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コスプレカフェ「C.C.C.」
コスプレカフェ「C.C.C.」-1
しおりを挟む「……え~と、そういうわけでコスプレカフェ『C.C.C.』に行ってみることにしました」
――店へと行く道すがら、進一郎はさくら編集長へと、スマホでそのことを告げた。
「ふぅぅ~~ん、へぇぇ~~、あなたもお目が高いわねぇぇ~~」
何だか含みありげに、さくらは笑みを噛み殺す――ちな、大体こういう時の彼女は進一郎を陥れようとしているのだが、そういう雰囲気を察することができないのが、「バカポン」の「バカポン」たるゆえんだ。
「はい、今お店に向かってるところですから」
馬鹿正直にそんなことを言う進一郎に、さくらは満足げに返した。
「結構結構。んじゃ、プレスリリース送っとくから、読んどくのよ」
――ぴろろん♪
さくらとの通信を終え、数秒後にはメールの着信メロディが響く。
見れば、プレスリリースが添付されていた。
ちなみにプレスリリースというのは企業などが宣伝のため、メディアなどに発表する情報のこと。
それによると、
――ホンモノのタロンとシェルシェルと、そしてピスバグラーC.と「お茶」が楽しめる! それが当店のコンセプトです。『流星小年タロン』の主人公、タロンと『魔法使いシエル・ラ・ソルシェル』の主人公シエルを演じるふたりが在籍する当店は――。
「う~む、これだけ見てるとコスプレカフェみたいに思えるけど……」
つぶやく進一郎だが、残念ながら彼の取材対象がそんな普通のお店であることなんて、あり得ない。
ドラマの主人公を演じる本物が在籍してるみたいな文章だけど、ホントにいるんだろうか――?
ぼんやりとした不安を覚えつつ、進一郎は店のドアを開いて、中へと入った。
――がちゃ。
と、その瞬間、何かが彼の目の中へと飛び込んだ。
「うわっ!?」
「な……なななななな……何……!?」
「あ……だ……大丈夫ですかぁ……っ!?」
慌てる進一郎の顔を、何者かがタオルで拭ってくれた。
ようやく目を開け、メガネをかけ直し、ようやく進一郎は事態を理解した。
「くたばれ! ジーメ星人め!」
そんなことを言って、豪快に笑っているのは、チビの少年。
鼻の頭の絆創膏がいかにもやんちゃそうなその少年は、しかし白いレオタードのような衣装に身をまとっていた。
手には水鉄砲を構えていて、それを発射したのだろうと分かった。
――分かった……えぇと、分かったと……いいたいところだけど……。
彼が手にした鉄砲の中でちゃぷちゃぷしている水は、何だか黄色いような……それを言えば、それを被ったぼくの頭も何だか妙な匂いが――。
「すみませんすみません!!」
こちらにペコペコ頭を下げるのは、タオルで頭を拭いてくれたオンナの子。
いや――ひらひらのレースのミニスカート、頭には大きな髪飾りという派手なピンク色の衣装を着たその娘、どう見てもオンナの子に見えるけれども、このお店の性格を考えると、きっと――。
そんなことを考えていると。
「――あぁ、滝流クン!? ダメじゃないか、説明もなく……!!」
と、ドアを開けて店の奥から出て来たのは、何というか……上半身は燕尾服を身につけながら、その下半身は黒一色のガーターベルトにストッキング、そしてビキニのパンツという、何だかものすごい格好をした、しかし端整な顔立ちをした、美少年。
しかし滝流と呼ばれた少年は、得意げに宣言する。
「じっけん大せいこう♥」
「いや、成功してないし……」
ガーターベルトの少年は、呆れて返す。
――格好はともかくとして、意外に常識的だ。
そう判断し、進一郎はその少年に話しかけた。
「あの、これは一体どういう……?」
「すみません、『WWW』の記者さんですね」
その少年は頭を下げ、そして名刺を差し出してきた。
「僕は江木月洩斗。小学四年生の10歳で、超小学級のジュニアアイドルって呼ばれています」
「ジュニアアイドル?」
「はい、ジャンボマンモスのセンターを務めています」
「え? ジャンボ……」
といえば、進一郎ですら名前を聞いたことがあるような、女子中高生たちに絶大な人気を誇る、小学生だけで構成される少年アイドルグループだ。
しかし、どうしてそんな子が、こんなお店に……?
それにそもそも、このカッコは……。
「ふふ、僕のコスプレが何なのか、分からないの?」
心の中を呼んだように、彼はそんなことを聞いてきた。
「これは、ピスバグラーC.のコスプレだよ」
「え? ぴすばぐらー?」
進一郎の英語力は、それを即座に「尿泥棒」と日本語訳してみせた。
しかし「尿泥棒」って……?
「アハハ! ピスバグラーというのは、“りょーきはんざいしゃ”だゾ!!」
意味を理解しているかどうか心許ない脳天気な声を上げる滝流の後を、雫が継いだ。
「えと……その、オトコの子やオトコの娘たちの寝室に忍び込んでは、おしっこを盗んでいくと言われている、都市伝説的な存在ですぅ……」
へえ……でも、何でまた、そんなののコスプレを……?
進一郎が思っていると。
「ちょっとそそお!!」
と、またドアが開き、店の奥からはまた、燕尾服とガーターベルトの少年が現れた。
「え? え? えぇぇ……っっ!?」
そう、全く同じ格好をした全く同じ顔立ちの少年が、そこには二人並んで立つ結果となってしまったのだ。
「ど……どういうこと!?」
慌てふためく進一郎に、新しく出てきた方が名乗った。
「あの、僕がホントの江木月洩斗です。で、この子は……」
最初に「洩斗」と名乗った方は悪戯っぽい笑みを浮かべ、名刺を差し出した。
「僕は超小学級のエグゼクティブ――尾根河そそお。小学四年生の10歳。洩斗とは一卵性双生児だよ」
そう説明され、胸を撫で下ろす進一郎。
「すみません、この子、いつもお客さんをからかって……」
洩斗が頭を下げるが、しかし説明に納得した以上、さっきの問題の方が気になる。
「うん、それはいいよ。それより、さっきの――」
と、進一郎は水鉄砲を握りしめた少年へと目を向ける。
「ぼくは流星小年タロン!!」
と、彼は決めポーズと共に名乗った。
「りゅうせ……?」
目を白黒させる進一郎に、オトコの娘が申し訳なさそうに説明する。
「すみません、この子は洪田滝流といって、特撮番組『流星小年タロン』の主演を務める、超小学級のスーツアクターなんです」
「うん、そうともいう。ちなみに、小学四年生の9歳だゾ」
得意げに胸を張りながら、滝流もまた、名刺を差し出してきた。
「あ……あの、申し遅れました、ボクは水下雫、小学四年生の9歳……『シェルシェル』で女優をやってるんですけどぉ……」
あ、プレスリリースにもあった、と進一郎は思い出す。
格好とタイトルから察するに、魔女っ子モノなのだろう。
「超小学級の読モとも呼ばれてますぅ……」
彼女もまた、名刺を差し出してきた。
「これはご丁寧に……」
思わずバカ丁寧に返しつつ、今一度、進一郎は三人を見つめた。
おどおどと、伏し目がちな雫に対し、邪気なくニコニコ笑っている滝流、そして洩斗はどこか表情が硬く、そそおは穏やかな、しかし何とはなしに含むところのあるような笑みを浮かべている。
「えと……」
進一郎はこっそり、手の中のスマホを操作して、資料の中にあるリンクを探し出す。
URLを踏むと、この店のサイトの「オトコの子/娘紹介!」という記事へと飛べた。
(※イラスト:しゅぎょお)
――え~と、ちっちゃい子が滝流、オトコの娘が雫、常識的な子が洩斗で、その双子がそそお……。
頭の中で反芻する進一郎。
しかし、いつまでも店員たちの顔を眺めていても始まらない。
「えと……それで……」
ポケットからメモと鉛筆を取り出すというクラシカルな記者しぐさを取ろうとした進一郎へと、洩斗が進み出てきた。
「はい、ではプレイルームにご案内します」
「え……? え……?」
面食らう進一郎の右手をそそおが取り、背中から滝流が抱きつき、そして洩斗が率先して、雫は後を追うようにして、それぞれ「プレイルーム」とやらへと足を向けた。
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