付着したシミは唾液の中へと溶けていき、その唾液は舌で舐め取られ、味蕾を刺激する。
「富士選手、積極的に舐めております! キャラ物のぱんつはやっぱり一段と美味しいのでしょうか!?」
「む……むぅぅ……ッ、そ、そういうことじゃなく……!」
顔を上げ、抗議する進一郎へと、さくらは問うた。
「――で、どんな味?」
「え? そう……だなあ……さっき言ったえぐみっていうか……舐めてると、舌がピリピリする感じは一番強いよ……でも、しょっぱさは全然ないかな――」
「なるほど、近衛組は基本的にはミネラル分だと言われています。コクはあるけれども辛味はないミネラルたっぷり、芳醇甘口の健康おしっこのようです! では、そのぱんつの持ち主は?」
「え? え……?」
顔を上げ、戸惑った表情になる進一郎。
「あ、そーだ。これも他のぱんつよりちょっと小さいから……今度こそぱうおクン?」
――ぶぶー。
また不正解。モニタには正解として、「洪田滝流」の文字が表示されていた。
そう、クラスのメンバーの中で、特撮ヒーロー好きといえば彼だ。
「う~む……富士選手、なかなか正解を出せません!」
「そ……そりゃ、ぱんつに残ったおしっこの味だけで持ち主を当てるなんて、ムリだよ!」
「さて、残るは二枚ですが……」
さくらの言葉にふと見ると、最後に残った二枚はいずれもビキニブリーフ。
形は同じだが黒、白とそれぞれ色が違っていた。
「あ……それは洩斗クンとそそおクンの……」
ふと気づく進一郎。あの中で、こんな洒落たものを穿いているのはあのふたりだけのはず。
「はい、この際ですからヒントを出しましょう。確かに最後の二枚はあの双生児たちの愛用品。問題は、どちらがどちらのものかですが……」
「え……でも、双子だから区別つかないんじゃ……?」
進一郎の声を無視し、さくらが叫んだ。
「さあ、はりきってどうぞ!」
「は……はい……」
白と黒のビキニはいずれもナイロンのてらてらとした光沢に輝き、何だか水着を思わせる。
白い方を手に取り、広げる進一郎。
その股ぐりの部分には、広範囲に薄っすらと淡いレモン色のシミがついていた。
「んん……っ」
進一郎は下着へ唇を近づけると、ちろ、と出した舌先を押し当てる。
んぅ……んちゅ……ちゅくぅぅ……ッ。
赤い舌が、純白の布を汚す黄色いシミを舐め取っていく。
ちゅ……ちゅぅ……んちゅちゅ……ッ。
舌に浮かんだ唾液へと、そのシミが溶け込んで、ブリーフはだんだんときれいになっていく。
「――さて、夢中でぱんつを舐めております富士選手……果たして今回は正解を出せるでしょうか……?」
「あ、ちょっと待って」
下着から唇を離し、進一郎は提案する。
「ね、こっちの方も舐めてみてから判断しちゃダメ?」
黒いビキニを手に取る進一郎に、さくらは頷いた。
「はい、特例として認めましょう。ふたつのビキニブリーフの味比べ、果たしてどうなりますか――!?」
そんなナレーションと共に、進一郎は黒いぱんつを広げた。
さすがにシミのあるなしは分からないが――それでも進一郎は、その股間部分へと口づけた。
ちゅぷ……ちゅぷ、ちゅぷぅぅ……ッ。
舌が布の上を幾度も幾度も這い、付着物を舐め取ろうとする。
「あ……やっぱり、おしっこの味がする……」
「さすがおしっこソムリエ! では、その味の違いは……?」
「いや……そんなわけの分からない資格、持ってないから……」
反論しつつも、進一郎は説明した。
「えと……やっぱり味は同じだと思う。他の子よりも塩辛さが上で、でもえぐ味みたいなものはちょっとしか感じないよ」
「なるほど、雑味のないすっきりとした味、大人向けの辛口おしっこと言えますね……てか、両方同じ、だと困るんだけど?」
「で……でも、やっぱり双子だから味も似るんじゃ……?」
「ともかく、答えていただかないとクイズが進行しません!」
「え……? こ、これ、クイズ番組だったの? ドッキリじゃなく?」
「さあ、白と黒、どっちが洩斗きゅんでどっちがそそおきゅん!?」
「はい……白いのがそそおクンだと――」
――ぶぶー。
と、噛みそうなほどに早く、答えは否定された。
「ち……違うんだ……」
愕然となる進一郎。
モニタを見れば白と黒でそれぞれ「江木月洩斗」「尾根河そそお」とクレジットされていた。
「いや~残念でした。富士選手、いまだ一度も正解ならずです。しかし後半戦では頑張っていただきましょう!」
何がそんなに楽しいのか、ハイテンションなナレーションを続けるさくら。
「――え? 後半戦……?」
顔を強張らせる進一郎。
「何驚いてんの? まだ半分しか終わってないでしょ? ほら、まだ全然巻き返せるわよ!」
妙にポジティブに励ましてくるさくらの言葉に、進一郎はがっくりと肩を落とした――。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる